素敵な間違い




「遅いね、祐介お兄ちゃん……」
 家屋に備え付けられた時計の針が動いていくのを見ながら柏木初音が不安そうに言った。

 出て行ってから既に2時間。放送で友人か何かの名前を呼ばれてショックを受けているのは分かるが確かに遅すぎる、と宮沢有紀寧も思っていた。
 恐らく、いやほぼ間違いなく何らかの争いに巻き込まれたかそれに準ずる状況に陥ったのは明白だった。
 有紀寧にしてみればさほど利用価値もない祐介が死んだところで別にどうでもいいのだが、まだ自分が『善人』である以上何らかのアクションは起こさねばならないだろう、とは思っていた。

(それに……)
 確かに祐介はどうしようもないお人よしだったが盾としての利用価値くらいはあった。それが今、いなくなったということは有紀寧にとっても防壁がなくなりつつある、ということである。一応祐介の荷物から武器一式は抜き取っておいたが(もちろん柏木さんには話してないですよ? 必要もありませんし)いざという時に盾がいないのでは話にならない。別の隠れ蓑を求めて行動する必要もあった。

「探しに……行きましょうか」

 だから有紀寧はそう提案した。ある程度の危険は伴うが現状では心許ない部分もある。それに初音にも自分が『善人』であることを分からせてやらねばならない。今はまだ『味方』を作っておくべきだった。
「えっ、でも……」
 祐介と初音はそこそこ深い仲だったが有紀寧はそうでもない。だから迷惑になるとでも思ったのだろう、遠慮するような表情を見せたが有紀寧はいつものように笑みを浮かべて諭す。

「遠慮なさらないで下さい。わたし達は……仲間なんですから」

 こういう時に使う仲間という言葉の効果が絶大だということを、有紀寧は知っていた。伊達に資料室で日々を過ごしてきていない。やはりそれが功を奏したのか、初音はまだ戸惑いながらも「じゃあ……一緒に探してくれる? 祐介お兄ちゃんを」と言った。笑いながら、有紀寧は当然のように頷いた。

     *     *     *

 有紀寧たちが今いる場所が島の最南端に位置するところなので、まずは北上していくことに決めた。まあ多分祐介は生きていないだろうがそれを口に出すわけにもいかないので生きているならどこに向かっているのか、という話し合いをした結果比較的近くの源五郎池にいるのではないか、という意見を有紀寧が出した。

「どうしてそんなところに居ると思うの?」
「長瀬さん、かなりショックを受けていたようですし……水辺なら心を落ち着かせるには最適なのでは、と思いまして」
 そう言うと初音は納得した様子で「確かに祐介お兄ちゃん、暗い顔だったもんね……」と複雑そうに頷いていた。初音自身も同様の経験があるので気持ちが分かるのだろう。

 実際は新たな盾を見つけるまではどうしても戦闘に巻き込まれたくなかったので人気のない場所へ行きたかったというのが本音だったが。理想としては残る柏木の人間に合流してしばらく隠れ蓑にする、もしくは単独で行動している祐介のような人物を見つけ上手く口説いて引き入れる、どちらかになればいいのだがそう都合よくはいかないだろうと有紀寧は思っていた。
 まずは祐介の死体を見つけるか初音が諦めるかのどちらかになるまで隠密に行動だ。それが最善ではないが安全策ではある。
 無理をする必要はない。生き残れさえすればそれで万々歳なのだから。

「それにしても、森の中を歩くって意外ときついですね」
 森にさしかかり足場の悪い箇所が延々と続くようになってきた。気をとられると滑りそうになったりつまづいてしまいそうになる。
「そうなの? 私はそうでもないけど……」
 そう話す初音の表情はいつもと変わりなく悠々と歩いている。ひょっとすると見かけ以上に体力があるのかもしれない、と有紀寧は思った。
 それとも自分が現代っ子だからだろうか、などとも考えた。
 いけませんねぇ今の子供は。学力低下だけでなく体力も低下して……これだから肥満体系の子供が増えてるんですよー。
 そんな風にワイドショーで偉そうに喋ってるコメンテーターの声が聞こえてきそうだった。

