Last Case: 乙女 Gung Ho




「行きなさい」

言葉は無情だった。
七瀬留美は一片の感情も浮かべることなく、そう告げていた。

「な……!?」
「おい、そりゃあ……」

すぐに抗議するような声が上がる。
藤井冬弥と鳴海孝之だった。

「……あんたたちに、何ができるの」

周囲を油断なく見回しながら、七瀬が短く応える。
二人の異論を封殺するような、冷淡な声音。

「これまであんたたちに、何ができたの? ……あたしの手間が増えるだけよ」
「それ……は」
「けど、俺たちだって……」

口の中で呟くような二人の声は、反論の体をなさずに消えていく。
七瀬の言葉は、紛れもない事実であった。
黄金の鎧の少女、黒い三つ揃いの老爺、オーラを放つ青年、そして半獣の少女。
それらとの戦いのすべてにおいて、二人は文字通り、手も足も出なかった。
繰り出す仲間が次々と屠られていくのを、指をくわえて見ていただけだった。
危ないところを七瀬にかろうじて助けられ逃げ回る、それだけが藤井冬弥と鳴海孝之のしてきたことだった。

「囲みの薄そうなところを、あたしが切り開く。……首根っこ引っ掴まれなきゃ、逃げることもできない?」

ばきり、と乾いた音が響いた。
七瀬が手近な木の枝を折り取った音だった。
ちょうど人の腕ほどの長さの枝を、七瀬は小さな風切り音をさせながら何度か振り、感触を確かめるように握りなおす。

「で、あんたたちは逃げる。最後にあたしはこいつらを片付けて、すぐに追いつく。……問題ないわね」
「お、大ありだっ!」

周囲の梢の間から覗く無数の反射光に怯えながらも、冬弥が口を挟む。

「い、いくら七瀬さんだって、こんな数を相手にしたら……!」
「―――じゃあ、あなたがいればどうにかなるんですか、藤井さん」
「……!」

敬語が、ひどく冷たく聞こえた。
木洩れ日の中、背を向けた七瀬の後ろ姿が、ひどく遠く感じられた。
無意味な反発だと分かっていた。
実際に自分たちには何の力もないと、足手纏いでしかないのだと理解しては、いた。
しかしそれなら、藤井さん、ではなくヘタレども、と。
グズグズ抜かすなさっさと行けと、一喝してほしかった。
命令ならば従うこともできた。
開けられた距離が、悲しかった。

「……もうやめておけ、藤井君。悔しいが、教官の言うとおりだ」

背後からかけられた孝之の声に、肩に乗せられたその手に、冬弥は喉から出そうになっていた言葉を押し留める。
代わりに、血が滲むほど強く、拳を握り締めた。
そんな冬弥の様子をどう見たものか、孝之は七瀬にも声をかけている。

「俺たちは何があろうと振り向かずに逃げる。……それでいいんだな?」
「そうして頂戴」

にべもない返答に肩をすくめながらも、孝之はもう一度、口を開いた。

「最後に一つだけ聞かせてくれ」
「……何?」
「怖くは……ないのか」

一瞬、間が空いた。

「―――ええ。怖くなんか、ないわね。……あんたたちとは、違うのよ」
「そう……か」

ひどく張り詰めたその背中に、冬弥は奥歯を噛み締める。
しかし孝之には、それ以上を問うつもりはないようだった。
僅かな沈黙の後、七瀬が木刀ともつかぬ枝をひとつ振るうと、ふり向かぬままに言った。

「行きなさい。……追いついたら、特訓再開だからね」

言うなり疾走を開始した七瀬の背は、言葉も届かぬほどに遠く、冬弥には感じられた。


******


ごしゃり。
木の棒を振るった手に、嫌な感触が伝わってくる。
道場ではなかなか体験することのない、人体を破壊する衝撃だった。
無我夢中で数度の経験を乗り越え、ものの数分でその感触に慣れてしまった自分を、七瀬留美は自嘲する。
一切の躊躇いなく人に向けて剣を振るえるなど、自慢にもならない。
剣の道の示す先に、そんな技能は必要なかった。
心動かすこともなく人を壊せたとして、それがどれだけ剣心一如の境地とは程遠いものか。
己を嘲りながら、しかし足を止めず間合いに入った相手を打ち据える。
動き続ける身体が、どこか他人のもののように思えた。
目に映る打擲は映画の一幕で、斃れる少女たちはスタントと特殊メイクで。

