ARMAGEDDON(U)




北川潤と広瀬真希は肩を並べて、地下要塞内部の通路を走っていた。
肺がきりきりと痛み、心臓が休ませろと早鐘を打つが、足を止める訳にはいかない。
『ロワちゃんねる』に載せられてあった地下要塞攻略作戦を発見したのは、一時間程前の事だ。
それによると、一秒でも早く援軍に向かってくれとの事。
だからこそ今自分達は、脇目も振らずに『高天原』を目指しているのだ。

敵の攻撃を警戒する必要は無い。
柳川祐也達が先行しているのだから、敵はもう倒されてしまった後だろう。
事実少し前にあった曲がり角では、敵の死体だけが大量に散乱していた。
その数、20は下らない。
味方に被害を出さずそれだけの敵を屠るとは、流石は柳川達と言わざるを得ない。

だが――きっと、篁には勝てない。
遠野美凪の話によれば、篁は『想い』の力を利用しようとしているらしい。
『想い』の力が奇跡すら起こし得るのは既に体験済みだ。
そのような強力な力を巨悪・篁が用いてしまえば、きっと誰も勝てない。
だからこそ、自分達は急がねばならない。
美凪に託された星の砂を使って、篁に利用されている『想い』を解き放たねばならないのだ。
「……と言っても、どうやれば『想い』を解き放つなんて事が出来るんだろうね?」
「……それが分かったら苦労しないさ。美凪は願えって言ってたけど……」
北川も、真希も、自分達の目的を為す具体的な方法はまだ分かっていない。
それでも二人は走り続ける。
自分達の、そして美凪とみちるの『想い』を背負って。

そこで二人は、前方50メートル程にある交差点を発見した。
交差点の右側――自分達の位置からは見えない方向から、誰かが駆け足で走ってくる音が聞こえる。
「潤……どうする?」
「時間が無い――このまま強行突破だ」
正しく、即断。
北川はインパルス消火システムを、真希はワルサーP38アンクルモデルを握り締め、前方に疾駆する。

そのまま躊躇する事無く交差点に侵入し、足音が聞こえてきた方に銃口を向け――

「――春原っ!?」
「北川……それに広瀬じゃんか!」

北川達の前方でレーザーガンを構えている人物は、同志の一人、春原陽平だった。


◇  ◇  ◇


場所は移り変わり、『高天原』。
果ての無いようにさえ思える天井と、辺り一帯に立ち込めた黒い瘴気。
最早魔界と呼ぶに相応しい姿に変貌した地で、倉田佐祐理は驚愕していた。

突然の乱入者――そして味方である筈の水瀬秋子が、柳川祐也を撃ったのだ。
その後の、水瀬親子が交わした会話。
これらから推測すれば何が起こったのか、水瀬親子はどういうつもりなのか、推測するのは容易い。
佐祐理が確認するように口を開く。
「秋子さん……名雪さん……貴女達はまだ参加者同士の殺し合いを望まれているんですか?」
「ええ、そうよ。私達は優勝して祐一さんを生き返らせないといけない。だから、悪いけど貴女達には死んで貰うわ」

語る秋子は片方の手でジェリコ941を、もう片方の手でS&W 500マグナムを握り締め、既にその銃口を佐祐理とささらに向けている。
その所業、余りにも迅速、余りにも的確、余りにも冷静。
秋子は僅か10秒足らずで、参加者中最大の戦力を誇る柳川一味に勝利したのだ。
秋子の冷酷な目が、どんな言葉よりも雄弁に物語る――説得も抵抗も、無意味だと。
それでも尚、佐祐理は哀しみに満ちた声で言った。

「秋子さん……佐祐理にとっても、祐一さんは大切な方でした。出来れば生き返って欲しいと思います。
 でも死人は生き返らない……何をやっても死んだ人は生き返らないんですよ……。
 こんな事をしても、天国に居る祐一さんが悲しむだけです……。新たな悲しみが生み出されるだけです……」
「…………」
「こうして見ているだけでも分かります……。貴女の目は悲しみに満ちています……貴女の心は『人を殺したくない』と泣き叫んでいます……。
 もうこんな事は、止めてください!」
「く――――」