「そう言えば有紀寧お姉ちゃんは探してる人とかいないの?」
 器用に小石の上に乗ってバランスを取りながら初音が話題を変える。有紀寧にとっては優勝することが目的なので別に探し出す必要もないのだが……しかし知り合いがいないと言い切ってしまうともしも岡崎朋也や春原陽平に出会ったときに言い訳ができない。些細なことでも不信感を抱かせてはならないのだ。

「そうですね……お知り合いの方を、二人ほど」
「どんな人?」
「面白い方たちですよ。漫才が立って歩いているような人たちです」

 言いながら、有紀寧はまだ在りし日常の欠片を思い出していた。資料室でコーヒーを振舞って、彼らがくだらない事に興じるのを傍で見て……楽しかった。それは偽りのない事実である。だがそれ以上に……自分を待っていてくれる、慕ってくれる人たちのために、兄のために……絶対に死ぬわけにはいかなかった。
「へぇー……私も会ってみたいなぁ」
 そう言う初音だが会えたら会えたで有紀寧も困る。流石に知り合いにまでリモコンを使ったり嵌めたりするのは忍びない。だから会うこともなくどこかで死んでいってくれるのがベストなのだけれども。

 だから「会えば分かりますよ」とお茶を濁すように言ってその話を打ち切り、現在地についての話に戻すことにした。
「そう言えば川が見えてきましたね。多分目的地も近いと思います」
 視界の隅にはちょろちょろと静かなせせらぎを湛えている小川があった。恐らく源五郎池から続いているものなのだろう。これを辿っていけば自ずと目的地に着けるはずだった。

「ホントだ。綺麗な川だね……飲めるかなぁ?」
「生で飲むのはどうかと……」
 初音と共に見下ろした小川は綺麗過ぎるほどに澄んでいた。それこそ、水道からひねり出した水のように。それだけじゃない、普通ならなんとなく感じられるはずの自然の水の匂いが……その川にはなかった。なぜだろうと有紀寧は思ったがそんな感覚的なものを気にしたところでどうなるものでもないし、役に立つわけでもない。あまり深く考えずに先に進むべきだった。
「それよりも早く行きましょう。祐介さんを探すのが先です」

 そうだね、と返事した初音がそれでも川を見下ろしながら有紀寧の後ろについて歩く。自分と同様の疑問でも持っているのだろうかと有紀寧は思ったがこれも考えないようにした。
 それにしても同じ風景が延々と続いていて、まるで同じ場所をぐるぐる回っているみたいだ、と有紀寧は思った。目印になる川があるからいいもののそれがなければ迷ってしまいそうになるほどの。
 またそのせいではないだろうが普段歩いているときよりも余計に疲れる気がする。どこかで聞いたことがあるが、アマゾンなどのジャングルを川沿いに下っていても同じ風景が延々と続くせいで精神が狂ってしまいそうな感覚に陥る、という話だ。
 なるほど確かにこれでは参ってしまうのも無理はないだろう。

 ふぅ、とため息をつきながら有紀寧は、これ以降は無闇に森の中を歩くのはやめておいた方が良さそうだという考えに至ったところで川べりに何かが転がっているのに気付いた。
「あれは……」
「どうしたの、有紀寧お姉ちゃん」

 何かがあることを指で指し示すと、初音がそれを見つめる。初音はしばらくそれを見ていたかと思うとやがて目を見開き、息を呑んだ様子になっていた。
「柏木さん……?」
 不審に思った有紀寧が声をかけた瞬間、初音が叫びながら駆け出した。

「お兄ちゃん……祐介お兄ちゃんっ!」
「ちょ、ちょっと……」
 一人で先行しては危険だと有紀寧が止めようとするも捕まえることが出来ず狂乱したようにその『何か』に走っていく初音。
「祐介お兄ちゃんっ、祐介お兄ちゃんっ、祐介お兄ちゃんっ!」

(長瀬さん……?)
 あんな遠目でよく分かったものだと感心するがそれよりもやはり、あの様子では祐介は殺されてしまっているだろう。予想通りと言えば予想通りだが……
 先に駆け出した初音に有紀寧が追いついたときには、物言わぬ骸となっている長瀬祐介の遺体に初音が縋るようにして揺さぶっているところだった。
「祐介お兄ちゃん、返事してよ……祐介お兄ちゃぁん……」
 痛々しい程の涙声で祐介の名を呼びかける初音。有紀寧はそれを黙って見つめていた。