「そんなわけ、ないじゃない」

呟いて、苦笑する。
冬弥と鳴海は、無事に逃げおおせただろうか。
走り去っていく二人の背中を思い起こす。
あの二人に、こんな姿を見せずに済んでよかった。
今の自分は人を打ちのめす悪鬼そのものだ。
乙女には、いかにも遠い。

「……怖くなんかない、か」

相手の頭蓋と運命を共にして折れた、何本めかの木の枝を棄てながら呟く。
勿論、嘘だった。
掌は汗に塗れていた。
心臓の鼓動は耳たぶのすぐ下の血管までを震わせていたし、胃はじっとりと重かった。
胸といわず、全身が恐怖で張り裂けそうだった。
だがそれでも、七瀬にはその問いを否定するしかなかった。
認めてしまえば、膝から崩れ落ちてしまいそうだった。
だから、必死に笑みを形作った。
脂汗だらけの、どこから見たって可愛らしくなどない、引き攣った笑顔。
乙女とはかけ離れた、男臭い笑顔。

「……だから、何よ」


ひとり呟いて、太い木の枝を力任せに折り取る。
素振り代わりに、手近な相手の顔に目掛けて振り下ろした。
嫌な感触と、飛び散る粘り気のある血。
擦るように引けば、細かな枝葉が相手の頬に刺さったまま、折れてなくなった。
ああ、枝を払う手間が省けた、と。
そんな風に考えてしまう自分がどれだけ常軌を逸しているか。
乙女などと、片腹痛い。

返り血の、冷たさと生温さが混在する感触に薄く笑って、七瀬留美は走り出す。
ぐい、と拭った袖も血に塗れていて、かえって顔の半分が緋色に染まった。
鬼面の少女は、閃く光芒の中、息をするように人を叩き潰していく。


***


五十より先は数えるのをやめてしまった、百何十人めかの少女の顔面を断ち割り、
裂帛の気合と共に熱い呼気を漏らす。
七瀬が異変に気づいたのは、そんな折のことである。

「数が……減ってる……?」

昼なお暗い山林の中、周囲を見回して七瀬が呟く。
当たるを幸いと剣とも呼べぬ木切れを振り回して走ってきただけに正確な現在位置は分からなかったが、
梢の切れ間から垣間見える稜線を見る限り、いま立っている場所は最初に冬弥と孝之を逃がした場所から
そう離れてはいないはずだった。
ちょうど神塚山の山麓に沿うように走り、十分に敵をひきつけたと見るや取って返して元の場所の
近くまで戻ってきたのだ。陽射しからしても方角を間違えているとは思えない。
しかし。

「……少なすぎる」

険しい表情で考えていたのは、この周辺に倒れ伏す少女の数だった。
山の西側に向けて走っている最中に斬り潰し、殴り伏せた少女たちが、北側へと引き返すルートの
途中で、そこかしこに倒れているのを七瀬は確認していた。
無論のこと交戦した相手に対しては一撃必倒を心がけてはいたが、所詮木剣ならぬ木の枝では
上手く致命傷を与え続けることも難しい。
膝を砕いて動きを止めるのが精一杯という状況も多々あった。
多勢に無勢の戦局、そういった相手へ一々足を止めて追撃を加えることとてかなわない。
やむなく置き去りにしてきたが、戻りしな、まだ立ち上がることもできずに倒れている者が
残っているのを見て、七瀬は修羅の笑みを浮かべたものである。
これ幸いと止めを刺して回っていたが、それも先ほどまでのこと。
この一帯に足を踏み入れた途端、倒れている少女が極端に少なくなっていた。

