今日は金曜日/Deathrarrle





 全ての人に墓を掘る、
 俺達七人で墓を掘る、
 男も女も老人も子供も、
 全ての人に墓を掘る。

 佳乃の墓を掘っていたらふとそんなフレーズが頭に浮かんだ。
 俺達二人で墓を掘る。
 道具もなくひたすらに。
 中々にこの世界も地獄じゃないか。
 近しい者を集めての殺し合い。
 騙し騙され殺されて。
 全ての人は墓の下。
 佳乃と同じく墓の下。
 佳乃が死んだ。殺された。
 その最後は当然眼に焼き付いている。
 が、頭の一部ではもう冷静に状況を判断している。
 目の前で泣きながら墓を掘っている少女のように純粋には泣けていない。
 素直に泣くには俺は死に触れ過ぎている。
 佳乃の最後の誓いを忘れたわけじゃない。当然守るつもりでいる。
 だけどやはり頭のどこかで醒めたまま考えている。
 守ること以上に主催者を皆殺しにすることを。
 恐ろしい魔法使いを倒す為に、少年もまた恐ろしい魔法使いになったのでした。
 全く因果な職業だ。
 糞主催者共よ。
 貴様等は一体何がしたい?
 俺やリサ、エディに醍醐、挙句篁まで連れ出して。
 命? ないな。んなら最初にやられてるだろうしな。
 金? 馬鹿げてる。篁一人無傷で拿捕できる実力ありゃいくらでも稼げる。
 酔狂? 在り得ねえ。それでこの面子集められる奴がいたらとうに世界は崩壊してる。
 トップエージェントの抹殺? 無関係な人間巻き込みすぎだがやる奴には関係ないだろうな。だけど結局命と同じ。最初に捉えられた時点で終わり。大体そんなことが出来る奴がいたらエージェント抹殺する必要すらない。それだけで世界最強だろ。
 しかしそれ以外に俺が狙われる必然も思いつかない。
 狙われたのが俺じゃなかった? 他の119人に目的があった。同じだ。回りくどすぎる。大体無関係な人間を捕まえる必要もない。俺やリサが目的じゃないんなら捕まえる必要なんてないはずだ。捕まってから一日。篁が消えて俺が消えてリサが消えたこの状況。アメリカも篁財閥もエージェントも。時間が経てば必ず動く。無用なリスクが多すぎる。
 糞。想像もつかねえ。
 エディがいてくれれば……な。
 エディ……何で死んじまったんだよ……
 如何しようもねえ馬鹿餓鬼一人ほっぽりだしてあの世で楽しくやってる場合かよ。
 無茶苦茶小僧が馬鹿みてえにつっこまねえように後ろで手綱握っててくれよ。
 糞……糞……畜生……
 ……――
「誰だ」
「へっ?」
 千客万来。
 運命の女神様は酷だねぇ。リサに乗り換えたのを根に持ってるのかね。
「今俺はムカついてる。敵ならさっさとかかって来い。そうじゃねえなら両手上げて出て来い」
 沈黙。
 風のそよぐ音と古河の身動ぎだけが伝わってくる。
「宗一さん……勘違いじゃ……」
 それはない。確実にいる。
 幸いにして既にある程度墓穴は掘れている。最悪撃たれたら古河をここに押し込めば当たる事もそうないはずだ。
 むずがる古河を手で制し、気迫を眼光に乗せて睨み付ける。どう出る。
「出て来い」
「それは出来んな。少年」
 数瞬の間を置いて、抑揚のない女の声が返ってきた。


 耳を劈く炸裂音。轟く大きな爆発音に分校跡に向かっていた二人は反射的に木陰に隠れる。
「なぎー。今の」
「はい。爆弾か何かだと思います」
 破裂音の発生源に眼を向ける。
 その先からは薄く煙がたなびいていた。
「るーさん。どうしますか?」
 問われた少女は、溜息を以って答えた。
「仕方あるまい。ハンバーグは後回しだ」