 もちろんかける言葉がなかったからではない。祐介が死んだのが確定した以上行動の決定権は間違いなく自分にある。とは言っても柏木の人間を探すことにはなるだろうが、重要なのはそのルートだ。探していると思わせつつ自分にとって安全な道を確保しなければならない。
 激しい戦闘の起こっている場所にわざわざ足を運ぶ必要はないのだ。それに……そろそろどちらが上なのかをはっきりとさせておかねばならなかった。
 頃合いを見計らうようにして、有紀寧は優しく初音の肩を抱く。

「柏木さん……そんなに悲しまないで下さい」
「でもっ……でも……」
「今は思い切り泣いてもいいと思います……ですけどそのままじゃ柏木さんのことを想っていた長瀬さんもまた、悲しみます。生きなきゃならないんです。長瀬さんが生きていたことを、そこにいたことを証明するためにも」

 それはかつて兄が亡くなったときに有紀寧が自分自身にかけていた言葉だった。まあ一部誇張しているような部分もあるが概ね違ってはいない。
 そう――守らなければならないものがある。兄の残したもの全てを守っていく義務が、自分にはある。それが兄を理解しようとしなかったかつてへの自分の、贖罪なのだから。だから……死ねない。
「ですけど……今は、わたしの胸で」
 後ろから覆うように抱擁する。初音はしばらく震えていたが、やがて声を押し殺すような嗚咽を上げ始めた。身体を、全て有紀寧に預けるようにして。

 これでいい……計画通りだ。
 完全に初音が信頼を預けるのを、有紀寧は邪な笑みで迎え入れていた。

     *     *     *

「もう大丈夫なんですか?」
「うん、もう平気だよ」
 そうは言いながらもぐすぐすと鼻を鳴らす初音だったが、一度感情を吐き出したせいか行動する分には支障ないように思える。
「そんなことより早くお姉ちゃんたちを探しに行こっ。まだ私には待っててくれるひとがいるんだもんね」

 ええ、まったくその通りですと有紀寧は頷く。早いところ彼らには出会わなければならない。
 家族ぐるみで巻き込まれているならこのゲームに乗っている可能性は低いだろうし、たとえ乗っていたとしてもここまで信頼関係を築き上げた自分に対して攻撃してくることはないはずだ。なぜならそれは初音への裏切りにも等しい行為だからだ。もっともその時はこちらにも考えがあるが――
「それじゃあ手をつないで行きましょう。わたしたちは何があっても一緒です」
 用済みになるまでですがね、と心の中で付け足して有紀寧が初音の手を取る。手を握ると、初音もしっかりと握り返してきた。

 精々、今は仲良しごっこに興じるとしよう。自分は高みから殺し合いを眺めていればいい。

「ああ、でもその前に……長瀬さんの遺品、持って行きましょうか。いい気はしないですが……」
「あ、うん、そうだね……」
 一旦手を離して近辺に散らばっていた支給品などを回収していく。どうやら使えそうなものだけ持っていかれたらしく武器の類は全くいい物がなかった。だが一方で襲っていった人間が捨てたと思われるノートパソコンは有紀寧にとって貴重な代物だった。

 これで先程書き込みをした『ロワちゃんねる』が使えるなら色々と裏側から掻き回してやるのも容易い。なおかつ生き残りの把握が出来るのも好都合だ。
(長瀬さん……最後には役に立ってくれましたね)
 ほんの少しだけ感謝の意を向けながら有紀寧はノートパソコンを自分のデイパックに仕舞った。
 結局、殆ど武器の無かった初音にフライパン他道具一式、ノートパソコンを有紀寧が持つという形で道具の整理は終わった。

「それじゃあ、改めて出発としましょうか」
「うん、頑張ろうね」
 もう一度手をつないだ二人は、まだ朝露の残る森の中をゆっくりと歩み始めた。

     *     *     *

「……さて、どこから奴を探すか」
 復讐の怒りに燃え、鬼の意思が宿る瞳を深紅に湛えた柳川裕也は神社から東西へと続く道への分岐点でどちらへ行くかと迷っていた。
 ここで一度間違えば相当な距離をおかれてしまう。勘に任せて進むのもいいが、無駄に時間を取りたくない。

