姉が死んだ。 生まれてからずっと一緒の、掛け替えのない存在だった。 その全てを、柏木初音はこの一日で失った。 見上げれば、青い空。 初音の心とは裏腹に晴れ渡るそれは、まるで沈んだ彼女の心を嘲笑っているかのようである。 強い日差しに痛みを感じ、初音は少しだけ目を細めた。 しかし、そんなものは些細なものである。 ふと瞼を閉じれば甦る、大好きな笑顔が初音にはあった。 『初音』 『初音!』 『……初音』 初音に向かって手を振る姉達は、みな眩い笑みを浮かべていた。 初音の思い出は、姉達の暖かさで溢れている。 優しい時間がたくさんあった。 つらいこともあった。 面倒をみてくれていた叔父の死、はちきれんばかりの痛みに初音は一人の夜を泣き腫らして過ごすこともあった。 しかし今回の件は、それ以上のものだった。 本当に悲しい時は、もう何も考えられなくなってしまうということ。 初音は今、それを実感している。 そして告げられた甘い誘惑、初音の拳に力が篭められた。 今彼女の肩から下げられているデイバックは、初音に支給されたものではない。 中には一丁の拳銃が、長瀬祐介に支給されたはずのものが入っている。 ―― ごめんなさい。大丈夫。大丈夫だよ…… ―― 少し、外に出るね。外の空気が吸いたいんだ。大丈夫、すぐ戻ってくるから…… そう言って祐介と宮沢有紀寧を一晩休んだ民家に残し、初音は一人外に出てきていた。 心配そうな二人の瞳に、初音の小さな胸に鈍痛が走る。 初音はいい子でいなければいけなかった。 初音は、皆が求める可愛い妹でなければいけなかった。 しかし。 「千鶴お姉ちゃん、梓お姉ちゃん、楓お姉ちゃん……」 きっと姉達は初音がこれから取ろうとする行動に対し、悲しむことはあっても喜ぶというのは決してないだろう。 それでも初音は、前に進むつもりだ。 大切な存在を取り戻せるチャンスを与えられた今、初音は覚悟を決めるしかなかった。 「ごめんなさい……耕一、お兄ちゃん」 初音に残された最後の家族。 だが失った姉達を取り戻すには、彼をも最後は手にかけなければいけないだろう。 初音の傍らに存在した、頼りがいのある彼をも初音は消すしかない。 ……いや、どうせ最後は「生き返らせれ」ばいいのだ。それならば問題ないだろう。 全ては、最愛の家族を取り戻すために。 「――ねえ、祐介お兄ちゃん。わたしは今度会う時、祐介お兄ちゃん達にどんな顔をすればいいのかな……?」 初音の呟き。 泣き出しそうな表情なのに、その声はどこか空ろな雰囲気を醸し出していた。 初音の決意が既に固まっているという、その証でもあるかのように。 柏木初音 【時間:2日目午前6時半】 【場所:I−6上部】 【持ち物:コルト・パイソン(6/6) 残弾数(19/25)・支給品一式・包帯・消毒液】 【状態:殺し合いに乗ることを決意、優勝し姉達を生き返らせる】 - BACK