終点/あなたを想いたい







十三時四十七分/高天原中層

「ねえ、リサさん」

 ウォプタルの背中に揺られながら、一ノ瀬ことみはしばらくぶりの口を開いた。
 国崎往人、川澄舞の両名と離れて以後、初めて開いた口だった。
 それまで黙っていたのは、二人の安否が心配だったからではない。あの二人なら絶対生きている。
 ただ、これからやるべきことに対して整理をつけ、自分の中で消化する時間が欲しかったから黙っていた。

 文字通りの命を賭けた大一番の中に、自分達はいる。それは今まで命のやりとりをしてこなかったことみには怖いことだった。
 今も正直、早鐘を打ち続ける心臓を落ち着かせることができない。
 ことみは誰かがいなくなることの恐ろしさを知っていた。だからこそ、恩人とも言える霧島聖を殺害されたときでさえ犯人である宮沢有紀寧の命を奪うことができなかった。
 結果的には、彼女は道連れにしようと自爆してしまったのだが……
 包帯を巻いたままの目が痛む。命を投げ打ってまでしてやったことは、目玉一つを奪うことだけだった。
 そうはなりたくない。それがことみの気持ちだった。
 死んでしまっても何かを為そうというのではなく、生きていたいから何かを為さなくてはならないという自信が欲しかった。
 でなければ、自分もきっと有紀寧と同じような、自己満足のためだけの死を迎えてしまうだろうから。

「リサさん、これから……ここから出たら、何をするの?」

 リサとはそれなりに長く行動してきたつもりだったが、彼女自身のことについては知らないことも多かった。
 どこで生まれ、何をしてきたのか。何も知らない。

「今の仕事を続けるわ。それしかやれないからなんだけど……」

 特に表情を変えることもなくリサはそう言った。
 自分の運命を決定的には変えることはできないと知っている女の顔だった。
 自分より長く生きているはずの人だ、それなりの重さはあるのだろうと思ったがあまり好ましい言葉ではなかった。
 大人はこういうものなのかもしれない。多くを語らず、責任の重さを黙って受け止めてやれることだけをやる。
 聖にもそんな部分は多かった。自らの責任を果たすだけ果たし、言葉だけを残して逝ってしまった。

「でも、それだけじゃない。今の仕事を続けていく中でもちょっとした変化……楽しんだり、笑ったり、泣いたり、悲しんだり……
 そういうものを感じられる機会を増やしていこうと思ってる。仕事だけの人生なんて、寂しいでしょ?」

 生きる道そのものは変えられなくとも、その過程ならばいくらだって変えられる。
 微笑を含んだままのリサに虚を突かれたような気分になりことみは思わず「リサさんでも泣いたりするんだ」と軽口を叩いてしまっていた。

「私でも泣くことくらいあるわよ。人間だもの」
「そうかな……」
「無闇矢鱈と人前でそうしないだけ。意地が出てくるのよ、年をとるとね」
「大人って、格好付けなんだ」
「そうね……私の知ってる人は、大体そんな感じだった。でも、分かるでしょ?」

 年上が情けない姿を見せたくはない。だから意地を張るし、身勝手なことも言ったりする。
 それは分かる。だが、分かっているからこそ受け入れられない部分もあった。それは自分がまだ子供だからなのかは分からなかった。

「せめて、親しい人の間でくらいは子供になってもいいと思うの」
「だから家族になって、子供も作るんでしょ?」
「……分からないの」
「私はそうしたいわ。今はエージェントって仕事しかできないけど、いつか、きっと」

 リサにとっては遠すぎる夢なのだろうか。はっきりと口に出すことはしなかった。
 それでも強い言葉で、遠くを見据えるように言ったリサには、そこまでの道筋も見えているのかもしれない。
 ならば、自分はリサに負けている。医者になりたい夢はあっても、まだ漠然とした道しか分からない我が身を振り返り、ことみはようやく納得する答えを得たと思った。
 仕事の内容は違っても経験する道のアドバイスに長けているに違いない。将来は、恐らく。
 そんなリサに、ようやく自分の未来を預けてみようという気になったのだった。

「お願いがあるの」

 なに? と今更ねとでも言いたげな顔でこちらを見てくる。遠慮がないのはお国柄の違いなのだろうかと苦笑を返しつつ、
 ことみは一つの提案を持ちかけた。

「二手に別れるの。リサさんは当初の予定通り中央の制圧。私は脱出路の道筋を探す。ほら、私この恐竜さんに乗ってるから早いし」
「そうするメリットは?」

 感情に訴えず、合理的な判断を持ちかけてくるのは流石にリサだった。だがその方がことみとしてはやりやすい。
 元々、考えるのは得意中の得意なのだから。

「んー。さっきアハトノインと遭遇したけど、あれってなんでなのかな」
「どういうこと?」
「普通、自分の身を守りたければああいう強いボディーガードは身辺につけてるはずなの」
「ふむ」
「ところがそれをホイホイ手放した。ってことはつまり、テンパってるってことだと思うの」
「まさか。こんな殺し合いを計画する奴よ」
「でもそれは変わったかもしれない。途中から、明らかに色々変えてたもの」