秋子は答えない――否、答えられない。
優勝した所で祐一は生き返らないだろうという事など、とっくの昔に理解している。
主催者が人を生き返らせる力を持っていて、且つ願いを叶えてくれる可能性など億に一つあるかどうかだ。
優勝して祐一を生き返らせる、というのは自分の願いでは無い。
佐祐理の言う通り、自分は人を殺したく無いのに、戦い続けている。
それが、娘の願いだからという理由だけで。

黙した秋子の代わりと言わんばかりに、水瀬名雪が馬鹿にするような目で佐祐理を見下した。

「貴女……倉田さんだったよね? 貴女も放送を聞いてなかったの? 主催者の人は、優勝したら何でも願いを叶えてくれるって言ったじゃない。
 何でもって事は祐一も生き返らせれるに決まってるよね。ううん、祐一だけじゃない。
 真琴も、あゆちゃんも、死んだ人皆、みーんな生き返らせれば良いんだよ。そうすれば皆幸せになれるよ?」
「な――――」

佐祐理も、ささらも、絶句した。
――狂ってる。
この少女は、水瀬名雪は、間違いなく精神に異常をきたしている。
名雪が口元を吊り上げて、心底愉しげに続ける。

「だから私達は皆を殺して優勝して、それから願いを叶えて、死んだ人達を生き返らせてあげるんだよ。
 だからね、ここは大人しく――」
「願いを叶える……? ふざけるなよ、ゴミめがっ……!」

そこで突如、名雪の背後に篁が現れた。
その眉は釣り上がっており、こめかみには青筋が走っている。
般若の如き形相となった篁の手が奔り、一瞬で名雪の首を掴み取った。

「確かに私なら、死人をクローンとして生き返らせる事も可能だ……。だが、お前達は私の邪魔をした。
 私の甘美な戦いを……柳川を縊り殺す快感を妨げた……。その罪、万死に値するッ!!」
「あっ…………あああっ………………?」
「な、名雪っ――――!!」

みしみしと、音を立てて名雪の首が締め付けられてゆく。
急速に名雪の顔から血の気が失われてゆき、喉から漏れ出る悲鳴も弱々しいものとなってゆく。
堪らず秋子は佐祐理達から銃口を外し、篁の背中に向けて銃を連射した。
だがそれらは全て『ラストリゾート』の青い光に妨げられ、何事も無かったかのように掻き消されてしまう。

「――くっ……これが、『ラストリゾート』の力なのっ……!?」
「……お、お母さん…………たすけ、て――」
「名雪ッ!!」

篁の手に籠められた力が更に強まり、名雪の顔色が土気色に染まってゆく。
『ラストリゾート』の力に驚愕している時間も、迷っている時間も無い。
……銃が効かないのなら、刃物しか無い。
秋子は一瞬の判断で34徳ナイフを取り出し、篁の背中へと斬り掛かった。
だが篁はにやりと口元を歪め、秋子の方へ振り向く。

――名雪を盾とする形で。

「え……?」
秋子の手に、肉を裂く嫌な感触が伝わる。

握り締めた34徳ナイフが貫いていたのは、名雪の左胸――即ち、心臓。

「な……ゆき……?」

名雪の身体が胸から先まで、陸揚げされた魚のようにびくんびくんと痙攣している。

「ククク……ハッハッハッハッハッ! そうれえい!」
篁が秋子の胸をどんと押すと、その拍子にナイフが引き抜かれ、名雪の身体から鮮血のシャワーが噴き出した。
その鮮血を目の当たりにして、ようやく秋子は理解する――自分が娘を殺してしまったのだと。

「あああ…………うわあああああああああああああっ!!!」
「ファーハッハッハッハッハッハッ!! 水瀬秋子よ、自らの手で娘を殺した気分はどうだ?」
秋子の悲痛な狂叫と、篁の嘲笑が辺り一帯に響き渡る。
褒美を目標として歩んできた親子の終わりは、冷酷な主催者の意向一つで訪れたのだ。
全てを失い、心が絶望で覆い尽くされ、計らずして秋子は地面に座り込んだ。
その両目からは大粒の涙が零れ落ち、肩は小刻みに震えている。
その涙は、娘の鮮血か、それとも秋子の心が混じったのか――紅かった。

