アイニミチル (6)





 
ずるり、と。
『門』から出てきたそれを一言で表現するならば、醜悪だった。
それが姿を現した途端、まず辺り一面に漂ったのは猛烈な悪臭である。
饐えた牛乳と海産物を乱暴にかき混ぜて煮詰めたような、生理的な嫌悪感を催す臭いを撒き散らしながら
地響きを立てて降り立ったのは、見上げるほどに巨大な、ぶよぶよとした丸い塊だった。
脂ぎった体表面のそこかしこから、うぞうぞと蠢く肉の突起が飛び出している。
それが醜悪であったのは、その悪臭と形状のみではない。
そのおぞましい巨塊はまだもう一つ、見る者に吐き気を催させるような要素を備えていた。
目。鼻。耳。
人が、ヒトの顔として認識するために必要なパーツを、それは持っていた。
二対の目は互い違いの方向を睨み、二つある鼻は汚らしい色がついているかのような吐息を漏らし、
四つある耳の内側にびっしりと生えた肉の突起は秋の麦穂のようにざわざわと蠢いている。
ヒト二人分の顔の造作が不気味な肉饅頭の中に散乱している、悪夢の光景。
腐り果てた蜜蝋の塊に、人の目鼻らしき形を適当に埋め込んでその表面を火で炙ったような、
それは醜悪で粗悪で劣悪な、ヒトの顔のまがい物であった。

『私を―――』『私たちを喚んだのは―――お前、なの―――?』

ごうごうと、洞穴を吹き抜ける風のような低くおぼろげな声。
醜悪な巨塊の放った、その声は二つ。
もごもごと震えた巨塊に口らしきものは見当たらない。
ぶよぶよと震動する肉そのものから、声は発されているようだった。

「……そうですよ、化け物」

猛烈な悪臭も不気味な容貌も、圧倒的な体躯の差にも臆した様子なく、静かに言い放ったのは
巨塊の正面にたたずむ女、天野美汐である。
赤と青、二色の光が渦を巻くようにその両手から立ち昇っている。

『性なる神を前に―――』『化け物呼ばわりとは、いい度胸なの』

ごぼごぼと、粘液質の泡がいくつも弾けるような湿った声。
痰の絡んだようなその声が収まるや、巨塊に生えた無数の肉突起が蠕動を開始。
その内の数本が目にも止まらぬ速さで伸びると、美汐へと一直線に迫る。
佇む美汐を無惨にも貫くかに見えた触手群は、しかしその目標へと到達することすらなく、消えていた。
霧のかかったような瞳の女がしてみせたのは、ただその手を打ち振るうことである。
手の一振りで、その左手に宿った赤い光が壁のように立ちはだかっていた。
赤い光の壁に触れた途端、触手の群れは消え去っていたのである。

「非在の拒絶による具現、存在の拒絶による消滅……」

低く呟かれた美汐の言葉に憤るように、巨塊がぶるぶると震えた。
互い違いにあらぬ方を見ていた二対の瞳が、美汐を捉えて怒りの色を浮かべる。

『小賢しいの―――』『そんな力、所詮は私たちの餌でしかありません』

ぶるぶると震えていた巨塊が、唐突に消えた。
否、その姿は空中、青と赤の光に照らされてなお薄暗い岩窟の広間の高みに存在していた。
一瞬にして数メートルを跳ねたのである。
その巨躯に似合わぬ、恐るべき敏捷性であった。

『しゃぶり尽くしてあげますよ、その力』『―――おいしそうなの』

中空、放物線の頂点で静止した一瞬。
巨塊に、びきりと巨大な罅が入り、次の瞬間、割れ、爆ぜた。そのように、見えた。
が、巨塊はまだ、一つの塊である。
割れ爆ぜたように見えたのは、その球形の塊を縦の真一文字に裂くように開いた、巨大な割れ目の故であった。
その裂け目から、ぼどぼどと粘液質な液体が滲み出している。
内側に見えるのは、ざわざわと蠢く、まるでイソギンチャクを思わせるように密集した肉突起の群れ。
そしてその中心に位置するのはひときわ巨大な、桃色の肉塊。
表面を細かな疣に覆われながら、蛞蝓のようにぐねぐねと不気味に蠢くそれは、紛れもない、舌である。
してみると薄黄色に汚れた岩石の如きものは、歯列であろうか。
がばぁり、と。
縦一文字に割れ開いた、肉の裂け目は。
巨塊に散りばめられた人の顔の要素に足りなかった、最後の一つ。
だらだらと涎を垂らす、それは巨大な口腔であった。