 主催内部でゴタゴタがあったかもしれない。リサがそれに感づいている可能性は高かった。
 何より、那須宗一と話し合う姿を目撃している。推理が含まれるだろうが、概ね外れはないだろうと踏んでいた。
 リサは特に反論を寄越さなかった。つまり、反論はないということだ。ここに畳み掛ける。

「リサさん強いし、一人でも何とかなるんじゃないかな。もちろん私にもリスクはあるの」
「貴女の身が危ないわね」
「そこをリサさんに託すって言ってるの。……これは私の勘なんだけど、こんなことでテンパるような主催者なら、なんかやらかしそうな気がするし」

 半分冗談のつもりで言ったのをリサも理解してくれたらしく、「例えば、基地の自爆スイッチを押すとか」と付き合ってくれた。

「そうそう。他にも基地がぶっ壊れるのお構いなしで兵器ぶっ放しとか」
「……ありそうな話ねぇ」

 コミックの中でしか有り得なさそうな話なのだが、リサは意外と神妙だった。
 本気ではないだろうが、可能性のひとつとして受け止めたのだろう。

「追い詰められた奴は何をするか分からないからね……貴女が、宮沢有紀寧にそうされたように」
「えっ?」

 思ってもみなかった言葉が飛び出してきて、ことみは間抜けな口を開いてしまっていた。
 まさか、本気なのだろうか。
 硬い表情を作るリサの真意は測れず、判然としないものだった。

「何をしでかすか分からない、か……」

 何とも言えなくなってしまう。不測の事態に陥ってしまうと頭が回らなくなる悪い癖は治っていないらしい。
 ここもいずれ変えていかなければと見当違いな決心をしている間に結論を出したらしいリサが「分かった」と言っていた。

「別行動にしましょう。ただし、危なくなったらすぐに逃げてね。そこだけは約束して」
「え、ああ、うん」

 こくこくと頭を下げたのを見たリサは「うん、よし、それじゃあね」とまくし立てて先に行ってしまった。
 呆然と取り残されたような気分になり、ことみは首を捻りながら「うーん」と呟いてみた。
 これでよかったのだろうか。いや、当初の予定通りではあったのだが。

「……まあ、私がいても正直戦闘の役に立たないし」

 だから自分の得意なことをやろう。
 気を取り直し、ことみはのんびりと歩いていたウォプタルの手綱を強く握った。
 目下の見立てでは、地下の、最深部が怪しい……というのはフェイクで、この近辺のフロアに何かがあると見ていた。
 理由はひとつある。アハトノインが『見回り』に来ていたこと。
 どこかに急行するなら歩いているはずはない。警戒のために来ていたのだとすると、重要な何かがあるということだ。
 試しにウォプタルを走らせて、まずは様子を見ることにした。

「当たってればいいけど」

 全部が推理でしかないのに、無闇に確信している自分がいる。
 そういう根拠のない自信は聖から貰ったものなのだろうか。

 ねえ、先生。
 私、意外と図々しくなったかもしれないの。
 だから絶対医者になる。なれるように祈ってて欲しいの。なれなかったら先生のせいなの。

 聖が、苦笑した気がした。

     *     *     *

十三時五十四分/高天原中層

 ことみの小さな一言が切欠だった。
 追い詰められた人間は何をしでかすか分からない。
 もし、今ここを管理している人間が、自分の推理通りの人間だったとしたら――
 それがことみと離れた理由であり、急いでいる理由。
 生きて帰る。それだけが目的なら急ぐ必要はなかったし、今こうしていることもない。
 けれども、もし、帰る場所そのものが失われてしまうかもしれないとしたら?
 実行するかどうかはともかくとして、やると決めたならばどんな非道なことでもやってかねみせないのが『彼』だった。

 脱出する前になんとしても接触し、決着をつける必要があった。
 本当なら皆と合流した上で行うべきだったし、そうしたいと思っていたが事態は急を要する。
 分散してしまったのは失敗だったかもしれないとリサは舌打ちした。
 もし既に脱出路の確保が終わってしまっているなら、『彼』は準備に取り掛かっているかもしれない。
 そうなる前に潰したいというのがリサの気持ちだった。

 片っ端から怪しそうな場所に突入してみたが、いずれも無人。
 本命の場所には必ずいるだろうからいないはずはない。そう考え、もう何度も突撃してはみたが結果は得られていない。
 『高天原』は広すぎる。このフロアではない可能性もある。
 そもそも、勘と当てずっぽう、そして和田の残してくれた僅かな情報だけが頼りでしかない。
 首輪データと共に発見した『高天原』のデータが古い可能性は否めない上、建造初期のデータだった。
 だが、自らの経験と勘を信じるしかない。
 今度こそ手遅れになるわけにはいかないのだから……