 あの女……藤林椋のとった行動からすると善人を装って紛れ込み、隙を突いて内部から殺していく戦法をとっているようだからまずはどこかの集団に入っていこうとするだろう。そして、そういう人間を探すにはうってつけの場所がある。
 平瀬村。もしくは南にある氷川村。仲間を探そうとここに集う人間は多いはずだ。現に――少し前までの柳川がそうだったからである。

「氷川村か……」

 確かここには診療所を目指していたリサ=ヴィクセンと美坂栞もいるはずだ。時間からするともう離れているかもしれないが……まだ栞の調子が悪くここに留まっている可能性はある。
 本来合流は夜の十時になる予定だったが、藤林椋という厄介な存在が現れた以上この情報を知らせておいても悪くはない。

「……よし」
 まずは氷川村へ向かうことにしよう。だが少しでも到着時間を縮めるためにわざわざ迂回していきたくはない。
 柳川は源五郎池を目標に、ここを真っ直ぐ突っ切っていくルートをとることに決めた。少々厳しい道のりではあるが鬼の血を宿す柳川にとっては造作もないことだ。
 コルト・ディテクティブスペシャルをベルトの間に挟みこみ、柳川が移動を開始しようとした、その時だった。

「……誰だ」
 前方から微妙に感じる、人の……いや、同族の気配。この匂いを、柳川は知っている。柏木梓と同じ、その匂いだ。
 それはまったくの勘でしかなかったが、確信的なものを抱いていた。まるで見透かしているように、柳川は前方の茂みに呼びかける。
「隠れても無駄だ。敵意がないのなら出て来い。そうしないなら……殺す」
 ざわっ……と空気が震えるのが分かった。柳川のかけた言葉自体は藤林椋にかけたものと同じだったが、向けるものが劇的に違う。たとえ柏木の一族であっても敵対するなら殺す心積もりでいた。

 柳川がコルト・ディテクティブスペシャルに手をかけようとした時、二人の女性がお互いを庇いあうようにして出てきた。
 一人はまだ幼さが残る、推定中学生くらいの女(柏木初音)。そしてもう一人は……あの藤林椋と同じ制服の女(宮沢有紀寧)だった。
 怒気がこみ上げてこようとするのを押さえつつ、柳川は威圧的に、ドスの利いた声で質問……いや、尋問した。
「正直に答えろ。でなければ撃つ」
 躊躇なくディテクティブスペシャルを抜いて構える。ごくり、と息を呑む音が聞こえてきそうなくらい二人はガチガチになっていた。

「まず一つ目だ。特にそこの制服の貴様に聞きたいんだが……藤林椋という女を見なかったか? ボブカットで、見た目は大人しそうな奴だ」
 ディテクティブスペシャルの銃口を向ける。有紀寧は一瞬考えるような表情をしたが、「……知りません」と返してきた。
「本当だろうな」

 こめかみに標準を合わせるが、有紀寧は本当に怯えた様子で「ほ、本当です! 信じてください!」と涙声で訴えた。だがそれは以前椋の嘘を経験した柳川にとっては信じがたいものだった。撃鉄を上げてさらに脅そうとしたところ、横から初音が庇うように覆いかぶさり、「やめて! 有紀寧お姉ちゃんは嘘なんてつかないよっ!」と叫んだ。しかし柳川はなお冷徹な表情で、
「俺はそうやって以前も騙された。もう騙されるわけにはいかない。邪魔をするな」
「ダメっ! 撃つなら……私から先に撃って!」
「い、いけません柏木さん! 柏木さんには何も罪はありません! 殺すならわたしから先に……」
 ……追及しようとしたのだが、二人が代わる代わる互いを庇おうとしていることと、『柏木』という言葉から急激に疑念が薄れていった。

 あきれ果てた様子で柳川は一旦銃口を下ろした。
「もういい。その女に関しては信じる。それよりお前の方だ。柏木……とか呼ばれてたな」
「そう……だよ?」
「名前を教えろ。確かめたい事がある」
 初音はしばらく柳川と有紀寧の両方を見ていたが、有紀寧が「わたしは大丈夫ですから」と言うとこくっと頷いて、「初音……柏木初音」と答えた。