その様子を暫く眺め見た篁はようやく気が済んだのか、無造作に名雪の亡骸を投げ捨てる。
「さて……もうお前に用は無い。死して『想い』を残し、我に貢献するが良い」
篁は天高く拳を振り上げる。
拳の周りには柳川と戦っていた時以上の、赤黒いオーラが集結している。
その拳が直撃すれば、どのような人間であろうとも一瞬で絶命してしまうだろう。
生きる意義を失った秋子は生気の抜けた顔で、己に迫る死を受け入れようとしていたが、しかし。

拳が振り下ろされる刹那、佐祐理が走った。
「――――駄目ぇっ!!」
傷付いた両腕で秋子を抱き上げて、篁の射程圏内から退避しようとする。
だがすぐに限界が来て、佐祐理は秋子諸共地面に倒れ込んでしまった。

秋子がよろよろと上半身を起こして、途切れ途切れに言葉を洩らした。
「どう……して……?」
言葉の続きは必要無い。
どうして、自分を助けたのかと。
どうして、殺し合いに乗った自分を助けたのかと。
秋子はそう聞いているのだ。

佐祐理もまた上半身を起こし、ぼそりと呟いた。
「嫌なんです……」
憂いを秘めた酷く悲しい瞳で、秋子を見据える。
「これ以上悲しみが増えるのは……篁さんの所為で命を落とす人が増えるのは、嫌なんです……。
 秋子さんは人の為に戦っていたんだと思いますから……本当は優しい方だと思いますから……そんな方が殺されるのは、絶対に嫌なんですっ……!」
「――――っ!!」

佐祐理からすれば殺し合いに乗った人間も、一部の例外を除いて被害者だ。
全ての元凶は主催者・篁であり、それ以外の人間に殺される謂れは無い。
少なくとも一度殺し合いに乗ってしまった自分には、糾弾する権利など無いと、佐祐理は考えていた。

だがそんな佐祐理に、黒衣を纏った怪物が歩み寄る。
「愚かな……その女の所為でお前らは勝機を失ったというのに……」
紡ぐ言葉は酷く不愉快気に。
今の篁は闘争の機会を失い、秋子と佐祐理のやり取りを見せ付けられ、明らかに機嫌を損ねていた。
「全く下らん――興冷めだ。お前のような愚物、消え去るが良いのだっ!」
そう言って篁が拳を構えると同時、背後で大地を蹴る音がした。

その音の主――柳川は、腹部を撃たれ重傷の身にも関わらず、果敢に篁に挑みかかった。
「――――倉田だけは、絶対にやらせん!」
柳川にとって最優先目的は、佐祐理の防衛だ。
主催者の打倒も、自身の身を守る事も、二次的な目的に過ぎない。
故に今の身体では確実に勝てぬと分かっていながらも、柳川は立ち向かう。

だが、邪神は柳川の想いを、
「力を失った貴様に興味は無い……失せろ」
「――グッ……ガアアアアアッ!」
ただの裏拳一発で、一蹴した。
柳川は優に5−6メートルは弾き飛ばされ、仰向けに倒れ込んだ。
腹部を撃ち抜かれた柳川では、最早ただの一合すらも篁と打ち合えぬ。
柳川が先程篁と互角に近い戦いが出来たのは、『鬼の力』による凄まじい能力があってこそ。
どれだけ強い『想い』を胸に秘めていようとも、超人的な身体能力の裏付け無しでは篁に対抗し得ないのだ。
だというのに。

篁の前に、悠然たる態度で立ちはだかる女性が一人。
「……お強いんですね。ですが次は――私がお相手します」
「おや、まだ起き上がる気力があったとはな」
その女性の名は、生ける屍と化していた筈の水瀬秋子。

