第四回放送(ルートB-18)




薄暗い部屋の中に、黒い、闇が結晶したような男の姿があった。
血が変色したようにも見える漆黒のスーツを全身に纏った、酷く人間味に欠ける存在。
男が携える異形の瞳に睨み付けられてしまえば、並の人間など秒を待たずして屈服してしまうだろう。
この殺戮ゲームの主催者にして、今や全てを統べる存在になりつつある究極の人外――篁は、放送の準備に取り掛かっていた。

放送を取り止めるという考えも一瞬浮かんだが、それは直ぐに打ち消した。
枷を外した者達を全て死者として数えれば、生き残り扱いとなっている人間の数は僅か一桁となる。
実際にはまだ二十名以上の人間が未だこの島で足掻き苦しんでいる筈だが、その事実を知り得る者は多くない。
此度の放送は首輪の事を知らぬ者にとって、正しく絶望と憎悪を振り撒く鐘になるだろう。
親しき者達の死を報された事による悲しみと怒り、打開不可能となってしまった状況を受けての葛藤と猜疑心。
そこから生まれる想いがどれだけの物になるか――想像するだけでも口元が吊り上る。
絶望に打ち拉がれた後に生ずる昏い想いこそが、幻想世界への道を拓く鍵となるだろう。

「では始めるか」
マイクを手に取り、スイッチを押し、言葉を紡ぐ。
未だ何も知らぬ愚鈍な者達に、神罰を与えるかのように。


『――参加者諸君、ご機嫌如何かな?これより四回目の定時放送を行う。
 尚観測者は舞台から退場してしまったので、僕が直接取り仕切らせて貰うよ。
 ではこれまでの死者達を発表するから、良く聞き給え。

3番 朝霧麻亜子
12番 岡崎朋也
14番 緒方英二
16番 折原浩平
21番 柏木初音
25番 神尾観鈴
30番 北川潤
34番 久寿川ささら
36番 倉田佐祐理
38番 来栖川綾香
39番 向坂環
42番 河野貴明
45番 小牧愛佳
54番 篠塚弥生
58番 春原陽平
64番 橘敬介
65番 立田七海
73番 長瀬祐介
79番 七瀬留美
85番 姫百合珊瑚
87番 広瀬真希
88番 藤井冬弥
90番 藤林杏
93番 古河秋生
95番 古河渚
100番 美坂栞
101番 みちる
102番 観月マナ
103番 水瀬秋子
104番 水瀬名雪
108番 宮沢有紀寧
111番 柳川祐也 
117番 吉岡チエ
119番 リサ=ヴィクセン
120番 ルーシー・マリア・ミソラ

 ――以上35名だ。
 生き残りは後一桁、いよいよゲームも大詰めだ。
 今一度言っておくけれど、勝者はただ1人、例外は無い。
 愚かな希望に縋って現実から目を背けた所で、待っているのは裏切りと冷たい死のみ。
 殺し合いを肯定した人間がいなければ、これ程多くの犠牲者は生まれないのだからね。
 勇気を持って戦う者こそが褒美で全てを手に入れ、臆病者は動かぬ骸と化すだけだ。
 何、倫理観などという下らない物は捨て去ってしまえば良いさ。
 この島で犯した罪は何者にも裁けないし、僕達以外には知られる事すら無いのだから。
 これらの事項をよく踏まえた上で、これからの戦いに挑むと良い。
 それでは此処まで生き残った勇者達の健闘を祈る』

篁はマイクを元に戻し、邪悪な笑みを形作る。
様々な人間の想いが交錯したこの遊戯、実に愉快だった。
後は――最後の詰めを行うだけだ。
枷を外した者達が虎視眈々と自分の命を狙っているにも拘らず、邪神は哂い続ける。




【時間:三日目・6:00】
【場所:不明】
篁
【所持品:不明】
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