月下の錯綜模様 〜混戦〜 (3/3)





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 春原が去ったことで、彼らの緊張感が限界までに膨れ上がった。
 綾香はあからさまに舌打ちをし、苛ただし気に現れた秋子に鋭い視線を寄せる。

「ったく。次から次へと何なのよ……。邪魔な介入はホント迷惑ね?」
「君の方が唐突に表れた気がしないでもないけどね」
「まったくだ。余計に干渉したのはテメェだろうが」
「あら? こんな泥沼にしたのは仲間割れしたコイツラと、そこのオバサンを引き連れてきたアンタでしょうが」
「誰がオバサンやねん。ホンマ生意気なガキやな……」

 彼らは再び対峙して、各々の獲物を構えだす。
 先程とは立ち位置が変わっているものの、数人で相対している事態はさほど変わりはない。
 だが、脅威が一つ増えたことで、余計な気力を削がれることだけは確かだ。
 現れた女性―――秋子は互いの罵り合いへと口を挟む。

「くだらない問答は結構です。聞きたいことは一つ、あなた方はゲームに肯定しましたか?」
「全員似たようなものでしょ? まぁ特に極悪なのがね、この橘敬介って男よ。善良そうな顔して不意打ちをする見掛けによらない奴なんだから」
「また君はそんなことを……」

 綾香の茶化すような言動に、実際謂れのない事実を押し付けられた敬介は非常に不愉快そうに頬を引き攣らす。
 情報の出所たる秋生は、本当にそれが事実なのかは判断付けられなかったために沈黙する。
 理緒に対する敬介の態度を見て、彼の評価を変えざるを得なかったのだ。
 もしかしたら天野美汐(005)の言葉は悪質な戯言であり、なんの害もない敬介が疑われているかもしれない。
 姿の見えない人物に第一印象を植え付けることは容易であり、それがパソコンを伝って島中に広がってしまった以上、敬介は今後とも苦難にまみえることだろう。 
 本当にそれが嘘であるならば、余りにも報われないのではないか。
 秋生が頭を悩ませる傍ら、秋子は胡散臭そうに敬介を眺め見る。

「……つまり、始めから隙を窺って猫を被っていたと?」
「そうそう。こんな非道な奴に容赦する余地も価値もないってことよ」
「―――もう君は黙ってくれ!!」
「ええやんか敬介。うちと一緒に観鈴守るんやろ? んなことどうだってええわ」

 ゲームの円滑化を推奨しているのか、綾香はニヤニヤと底意地の悪い笑みを浮かべて全員を煽る。
 綾香からしてみれば、ここに連なる連中は皆覚悟を決めた者であるから、気に喰わなくとも生き方に容認はできた。
 面白いと、今は復讐する気持ちを隅に追い遣り、戦う者としての気勢を猛らせる。
 左右対称に警戒を寄せる各々であったが、不意に秋子が微笑を浮かべた。

「―――全員、不了承です」

 秋子の腕が持ち上がった瞬間には、既に銃弾は発射されていた。
 ―――それが開戦の合図。
 銃弾は真っ直ぐに敬介へと迫り、脇を掠らせる。
 脇腹から漏れ出す血液が衣類を湿らせていることを自覚しながらも、敬介は秋子へ向かって疾走した。
 敬介にとっての現時点での脅威は、銃を持たない綾香でも一応仲間と認められている晴子でもない。
 見境なく襲い掛かろうとする秋子に他ならなかった。
 まずは彼女を黙らせるべく飛び掛ろうとするが、背中に衝撃が走ってつんのめる様にして地面を転がってしまう。

「ほらっ。背中がお留守よ!!」

 綾香の飛び蹴りが敬介を吹っ飛ばし、彼女は地面に着地して直ぐに横っ飛びに飛んだ。
 瞬間、地へと抉るようにして銃弾が突き刺さった。
 秋子の銃弾だ。彼女は綾香を散らせ、追撃の手を緩めずに絶好の的たる敬介に銃口を向ける。
 だが、秋子は直ぐに手を引っ込めて、横方へ腰を捻らすように翻った。やはり通過する銃弾。 

「ちっ。暗いとよう見えんな……。とりあえず、敬介は一応うちのツレにする予定やから勝手に殺すなや」 

 恩着せがましい視線を敬介へと向ける晴子だが、秋子が問答など必要ないとばかりに拳銃を向ける。
 晴子は円状に走り回って秋子の銃撃を回避しながら、自身の拳銃で応戦し始めた。

 そして、敬介と距離を取らされた綾香の下へ、薙刀を握りこんだ秋生が疾駆する。
 小さく舌を打ちつつ、綾香は傍に落ちていた元は佳乃の鉈を手に取って、秋生の振るう薙刀と鉈とを交差させた。
 キンッと金属の衝突音を響かせながら、お互いを刃先で押し合うが、筋力隆々な秋生が競り勝つのは至極当然である。
 だから、綾香は急激に力を抜いて鉈を引き、秋生のバランスが崩れた瞬間を狙って延髄蹴りを繰り出した。

「―――ハっ!!」
「っ」

 渾身の綾香の一撃は、秋生の前腕に阻まれる。
 秋生は予想外の威力に驚いた。
 それでも痺れだした腕に構うことなく上体を落とし、片足立ちの綾香を転倒させるべく脚部を水平に地を走らせる。

「甘いのよ!!」

 弧を描くようにして迫る秋生の払い蹴りを、彼女は片足一本で宙へと飛ぶことで回避し、そこから浮いた状態のままで柔軟な腰を捻らせて回し蹴りへと継続する。
 腰を屈めていた秋生は一時薙刀を放り投げ、その姿勢から後ろ受身を敢行して彼女の脚撃を空に切らせた。
 さらに息を付く暇さえ与えないとばかりに、顔を上げた秋生の視界には回転しながら飛来する鉈が眼前に迫っている。
 首を逸らし、辛うじて避けるも頬を浅く切る。
 鉈を投擲した綾香は、立ち上がる機会を失って硬直する秋生へと一瞬で詰め寄った。

「―――シッ!」
「―――ぐぅ……っ」

 常人では悶絶しそうな掌拳が、正確に秋生の鳩尾へと突き刺さっていた。
 しかし、全体重を乗せた一撃の割には突き通すような感触がない。いや、むしろ放った自身の肩口が痺れだす。
 異様に固めた秋生の腹筋に阻まれたのだ。
 何という強度と慄く綾香を考慮せず、取り残される形となる彼女の腕を引き寄せると同時に、身体を翻して彼女を背負う。
 秋生の背中に密着した綾香を腰で蹴り、舞い上がって生じた慣性をそのままに上体を折って彼女を投げ飛ばす。
 一本背負いの要領で、彼女を背面から地面へと衝突させるはずであった。
 だが、身体が持ち上がる寸前で綾香は余った手で秋生の背中を勢いよく押し、ピンと直立したように足を掲げる。
 そのまま秋生の引っ張る力を利用しながら地へと華麗に着地し、未だ掴まれた腕を切り払って秋生から距離を取った。