 新しい部屋を発見したリサは躊躇なくそこに踏み込む。
 物陰から飛び出すと同時にM4を構える。敵と判断すれば即座に撃つ心積もりだったが、またも無人。
 その代わりに、床に赤い液体が放射状に散らばっているのを発見した。その傍らには、投げ捨てられたゴミのように放置されたウサギの人形と、ひび割れた眼鏡があった。
 床の赤いモノに触れるリサ。既に凝固しかけているのか、殆ど手にはつかない。
 つまり、いくらか時間が経過しているということだった。

「……誰かが、殺された?」

 考えるならばそうとしか考えられない。
 主催者の仲間か、或いは別の誰かなのか。血痕だけではこれ以上の事実など分かろうはずもなかったが、ことみの推理は正しいことになる。
 やはり篁が死んで以降、運営内部で争いがあったのだ。
 当初の目的を遂行するか、やめさせようとした一派と争いになったのか、或いは篁財閥の権力を握ろうと他を排除にかかろうとしたのか。
 いや過程はどうでもいい。その結果として、『彼』がトップの座に居座っている。
 そして全てを隠蔽すべく、参加者を全て皆殺しにしようとしている――

「お待ちしておりました」

 やはり『彼』を放置しておくわけにはいかないと結論を結びかけたところで、唐突に声が背後からかかった。
 気配は感じなかった。心臓が凍りつき、内心戦慄する思いであったのだが、何とかそれを隠し通し、いつもの振る舞いでリサは振り返った。
 そこにいたのは、以前撃破したはずのアハトノインだった。いや違う、とリサは即座に判断した。恐らくは別の機体。だが……
 平板な表情、金色の髪と赤外線センサーを搭載した赤い瞳、胸のロザリオ、修道服。
 何から何まで同じで、生き返ったのかとすら思う。きっちり揃えられたアハトノインには個性の文字すら見えない。

「我が主が貴女様をご招待しております。どうぞ、こちらへ」

 恭しくお辞儀をして、手で誘導してくる。罠か、と思ったリサだったが、そもそも敵陣の只中に突入している身で罠も何もないと考え直した。
 余裕があるということなのか? いやそれはない。推理通りの人物ならば余裕など有り得ない。そんな器を持ち合わせているはずはない。
 これは虚勢だ。プライドが小さい男が張ったつまらない虚勢。
 わざわざ使いを寄越すのも、自ら出て行くことができなかったからなのではないか。
 そう思うと色々勘繰っていたことも馬鹿らしく感じ、逆に余裕を持てるようになった。
 その程度の男、御せなくてどうする、リサ=ヴィクセン。

「ご招待に預かりましょう」

 もしかすると、アハトノインを通して見られているかもしれないと思い、リサはわざとふてぶてしい態度を取った。
 M4を仕舞いもしなかったが、特に気にかけることも別の表情を見せることもなく、「では、どうぞ」と先を歩いてゆく。
 人間であれば、まだおちょくることもできたのだが。
 そういった意味でも面白くないと思いつつリサはアハトノインに続いた。

「ところで、質問は許可されているのかしら」
「命令にはありません。もうしばらくお待ちください」
「……面白くないわね」
「申し訳ありません。その命令は実行できません」

 口に出すだけ無駄だろうとリサは結論した。
 それにしても応対まで簡素そのものだとは。ほしのゆめみなら、もっと面白い答えで受け答えしてくれるのに。
 ほんの少し付き合っただけだが、リサはアハトノインを通して製作者の人間性が改めて分かったような気がした。
 ひどくつまらない。男としての魅力は皆無といっていい。

「英二なら、そもそも自ら出向いてくる、か。比較するのも失礼だったかな」

 わざと聞こえるように言ってみたが、返ってきたのは無言だけだった。
 やはりつまらない。廊下を通り過ぎ、階段を下りてゆくアハトノインの背中を見ながらリサは嘆息した。

     *     *     *

十四時十五分/高天原格納庫

「……こいつは」

 目の前に聳え立つ、高さ5m以上はあるかという物体を見上げながら高槻は想像以上の代物が出てきたことに驚いているようだった。
 無理もないな、と朝霧麻亜子は思う。こんなもの、どうやって破壊しろというのか。
 戦車なのかロボットなのか、それとも別の兵器とも判断できないそれは今は休止中なのだろうか、
 間接部のライトをチカチカと輝かせているだけで動く気配を見せていなかった。
 しかし動いてはいなくとも、頭頂部に配置されている大型の筒は息を呑むほどの威圧感があり、例えるなら玉座に鎮座する大王、といった佇まいだった。
 恐らくは戦車砲かなにかなのだろう。それにしては鋭角的なデザインだとも思ったが、最新鋭の兵器というものはこういうものなのかもしれない。