秋子の突然の行動に、佐祐理が大きく目を見開いた。
「あ、秋子さんっ!?」
「佐祐理ちゃん――主催者を倒す手順は『ラストリゾートが解けるのを待って、銃で攻撃する』で良かったわよね?」
「え……は、はい。それはそうですけど、それが何か……?」
秋子の意図を計りかねた佐祐理が、所々で詰まりながらも答える。
すると秋子が一寸の迷いすら無い声で――そして、強い決意の籠もった声で、言った。
「なら、私が時間を稼ぐ。この男を一秒でも長く食い止めて、『ラストリゾート』解除までの時間を稼いでみせる」

娘を失った秋子には、最早殺し合いに乗る必要など何処にも無い。
そして先程見せ付けられた、佐祐理の、柳川の、傷付いた身で尚人を救おうとする姿。
その姿が全てを失った筈の秋子に、最後の気力、最後の目的を与えていた。
「そ、そんな……耐え切れる訳、無いじゃないですか……」
「そうね――確実に殺されるでしょうね。でもさっきとは違う。絶望の淵で、無意味に死ぬのとは訳が違う。
 私は名雪の仇を討つ為に――そして貴女のような未来ある子供達を守る為に、死ねるのだから」
「秋子さん……」
佐祐理の悲痛な声から意識を逸らし、眼前の異形を睨み付ける。
「さあ、来なさい。多くの子供達の未来を奪った罪……その命で償いなさい」
そう言って秋子は、S&W 500マグナム――銃身を盾として用いる為の物――を深く構えた。

途端、篁から放たれる殺気が膨れ上がり、周囲の空気がキチリと音を立てて凍り付いた。
「……そうか。ならば苦しみ抜いた末に死ぬが良い」
篁の足元が爆ぜ、黒い邪神が秋子目掛けて弾け飛ぶ。
秋子との間の空間などまるで無かったかのように、一瞬で距離を零に変える。

そして篁は、削岩機の如き凄まじい右ストレートを繰り出した。
秋子はそれを、S&W 500マグナムの銃身で食い止めようとする。
だがその程度で防ぎ切れる筈も無い。
「――――あああああっ!!」
篁の一撃は易々とS&W 500マグナムを叩き折り、それを掴んでいた秋子の指すらも砕いていた。
「莫迦が……貴様如きがこの私の相手を出来るとでも思ったか?」
そのまま篁は間断無く拳を繰り出し、秋子の身体を破壊してゆく。
篁の剛拳が打ち込まれる度に、被弾箇所の骨が砕け、血が噴き出す。

「――――く……うあ……!」
秋子はたたらを踏んで後退するが、そんな抵抗何も意味も在りはしない。
どれだけ必死の思いで距離を稼いでも、延命に繋がりなどしない。
秋子が5秒掛けて開いた間合いを、篁は僅か0.1秒で詰めきってしまうのだから。
黒い影が、秋子の懐へと潜り込む。

「は、うああ…………!」
秋子は既にボロボロとなった両腕を盾とし、篁の攻撃を受けようとする。
篁は敢えてその防御の上から、思い切り蹴撃を打ち込んだ。
凄まじい衝撃により天高く跳ね上げられた秋子を追って、篁も跳躍する。
空中で秋子の頭を掴み取り――着地の際に、容赦無く地面へと叩きつけた。

――ぐしゃりという、嫌な音。

遅れて鮮血が飛び散り、秋子だったモノの肉片が飛散する。
篁は手にこびり付いた血をぺろりと舐め、哂った。
「フッフッフッ……ほんの数分程度しか、時間を稼げなかったようだな?」
「あ……ああああああ…………」

佐祐理が大きく目を見開いて、掠れた声を絞り出す。
秋子が死んだ事へのショックもあるが、それだけでは無い。
秋子が篁に立ち向かった時点でこうなる事は分かりきっていたのだから、それだけで驚愕に声を洩らしたりはしない。

突然大きな銃声が鳴り響き――篁は、頭部を大きく弾かれた。
「――ガアアアアアアッ!? ば、莫迦な、これは――」
初めて――柳川達と対峙してから初めて、篁の顔が驚愕に歪む。
何とか踏みとどまりはしたものの、そのこめかみからは黒い血が流れ落ちている。