「―――なかなかやる……っ」
「ったく。とんでもねェ女だな」

 秋生は綾香の予想外の身体能力に苦笑を滲ませつつ、放った薙刀を回収する。
 実のところ、腹筋を固めたせいで抉られた脇腹が再び痛み出したのだ。
 今も尚、痛みが継続していることもあって状態は芳しくない。
 長期の戦闘だと無尽蔵とも言える体力は続いても、痛みに苦しむ身体は許さぬだろう。
 決めるならば短期決戦。
 薙刀と残り一発の拳銃、そして屈強な自身の身体を如何様にして上手く扱うか。

 内心事を欠伸にも出さない秋生と違って、綾香は幾分か楽しそうである。
 異種格闘技大会を制した実力は伊達ではなく、実力で横に並ぶのは数人の身内だけ。
 それこそ男女の垣根なく、彼女を楽しませるほどの強者は数える程しかいないのだ。
 己を狂気に走らせたゲーム内で、自分と同等に渡り合える猛者と出会えたことは思いがけない幸運であった。
 近接戦闘を存分に味わえる相手だ。
 春原や渚のように口だけの存在ではなく、力量までもが備わっているのだから文句もない。
 死との隣り合わせな殺伐とした喧嘩を、それこそ密度が凝縮した駆け引きを持って、彼と一緒に長期に渡って楽しみたいと思ってはいたが。
 ここは彼女達二人だけのリングではなく、混戦極まる危険地帯ということを失念してはいけない。
 現に秋子の猛攻を振り切った晴子が、綾香と秋生を一応打尽にするべく銃口を向けているのだから。

「―――纏めて死ねや!!」

 綾香は名残惜しげに秋生から大きく距離を取る。 
 それに習う様に、彼も綾香とは反対方向へと飛び退った。
 連射された銃弾は、彼等に致命傷を与えることはせずに、空気を裂くに留まる。
 中々思い通りに行かぬ結果に、晴子は気分を害したように歯を噛んだ。
 皆の銃撃は中々命中しない。
 それは暗闇が視界が閉ざしているということもあるが、絶えず動き回る標的を素人が追いかけるのは大変難しいことなのだ。
 何より、ここにいる連中は一際危機感と直感に優れており、心理的にも冷静で余裕があった。
 ゲームの内容に右往左往する段階は既に過ぎ去っており、彼等の揺ぎ無い心構えと覚悟に遅れはない。
 五人は例外なく一日目で修羅場を潜ってきた。
 ある者は殺し、ある者は襲われ。それでも命を勝ち取り、しぶとく生き残ってきた面々が、一発の凶弾如きで倒れるような無様な姿は晒せない。
 ゲームの趣旨を誰よりも理解している彼等だからこそ、銃撃には一際敏感であっても可笑しくはないのだ。

 綾香は晴子の銃撃を不規則にステップを踏んで掻い潜り、即座に拳が届く射程距離に侵入する。
 地面を勢いよく蹴り、発生した推進力に乗って後方に留めた右腕を一直線に突き出した。
 
「ちぃ!!」

 晴子がその唸る一閃を首を逸らしながら躱して間もなく、軸足を回して身体を反転させた綾香の肘鉄が迫る。
 回転力を加えて鋭い角度から抉るようにして襲い掛かってくる猛攻を、晴子は膝を崩してやり過ごす。
 懐にまんまと沈んだ晴子は、綾香の顎下へと銃口を向けた。 
 だが、綾香は脅威の反射神経で腰を落とし、背面を逸らしながら勢いよく後方に飛んだ。
 視界が逆さまになり、夜空へ一直線に届かせる銃撃音を耳にしながら、浮遊する身体を制御しつつ両の手で勢いよく地面を跳ね返す。
 左肩が痛んだが構やしない。クルリと後方回転をして、無音で地へと着地した。
 晴子はすぐさま次弾を放出しようと構えるが、そんな彼女達へと銃弾の雨が降り注ぐ。

「―――っ!!」
「くぅ」
「―――うぉ」
「っと」

 それは彼女達に留まらず、様子を窺っていた敬介や秋生にまで照射されていた。
 まるで照準などは二の次と言うように、秋子は連弾といえる発射速度で無差別に銃弾を吐き出していく。
 何発か誰かしらに命中したのか、それぞれ余裕のない表情を浮かべている。
 皆は一番の要注意人物をまったく見境のない秋子と定め、固まっていることは得策ではないとばかりに各々その場から散った。
 特に示し合わせたわけでもなかったが、流石に秋子一人に残らず駆逐されるのは彼等の誇りと尊厳が拒否をする。
 晴子は引き続き秋子と銃撃戦を繰り広げ始めた。
 走り回っては狙撃し、絶えず跳ねて転がりながらお互いの銃撃を躱していく。

 ある意味危険な秋子は晴子が引き寄せているために、他三人は比較的自由に行動できる。 
 屈強な秋生や、それなりに出来る晴子ともう少し緊迫した近接戦闘を行いたいとも思っていた綾香。
 だが、秋子や晴子、そして秋生にあって自分にないものが、今この場での戦闘でネックになっていた。
 つまり、拳銃を所持しているかしていないかの違いだ。
 彼女達と格闘戦をするならば、決して遅れを取ることは在り得ないが、殺傷能力の飛び道具があるのならば話が変わってくる。
 身一つで飛び込むには些か限度があり、戦況的余裕を持つならば拳銃は回収しておきたい所。
 そして、今が好機。
 るーこに射撃された時に弾き飛ばされた自身の拳銃を拾うべく、彼女は駆け出したところで眉を顰めた。
 綾香の拳銃を、地を這いずりながら手を伸ばして回収する渚の姿が映ったからだ。

「……あら、拾ってくれたの? ありがとう……さ、早く寄越しなさい」
「……っ」
「……震えてるんじゃ分からないわよ。―――いいからそれを離せ……殺すわよ?」

 綾香の凄みにもビクリと肩を震わせるだけで、渚は拳銃を離そうとしない。
 銃口を向けるでもなく、差し出そうとするわけでもない。 
 綾香に渡さぬよう、拳銃を必死に身体の中に包み込む。
 その行為は、綾香の怒りをますます助長するだけだった。

「―――何がしたいってのよあなた。その拳銃で私を撃つならともかく、身体を縮こませるだけって……意味分かんないんだけど?」
「わ、わたしは、人殺しなんて許せないし、人を撃つ事も出来ません……。だから、人殺しの道具をあなたなんかに渡せません……っ」
「そう。つまり殺して奪えってことね? 了解、サクッと殺してあげるわよ」

 コキリと小気味よく拳を鳴らせ、渚へと歩み寄る。
 戦闘で昂ぶっていた高揚感が渚の言動で萎えた気がした。
 彼女の父親を非常に素晴らしく思っていたのに、娘がこれでは期待外れもいいところ。
 口だけで何も果たそうとしない輩を一番嫌悪している綾香が、渚の心優しい性根を理解できなくて当然。
 綾香の視点から見れば、渚など常に受動的に構える臆病者としか言いようがない。
 詰まらない少女を蹴散らすべく、綾香は渚の下へと踏み込んだ。