「どうするのさ」

 ただ立ち尽くしているわけにもいかず、麻亜子は腕を組んだまま見上げている高槻に問いかけた。
 ほしのゆめみは相変わらず高槻一筋といった振る舞いで、特に何もしていなかったからだ。

「見ろ」

 首を少しだけ動かし、高槻はとある一点を指し示したようだった。
 視線の先を追うと、大型筒の下のあたりに、取っ手らしきものがあるのが見えた。

「コックピット?」
「だろうさ。ちょいと狭そうだが、あの大きさなら少なくとも二人は入れる」
「おい、まさか」
「ここであれを奪わなくてどうする」

 麻亜子は頭を抱えた。あんな最新鋭の兵器、動かせるはずがないではないか。
 確かに、面白そうだとは思うが。
 ここで面白そうだから動かしてみたいと思ってしまっている自分がいることに気づき、麻亜子はため息をもう一つ増やした。
 玩具みたいに簡単にできるはずがないと感じてはいても、それがどうしたやってみなければ分からんという考えもある。
 どうも学校生活の中で、あらゆる無茶に挑んでみたくなるのが習い性として定着してしまったらしい。

「動かせる自信あるの?」
「ない」

 随分きっぱりと高槻は言ってくれた。「なんだよそれ」と呆れ混じりの口調で返すと「動けばいいんだよ、事故っても」と、
 本気なのか冗談なのかも分からぬ答えが返ってきた。

「ま、いざとなればあのレールガンぶっ放せばいいだけの話だ」

 それが出来るのか、という質問は置いておくことにした。
 実現性はともかくとして、手当たり次第に暴れまわるという発想は面白そうだと麻亜子も感じたからだった。
 結局のところ、面白さを第一義にして動くという性分はどんなに辛酸を舐め尽くしても変わることはないのだろう。
 それでもいいか、と結論付ける。自分の人生、好きなように決めて行動してもいい。好きなように行動するという選択肢が、今の自分にはある。

「よし分かった。その覚悟に免じて先鋒となってハッチを開ける任務を与えよう」
「あ?」
「何だよ、言いだしっぺの法則を忘れたか高槻一等兵」
「……」

 ジロリ、と睨まれる。どうもまだ高槻は自分に対して警戒心が強く、心を許してくれていない部分があるようだった。
 当然か、とも思う。考えている以上に因縁は深く、一生を費やしても埋めきれない溝であるのかもしれない。
 それでもと麻亜子は反論する。どんなに人殺しの業が深くても、最低な人間だったとしてもそれで終わるわけにはいかない。
 どんな暗闇に落ちたとしても、そこから這い上がれるだけの力を人間は持っているのだと知ることができたのだから。

「分かった。行きゃあいいんだろ。でもな、ひとつ確認していいか」
「?」
「あすこまで、どうやって行くよ」
「……」

 取っ手は四脚に支えられた台の上にあり、脚立か何かを使わなければ取り付くこともできそうになかった。
 脚から這い上がろうにも、表面は滑らかであり、ロッククライミングまがいのことも不可能そうだ。

「つまりだ、俺が上がろうと思えばお前ら二人で俺を肩車しろってことなんだが、できるかチビ」
「あー!? チビって言ったかこいつ! できねーよ! 悪かったなこんちくしょう!」
「お、落ち着いてください……わたしは恐らく大丈夫だとは思いますが」

 麻亜子はゆめみを睨んだ。スレンダーな体。けれども割と高い身長。その上力持ち。萌え要素のツインテール。

「完璧超人め! もげろ!」
「はい?」

 もげろの意味が分からなかったらしく、小首を傾げられる。しかもかわいい。

「ま、そういうことだ」

 ポン、と肩を叩かれる。高槻はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべていた。
 多少は溜飲を下げたのかもしれなかった。それはそれで何か苛立たしい気分ではあった。
 かといって男に肩車できるだけの膂力はなかった麻亜子に返しの一手が浮かぶはずもなく、先鋒を務めなければならない我が身に嘆息するしかなかった。
 キック力なら負けないのに。
 どこか言い訳のように心中で呟きながら、麻亜子は「分かった。行きゃあいいんでしょ」と承諾した。