 木陰や茂みに身を隠しながら慎重に進む二人の少女。
 赤い制服を着た薄桃色の髪の少女が黒光りする無骨な銃を抱え先行する。
 割烹着を着た漆黒の髪の少女が自動拳銃を持ち背後を警戒する。
 そうしていつしか二人は爆源地まで辿り着いた。
 木の陰に隠れてそこに眼を向けると。
 二人の少女の視界に、爆発の中心らしき跡地と。
「あれは……」
「穴掘り?」
 二人の男女が穴を掘っている姿が入る。
 素手を地面に突き刺して、掻き上げ土を放り出す。
 黙々とそれを繰り返す。
 片方は泣きながら、片方は表情を凍て付かせ。
 延々とそれを繰り返す。
「落とし穴……」
「を彫ってるようには見えませんね」
 口付けるほどに顔を寄せ、互いが聞き取れるかの僅かな声量で遣り取りをする。
 していた。はずなのに。
「誰だ」
「!!」
 男の誰何が飛んでくる。
 瞬間二人は身体を強張らせ、直後一切の動きを止める。
 薄桃の髪の少女は呼吸を鎮め体の力を抜き、眼を閉じて気配を探ることに集中する。どの道木の陰にいる以上互いに互いを見る事は出来ない。
 割烹着の少女はただ動きを止めたまま手元の銃に意識を集める。発砲せずに済む事を祈りながら。
「今俺はムカついてる。敵ならさっさとかかって来い。そうじゃねえなら両手上げて出て来い」
 男の挑発が通り過ぎる。
 少女達は動かない。相手が動いた時即座に対応する為に。
 沈黙。
 風のそよぐ音と押し殺した目の前の少女の息遣いだけが伝わってくる。
「出て来い」
 殺気が言葉に乗って飛んでくる。
「限界……か」
 薄桃の髪の少女が自分にすら聞こえない声で呟き、割烹着の少女に掌を向け無言で押し留める。
 ――ここにいろ、と。
「それは出来んな。少年」
 故意に一人気配を振りまき、茂みを蹴り木の陰から相手を視認して返答した。

 漸く会話に乗ってきた。女性か。木の陰に隠れてこちらを見ているのが見える。
「ほう……何故だ?」
「お前の正体も分からぬまま投降しろと? ふざけるな」
 まぁ当然か。さてこいつは。敵か、味方か。
「じゃあどうする? このままいるわけにもいかないんじゃないか?」
「……聞かせろ。何をしていた」
「見ての通りだ。穴を掘っていた」
 天下のナスティボーイが化かし合いとは。似合わないこと山の如し。
「何の為にだ」
「次はこっちだ。何故ここに来た?」
「……爆音だ」
 当然か。あれはここ一帯に響いただろうし。故はどうあれ見過ごす事は出来ないだろう。
「私の番だ。なぜ穴を掘っていた?」
「いや。まだ浅い。何故ここに来たかきっちり答えろ。爆音が響いただけで理由になるか」
「……爆音が響いたから、戦闘があったんだろうと思って来た」
 ち。逃げられたか。
「私の番だ。なぜ穴を掘っていた?」
「死んだ仲間の墓にするため」
「! 宗一さん!」
 隣で古河が叫ぶ。今ので名前が知れた。一つ質問失ったか。
「次。何故戦闘がある場所に来る?」
「戦闘区域には人がいるからだ」
 やりにくい。
「何故墓を掘っている。この島で全ての人間の墓を掘るつもりか?」
「二つだな。仲間を埋葬する為だ。少なくともそっちの奴のを掘る気はない。この糞ゲームの主催者達のもな」
「お前達は」
「三つ目か?」
「……」
「次。何故人を求めている?」
「……探している友がいる」
「じゃあもう一つ。そいつに逢ってどうするつもりだ?」
「頼み事がある。それを頼むつもりだ」
 こいつは……嘘はなさそうだが……
「お前達は」
 どうするか……俺だけならともかく失敗したら古河も巻き込む。
 疑心暗鬼になっているだけかもしれないが、あいつらに騙されたのが未だに尾を引いている。
 エディー。助けてくれー。
「主催者を、どうするつもりだ?」
「ぶっ倒す」
 ぶっ殺す。古河には言わないが。
「お前はその知り合いに何を頼むつもりだ?」
「……」
 答えない。出ていた顔を引っ込める。そこに鍵があるのか。さっきからの質問を鑑みるに、こいつは対主催者……味方と考えていいんだろうか。
 郁未達と違って具体的な行動をしている。多分頭もいい。情けないな俺。トップエージェントの名が泣く。じゃねえ。んなもんどうでもいい。
 ブラフ? だったら大した役者だ。
「答えないのか?」
「……その前にもう二つ、答えてくれ」
 言いながら、薄桃色の髪をした女の子が木の陰から出てくる。両手は上に伸びていた。
「……何だ?」
「お前は、非戦闘民をどうする気だ?」
「守る」
 あいつとの約束だ。可能な限り守る。
「……ならもう一つ。私の名前はルーシー・マリア・ミソラ。仲間が一人、ここにいる。今は主催者に対抗するための戦力を集めている。私の……仲間にならないか?」
 そう言って女の子は上げた両手で大きく伸びをする。
 どうするか。古河を見る。頷き返される。
 仕方ない。万一こいつが優勝狙いだとしても俺がずっと古河に張り付いていればいい。
「お受けしよう。お嬢様」