『私たちの舌技、味わう間もなく潰れなさい』『―――いただきまぁす、なの』

その重量と位置エネルギーとを膨大な運動エネルギーに変えながら、巨塊が落下を開始する。
ごうごうと風を巻きながら、ぼろぼろと涎を散らしながら、落ち行く先はただ一点。
赤と青の光に包まれた、天野美汐である。
迫り来る巨塊、その大きく開かれた汚らしい口腔に、為す術もなく呑み込まれるかに思われた美汐の表情は、
しかし微塵も動かない。
そこには恐慌も、恐怖も、絶望も、寸毫とて存在していなかった。

「いい加減に……理解していただけませんか」

彼女が漏らしたのはただ、冷笑である。
応えるように、右の手に持った分厚い書物が青い光を強めていく。
刹那の間に直視できぬまで強くなった青の光が、弾ける。
瞬間、胃の腑を抉る重低音が幾つも重なって響くような、名状し難い音が岩窟を揺るがしていた。

『……ぐ、ぅ……!』『か、はぁ……!』

苦しげに呻いていたのは、中空から落下を始めていたはずの巨塊の方だった。
美汐の細い体を押しつぶさんと迫っていた巨塊が、止まっていた。
その球形の巨躯を中空に縫い止めていたのは、光の柱である。
水晶を思わせるような、硬質な輝き。
大地に立つ美汐を包み込むように聳えた青光の柱が、その先端で貫くように、巨塊を受け止めていた。
限界まで開かれた口腔一杯に野太い光柱を突き立てられた巨塊がぶるぶると震えるが、青光はこ揺るぎもしない。
がっちりと光柱を咥え込んだその隙間から白く泡立った唾液が落ちて、辺り一面に刺激臭を撒き散らした。

「どうしました? ……見せてくださいよ、ご自慢の舌技」

嘲笑に満ちた美汐の声に、巨塊の表面から突き出た肉突起がざわざわと蠢く。
その内の何本かが苦し紛れに美汐へと迫るが、青い光の壁に阻まれて届かない。

「ええ、貴女方は全能にして無敵ですよ、『神様』。……貴女方の世界においては、ね。
 貴女方は存在するだけで世界を狂わせる。青の加護を持たぬ者は正気を保つことすらままならず、
 ただ無作為に歩き回るだけで人々は色に狂い爛れて死んでいく。
 そのまま世界を滅亡させることだって容易いでしょう」

見開いた眼窩に泥を擦り込むような、ねっとりとした悪意を込めて、神という単語が紡がれる。
美汐の冷笑は自身の表情すらも凍りつかせてしまったかのように動かない。

「貴女方の世界、貴女方の宇宙、貴女方の時間。その狭い世界で、貴女方は確かに神と呼ばれるに相応しい。
 こちら側に出てきてなお、その力は人のそれを遥かに凌駕している。
 無限に近い力、ですが―――それは決して、無限そのものでは、ありません」

淡々と呟く美汐。
その身を包む青い光の中で、今度は左手から立ち昇る赤い光が次第に強くなっていく。

『ほの、ぉ……いんげん、ふれいがぁ……』『あに、お……らまいひら、ころお……らろおぉ……』

ぶるぶると震える巨塊が何事かを喚き散らそうとするが、口腔に光の柱を詰め込まれた状態では
それもままならぬのか、紡がれる言葉は明瞭なものにはならない。
代わりに大量の唾液が飛び散って辺りを汚した。