 常に娘を目敏く窺っていた秋生が、渚へと綾香が接近する様を見過ごすはずがない。
 距離はあるも、それでもすぐさま駆け寄ろうとした秋生はギョッとする。
 冷然とした秋子が、拳銃を綾香の方へと向けていたからだ。
 撃ち合っていた晴子の姿が忽然と消えていたことは気にかかったが、今は些事でしかない。 
 容赦なく拳銃をぶっ放していた秋子のことだ、それこそ綾香の近い位置にいる渚ごと撃ち乱しても可笑しくはないのだ。
 綾香は持ち前の瞬発力でどうにかなるとしても、立ち上がることも儘ならない渚が逃げ延びることは難しい。
 頬を冷や汗が伝った。
 秋子を止めればヤル気満々の綾香に、そして綾香を優先すれば秋子の凶弾に倒れる。 
 どちらにしても、渚を満足に救出するのは至難の業。
 ―――だから、短絡的な秋生は極めて簡単な回答へと行き着いた。即ち、どちらも果たしてしまえば問題などないと。
 彼にはそれを成すべく、充分な戦力と材料が既に揃っている。
 一発の弾丸を残す拳銃を、彼は素早く構えた。
 神経を研ぎ澄まし、夜の視界を抜けて秋子の拳銃を捕捉する。
 日頃から勤しんでいたサバイバルゲームなどより数倍も数十倍も集中して、カッと見開いた時には一発限りの銃弾を放出していた。
 銃弾は漆黒の闇を貫いて、ピンポイントに秋子の拳銃を弾き飛ばす。
 手から離れていく拳銃を驚愕に見送る秋子を既に見放し、秋生はもう一方の手で持つ薙刀を振り被る。

「―――人の娘にぃ……」

 弓の弦を引き絞るように上体を反らせて―――

「―――断りなく手ぇ出してんじゃねェぞ―――っ!!」

 さながら槍投げのように豪腕を振り切った。
 凄まじい勢いで飛来する薙刀が、綾香を強襲するべく迫りくる。
 秋生の怒声に危機感を感じて振り返った綾香は、猛然と迫る一条の脅威に驚きながら飛び退った。
 ズブリと、綾香と渚の中間地点へと刃先が突き刺さる。


「待ってろ渚っ!!」
「ちっ! 守られてるばかりで運がいい……っ!!」

 砂埃を上げながら疾走する秋生の姿に、綾香は再び渚へと迫ろうとする。
 何にしてもまずは拳銃だ。
 渚から拳銃を奪い返すべく地を蹴ろうとする綾香だが、当の彼女の視界が唐突に揺れた。 
 訳が分からぬ内に、凹凸緩い地面とご対面を果たす。
  
「―――ぅあ! このっ、どけえぇぇ!!」
「止めると言ったろ!」 

 綾香の腰に纏わり付くように敬介がしがみついていた。
 彼の体当たりが綾香を押し倒したのだ。これで二度目である。
 自分より一回りも年下な少女へと縋りつくように抱き付くのは抵抗があったが、体裁などに構ってはいられない。
 綾香の抵抗が肘鉄として何度も頭部へと振り下ろされるが、それでも彼は形振り構わずに押さえつける。

「―――行けっ!」
「な、なに……」
「早く娘を連れて行くんだ! 君は父親だろうっ、君が守らなくてどうする!!」

 敬介が必死に訴えるが、それでも秋生は困惑する。
 これが本当にゲームに乗った卑劣な男の姿なのか。
 彼の双眸は決して濁っておらず、秋生と同じく娘を想う父親の眼差し。
 改心したのかはともかく、今この場における敬介に至っては間違いなく信頼できる。
 秋生は強く頷いて渚への元へと駆け寄った。

「すまん、恩に着る! ―――渚、行くぞ!!」
「は、はいっ」

 倒れこんだ渚の膝下に手を差し伸べて、彼女の小さな身体を持ち上げる。
 敬介の行いを無碍にしないためにも、渚を無事に保護して危険から遠ざけなくてはならない。
 渚の腕を自身の首に巻かせて秋生は走り出した。
 秋生はこれでも正義感が人並み以上にあるために、渚がいなければこの混戦を仲裁するべく留まることだろう。 
 だが、彼は一人の人間の前に、渚のたった一人の父親だ。
 早苗亡き今、ただ一人の肉親なのだ。
 渚が危機的状況に立たされている状態で、進んで厄介頃に首を突っ込もうとは思わない。
 先の晴子との邂逅では、渚達を逃がす口実と、父親として格好良いところをついつい披露しただけのこと。
 元より渚さえ回収してしまえば、彼女達に用などなかった。 
 なによりこれ以上、渚から目を離すことで危険に晒すような真似はしたくはない。

 秋生は縺れ合う二人から距離を取るが、その離れ際に後方を振り返った。
 彼の視界が、死体となった佳乃を映す。
 改めて目の当たりにすると、同行者として守りきれなかった責任が強く圧し掛かった。
 彼女には姉がいた筈だ。確か小さな診療所を切り盛りする医者、名を霧島聖といったか。 
 思えば、佳乃とはまともに会話を交わしておらず、聞き出した情報といえば彼女のことと姉の名前ぐらいだった。
 もう少し彼女と話すことがあったのではないかと、今更ながらに悔やまれる。
 佳乃を無念の内に死なせたことは、少なからず秋生にも責任があるのではないだろうか。
 ならば、彼女の姉と会う必要がある。
 非難されようが裁かれようが、それでも秋生は佳乃に償うべく頭を下げる必要があった。
 勿論、復讐に狂った聖に殺されてやる必要はない。狂うがどうか、これは仮の話だが。
 ともかく、聖に会って一言断りを入れないからには、秋生自身も納得できない。
 それしか佳乃のためにしてやれることがないのだ。やるしかない。
 渚を友達として扱ってくれた佳乃に内心で感謝を尽くし、秋生は渚共々混戦の場から離脱した。

 背を向けて離れていく秋生の姿に、綾香は奥歯が砕けるほどに噛み締めた。
 眉を吊りあがらせ、目の奥に憎々しい炎を灯しながら彼女は猛る。

「―――あのクソ女!! 私の拳銃まで持っていきやがった……っ。ヘタレ野郎に続いて……!」

 綾香の拳銃は、渚が握りこんでいた。
 秋生がその渚を掻っ攫うようにして逃走したのだから、拳銃は既に回収できぬ位置に遠さがったということになる。
 梃子でも放さなかった渚の言動通り、結局綾香へと拳銃を手渡せられることはなかった。
 正しく秋生側にとっては僥倖であり、綾香からしたらふてぶてしい話である。
 そもそも渚が持っていった拳銃自体、元は月島拓也(066)の支給品であり、そして彼から没収した長瀬源蔵(072)を殺して奪い取ったものなのだ。
 因果応報とはよく言ったもの。
 怒りの矛先を立て続けに逃げられたために、綾香の表情は酷く不愉快気に歪んでいた。
 そして、今も尚彼女を捕らえて放さない敬介を、ギロリて睨みつける。

「そもそも! アンタさえ来なければあの根性無しの二人を縊れたものを……!!」
「はは、そうか。それはいい事をしたな」
「笑ってんじゃないわよ! キモイからいい加減放しな、さいよっ!!」
「―――!!」