「あ、スカートの中見るなら100円な」
「見ねえよ。そもそもスカートじゃないだろが」

 麻亜子は自分を確認してみた。体操着だった。すっかり忘れていた。おまけに普通のズボン。

「ちっ」
「露骨に舌打ちすんな。大体てめぇのような貧相なガキのパンツ一枚見たところで興奮しねえよ。中学生じゃねえんだ」

 本当に興味なさそうに言っていたので、なにかますます悔しい気分になる。
 何が一番悔しいかというと、全く持って高槻の言ったことが全て真実であることだった。

「ふん。あたしでも需要はあるんだもんね」
「ロリコンはな、年齢もロリじゃねえと納得しないもんだ」
「あー!? あたしが年増だってか!」
「悔しかったら胸増やしてボインになってみろよバーカバーカ!」
「胸なんかいらんわっ! あんなもん年食ったら垂れて使いもんにならんもんねー! バーカ!」
「負け惜しみしてんじゃねえよ幼児体型!」
「んだとテンパのくせに!」
「ててててめぇ! せめてウェーブって言えこの野郎!」
「やーいやーい悔しかったらサラサラストレートにしてみろってんだ」
「ばっ、こういうのは個性っていうんだよ! 分からんのかこの低身長!」
「お二人とも、小学生のような喧嘩はやめてくださいっ!」

 珍しくゆめみが声を荒げたこともあったが、それ以上に小学生の喧嘩という指摘があまりにも的確だった。
 なんで張り合ってたんだろうと今更のように感じながら、同様の感想を抱いていたらしい高槻と一緒に大きくため息をついた。
 そのタイミングまで一緒だったので「けっ」と言ってやったが、全く同じタイミングで向こうも「けっ」と言っていた。

 なんなんだよ、これ。

 言い表しがたい気分を抱えながら、麻亜子は渋々といった感じで座り込んだ高槻の肩に乗り込む。
 更にその高槻をゆめみが下から肩車する。肩車の三段重ねだった。
 バランスが崩れるかと多少不安な気持ちだったが、予想外にしっかりと固定してくれていて、揺れることすらなかった。
 いかにもぶすっとしているのに、がっちりと足を掴んでくれている高槻の手が妙に頼れるものに思えてしまい、麻亜子は何か居心地の悪くなる気分だった。
 やるべきことをちゃんとやっていると言えばその通りなのだが、歯がゆいというのか、くすぐったくなるような気持ちだった。

「おい、さっさと開けろって」

 考え事をしていたからなのか、目の前に取っ手があることにも気づけなかった。
 何やってんだろ、あたし。
 自分でも整理のつかない気持ちを抱えながら、それを少しでも晴らすべく麻亜子は話を振った。

「ねえ、あたし軽いでしょ」
「……そりゃな」

 流石に事実までは否定してこないようだった。

「胸があったら重かっただろうねー」
「代わりに下乳が俺の頭に触れるかもしれないってドリームがあるから問題ない」
「……あんたさ、意外にスケベな」
「セクハラ大魔王のお前にゃ言われたくないね」
「うっさいな」

 言いながら、麻亜子は少し吹き出してしまっていた。
 ああ、似ているのだ、自分達は。
 あまりにも似すぎているから戸惑ったのかもしれない。
 わけもない対抗心も、自分達が似ているからなのだろうか。

「んなこたどうでもいいからとっとと開けろよ」
「はいはい……ここか、せーのっ」

 意外に取っ手は重く、若干の反動がかかることは承知の上で両手で引っ張る。
 しばらく力を込めるとハッチは簡単に開いた。
 が、その瞬間目の前が揺れた。

「うわわっ!? なになに!?」
「う、動き出しました!」
「何だと!?」


『侵入者を確認。これより対象の排除にかかります。セーフモード解除、Mk43L/e、シオマネキ、起動します』


 げっ、と麻亜子も高槻も、そしてゆめみでさえも漏らした。
 地震が起こったのではなく、目の前の『シオマネキ』が動き出したのだった。
 それも自分達をターゲットに、殲滅するように。
 開いたままのハッチから、僅かに操縦席が見えた。
 しかしそれは操縦席と呼べるようなものではなく、複雑に回線が絡み合った、一種のコンピュータのようであった。
 その配線群に紛れ込むようにして、いや配線に繋がれている、ひとつの影と目が合った。
 目は赤く、それでいて瞳の中には何も宿してはいなかった。
 この目を、自分は知っている。
 そう知覚したとき、目の下にある口腔が開き、一つの言葉を発した。

「あなたを、赦しましょう」

 ぐらりと麻亜子の体が揺れた。
 動き出したシオマネキから離れるべく、高槻とゆめみが自分を下ろしにかかったのだろう。
 ハッチの中はもう見えない。ただ――
 シオマネキも、アハトノインであるということが分かった。

     *     *     *

十四時四分/高天原司令室

「ようこそ我が『高天原』へ。歓迎しますよ、ミス・ヴィクセン」
「歓迎会の迎えにしちゃ遅いんじゃないの? エスコートの下手な男は嫌われるわよ、ミスター・サリンジャー」

 それは失礼、と軽薄な笑みを作ったまま、デイビッド・サリンジャーは豪奢な作りの椅子に腰掛け、足を組んだ。
 敵が目の前にいるというのに、殺されるなどとは微塵も感じていない態度だった。
 武器も持っていないのに? この自信は背後に控えているアハトノインによるものなのだろうか。
 直接交戦したとはいえ、まだその真の性能を把握してはいない。この殺人ロボットに、果たして一対一で勝てるか。
 考えている間に口を開いたのはサリンジャーだった。