「無限に近い有限。ならば……それを凌ぐことは、可能なのです。
 一度の生で超えられぬ限界ならば、二度。二度で駄目ならば、三度繰り返せばいい。
 そうして繰り返せば、いつか私は、繰り返し続ける『私たち』は……貴女方を超える」

つんと鼻をつく、乳製品の発酵臭に近い臭いの漂う中、顔色一つ変えずに美汐は続ける。

「その為の『書』、その為の器。『私たち』の経てきた幾星霜が―――ここにある」

掲げた両の手に、二冊の書。
右の手には青い本。
あり得べからざるを肯んじる、青く輝く書。
左の手には赤い本。
あり得べからざるの無きを拒む、赤く煌く典籍。

「青は貴女方の撒き散らす害悪を相殺し―――そして赤は、貴女方の存在そのものを否定する。
 この二冊に込められた、時を越えて集められた力が……『神』を討つのです」

見据える先には、神を名乗る醜い巨塊。
涎を垂らし、野太い柱を銜え込んだ、それは醜悪なヒトのまがい物。

「……沢渡真琴を、覚えていますか?」

徐々に強くなる赤い光を左手に宿しながら、美汐が口を開く。
何気なく呟かれたその言葉は、無色。
透明、と呼べるものではない。あらゆる感情の色、正も負も入り混じった、数限りない感情が
無数に押し込められたが故、特定の色を判別できぬが故の、混沌の無色であった。

「貴女方に犯され、引き裂かれて、無惨に殺された……私の、大切な友人です」

ぎり、と鳴ったのは噛み締めた歯であっただろうか。
混沌の無色をその瞳に宿し、怒りや憤りや悲しみやそういうものですらない、同時にそういうすべてが
蓄積され醸造され蒸留されたような、ひどく歪な表情を貼り付けたまま続けられた美汐の言葉に、
光柱に突き刺されたままの巨塊がぷるぷると震える。
無作為に蹴散らされたかのようにバラバラに配置された二対四つの眼が、不可解な色を浮かべていた。
何を言われているのか理解できぬ、とでも言いたげなその様子に、美汐が口の端だけを上げて嘲う。

「……でしょうね。今の真琴がどう生きてどう死んだのか知りませんし、興味もありませんが……。
 きっと、貴女方とは関わりないのでしょう。ええ、私が言っているのは昔のことです。
 ずっと、ずっと……もうどれくらい昔だったのか、それすら思い出せないほど『以前』の、こと。
 ―――私の覚えている、最初の真琴」

眼を閉じて、大きく息を吸う。

「貴女方は繰り返しの元凶であるだけ……その存在が時を歪める、ただそれだけの異物。
 『以前』のことを覚えてなど……いないのでしょうね」

その左手に宿った赤い光が、分厚い本を中心にして渦を巻くように集まっていく。

「だからこそ―――許せない。
 だからこそ―――赦さない」

凝集した光が、一つの形を成していく。
細く、長く、先端は鋭く。
それは目映く煌く、赤光の槍。
槍の中心には赤の書が埋め込まれ、延びた穂先は真っ直ぐに巨塊の方へと向けられている。
長大な槍を手に、美汐が結審の言葉を紡ぐ。

「滅しなさい、永劫に」

振りかぶったその手から、赤光の槍が解き放たれた。
爽、と風を切り裂いて、滅神の槍が飛ぶ。
煌く赤光の軌跡を残しながら中空、青の光柱を咥え込んだ肉の巨塊へと一直線に。

『ぉ、ぉお―――』『―――ぁ、あぁ、……!』

身動きもとれず、ただ白く泡立つ唾液を撒き散らしながら、巨塊が震える。
こ揺るぎもしない青の光柱に捕らえられ、為す術もなく自らを滅する赤光の槍を見つめる巨塊。
長大な穂先が、そのぶよぶよとした肉を突き刺し、貫こうとした、正にその瞬間。
滅神の槍は、消えていた。

「……、……え?」

美汐が、言葉を失う。
槍は音もなく、前触れもなく、ただ、消えていた。
僅かな赤光を残して、まるで宙へと融け去るように。
その中心にあったはずの、赤の書ごと、消えてなくなっていた。
状況が、掴めない。何が起こったのか、分析できない。
悠久を繰り返す天野美汐をして、それは理解の範疇外にある出来事だった。
ただ呆然と、自らが解き放った槍の軌道を見つめる、その背後で。