 やはりな、と柳川は思った。あの鬼の気配と柏木姓……それにその名前。柳川はディテクティブスペシャルを仕舞うと僅かに警戒を解いて言った。
「お前の姉が探していたぞ。柏木梓がな」
「梓お姉ちゃんを知ってるのっ!?」
 初音が驚いた様子で訊く。知ってるも何も柳川は彼らの叔父に当たるのだが……面識のない初音は知らなくても仕方のない事だった。
「実際に会った。まあそれだけじゃないんだがな……俺は、お前の叔父だ。柏木初音」
「叔父……さん?」

 今度は初音が信じられないというような様子で柳川を凝視する。まあ当然だろう。見ず知らずの男が叔父と名乗るのだから。
「別に今信じなくてもいい。だが柏木梓と会ったのは本当だ。もっとも半日以上前の事だが」
「そうなんだ……」
 散々疑っていた柳川と違い、あっさりと信じてしまった初音に柳川は苦笑する。叔父ということに関してはまだ半信半疑のようだったが。
「ともかく藤林椋のことを知らないならいい。邪魔したな」
 一通りの情報を得た柳川が去っていこうとすると、不意に後ろから声がかかった。

「待って、おじさんっ!」
「おじ……」
 普段なら待たないはずであろう柳川だったが流石にこの年でおじさん扱いされるのは気に食わなかった。努めて冷静に、柳川は初音の元まで戻る。
「あのな、俺は……」
「おじさん、私の親戚なんだよね? だったら一緒に行こうよ」
「は? 何を……いやそうじゃなくてだな」
 何故銃口を向けた人間に対して一緒に行こうなどと言えるのか。そして俺はおじさんじゃないと言おうとするが、初音は気にした様子もなく柳川の手を取る。華奢で、温かかった。

「どうして? イヤなの?」
「別にそういうわけじゃないが……」
 なんとも言えない表情で辺りを窺うと、初音から一歩引いた位置に有紀寧が立っていた。
「そうだ、お前。お前はいいのか、自分に銃口を向けた相手と行動して」
 一般論を求めようとするが、有紀寧もまたきょとんとした様子で、
「柏木さんのご親族ならきっと大丈夫だと思いますけど……何か問題でもあるんですか? それに、わたしたち二人じゃ何かと心細いですし」
「ほら、有紀寧お姉ちゃんもそう言ってるよ?」
「……」

 柳川は頭を抱える。どうして自分にはこうも両極端な人間しか寄ってこないのか。あれだけ疑っていた自分がバカらしく思えてくる。
「……柳川だ。俺の名前は柳川裕也。今度からはそう呼べ」
「そっか、柳川おじさんだね。ごめんね、今まで名前が分からなかったから」
「いやだから問題はそこじゃ――もういい! 先に行くぞ」
「あ、待ってよ柳川おじさん!」
 おじさんと初音が呼ぶたびに若干の精神的ダメージを受けながら、柳川は立ち止まらなければ良かった、と後悔し始めていた。

 そのせいだろうか、柳川は気付くことはなかった。
 柳川の後ろを歩く、柏木初音の後ろで妖しげな笑みを浮かべている宮沢有紀寧の姿に――




【時間:2日目午後12時00分頃】
【場所:G−5、道の分岐点】

宮沢有紀寧
【所持品:コルト・パイソン(6/6)、予備弾×19、包帯、消毒液、スイッチ(5/6)、ゴルフクラブ、ノートパソコン、支給品一式】
【状態:前腕軽傷(完治)、強い駒を隷属させる(基本的に終盤になるまでは善人を装う)、柳川を『盾』と見なす】

柏木初音
【所持品:フライパン、懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手、折りたたみ傘、鋸、支給品一式】
【状態:柳川おじさんに少しなついた。目標は姉、耕一を探すこと】

柳川祐也
【所持品@:出刃包丁(少し傷んでいる)】
【所持品A、コルト・ディテクティブスペシャル(5/6)、支給品一式×2】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了、ほぼ回復。椋を見つけ出して殺害する。その次に主催の打倒。……俺はおじさんじゃない!】

【その他:有紀寧のコルトパイソンは二人には存在を知らせてない。スイッチも同様】
-


BACK