 抵抗する力が一瞬緩まったその時、彼女の足が敬介の睾丸を叩き付けた。
 同性しか分かち合えぬ筆舌し難い強烈な痛みに、敬介は堪らず両手を離して悶絶する。
 これも二度目だ。
 綾香の体勢も悪かったおかげで、比較的衝撃が軽くて幸いだった。
 もし、万全の綾香が蹴り飛ばしていれば、男の尊厳が言葉通りに失われていただろう。
 ともかく、浅くとも痛いことには変わりなく、敬介は苦痛を誤魔化すべく地面を転がった。
 下半部から伝染する激痛を一時堪え、薄く開けた視界の中で愉快気に哂う綾香の姿を目視する。

「もしかして潰れた? まぁ知らないけど、いい気味ね。もうこれ以上組み敷かれるのは御免だから―――」

 敬介が転がっている内に手にしたのか、彼女は薙刀を持つ手を高く振り上げる。

「―――いい加減死になさいよね!!」
「―――くっ」

 振り上げた鋭利な長刀を、仰向けに倒れる敬介の頭部目掛けて振り下ろす。
 微かながらに目を開けていたことが功を成し、彼は逸早く回避行動に移行するべく身体を横転させた。
 敬介の目論見は命を繋ぐという意味では成功したが、ズブリと、異物が身体内部に侵入する音を正確に耳にする。

「―――ぅ、ぐぁああああ!!」
「ちっ! 即死はご所望じゃなってことかしら!? なら期待に答えてあげるわよ……!!」

 傷付いた敬介の肩口を、無常にも薙刀が貫いていた。
 一度銃弾で貫通した傷跡の上から突き刺さっていたために、やたらと傷を抉る結果となる。
 だが、一思いに殺そうとした綾香は当然面白くなく、それを補わせるが如く薙刀を縦横無尽に掻き回す。
 想像を絶する激痛が再び体内を巡り、敬介の獣滲みた悲鳴が闇夜に木霊する。
 鮮血を散らせ、肩口に詰まった肉を体内で荒らしていく。
 敬介が暴れて刃先が抜けないように、彼の腹は綾香に踏みつけられていた。
 決して逃がさぬよう、何時まで続くとも知れぬ拷問を敬介へと科す。
 別段、綾香は殺人狂という訳ではないから行為自体は酷く詰まらなさそうにしていた。
 今は自身の失態と苛立ちを八つ当たりに変換し、敬介でもって解消しているのだ。
 秋生に逃げられたことは若干口惜しく、名残惜しくもある。
 しかし、春原と渚が逃げ延びたことに関してだけは頂けない。 
 綾香にとって暴言とも言える彼等の態度を、力でもって正そうとした矢先の不手際。
 まんまと彼等の逃走を見送るしかなかった自身の不甲斐無さと、発端たる敬介の所業。どれも許せない。

 そんな綾香が、怒りで我を失って周囲へ気を配らなくなるのも無理はない。それは、鳴り響いていた銃撃が収まっていたことも相乗する。
 先程とは裏腹な静寂に、晴子と秋子の二人の間にも決着が付いたのだろうと思い込んでいた。
 警戒は緩めずとも、それは失念していたことでもあり、敬介にかまける綾香は充分な隙を晒している。
 
「―――あらあら。お楽しみのところ失礼しますね」

 ―――それを、秋子が見過ごすはずがない。
 穏やかな口調が耳朶へと届き、ピクリと反応した綾香が薙刀を放棄してすぐさま後退した。
 だが、元いた場所へ銃弾は放たれない。
 始めから綾香が回避することを予見していた秋子の銃口は、一寸違わぬ位置へと照準が成されていた。
 ―――反応のいい綾香のことだ。始めから回避した綾香がいる場所へと捕捉されており、飛んで火に入ったのは彼女自身によるものだ。
 一発に留まらず、拳銃から二発目三発目が続けて飛び出し、綾香を衝撃で吹き飛ばしていく。
 そしてカチッという音が鳴り、秋子の拳銃が残弾不足を訴えた。
 全ての弾丸を撃ち出して、それは腹部中心を薙ぎ払らうことになって綾香を転倒させる。
 腹部を狙った理由は単純。急所を狙う上では一番的が大きい。ただそれだけだ。
 
 秋子は吹き飛んだ綾香を暫し眺め、ゆるりと磔にされる敬介へと歩み寄る。
 脂汗を浮かべながら呻き声を上げる彼を、感情浮ばぬ表情で覗くように見下ろした。

「素性を偽り、娘達に近づいたその所業―――万死に値します」
「―――がぁ!?」

 凄惨となった肩口から薙刀をおもむろに引き抜いた。 
 刃物が肉を裂きながら外部へと抜けていき、血塗れとなった刃先が空気を吸う。
 軽く薙刀を振り、付着した血液を切り飛ばした。
 秋子は手馴れたように薙刀を旋回させ、敬介の首下に添えて構える。

「貴方は脆弱な割には運良く命を拾っていますが、この辺りで終幕としましょう」

 敬介の弱々しい眼光を一笑に伏し、刃を引こうとした瞬間に。

「―――そら、注目やで」

 正しく寸止めというタイミングで、秋子の背へと声が掛かる。
 小さく溜め息を零しながら振り返った秋子。
 だが、視界に入った光景を目前にして、誰が見ても明白な動揺の表情を浮かべてしまう。
 晴子が恐怖で震えた名雪の頭髪を引っ掴みながら、抵抗できぬよう民家の壁に押し付けて拳銃までも押し当てている姿。
 ヒクッと、確かに秋子の頬が引き攣った。

「何処に逃げたのかと思えばそんなところに―――」
「―――強がりはあかんなぁ……手元、震えとるで?」
「…………」

 晴子の指摘通り、秋子はここに来て初めて表情を崩していた。
 何時の間に名雪を捉えたのか。
 いや、そもそも混戦の状況下で、放心したように座り込む名雪の存在自体が限りなく薄かった。
 皆に忘れられた状態で、ただ一人目を向けていたのは母親の秋子自身。
 だから、秋子と銃撃を繰り広げていた晴子は考えた。
 足枷となるのは娘の名雪。よって、一時自身の姿を消すことにより、秋子は手近な脅威を次に標的と定める。
 実際その通りで、姿をくらました晴子に構うことなく渚を襲う綾香を狙撃しようとした。
 それは阻まれたわけだが、それこそ拳銃を再び拾ってしまえば訳もなく。
 彼女達が躍起になっている隙を狙い、晴子はまんまと民家を回って名雪を捕らえたという次第だ。
 娘を人質に取られるという最悪の展開に、秋子は視線を泳がせる。

「な、名雪を放しなさい……っ」
「―――嫌や」
「……くっ」

 間髪入れない晴子の拒否の弁は、誰もが予想できる返答だ。
 彼女が名雪の安全と引き換えに、秋子に科す条件も理解できる。
 十中八九、武装解除だろう。
 焦燥に駆られる秋子を、晴子は口を三日月にして満足気に見やった。

「ま、言いたいことは分かるやろ? チャカと薙刀は捨てなあかんぞ。どうせ玉も入ってへんのやろ?」

 その通りだった。 
 残弾数さえ悟られていなかったら、空の拳銃だけではったりを噛ますことが出来たものを。
 秋子は諦めて大人しく要求に従い、それぞれの獲物を手から滑り落とす。
 