「いつまでもお互い口上を述べていても仕方がありません。早速本題に入るとしましょうか。私は意外とせっかちでしてね」
「あら。せっかちな男も女には逃げられやすいわよ」
「性分なんですよ。なにせ元がプログラマーですから。迅速に結果を出さなければいけない仕事も多かったんですよ」
「今はどうなのかしら」
「そうですねえ……神なんていかがですかね」

 ジョークにしてもいささかつまらなさ過ぎるとリサは返事を寄越すのも躊躇った。
 上がいなくなったからといって、神様気取りか。くだらない、たなぼた的に地位を獲得しただけではないか。
 当人は面白いとでも思っているのか、くくっと忍び笑いをしている。リサは想像していたよりずっと小さい男だと感想を結んだ。

 デイビッド・サリンジャー。篁の元に潜入していたときに、何度か出会ったことがある。
 機械工学部のチーフプログラマーであり、最新技術の研究をしていたと聞く。
 当時のリサはサリンジャーのことまで気にしている余裕はなく、せいぜいその程度の情報くらいしか知らなかった。
 まさか篁の側近クラスであり、ここまでの地位とは思わなかったが……
 しかし、アハトノインの性能を見る限りサリンジャーはプログラマーとしては一流だということは感じていた。
 その人間性はともかくとして、ロボットに殺人させるアルゴリズムを組み込める技術者をリサは知らない。可能であるとすれば姫百合珊瑚くらいのものだろう。
 だから篁に目をつけられた。己がためならどんな非道でもやってのける残虐な性格であるのは、ここまでの経過を見ても明らかだ。

「素晴らしいロボットね、貴方の『アハトノイン』は。戦闘できるロボットなんて初めて見たわ」
「そうでしょうそうでしょう! いやあ苦労したんですよ。何せオーダー元……篁総帥の仕様が無茶苦茶でしてね。頭を悩ませたものです」

 饒舌に話すサリンジャー。放っておくといつまでも喋りそうな勢いだった。
 会話するのも億劫になってきたリサはさっさと結論を引き出すべく、サリンジャーの口を遮って次の疑問を出した。

「それで、このロボットを使って貴方は何をするつもりなのかしら」
「神の国の建設ですよ」

 また神か。いい加減うんざりしてきたので、露骨に呆れてみせた。
 まあまあとサリンジャーは猫なで声でなだめすかす。それがまたリサの心を刺激し、苛立たせた。
 この男、人をイラつかせるのだけは一人前なのかもしれないとリサは評価を改めた。マイナスの方向に。

「夢物語なんかじゃありませんよ。この高天原と私の忠実な下僕がいればね」
「ロボット軍団で世界征服でもしようっての?」
「その通り」

 大正解、とでも言いたげな表情だった。
 馬鹿じゃないのと言いたくもなったが、それすら呆れによって言い出す気力も失せた。
 まるでSF小説か映画の世界だ。一体何をどう考えればそのような発想に辿り着くのかと驚きさえ覚える。

「アハトノイン達の実力は皆さん確認済みでしょう? あれ、実は意外とリミッターかけてましてね。
 ここをなるべく傷つけさせないために銃の使用を控えるように言ってしまったんですよ。
 いやはや。流石に分が悪いかと思いましたが結構そうでもなかったようで。今二体破壊されてしまっているんですが、三人も殺せてるんですよ。
 上出来でしょう? 近接武器だけで強力な武器を持ったあなた方を三人。全力ならとっくに全員死んでますよ」

 テストで想像以上の点数を取れたことを自慢するようにサリンジャーは述べる。
 ここで見ていた。命を賭けて戦っていた皆の姿を実験する目でしか見ていない。
 その上、机上の空論だけで全員殺せるなどとのたまう姿に、流石のリサも怒りを覚え始めてきた。
 表情にもいつの間にか出てしまっていたらしく「おっと、怒らないでくださいよ」と全く悪びれてもいない声でサリンジャーに言われる。
 それがますますリサの怒りを逆撫でした。
 スッ、と胸の底が冷たくなり、殺意が鋭敏に研ぎ澄まされてゆく。
 こんなつまらない男の掌で転がされていたのかと思うと、情けないというより笑い出したい気分になる。
 仇などと言うのも惜しい。そうするだけの価値も意味もない。
 口に出して証明するまでもない。こんな男より柳川祐也や緒方英二、美坂栞の方が余程優れているし魅力的だった。
 だから負けるはずがない。こんな男に殺されるはずがない。
 リサは黙ってM4の銃口を持ち上げ、サリンジャーへと向けた。