「残ってるのは死体だけ……か」

ある者は頭蓋を砕かれ、またある者は肺腑を肋骨に刺し貫かれ、死に様は種々異なっていたが、
いずれ木の棒での一撃二撃で死に至った運の悪い者だけが、この周辺に骸を曝しているのだった。
それ以外の、腕を折られ足を砕かれた者たちは、忽然と姿を消している。
未だ健在らしき少女たちは相も変わらず単調な襲撃を繰り返してきていたが、それすらも
ここにきて交戦回数が激減していた。

「どこかに、移動した……? ううん、それじゃ説明がつかない」

負傷した個体が消えているのは、この周辺だけだった。
ここまでのルートに溢れていたそれを放置し、この一帯のものだけを回収する。
不自然な状況には、それなりの理由があるはずだった。
しかし、と思考はそこで空転する。
情報もなければ、推論に足る材料もない。
そもそも自分は論理的な思考に没入できるタイプではないと、七瀬は自覚していた。

「森の中、理不尽な謎に悩む……乙女にはなせない技ね」

苦笑してため息をついた七瀬の頬を、涼しげな風が吹き抜けていく。
乾いた返り血が、ぽろぽろと剥げ落ちた。
そんな光景を何とはなしに眺めていた七瀬の耳に、奇妙な音が届いていた。

「……?」

低い、小さな音。
数秒に一度、まるで鼓動のように定期的に響く、それは徐々に大きくなっているように、七瀬には感じられた。
それは事実だった。
初めは小さく遠かったその音は、数度、数十度を経て、今やはっきりと七瀬の耳朶を打つまでになっていた。

「地鳴り……?」

傍らに立つ樹に手をついて、七瀬が眉根を寄せる。
近づいてくる音が物理的な打撃を伴ってでもいるかのように、大地が小さく振動していた。
雨の名残の水溜り、その表面に波紋が浮いては消える。
大地を鳴動させる音は今や、轟音と呼んでも差し支えなかった。

「違う、地鳴りじゃない……。これは……!」

思わず口に出して、七瀬が身構えた瞬間。
『それ』は、現れた。

ぽかん、と口を開けたまま、七瀬はそれを見ていた。
山林の中、鬱蒼と茂る木々をまるで暖簾でもかき分けるように容易く薙ぎ倒して、それは顔を覗かせていた。
巨大な面積の、雪のように白い、しかし確かな人肌の色。
雷鳴の破裂音に近い轟音をもって破壊した大木の束を放り捨て、首を傾げたそれは、見上げるほどに巨大な
少女の裸身だった。

「ウソ……でしょ……?」

顔に当たる梢を嫌がるように振り払った少女の手が、大樹の幹を小枝のように折り飛ばした。
落下した木々が、盛大な泥飛沫を上げる。
頬に跳ねた泥を無造作に手の甲で拭う少女。
大人の一抱えもありそうな巨大な眼球が、何か興味深いものを見つけたように一点で静止する。
七瀬留美は、その視線の先にいた。

「―――、」

生唾を飲み込もうとして、七瀬は己の口がひどく乾いていることに気がついた。
喉がひりつく。
掌に、腋に、額に背筋に、ひどくじっとりとした汗をかいているというのに、唾液は一向に分泌されない。
鼓動の間隔が、奇妙に不規則に感じられる。呼吸もまた乱れていた。
湿ってぬめる掌をスカートで拭う。
強張った指先を、ちろりと舐めた。塩気の強い、嫌な味がした。

「デカけりゃビビると思ってんなら……大間違いよ……」

吐き捨てるように言って、太い木の枝を握りなおした。
小指から順に握り込む半ば無意識の動作に、七瀬はこれまで積み重ねてきた鍛錬が己の体にしっかりと
刻み込まれていることを思い起こす。
肘を軽く曲げる。肩の力を抜いた。
弾け飛びそうな心臓を押さえつけるように、肺に新鮮な酸素を送り込む。
胸一杯に吸い込んだところで一瞬だけ息を止め、吐く。
血流を意識する。全身に張り巡らされた、活力をもたらす網。
下腹から足指の先までを意識化に置く。細かな震えが止まった。
脳髄の奥に澱んだ黒く古い血を押し流し、瑞々しい鮮血で満たすイメージ。
視界がクリアになる。雑念と呼ばれるものが消えていく。
ふた呼吸の内に、七瀬留美は剣士としての己を取り戻していた。
ぐ、と曲げた足指に力を込める。