「それでええんや。うちも母親やからよ〜う分かるで。立場が逆やったらな、うちとてしゃーない思うからな」
「……」

 晴子の自分勝手な物言いにも反論できずに、ただただ沈黙するしかない秋子。
 彼女は既に反抗する術も、そして何より気力もない。
 最も大切なものを人質にとられたということもあるが、それ以上に娘の視線が痛かった。
 恐怖では震えているものの、名雪の双眸は至純な光を灯しているのだから。
 ―――お母さんなら、絶対に助けてくれる。お母さんなら、必ず娘の危機を救ってくれる。
 そんな一方的な希望に満ちた娘の視線が、痛いほどに突き刺さってくるのだ。
 抵抗したくとも出来ない。名雪に傷一つ付けることも叶わない。
 結局、晴子の成すがままとなるしか方法はなかった。
 秋子の行動に大きく妨げとなっていた名雪の存在は、非常に重い足枷という晴子の推測通りの結果となった。
 暴走していた秋子が、こうまで大人しくなるのがいい例だ。
 とんとん拍子に進んだ交渉に幕を下ろすべく、晴子は拳銃を向けた。

「―――つらい思いさせてすまんかったな。―――ほな、さいなら」

 そして呆気なく、それこそ躊躇すら見せずに引き金を引く。
 一発の銃声は無抵抗の秋子を例外なく貫き、花開くような鮮血が舞い散った。
 たたらを踏んで一時、木霊する銃声が鳴り終わる頃に。
 唖然とする名雪に最後まで視線を寄せながら、ドサリと、秋子が地へと倒れ伏す。

「―――エ? お母さん……?」

 呼び掛けても返事のない秋子の姿を呆然と眺める。 
 この混沌とした現実味のない舞台上で、ただ一つ許された秋子の存在。
 最後には笑って迎えてくれるはずだった秋子が、何故か倒れ伏す姿。
 名雪の脳裏から侵食していた悪夢が、外の世界を密着に繋げさせた気がした。
 夢だと否定していた真実が、血溜まりに沈む秋子を持って露呈する。
 秋子が死んだのも現実。あゆが死んだのも現実。真琴が死んだのも現実。香里が死んだのも現実。北川が死んだのも現実。
 ―――そして、祐一に殺される自分も現実になるのだ。
 名雪の精神が脆くも砕け散る。
 地獄の底から唸らせかの如く、絶望極めし紛糾を爆ぜさせて彼女は飛び出した。
 それは倒れる秋子の下ではなく、まるで見当違いの方向へと。
 秋子が死んだ今、次に殺されるのは自分自身。
 それも祐一に殺されるのだ。
 病んだ名雪の精神は、秋子が死んだと勝手決め、祐一に殺されるという誇大妄想のみが蔓延していた。
 支離滅裂な言動を吐き零し、彼女は暗い闇へと消えていく。

 名雪の姿を冷めた目で見送りながら、晴子は敬介へと近寄った。
 狂った名雪に追い縋るほど彼女は暇ではない。
 秋子を潰す切欠として利用しただけのことなので、去るのなら放置するに限る。
 晴子は名雪の動向を隅に追い遣り、まさに満身創痍で顔を顰める敬介を見下ろした。

「おお、おお……。随分と派手にやられとるなぁ……」
「き、気楽に言わないでくれ……」

 苦痛を堪えて敬介は状態を起こし、晴子が撃った秋子へと視線を寄せた。

「……殺したのか……?」
「知らんわ。放っときゃ死ぬやろ」
「……そうか」

 吐き捨てるような晴子の言動を流し、動くにも億劫だった敬介は立ち上がった。
 彼は痛みを堪えた慎重な足取りで秋子へと歩み寄ろうとする。
 訝しげな晴子の視線が並々と注がれた。

「おい敬介。なにしてんねん……」
「治療はすべきだろう」
「は?」

 敬介の信じられぬ発言に眉を潜めた。

「ともかく、まだ息があるかもしれない。無用に死なすわけにはいかないさ」
「ちょっと待てやコラ。なにほざいとるんや。治療? 必要あらへんわ、んなもん」
「君にはなくとも、僕にはある。観鈴以外の参加者を皆殺しというけど……晴子、僕の意見は始めから変わっていない」

 晴子の双眸が鋭くなった。
 せっかく観鈴を生き残らす仲間として、敬介を受け入れてやっても良いと思っていたのだが。
 彼の言い分は晴子の意向に従えぬということと同意であり、即ち一人の敵でしかなかったということだ。
 敬介を救ってやったことは、無駄骨もいいところである。

「んじゃ、なにか? 自分はゲームに乗ったわけではなく―――」
「元よりそのつもりはない。君に助けてもらった数々は感謝している。観鈴を無事に帰すことも賛成だ。
 だけど、無実な参加者達を殺すことは……悪いけれど容認できない」
「ほ、ほう……」

 額に青筋を浮べ、徐々に険しくなっていく晴子の視線を受けても敬介に怯みはない。
 晴子からしたら、まさか敬介ごときに噛み付かれるとは予想外であった。
 だが、彼の言葉は裏切り行為。
 目的は一致しても、過程が異なるならば敵同士へと隔てられる。
 殺して救うと決めた晴子が敬介の保守的な意見に従うわけもなく、その逆も然りだ。
 ここで二人が討論しても、それは堂々巡りの禅問答。
 完全に気分を害したように、晴子が拳銃を構えながら敬介との距離を縮める。

「君の過激な手段はともかく、流石に目の前で人が殺されていくのを……これ以上見過ごせないんだよ」
 
 自分の安否を考慮しないで、偽りのない覚悟を貫き通すことも辞さなかった。
 その姿は一寸の違いなく偽善者だが、彼は恥じるべきことを言ったつもりはない。
 理緒を無駄に死なせるつもりはなく、生き残った自分が、きっと彼女の死を価値あるものに昇華させるのだ。
 そのために彼女の心意気を受け継いで、出来ることを理緒に変わって"頑張るのだ"。
 自身は間違っていないと胸を張るその姿が、益々晴子の癪を触らせる。
 晴子は怒りを滲ませながら、確実に敬介を撃ち抜くべく歩みを進めた。

「よう言った敬介……っ。覚悟はでき―――」

 だが、開け放たれた扉から、小さな人影が飛び出してくる。
 晴子はそれに気付かず、ドンっと、その影と身を衝突させた。
 不可解そうに顔を逸らすと、少女―――澪が血走った目で密着している。
 
「は、晴子……?」
「―――な、んやねん……っ」

 よろめきながら後退る晴子の胸には、刃先鋭い長包丁が突き刺さっていた。
 言うまでもない。小刻みに震えている澪が刺したのだ。
 澪は今も両手で強く握る包丁を、晴子の胸から一気に引き抜いた。