「まあ話は最後まで聞いてくださいよ。我ながら魅力的な提案だと思いますよ? ここから先の話は」

 椅子を横に回転させ、流し目でこちらを見ながらサリンジャーは言った。
 銃口を向けられているというのに、全く微動だにしていない。即座にアハトノインが守ってくれるという余裕があるからなのだろうか。
 それとも、本当に自分の話が魅力的だと思っているのか。
 どちらにしても思い上がりも甚だしい。
 見た目だけは二枚目なサリンジャーの細い顔を見ながら、リサは冷めたままの感情で続きを聞いた。

「高天原の設備、そして篁財閥の財力なら量産することも不可能ではない。それにこちらには核もある。
 つまり、我々は武力と経済力のどちらも握っているわけです。面白いゲームになると思いますよ?
 人間の軍隊が圧倒的な差で我が神の軍隊に敗れてゆく様はね。私達はここでその様を眺めていればいい」
「たかが核くらいで何をいい気になってるの? 撃つ設備も必要だし、何より撃ったところでアメリカを初めとした先進国には迎撃できるだけの力もある。
 撃ち返すことだってできる。いやそうするまでもないわ。撃った場所を確認して空爆すればそこで終わり。貴方の言う神の軍隊とやらには戦う必要もないのよ」
「それがそれが、話はそうじゃないんですよねえ」

 ここが肝心要というように、サリンジャーは愉快そうに笑う。
 対照的に眉を険しくしたリサに「いいですか、ポイントは二つあります」と先生が生徒に教える口調でサリンジャーが続ける。

「まず一つ。貴女の言う反撃は核を撃った場所が特定できなければならない」
「特定は容易よ。熱探知でどうにでも」
「その熱を全く使わない、つまり、推進力にエンジンを使わない核弾頭を撃てるとしたら?」
「は?」
「あるんですよ、こちらには。『シオマネキ』がね」
「『シオマネキ』ですって!?」

 その返答こそを待っていたかのようにサリンジャーは愉悦の笑みを漏らした。
 Mk43L/e、通称シオマネキ。世界初の自動砲撃戦車であり、四脚とローラーによる走行はどんな悪路をも走破し、
 回転式の砲座に設置されたレールキャノンで発見した対象を確実に破壊する。
 米軍で極秘裏に開発されていたのだが、肝心のAIの製作が滞り、現在は計画も凍結されていたはずだ。
 それ以前に四脚による走行すらも危うく、とても実戦に投入できるような代物でもなかった。

「米軍が諦めてしまったのでね。こちらで研究を続けさせていただきました。中々興味深くて面白かったですよ?
 まあ話し始めると長くなるので、要点だけ話しましょう。我々は、『シオマネキ』のレールキャノンで核弾頭を撃てる。
 撃てるんですよ。探知も迎撃もできない核弾頭をね。文字通りのステルスだ。どうです面白いでしょう?」
「……」

 リサは何も言えなかった。正確には、探知することは不可能ではない。
 だが迎撃は難しい。サリンジャーの言う通り、シオマネキで狙撃することが可能なレベルのレールキャノンである場合、
 弾頭はとてもではないが迎撃はできない。最低でも、一発は核による砲撃を許すことになる。
 いやそれだってシオマネキが一体であるならばの話で、仮に量産されたとしたら……?

「更に言うなら、『シオマネキ』は量産する必要もないんですよ。貴女はこの島は固定だと思っているようですが、実はそうではない。
 移動可能なんですよ、この島は。動かしていないだけでね。エネルギーさえ確保できれば動かせますよ。今だって、何の問題もなくね」
「……つまり、探知しても正確な位置の割り出しは不可能」
「察しが良くて助かります。まあそれでも優秀な米軍あたりなら空爆だって仕掛けられるかもしれませんが、それも問題ないんですよ」
「まだ何かあるっていうの……!?」
「ええ。ですが、流石にここからは企業秘密に当たるので話せませんね。貴女が私の陣営に加わるなら話は別ですが」
「私を引き入れるって言うの……?」
「出自やこれまでの経緯はどうでも構いません。貴女は優秀だ。そこらへんのSPなどよりもはるかにね。
 どうです? 私の護衛になってみませんか? 待遇は望むようにしますが? ああ、他の参加者連中を逃してくれってのは出来ませんよ?」

 まるでリサが入ることは確定事項だとでもいうようにサリンジャーは聞いてもいないことを喋り続ける。
 は、とリサは嗤った。
 捕捉も迎撃も不可能な核。人間を凌駕するロボット兵器。まだ隠されているなにか――それがどうした?
 結局のところ、全て篁の遺産ではないか。他人の褌で相撲を取っているに過ぎない。
 この男自身の力は何もない。自らの力で何も成し遂げようとはせず、転がり込んできた玩具で遊ぼうとしているだけ。
 くだらない。そんなくだらない遊びに付き合うほど暇ではないし、魅力の欠片も感じない。
 プレゼンとしてもゼロ点以下だ。どんなつまらない話かと失笑を期待してみたが……それ以下だった。
 そして何より、自分を、リサ・ヴィクセンという女をコケにされたようで、気に入らなかった。