「行くわよ―――、」

踏み出した瞬間。
―――視界が横転していた。

え、と。
驚愕すら、言葉にならない。
巨大な少女の鼻筋を見据えていたはずの視界が一面、泥と濡れ落葉の世界へと変貌していた。
顔から地面へと倒れこもうとしているのだ、とようやく気づいて、七瀬は咄嗟に身を捻る。
否、捻ろうとした軸足に、違和感があった。
何かに足首から先が固定されているような感覚。
結果、体を入れ替えきれず、上体だけで受身を取ることになる。

「ぐぅ……っ!」

激痛。
半端に捻った右肩に、全体重がかかっていた。
みちり、と嫌な音がしていた。
良くて脱臼、悪ければ筋断裂のおまけつきかな、と七瀬は意識の片隅で思う。
どこか他人事のような感覚。
一秒を何分割にも分けるような集中を寸断され、脳が混乱していた。

何が、起こった。
分断された脳が、それでも状況を分析しようと回転しだす。
駆け出そうとして転倒した。
躓いた。そんな馬鹿な。違和感は踏み出した足ではなく、軸足側にあった。
断片的な思考と情報が、次第にまとまっていく。

 ―――足首から先が、何かに固定されているような感覚。

反射的に振り返った。
右の足首。泥に汚れたソックス。そこにある、肌色。
細く白いそれは、手。

「……ッ!」

いつの間に這い寄ったのか。
顔面を割って止めを刺したはずの少女の手に、七瀬の足首は掴まれていた。
赤黒い痣に縁取られた、落ち窪んだ眼窩に割れた眼鏡の破片を刺したまま、少女が笑った。
膨れ上がった瞼に隠れたもう片方の瞳が、ぬるりと歪んだように、思えた。

その手を叩き折ろうと思わず木枝を振り上げた七瀬が、しかし動作を唐突に止めた。
左手一本で棒を振り翳した己の影が、少女の笑みの上に黒々と差していた。
正面に写る影。即ち、光源は背後。

「しまっ―――」

振り返ろうとして、目が眩んだ。
純白を通り越し蒼白いとすら錯覚する、猛烈な光量が七瀬と少女、その周囲を照らしていた。
腕で閉じた目を覆う、その上から網膜を灼くような光が、閃いた。


***


肉の焼ける臭いがしていた。
食欲をそそる香りではない。
焦げ臭いような、鼻をつく嫌な臭いだった。

「―――」

長い髪が、吹き荒ぶ風に揺れていた。
幾つも上がった火の手が、倒れこんだその身を赤々と照らしていた。
風と炎とが支配する世界の中で、

「―――く、ぅ……」

七瀬留美は、ゆっくりと目を開けた。
顔を上げたその頬に熱風が吹きつける。

「どう、して……」

我知らず、呟きが漏れる。
七瀬の脳裏を支配していたのは唯一つの疑問だった。
どうして、自分は生きているのか。
助かるはずのない状況だった。
巨大な少女の光線は圧倒的な威力で自分を直撃し、周囲の草木と同じように消し炭へと変えているはずだった。
答えは、すぐに見つかった。

「あん、た……は……」

座り込んだ七瀬の正面。
すぐ目の前に、黒い壁が立っていた。

「―――もういいぜ、伊藤君。よく耐えた」

声に押されるように、壁がぐらりと傾いだ。
壁と見えた、黒い影が倒れていく。
伊藤と呼ばれた男の顔、その半分までが焼け爛れ、燃え焦げた顔は、それでもどこか笑っているように、
七瀬には見えた。からりと、乾いた音がした。
地面に倒れた伊藤誠の、炭化した体が砕け散る音だった。