ドラグノフを構えた久寿川ささらが、再び篁へと照準を合わせる。
「やっぱり……さっきの青い光が『ラストリゾート』だったみたいね。高槻さん達は……やってくれたんだわ……!」
篁を覆っていた青白い邪悪なオーラが、消えていた。
即ち、高槻達がラストリゾート発生装置の破壊に成功したのだ。
ほんの数分程度だった秋子の時間稼ぎが、勝負の行方を決定的に隔てる要因となったのだ。

「おのれ……あの駄犬があああああああ!! 高槻如き小物すら倒せぬのかああああああ!!」
怒りに震える篁が声を荒げるが、そんな事をした所でラストリゾートは蘇らない。
高槻達の、秋子の努力の成果が、失われる事は無い。

そして更に、この土壇場で戦場に駆けつけた戦士達が、三人。
「……どうやら、年貢の納め時ってやつみたいだね」
「「――春原さんっ!?」」
一瞬で場の状況を見て取った男の名は、春原陽平。
その後ろにはそれぞれの武器を携帯した広瀬真希と、北川潤も屹立している。
「北川さん……広瀬さん……ご無事だったんですね……」
駆けつけてくれた仲間達の姿に、死んだと思っていた北川と真希の姿に、佐祐理が半ば涙声で言葉を解き放つ。

北川は軽く微笑みを返してから、インパルス消火システムを構えた。
「あの爺さんが主催者みたいだな……。確かに凄い迫力だけど、『ラストリゾート』が消えてるなら、銃が効くのなら――勝てるっ!」
それは、絶対の確信。
篁が人間離れした実力を持っているのは北川とて一目で分かったが、所詮相手は一人だ。
銃器を用いての戦闘ならば、人数で大きく上回るこちらが優勢なのは明白だった。
事実、篁の顔は明らかな狼狽の色に染まっている。
真希がワルサーP38アンクルモデルの銃口を篁に向けて、凛々しい声で告げる。
「ここまでよ……。覚悟なさい、絶対に許さないんだから!」

それは、紛れも無い死刑宣告。

その宣告を受けた篁は――今まで見せた中でも、一番の愉しげな顔で哂った。
不気味な、醜悪な、吐きそうな、そんな微笑み。
全てを見下し、全てを嘲笑う、そんな表情。
「フッ……それで勝ったつもりかゴミ共が……」
そう言って篁が取り出したのは、赤黒いオーラに包まれた青い宝石。
秋子の介入により、どのような力を持つのか有耶無耶となっていた物体だ。

篁は宝石を握り締め、己が獲物達に告げる。
「今こそ見せてやろう!! 『想い』が秘めたる真の力を……そして、我が秘めたる神の力をっ!!!!」
瞬間、篁から放たれる威圧感が今までとは比べ物にならぬ程膨れ上がった。

柳川の、佐祐理の、ささらの、陽平の、真希の、北川の本能が、かつてない程の勢いで警鐘を打ち鳴らす。
全員が全員、理由の分からぬ焦燥感に駆られ、篁に向けて各々の武器を撃ち放っていた。

その刹那、高天原一帯を赤黒い光が包み込んだ。
「ク――――――何が起こったっ!?」
凄まじい爆音が鳴り響き、眩い光が柳川とその仲間達の視界を一時的に奪い去る。
削られた五感とは対照的に、脳裏に沸き上がる嫌な予感だけはどうしようもない程、肥大化してゆく。
篁から放たれていたモノと同質の瘴気が、計測不能なまでに膨れ上がってゆく。
まるで、世界全てを飲み込むかのように。

そして光が薄れ、音が止み、柳川が目を開いた瞬間、視界に飛び込んできたモノは。
「なん……だ……と……?」
人ではない。
ただの異形でもない。
絶対に、この世界の存在では無い。

全長200メートルはあろうかという、余りにも巨大な体躯。
紅く輝く目を湛えた、八つの頭。
血で爛れた腹。
周囲に纏った、赤黒い膨大なオーラ。
放たれる威圧感は、最早言葉で言い表す事など不可能。
篁は――日本神話に登場する伝説の怪物、ヤマタノオロチと化していた。