 などと思っていた自分を恥じた。
 ルーシーと遠野の話を聞いてそして読んで海より深く反省。俺やっぱ冷静にはなれないよエディ。感情に支配されるようじゃエージェント失格だっていつも言ってたのにな。
 二人ともに相当な修羅場を潜っている。その上で尚も折れていない。
 分かっている。この上また騙される可能性だってゼロじゃない。それは十分に分かってる。
 それでもこの二人を疑う事は俺にはもう出来なかった。
 それに、偶然だがエディと皐月の事も知れた。
 全てが最悪に等しいタイミングで訪れ、皐月はエディを撃ち抜いた。
 その時のあいつの絶望は如何ばかりのものか。想像するもおこがましい。
 エディを失ってからこのCDを手に入れたのもまた皮肉。
 きっちゃない顔してたが腕は一流の上に超が二つも三つも付く最上のナビ。
 あいつがいればハッキングなんざ痔の時の糞より簡単にやってくれただろうに。
 俺もできないこたないけどやっぱ不安は残る。つーか機械任せだし。良くないなー。帰ったらちゃんと自力で出来るようになっとかないと。
 りさっぺならいけるだろうか。あの腕なら……多分、大丈夫だよな?
 ああでもそう言えばこの二人誰かを探してるっつってたか。
 ハッカーの当てでもあるのかね。
「そういや二人は尋ね人がいたんだよな。誰を探してたんだ?」
 CDが知れているならまぁこの位なら大丈夫だろう。それにあまりに情報隠し続けると気付いてる事に気付かれる。
「私のたこ焼き友だちだ」
「は?」
 ルーシーが頭をこつこつと叩く。
「姫百合、珊瑚だ。確か、この星のそういう事に関しては得意だと言っていたはずだ」
「得意って……んな素人の自称程度……待て」
 姫百合? それってあれか。来栖川エレクトロニクスの秘蔵っ子。世界最先端のメイドロボの第一人者。年齢に見合わない異常な天才振りから表に出すと危険だからって存在自体が秘匿されてるあの姫百合か?
 とんだ鬼札じゃねえかよ!? 俺やリサなんかじゃ問題にもなんねえ。エディをして規格外と言わしめる化け物がなんでこんなとこに。
『ルーシー、それってメイドロボのあの姫百合か?』
『そうだ。瑠璃の為にイルファを作り上げたと言っていた』
 確定だ。個人の為にメイドロボ作り上げる奴が二人もいるか。
「却下だ。やっぱどう考えても素人の自称よかエージェントのがマシだ」
『その娘、探すぞ。戯れに衛星から大統領のノーパソまでハック出来る奴以上のプロなんざ他にいるとも思えねえ。その娘以上の適任はない』
「エディがいてくれたら任せたかったんだが……俺の知る限り、リサが一番いいと思う。性根も戦闘力も申し分ない。あいつを探そう」
 周囲を見渡す。現状これ以上の策はない。と思う。まぁリサにせよ姫百合と言う娘にせよ歩かなきゃ見つけられないんだけど。
「わたしは宗一さんに従います。宗一さんがそう決めたのなら、そうします」
「私も構いません。いい案で賞。進呈」
 ぱちぱちぱち、とか言いながら何か渡される。紙? お米券? なんでこんなもの持ってんだ。
「私もそれでいい。が、その前に……」
 む。何か見落としてたか? 俺の気付かない穴があったのか。
「私はハンバーグが食べたい。食材調達にいかないか」
「却下」
「むぅ……」




【時間:二日目15:00頃】
【場所:G-2】

古河渚
【持ち物:おにぎりなど食料品(結構減った)、支給品一式×2(秋生と佳乃のもの)、S&W M29 0/6、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱】
【状態:腹部打撲、中度の疲労、ちょっと手が痛い、食事を摂った】
【目的:佳乃の死体を埋葬。[死んだら弔われるべし]と言う渚の希望により綾香の死体も埋葬。最優先目標は宗一を手伝う事】

那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数11/20)、包丁、SPAS12ショットガン0/8発、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:腹部に軽度の打撲、疲労大、食事を摂った】
【目的:佳乃の死体を埋葬。渚の希望により綾香の死体も嫌々埋葬。渚達と共に珊瑚を探し、脱出の計画を練る。可能ならリサと皐月も合流したい】

遠野美凪
【持ち物:予備マガジン×1(ワルサーP38)、包丁、防弾性割烹着&頭巾、支給品一式、お米券数十枚、色々書かれたメモ用紙とCD(ハッキング用)、ノートパソコン、予備弾薬8発(SPAS12)+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発】
【状態:強く生きることを決意、疲労小、食事を摂った。お米最高】
【目的:るーさん達と行動を共にし、珊瑚を探す。ハッキングを絶対に成功させる】

ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:IMI マイクロUZI 残弾数(30/30)・予備カートリッジ(30発入×5)、支給品一式×2】
【状態:生き残ることを決意、疲労小、食事を摂った。渚におにぎりもらってちょっと嬉しい】
【目的:なぎー達と行動を共にし、たこ焼き友だちを探す。なぎーを手伝う】
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