 ―――ぱち、ぱち、ぱち。

小さな音が、響いた。
驚愕と混乱に頭脳は普段の半分も回転していない。
それでも反射的に振り向いた美汐の眼に映ったのは、小さな人影。
役者の労をねぎらう演出家のように微笑んで。
閉じゆく幕を惜しむかのように手を叩く。
それは、少女の影。

「どうし、て……」

呟く美汐の声は、老婆の如くしわがれている。
まるでその精神相応に老いたように力なく、見つめる眼前、佇む影の名を、紡ぐ。

「……里村、茜……」

肉色の海の中へと没した筈の、それは少女の名だった。


***

 
「―――お久しぶりです、パーフェクト・リバ」

歩む少女の衣服に乱れはない。
厭らしく照り光る粘液も、白い肌を這い回る蚯蚓の痕跡も、残ってはいなかった。

「どうしました? 不思議そうな顔をして」

言って微笑んだその顔に邪気はない。
ただ、底知れぬ悪意だけがあった。

「愚かな赤の使徒は神の贄に捧げられ、異界に引き込まれたはず、とでも?」

蜂蜜色の豊かな髪に顔を埋めるようにしながら、少女がくるくると喉の奥で笑う。
すると奇怪なことに、その足元に伸びる影、ゆらゆらと揺れる灯火に伸びた影が、唐突に形を変えた。
伸び上がり、縮み、丸まり、厚みのないはずの影が膨らんで、貼り付いていた地面から身を起こす。
一瞬の後、そこにいたのは笑い声を漏らす少女と瓜二つの、生まれたままの肢体だった。
赤く透き通るような輪郭を持つ、影から生まれた少女がほんの少しだけ、首を傾げる。
す、と掲げた手で己の乳房を揉みしだき、空いた指を薄い茂みに隠された秘裂へと潜り込ませて
淫蕩に笑んだ影の少女が、

「―――」

ぱちん、と。
まるで一杯に膨らんだ水風船が弾けるように、消えた。
僅かな赤光だけが、後に残って漂っていた。
それはまるで、滅神の槍と、赤の書のように。

「本当に、本当にお疲れ様でした」

幾度も深く頷いて、少女が口を開く。
美汐が奪い、そして宙へと融け去ったはずの赤い典籍を、その手に持ちながら。
時折、白く粘つく液体が少女の周りに落ちて嫌な臭いを立てる。
中空の光柱に縫い止められた、それは巨塊の漏らす唾液だった。

「仰る通り、貴女の仰る通りです、パーフェクト・リバ。
 青の力を持たない者は、神に近づくことすら叶わない」

青の光柱に身を包んだまま、呆然と自らを見つめる美汐を、少女は哀れむように見返す。
それはどこか、水瀬秋子と天野美汐によって交わされたやり取りの、逆回しのようでもあった。
同じ脚本で俳優だけを変えた、ダブルキャストの舞台のような。

「ですから、待っていたのです……この瞬間を。
 青の力が神の力を相殺し、貴女と神が共に無力な姿を晒すこの瞬間を、ずっと」

ならば、と美汐は思う。
脚本が同じならば、結末もまた、変わらない。

「もっとも私としては、神を封じるのはどなたでも構わなかったのですよ。
 貴女と共に繰り返しの寸劇を演じる水瀬の頭首でも、恋に破れた哀れな魔法使いでも、
 勿論壊れた青の器でも、どなたでも」

配役だけが、違う。

「赤は拒んでいるのです。在るということ、ここに存在していること、それ自体を」

結末は、変わらない。

「それが貴女たちには分からない。『今』を拒むだけのあなた方には所詮、真なる声など聞こえない。
 だから赤に見限られたのですよ。赤の切なる願いを聞き届けられない貴女たちには、赤の加護は届かない。
 私こそが赤の代行者。積層する時と世界を拒絶する、真なる赤の代行者」