【残り13人】





【時間:3日目13:10】
【場所:f-5高天原】
柳川祐也
 【所持品:イングラムM10(5/30)、イングラムの予備マガジン30発×3、コルトバイソン(1/6)、日本刀、支給品一式(食料と水残り2/3)×1】
 【所持品2:フェイファー・ツェリスカ(4/5)+予備弾薬38発、強化プラスチック製大盾】
 【状態:驚愕、絶望。腹部重傷・左上腕部亀裂骨折・肋骨三本骨折・一本亀裂骨折(全て応急処置済み・ある程度回復)・首輪解除済み】
 【目的:篁の打倒。最優先目標は佐祐理を守る事】
倉田佐祐理
 【所持品1:レミントン(M700)装弾数(3/5)・予備弾丸(10/10)、レジャーシート、吹き矢セット(青×3:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
 【所持品2:二連式デリンジャー(残弾0発)、暗殺用十徳ナイフ、投げナイフ(残り2本)、日本刀、支給品一式×3(内一つの食料と水残り2/3)、救急箱】
 【所持品3:コルト・ディティクティブスペシャル(4/6)】
 【状態1:驚愕、絶望。留美のリボンを用いてツインテールになっている、首輪解除済み】
 【状態2:右腕打撲。両肩・両足重傷(大きく動かすと痛みを伴う、応急処置済み)】
 【目的:篁の打倒】
久寿川ささら
 【持ち物1:ドラグノフ(2/10)、電磁波発生スイッチ(作動した首輪爆弾の解除用、充電済み)、トンカチ、カッターナイフ、救急箱(少し消費)】
 【持ち物2:包丁、携帯電話(GPS付き)、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、ニューナンブM60(3/5)、支給品一式】
 【状態:驚愕、絶望。右肩負傷(応急処置及び治療済み・若干回復)、首輪解除済み】
 【目的:篁の打倒。麻亜子と貴明の分まで一生懸命生きる】
春原陽平
 【装備品:レーザーガン(残エネルギー40%)】
 【持ち物1:9ミリパラベラム弾13発入り予備マガジン、FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2、89式小銃の予備弾(30発)】
 【持ち物2:鋏、鉄パイプ、工具、ワルサー P38(残弾数6/8)、予備弾丸(9ミリパラベラム弾)×10、鉈】
 【持ち物3:LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、支給品一式(食料を少し消費)】
 【状態@:驚愕、絶望。右脇腹軽傷・右足刺し傷・左肩銃創・数ヶ所に軽い切り傷・頭と脇腹に打撲跡(どれも治療済み・多少回復)、首輪解除済み】
 【状態A:疲労大、左肩致命傷(腕も指も全く動かない)】
 【目的:篁を倒し生き延びる】
北川潤
 【持ち物@:SPAS12ショットガン8/8発+予備8発+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発、支給品】
 【持ち物A:インパルス消火システム スコップ、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)携帯電話、星の砂(光二個)、お米券】
 【状況:驚愕、絶望。中度の疲労、チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
 【目的:篁の打倒】
広瀬真希
 【持ち物@:ワルサーP38アンクルモデル7/8+予備マガジン×2、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)】
 【持ち物A:ハリセン、美凪のロザリオ、消防斧、救急箱、ドリンク剤×4 お米券、支給品、携帯電話】
 【状況:驚愕、絶望。中度の疲労、チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
 【目的:篁の打倒】
ボタン
 【状態:恐怖】
篁
 【所持品:青い宝石(光86個)、他不明】
 【状態:オロチ化】


水瀬秋子
 【持ち物1:ジェリコ941(残弾0/14)、トカレフTT30の弾倉、澪のスケッチブック、支給品一式】
 【持ち物2:ライター、34徳ナイフ】
 【状態:死亡】
水瀬名雪
 【持ち物:八徳ナイフ、S&W M60(5/5)、M60用357マグナム弾×9】
 【状態:死亡】

【備考】
・S&W 500マグナムは大破しました
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