「っ!」
「―――がっ!?」

 呼吸器官から湧き上がる血液を吐血させ、衣服を徐々に真っ赤に染めていく。
 霞みだした視界に、晴子は堪らず膝を崩した。
 唐突に繰り広がった光景に、敬介は動けない。
 荒い息を吐いて、赤く照る包丁を震える手で握る見知らぬ少女と、自分を殺すべく迫っていた晴子が苦しげに胸を抑えている様子。
 それが敬介の眼前で展開されている事実の全て。
 だが、混乱する思考を抱えているのは晴子も同じ。
 まずは少女に刺されたということを認め、動機を後回し、そして捨て置けない澪へ仕返すべく彼女の肩を強く握る。
 震える足腰を叱咤して、澪の肩を強引に掴んで立ち上がった。

「―――!?」
「この、ガキがっ!!」

 ふらつく澪を蹴倒して、彼女は小さな身体を転がせた。   
 噴き出す血液が晴子に過度の興奮を促させ、彼女は怒りに身を任せて澪を蹴り上げる。
 発声叶わない澪だが、それでも表情が悲鳴を上げていた。
 晴子の暴行を受けて、痛みと恐怖に震えながら耐える澪の様子に、流石に居た堪れなくなった敬介が声を掛けようとする。
 やめろと―――晴子を制止するべく口を開きかけて再び硬直。
 彼女の肩口を通して在り得ぬものを目の当たりにして、敬介は切羽詰りながら声を張り上げた。

「―――晴子!! ダメだ伏せろ……!!」

 そんな敬介の訴えも無常に過ぎ去って。
 振り返ろうとした晴子の腹を幾多もの銃弾が貫通していく。 
 音が鳴り止み、静寂が戻ったときには誰もが声を発することが出来ない。
 晴子は澪に刺されたとき以上に身体の異変が曖昧で、トクリと心臓が痙攣する感触だけが嫌に伝わった。
 血反吐を吐きながら、銃声の起点へ緩慢に振り返る。

「―――はぁ……。なんか死んだ振りが板についてきたわね。ま、ともかくご苦労さん」

 溜め息を零しつつも、余裕綽々で短機関銃を構える綾香の姿を霞みゆく視界が捉える。 
 次いで自身の真紅に染まった身体を見下ろし、銃声に肩を竦めていた澪を見て、最後に表情を悲痛に歪める敬介を見た。
 娘に狂って敬介を殺そうとした自分が、何故そんな悲しみの視線を寄せられるのか心底理解に苦しんだ。
 間違ったことはしていないはずなのに、酷く今までの行為が馬鹿らしくなった。
 馬鹿げた行為だと思ったのは、既に目的を果たせなくなったからだ。 
 意地で通してきたこの島での生き甲斐も、結局価値が付くべくか判断もできない。
 感情が色褪せて、未練の言葉が込み上げてくる。

「―――あかんかったわ……」

 その一言で感情がまっさらになり、思考を放棄した。
 腰が砕け、上体が折れる。
 終わり間際に居候の国崎往人と敬介の二人へと、勝手ながらに全てを託して。
 彼女の視界は暗転する。

 綾香はそうして倒れ伏した晴子を見やって、まさに漁夫の利で混戦の勝者となった自分を称える様に悠々と歩み寄る。
 距離を縮めるにつれて、何故綾香が生存しているのかが敬介にも理解できた。

「そんなものを……」
「ホント、ダニエル様様ね。まあ、今が夜で助かったわ。下に隠れるチョッキに誰も気付かない」

 光の下でよく注視して確認すれば、穴の開いた制服の下に無骨なチョッキが見え隠れしていることが窺える。
 それで秋子の銃弾を防いだのだろう。
 そして、今の彼女はるーこの短機関銃まで回収しており、攻守共に武装の遅れはない。
 強力な武装で身を固めた今の綾香を前に、敬介が小細工を労したとしても通用しないことは既に認めている。
 最も危惧すべき絶体絶命という状況は、今を置いて他にない。
 そんな綾香は短機関銃をちらつかせながら、新たな訪問者へと目を向けた。

「で? あなたは何処から湧いて出たわけ?」
「……」
「だんまり、ね……」

 喋らない―――否、喋れない澪へと綾香はおもむろに近づいた。
 一歩一歩と歩み寄る度に、彼女は震えて後退する。
 だが、綾香の一足の方が遥かに早く、地に尻をつけながら後退る澪など即座に追いついた。
 ガシッと澪の小さな頭部を鷲掴む。

「ねぇ、ちょっと尋ねたいことがあるんだけど……いいかしら?」
「……」
「―――いいかしら?」

 小さな子供に接するように言葉を掛けていた綾香だが、何時までも口を開かない澪に痺れを切らして拳を握りこんだ。
 綾香の辛辣な様子に、澪は首が振り切れるんじゃないかと言わんばかりに必死に頷いて見せた。
 
「そ。じゃあ聞くけど、まーりゃんっていう女に聞き覚えはある?」
「―――!?」
「知ってるの……!? 名前は!? 何処に行ったか教えなさい!!」

 まーりゃんという一言に目覚しい反応を見せた澪に、それこそ急かすように肩を振るった。
 綾香の目的は、依然として麻亜子への復讐である。
 本来ならば情報収集をするために春原達と接触したわけだが、様々な介入で有耶無耶になってしまっていた。
 だから、自分の圧倒的有利が揺ぎ無く、且つ混戦が収まった今こそ麻亜子の情報を掻き集める機会。
 現在分かっていることは、彼女の学校と、関係者らしき久寿川ささらという人物のみ。
 そして、麻亜子と遭遇したのが平瀬村。今現在、平瀬村にいる澪が、あれから麻亜子を見かけているかもしれないのだ。
 行き先とは言わない。方角さえ分かっていれば自力で追い縋る見積もりである。
 そんな綾香が澪から聞き出そうと躍起になるが、当の彼女は口をぱく付かせるだけで一向に喋らない。
 澪の事情など知る由もない綾香が、そんな彼女の非協力的とも取れる態度に怒りを募らせるのも致し方ないのだ。

「姉さんじゃあるまいし、とっとと吐きなさいよ! 知っているの!? 知らないの!?」
「―――!! っ!? ……!!」
「誰がボディーランゲージをしろって言ったのよ!! 口を開きなさいよ口を……っ!」
「も、もしかして、喋れないのでは……?」

 口を挟んだ敬介の助け舟に、猛然と頷く澪。
 幾らなんでも悲鳴ぐらいは上げる筈だと思っていたために、そういった事情があれば納得が出来た。
 綾香は小さく舌を打ち、ならばと打開策を提示する。

「なら紙でも地面でもいいから書きなさい。まーりゃんとか言う女の情報よ」

 澪は瞼に涙を湛えながら、ポケットに手を突っ込んで弄った。 
 恐らく、綾香に情報を開示するために筆記用具でも取り出すのだろう。
 綾香は澪の愚鈍な様子に内心辟易としながら、腕を組みつつ期待の篭もった視線で見下ろしていた。
 彼女の持つ情報が価値あるものならば、綾香の復讐にまた一歩近づくことになるのだ。
 期待せずには入られない。
 そして、澪はポケットから手を引き抜いた。
 ―――その手に、殺虫剤を持って。

「―――なっ!?」

 慌てて銃を構えようとするも、虚をてらった澪の方が一瞬早い。
 プシューと、スプレー状の殺虫剤が間の抜けた噴出音と共に放射され、白く濁った空気が綾香の顔面を直撃した。
 穴という穴から侵入する痺れの利いた薬剤に、綾香は堪らず顔を手で覆う。