ならばこの舞台で天野美汐に割り振られるのは、

「私は拒絶する。今を生きることを、明日を思うことを、昨日に縋ることを。
 思考を、思索を、思慕を、想像を、想念を、夢想を、希望を、絶望を、私は拒絶する。
 それこそが、唯にして一なる私の願い。私の求める―――永遠の世界」

―――死体役だった。


***

 
ずる、と崩れ落ちる天野美汐の躯から赤の刃を引き抜いた里村茜に降り注ぐ、声があった。
中空、光柱に縫い止められてぶるぶると震える巨塊の、声にならぬ声。
茜の手にした本からは、既に先刻の美汐が放ったそれにも倍する大きさの、斧とも槍ともつかぬ赤光の刃が形成されている。
巨塊の声は、恐怖に怯えるようでも、手酷い裏切りに憤るようでもあった。

『―――ろぉぉ、しれぇぇぇ……』『ぉぉおわえぇぇわぁぁ、わらしぃぃ、らちおぉぉ―――』

どうして、と。
どうして、お前は私たちを、と。
幾多の贄を捧げながら、何故このような暴挙に出るのか、と。

「どうして、といって……」

見上げた茜が、不思議そうに首を傾げる。
返す答えには差し挟む余地のない、純粋な事実の響きだけがあった。

「屠殺する家畜は、肥え太らせるものでしょう?」

それが、最後。
かつて、歪んだ時の幕の向こうで、一之瀬ことみと、あるいは藤林椋と呼ばれていたものの、それが最後に聴いた言葉だった。
一切の躊躇なく、何らの変哲もなく。
長大な赤光の刃が、巨塊を両断した。
神と称されたものの滅する瞬間は、ひどく飾り気なく。
それはただ、肉から成るものが肉へと帰ったという、それだけのことだった。
その事実に、何らの一文も付加することなく。
神は、死んだ。


***

 
二度、三度、四度。
刃が、既に滅された巨塊を切り刻む。

五度、六度、七度、八度、九度、十度。
寸断され、断裁されて、神であったものが無数の肉塊に過ぎない何かとなり、飛び散って岩窟を汚す。

十一度、十二度、十三度、十四度、十五度、十六度、十七度。
十八度十九度二十度二十一度二十二度二十三度二十四度二十五度二十六度二十七度二十八度二十九度。

巨塊を突き刺していた青の光柱が徐々に薄れ、やがて完全に消えた頃には、巨塊であったものは既に、
辺り一面に散らばった汚らしい肉片でしかなくなっていた。

いつしか、灯火が消えていた。
巨塊の欠片が覆って消えたものか、神を切り刻む刃の風圧に消されたものか、それは判然としない。
確かなのは、広い岩窟を照らすものは何もなくなったということだけだった。

灯が消え、命が消え、神が消え、青が消えた岩窟。
すべてが終わった祭儀場の中心で、唯一つ光るものがある。
赤光。
声もなく笑う少女の持つ、赤の典籍であった。

「流れ込む、この力―――私と真なる赤とに溢れる神の力」

否。
呟く少女は、それ自身が光を放っている。

「何もかもを拒んだ先にある、静かで穏やかな世界―――」

どくり、どくりと。
脈動するように、明滅する少女。

「何も生まれることのない世界―――」

少女の足は、大地を踏みしめてすらいない。
暗闇の中、浮かび漂う少女は、まるで世界から切り離されて在るように。

「私の導く、それこそが―――本当の、永遠の世界」

久遠の孤独に、初めて満ち足りたように。
少女が、笑う。



***

 
 
灯が消え、命が消え、神が消え、すべてが終わって。
だが、それでも、青はまだ絶えてはいない。



***

 
 
 【時間:2日目午前11時半すぎ】
 【場所:B-2海岸より続く岩窟最奥】

里村茜
 【所持品:赤の書】
 【状態:赤の使徒・神精】

天野美汐
 【状態:死亡】

一ノ瀬ことみ・藤林椋 融合体
 【状態:消滅】
-


BACK