「……」

七瀬は無言のまま転がった木枝を掴むと、己の足首を掴む少女の腕に振り下ろした。
びくりと震えて、手が離れる。
静かに立ち上がり、再び棒を振り下ろす。濡れた音がして、鮮血が飛び散った。
柘榴のように爆ぜた少女の方には見向きもせず、七瀬は巨大な少女へと視線をやる。
少女の巨躯は、変わらずそこにあった。
その額は薄ぼんやりと陽光を反射していたが、新たな光線を放つ気配はなかった。
一発撃つごとに調整か何かが必要なのか、それとも他の理由があるのか。
いずれにせよ、光線の連発はできないようだった。
それを確認すると、七瀬は振り向かずに口を開く。

「……逃げろ、って言ったでしょう」
「ああ」
「……御免な、七瀬さん。ただ……」

答えたのは、二つの声。
どこか優しげな方の声が、言葉を続けた。

「……腰が抜けてて、逃げられなかったんだ」
「……」

奇妙な沈黙を埋めるように、もう一つの声がする。

「本当だ。俺たち全員、腰が抜けてな。……ヘタレだろう?」
「……それで、戻ってきたってわけ」
「ああ。這いずってきた」

堂々と言い放つ背後の声は、七瀬の目線よりも高い位置から聞こえていた。

「……そう」

それだけを呟いて、七瀬は己の手を見る。
掌は腫れ上がり、指先は痺れていた。手首もじんじんと痛む。
少しだけ、右肩に力を込めてみた。激痛が走った。
制服もスカートも泥に塗れ、見る影もない。
左手で、そっとリボンを触る。
雨に濡れ、泥に汚れ、すっかりごわついていた。

「……乙女って、なんだろうね」

ぽつりと呟いたその言葉に、即答する声があった。

「戦う女の子のことさ」

藤井冬弥の声だった。

「一度は女の子を放り出して逃げた、どうしようもない男どもだって、最後には戻ってくるような」
「すぐに戻らなきゃいけない……そんなことは分かりきってるのに、」

言葉を継いだのは、鳴海孝之だった。

「分かりきってるのにどうしても足が動かないような、救いようのない男どもが、本気でチビりそうになりながら、
 それでも最後まで一緒にいたいって思っちまう、そんな女の子のことだな」
「いざって時に男に守ってもらえる子のこと、乙女っていうけど―――」

冬弥が、静かに言う。

「いざって時に男を守って戦うような子のことは、何ていうか知ってるかい」
「……」

小さく首を振る七瀬。
その耳に、ひどく優しげな声が届いた。

「―――乙女っていうのさ、七瀬さん」

ぱち、と炎が爆ぜた。
七瀬がそっと目を閉じる。
周りに上がる火の手のどれよりも、背中から感じる温もりは強かった。

「……バカ、ヘタレどものくせにカッコつけたりして……」

呟く声が、震えていた。
目を開けば、視界が揺れていた。
無理やりに笑みを作って、ようやく声を絞り出す。

「本当に、バカ」

涙が、零れていた。
鼻をすすって、木枝を握り直す。
正面、ぼんやりと七瀬たちを眺めていた巨大な少女が、その腕を振り上げていた。
る、と少女が哭いた。

「―――行こうか、俺たちのお姫様」

小さく肩を叩く感触に頷いて、走り出す。
右には藤井冬弥。愛すべき青年。
左には鳴海孝之。憎めない青年。
その足音を聞きながら、泥まみれの制服に身を包んだ七瀬留美は、聖剣ならぬ木の枝を手に、走った。




七瀬留美が最後の抵抗を終えたのは、それから十五分後のことである。




 【時間:2日目午前11時すぎ】
 【場所:E−6】

七瀬留美
 【状態:死亡】

藤井冬弥
 【状態:死亡】
鳴海孝之
 【状態:死亡】
伊藤誠
 【状態:死亡】

融合砧夕霧【828体相当】
 【状態:進軍中】

砧夕霧
 【残り13461(到達・6431相当)】
 【状態:進軍中】
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