「あああぁぁっ!? くっ、目が……っ!」

 視界が閉ざされ苦しむ綾香へと追撃をかけるべく、澪が殺虫剤を手に接近する。
 ザッと土を踏みしめて肉薄する澪の様子は、それでも綾香に筒抜けとなっていた。
 彼女の聴覚が澪の位置までも正確に聞き取り、無用心に近づいてきた澪の頭髪を今一度掴み取る。


「―――!?」
「舐めてんじゃないわよクソガキが―――!!」

 掴んだ頭部を引き寄せて、渾身の膝蹴りが澪の鳩尾を貫く。
 澪は透明な胃液を滴らせ、小さな身体をくの字に折った。
 未だ嘗て感じたことこともないとてつもない衝撃と痛みに、彼女はあっさりと意識を手放した。
 気絶した澪を無造作に投げ捨てて、綾香はよろめきながら痛みに痺れる両の眼を指で擦る。

「―――これだからガキはっ!! 殺せばよかった……!!」
「でも、そのおかげで僕はまた命拾いをしたわけだ」
「っ!?」

 カチャリと、腹部に何か押し付けられた気がした。
 同時に、懐から敬介の声まで聞こえてくる。

「―――君が種明かしをしてくれたんだ。撃っても死にはしないだろう? 衝撃を緩和できるか保障はしないけどね……っ!!」
「た、たちばな―――!!」

 チョッキに包まれた綾香へと、拾った晴子の拳銃を押し付けて、敬介は決着をつけるべく引き金を引いた。
 ほぼ零距離から幾発も弾丸が吐き出され、何度も同じ箇所を叩いてはチョッキに弾かれていく。
 だが、その衝撃は半端ではなく、綾香は身を躍らせながら後退させられていく。
 銃声が収まった頃には彼女は膝をついて、腹を抱えて蹲った。
 今回に限っては、それは決して振りなどではなく、確かに綾香の骨格を傷つけている。
 怨嗟の雄叫びをあげる綾香が、追撃も叶わない今こそが離脱出来る最後のチャンス。
 敬介は迷うことなく気絶した澪へと手を差し込んだ。
 左肩はまともに動かすことも出来ぬため、現存する体力を振り絞って右肩で担ぎ上がる。
 晴子に決定的な止めを刺したのは他ならぬ澪だ。
 目前での殺人を拒否した手前、澪の所業は決して容認できないが、それでも見捨てることは出来なかったのだ。

 ―――そんな澪が何故このような無謀且つ蛮勇に出たのか。
 実の所、彼女は名雪が場に現れてから、全ての混戦を室内から窺っていたのだ。 
 錯乱した名雪が飛び出していったことで、不安に煽られた彼女はその後を追おうとして躊躇った。
 扉の向こうには、現実離れした光景が広がっていたからだ。
 澪は身を隠して震えるしか術はなく、彼女の視界には次々と傷付き倒れていく人間の姿が絶えず映っていた。
 そして、それは秋子が帰還してから凄惨さを増した。
 壊れた名雪に、血に沈む秋子。
 頼れる者を全て失い、一人という孤独と恐怖に延々と苛まれ続けた。
 一人細々と民家に留まっていると、今にも外の人間に強襲されるのではないかと、絶えず妄想に取り付かれていたのだ。
 精神がどうにかなってしまいそうだったのだ。この時点で、既に澪の心は病んでいた。
 恐怖から開放されるべく唐突に案を閃いた時には、彼女は包丁と殺虫剤を引っ掴んで外へと飛び出していた。
 それは名雪の逃避とはまったくの真逆。
 澪の極みに達した思考が、外敵を排除するべく狂い出したのだ。
 恐怖の対象から背を向けるのではなく、それを取り除くことによって平穏を保ちさせる過激手段。
 狂気に身を一時預け、理性を弾劾すべく強行なる策を取る。
 まずは秋子を撃った晴子を手にかけて、続いて面白可笑しく戦闘していた綾香を排除し、善良を皮で被った敬介までも敵として見定めていたのだ。
 
 そんな澪の思惑に気付いていない敬介は、まさしく爆弾を抱えているようなもの。
 予想すらできない澪の精神だが、それでも敬介は彼女を連れて行くことに躊躇ったりはしない。
 澪を担いでいざ駆け抜けようした時に、彼は理緒と晴子へと視線を落とす。
 どちらも大切な人には変わりなく、最後に人目確認しておきたかったのだ。
 彼女達の意思と想いを、再び再確認するために。

「―――理緒ちゃん、晴子……。行って来るよ」

 門出を祝ってもらうかのように、彼は一度頭を下げた。
 数秒思いに巡らせていた敬介。踵を返して面を上げた時には、既に一切の迷いは浮んでいない。
 自身の価値を見出すべく、彼は振り返ることなく走り出した。

 ****


 既に敬介や秋子が立ち去ってから数十分後。
 軋んだ肋骨を抱えながら、綾香が木の根下に座り込んでいた。
 彼女の目から薬剤が抜け落ちた頃、既に敬介の姿はそこにはなく。
 綾香は屈辱感を感じながらもその場から離れたのだ。
 そして、今現在は自身の荷物を回収して人目に付きづらい場所で休息中である。
 思えば、此度の戦いは戦歴や収穫はあったものの非常に納得できない結果となった
 中でも一番喰わされたのが、橘敬介だ。
 秋生、晴子、秋子、敬介。この四人の中では限りなく脆弱であり、能力を補うべく武器の類も所有していなかった。
 なのに、最も梃子摺らされてのも彼である。
 自分がもう一丁の拳銃を所持していただけで結果は違っていたのではないだろうか。
 実際、彼女は拳銃を二丁所有しており、今回は源蔵から奪った一丁のみで戦闘に飛び込んだのだ。
 理由としては、拳銃をバックに紛れさせ、当のバックを手荷物になると考えたために置いてきてしまった。
 るーこを狙った狙撃が、彼女を庇った理緒に直撃し、用意自体を怠って焦って飛び出したということもある。
 それは間違えなく失態であり、感情が加熱しやすい自身の特性のために、激情に関してはどうしようもない。

「―――ま、今更よね。ともかく、久寿川ささらか……」


 敬介自体は気に食わなくとも、綾香にはそれ以上に優先すべき目的がある。
 それも今回で一歩近づいた。 
 標的の補足だ。
 姉と同じ学び舎ということは気になったが、自身の復讐を止めざる理由にはなってはいない。
 今回はある意味道草であったが、貴重な情報源も手にすることが出来た。
 今後は、無闇やたらと戦闘を吹っかけるべきではないだろう。
 身体も本調子とは言えないので、ここは善意を偽って集団に取り入るべきだと考えている。
 無論、標的がいれば他人の目を気にすることなく実行するが、それ以外では一方的にけしかけるのは得策ではない。
 彼女は考えを一度締め直し、大きく息を吐いた。