 この私が? 地獄の雌狐と言われたこの私が、他人に尻尾を振るとでも思っていたのか?
 今ある未来から背き、泡沫でしかないものに身を委ねろという言葉に本気で従うと思っていたのか?
 そんな言葉で、私は動かされない。
 私が動かされるのは、いつだって生きている言葉、自分を生きさせてくれる言葉だ。

「――お断りよ。クソ野郎」

 今度こそ、何の感慨もなくリサはM4のトリガーを引き絞った。
 サリンジャーに殺到した5.56mmNATO弾は一言の命乞いも許さず、綺麗にサリンジャーの頭に風穴を開けるはずだった。

「それはそれは……残念です」
「……っ!?」

 だが、サリンジャーに弾丸は当たらなかった。否、見たものが正しければ、弾丸が逸れた。
 まるで当たることを拒否したかのように綺麗に逸れていったのだ。
 サリンジャーの傍らにいるアハトノインは寸分の動きも見せなかった。彼女が何かをしたというわけではない。
 けれどもサリンジャーが動いたわけでもなかった。これはどういうことなのか。

「特別ですから、企業秘密を教えて差し上げましょうか」

 表にこそ出していなかったものの、内心の動揺をあざとく感じ取ったらしいサリンジャーが冷笑を浮かべながら言った。
 自らが絶対有利だと安心する笑いであり、こちらを見下した笑い。
 優越感のみによって構成された彼の表情は、あまりにも似合いすぎていた。これが、奴の本性か。

「先程言いましたね、米軍の空爆ごときなんでもない、と」

 横を向いていたサリンジャーが再び正面に体を戻すと同時に、ポケットから長方形の、携帯電話サイズの物体を取り出した。
 あれがマジックの種だとでも言うのか? 疑問を抱いたリサに応えるようにサリンジャーは手で弄びながら続けた。

「これがその答えです。総帥は『ラストリゾート』と言っていましたがね」
「……完成していたのね」
「おや存在だけは知ってたようですね。性能までは知らなかったみたいですが。そう、これが究極の盾。
 あらゆる銃撃、爆撃を無効化する夢のような兵器ですよ。どんな原理なのかは私も知らないんですがね。
 まるで魔法みたいでしょう? 今のテクノロジーを使えば、奇跡も幻想も作り出せる」

 サリンジャーは勝ち誇ったようにしながらも、「だが総帥は」と一転して吐き捨てるように言った。

「これだけの力がありながら、それを『根の国』だのとかいう訳の分からないところに攻め入るためだけに用いようとした……
 全く、宝の持ち腐れですよ。私のアハトノインもね。だから私が使うんですよ」
「貴方の自己顕示欲を満たすためだけに? はっ、どっちもどっちね」

 もう一発。射撃を試みたが、やはりサリンジャーには命中しない。
 どうやら常時発動型のシステムらしい。だがアハトノインが近くに控えている以上、接近不可能というわけでもなさそうだ。
 ――つまり。

「私の理論が正しいということを証明するだけですよ。間違っているのは私じゃない。世界だ」

 冷静を装って振舞っていながらも、その根底に卑小なものが潜んでいるのをリサは見逃さなかった。
 間違いを認めたくないだけの我侭な男だ。一度失敗したからといってやり直す気概も持てず、不貞腐れて漂っている間に玩具を拾っていい気になっているだけ。
 そこいらの高校生にも劣る小物でしかない。

「だから、貴方は負けるのよ!」

 リサは高速でサリンジャーに詰め寄った。『ラストリゾート』さえ奪ってしまえば恐れるに足りない。
 流石に意図を読み取ったらしいサリンジャーはアハトノインに「近づかせるな!」と盾にしたが、止められると思っていたのか。
 M4を構え、フルオートで射撃する。完全に接近戦の構えだったアハトノインは回避動作さえしなかった。
 だが。

「っ! こいつも……!」

 M4の弾が逸れる。避けられなかったのではない。避けなかったのだ。
 アハトノインも、『ラストリゾート』を装備している。
 グルカ刀を抜き放ったのを見たリサは一転して回避へと変じる。袈裟に切り下ろされるグルカ刀をかろうじて回避し、一旦距離を取る。

「危ない危ない……さて、ショーと参りましょうか。私のアハトノインと地獄の雌狐。どちらが強いかをね」

 悠然と座ったままのサリンジャーは、コロシアムの観客を気取っているようだった。
 なら、そこから引き摺り下ろしてやる。今すぐにだ。
 サバイバルナイフを取り出し、逆手に構える。対するアハトノインもグルカ刀を真っ直ぐに構えた。

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