「何にしても、初日は色々あったわね……。今が休息が無難か」

 木の幹で綾香は仰向けに空を仰いだ。
 弱者が振るいに掛けられた初日は終了し、次からは戦いを激化させる中盤戦。 
 心して掛かろうと、彼女は引くに引けない茨の道を完走させるべく休息に目を閉じた。


 ****


 激戦と化した戦場は、見るも無残な死体が転がっている。
 幾多の血で彩られ、まさに過ぎ去った修羅場を醸し出していた。
 そんな中で、確かに心拍を鼓動させていた秋子が上体を起こし、勢いに任せて立ち上がる。
 夥しい血液を腹部から垂れ流しつつも、異常な精神力で彼女は電灯が灯った民家へと危なげな足取りで進んだ。 

「―――ぅ、くぅ……っぁはぁ、はっ……」

 玉汗を額から零しながら、それでも自力で室内へと舞い込んだ。
 まず入ってしたことは、消毒液を腹部へと垂れ流し、本や映像の見様見真似で体内に混入する弾丸を摘出することだった。
 これは思いのほか上手くいき、続いて粗雑な糸を使っての縫合だ。
 麻酔無しの治療は想像を絶する苦痛であったが、辛うじて耐え切った秋子は一息を付くことが出来た。
 強く包帯を巻いて、とりあえずの応急処置は完了したといえる。
 未だ意識がふらつくが、構うことなく外へと歩み出た。その際、室内の電気は消灯しておいた。

 電灯が消えたことで、闇夜を照らすのは一条の月光のみ。
 秋子は各地に散らばるデイバックを片っ端から回収していく。
 そして、ただ一人の生存者を発見した。

「―――るーこちゃん……。生きていてくれたのね……」


 胸を上下に脈動させるるーこの様子に安堵の息を付いた。
 だが、秋子には彼女に合わす顔がない。
 何を隠そう、るーこの同行者であった春原を怒りに任せて殺そうとしたのは自分なのだから。
 あの時は、名雪のことを思うあまりに精神が常軌を逸していた。
 名雪以外の人間を、完全に外敵としてしか見ていなかったのだ。
 そんな精神状態になってしまう自身が、どうしようもなく恐ろしかった。
 娘が危険に晒されるたびに、関係ない者にまで容赦なく牙を剥いてしまうのであれば、子供達を保護するという目的自体も本末転倒となってしまう。
 そして、それは本当に名雪だけに限ったことなのか。
 相沢祐一(001)や沢渡真琴(052)の場合でも、自分は見境なく壊れてしまうのだろうか。
 震える身体を腕で抱き寄せて、彼女は頭を振った。
 否定するように、懇願するように。秋子は自分に言い聞かせた。

「―――大丈夫……大丈夫。わたしは正常、正常よ……。きっと罪のない子供達を助けられる……」

 自己暗示のように何度も頭で反芻させ、彼女はるーこを持ち上げる。
 支給品の数々を室内へ放り込み、るーこを優しくベットへと横たえさせた。 
 彼女の血に濡れた顔を拭き取って、穏やかな眼差しで見下ろした。

「ごめんなさいるーこちゃん……。わたしは名雪と澪ちゃんを探してきます……」

 どちらにしろ、るーこと話を交わすことも出来ない。
 春原を叩き出した自分が、一体どの面を下げてるーこと顔を合わすというのか。
 だから、秋子は一人で彼女達を探しに行く。否、救いに行く。
 微かな記憶が、澪を連れ攫う敬介の姿を映していたのだ。
 秋子にとって、敬介は依然として非道なマーダー扱いであり、彼の疑いは当然晴れていない。
 彼から澪を奪い返し、そして名雪を今一度保護をする。
 目的を果たすべく、最低限の荷物を抱えて外に飛び出した。
 幸いなことに、もしやと思って澪の荷物を探った時に、拳銃のマガジンを二セット発見するに至った。
 銃弾が切れたままでは、何の役にも立たないために、非常に有り難かった。
 安静にしていれば、彼女の傷とて完治したものを。
 それでも、無理を湛えて立ち上がる。それが、自身の命を縮める結果になると分かっていながら。
 自分はまだ戦えると、強く心に刻んで漆黒の帳へと躍り出る。
 狂った精神を抱えて、それでも彼女は止まらない。




 『春原陽平(058)』
 【時間:2日目0時頃】
 【場所:G−3(既に離脱)】
 【所持品:スタンガン】
 【状態:自信喪失。全身打撲と切り傷で衰弱気味。目的消失】

 『ルーシー・マリア・ミソラ(120)』
 【時間:2日目0時頃】
 【場所:G−3(民家の室内)】
 【所持品:支給品一式】
 【状態:思考逸脱による危険思想。額裂傷・左耳朶喪失・気絶中。目的不明】

 『古河渚(095)』
 【時間:2日目0時頃】
 【場所:G−3(既に離脱)】
 【所持品:トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)】
 【状態:混乱。右太腿貫通(佳乃のスカーフで応急処置)。秋生に身を任す】
 
 『古河秋生(093)』
 【時間:2日目0時頃】
 【場所:G−3(既に離脱)】
 【所持品:S&W M29(残弾数0/6)・支給品一式】
 【状態:普通。左肩裂傷手当て済み・左脇腹等、数箇所軽症。ゲームに乗っていない参加者との合流。聖の捜索】

 『来栖川綾香(037)』
 【時間:2日目0時頃】
 【場所:G−3(既に離脱)】
 【所持品1:S&W M1076 残弾数(5/6)予備弾丸28・IMI マイクロUZI 残弾数(20/30)・予備カートリッジ(30発入×5)】
 【所持品2:防弾チョッキ・支給品一式】
 【状態:普通。肋骨損傷(激しい動きは痛みを伴う)。左肩口刺し傷。まーりゃんとささら、さらに彼女達と同じ制服の人間を捕捉して排除する】

 『橘敬介(064)』
 【時間:2日目0時頃】
 【場所:G−3(既に離脱)】
 【所持品:H&K VP70(残弾数2)支給品一式】
 【状態:普通。左肩重症(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷・疲労気味。澪を守り通す】

 『上月澪(41)』
 【時間:2日目0時頃】
 【場所:G−3(既に離脱)】
 【所持品:なし】
 【状態:精神不安定。頭部軽症・気絶中。目的不明】

 『水瀬秋子(103)』
 【時間:2日目0時頃】
 【場所:G−3】
 【所持品:ジェリコ941(残弾14/14)・予備カートリッジ(14発入×1)・支給品一式】
 【状態:狂乱気味。腹部重症(治療済み)。名雪と澪を何としてでも保護】

 『水瀬名雪(104)』
 【時間:2日目0時頃】
 【場所:G−3(既に離脱)】
 【所持品:GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)・赤いルージュ型拳銃(弾1発入り)・青酸カリ入り青いマニキュア】
 【状態:発狂】

 【備考:るーこの眠る室内に以下の物品が放置。
     デイバック×6・アヒル隊長(12時間後に爆発)・鉈・鋏・薙刀・木彫りのヒトデ・包丁・スペズナスナイフ・殺虫剤
     敬介の持っていたトンカチと繭の支給品一式(支給品不明・中身少し重い)】


 024 神尾晴子 【死亡】
 031 霧島佳乃 【死亡】
 083 雛山理緒 【死亡】
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