一つの思い出のカタチ




古河親子と岡崎朋也と別れてから数時間、一通りの準備(最低限の食材と余ったハンバーグを真空パック)をした後に北川潤と広瀬真希とみちるの凸凹○トリオは次の行動に移っていた
三人の行動目的は対主催者でも脱出方法でもなかった…この島にまだ残っていると思われる美凪の『心』をさがす事だった。
当ての無い探索…まるで首輪の解除方法を探し始めた頃と同じような心境だった、しかし三人は進む。
そして道中はC-5鎌石村消防署のすぐそばまで来ていた。


「やれやれ…こんな所にあったか。」
C-5鎌石村消防署のすぐそばの道路沿いで、北川潤は対勝平戦で失った自分の携帯電話を満足そうな顔をして拾っていた、
多少プラスチックの部分がひび割れているが電源が入ったので操作には支障を来たさない事に安心をする
この携帯電話は北川潤の私物で運良く主催者側から押収されなかったものだったりする
そういった運良く主催者側から押収されなかった経緯を持つものとして、広瀬真希、氷上シュン等が上げられた。
これは主催者側の運営の『杜撰さ』なのかそれとも『趣向』なのかは参加者にとっては与り知らずな事だ。
自分の私物が無事に戻ってきたことに喜びを感じる北川
それと同時に昨日までいた鎌石村消防署に目を向ける、掛け替えの無い大切な人のことを思って…。
「真希とみちるはうまくやってるかな…。」
同じく勝平戦で失った消防斧を握り締め消防署へと向かうのだった。



一方で鎌石村消防署給湯室では広瀬真希はみちるに楽しそうに語りかけていた
「―――でねでね、ここで美凪と一緒に御飯作ったわけ♪、そうしてたら潤がショットガン持って乱入、あの時は驚いたわぁ」
ゲーム開始当初の頃のことをみちるに話す真希、ここは間違いなく彼女の出発点だったからだ。
真希は美凪との思い出を一つ一つ話す、
「にょわっ、北川はヒドイ奴だぞ。」
対するみちるも美凪の話を一語一句見逃さず聞いていた。
楽しそうに話す真希,みちるは美凪とは島で一度も出会えなかったが
真希の話を聞いているかぎりいつもの美凪と代わらないのは安心できた。
何気ない言葉のやりとりを続ける二人、これが美凪の『心』に繋がると信じて。

そんな事をしている間に荷物をもった北川が帰ってくる。
「楽しそうだな、ふたりとも。」
先ほど回収した携帯電話と広瀬から勝平戦で借りた消防斧を手にふたりに話しかける北川
「今回はまともに入ってきたわね。」
「変態強姦魔な家政婦のお帰りだぞ!」
「ヲイヲイ…。」
ひどい言われ様の北川、しかし北川はそんな三人でのやり取りが好きだった。
北川は真希に借りていた消防斧を返し、次の行動に移ろうとする。

「さ〜て潤、これから何処へ行くの?」
消防斧片手に次の指針を北川に聞く真希、北川は中腰になってみちるを呼ぶ
呼ばれてぴょいっと北川の両肩に乗るみちる、所謂ところの肩車だ。
「雨が降りそうだからな…とりあえず様子見ってところだな。」
どこぞの通称ヒロシみたいな台詞を吐く北川、勿論建前のようなものだ次の算段は考えてある。
「でも、ここだと見つかるんじゃない?」
何かと消防署のような目に付き易い建物だと発見される危険性が高くなるのは言うまでも無い。
真希にしろ北川にしろ、下手に他人に発見されるのは避けたかった、敵は勿論味方にも…。
今の自分たちには他人の都合を考えてる余裕が無いのは明白だった。

(しかし…まあなんだねぇ、今になってゲーム開始当初の作戦を実行に移すとは何の因果かね…。)
心の中で色んな意味で意味深な台詞の北川、
もともと北川はこの島の秘密を探るつもりでいた、北川は知らない事だが他に島の秘密を探ろうとしていた参加者に【6番 一ノ瀬ことみ】等があげられるが
どう言う因果か【90番 藤林杏】に助けを求められたのが運命の分かれ目だったのだ、
その後相沢祐一と運良く出会い、自分の優先順位を【島の秘密】から【首輪の解除】へと切り替えたのだった。
そして今、首輪の解除は【85番 姫百合珊瑚 】に任せている
本来北川がしようと思ったこと【自分達にしか出来ないことをする】を実行に移す時なのだ。


「すぐにここから出て行く、少し北に行ったところに日本家屋がある、砂利が敷き詰められていて作戦を立てるのにはぴったりの場所なんだ」
鎌石村の地理の下調べはゲーム開始から真希と美凪に出会うまでの間にできている北川
そういってみちるを肩車して給湯室を出て行く北川、そして真希も続いていく。
一階の消防署の装備を置いてある車庫に差し掛かろうとした時に北川はポツンと一つだけ置いてある、【あるもの】に気付く。
「ん…?、みちるちょっと降りてくれ。」
「ど〜した、きたがわ?」
消火器とホースが組み合わさったバックパック、云わば火炎放射器の様なものに目を付ける北川
「ゲーム開始から今まで誰も気付かず持って行かなかったのか…。」
「それって何なの?」
そんなのあったんだと言いたげな真希、誰もが鎌石村消防署や鎌石村消防分署で消防斧にしか目を傾けないのはゲーム開始から言わずとしれた事だった
それが何なのかを知らなければ存在していないのも同じようなもの、一般の消防署は勿論、市役所、工場にだって置いてあるところはある。
知らないから見つけられない広瀬真希にしろ篠塚弥生にしろそうだった、
北川は昔マンガで読んでいたからこの【あるもの】存在を知っていただから発見することが出来た。
フーリガン対策、め組の●吾…解る人にはもう解る武器、
「インパルス消火システム、まあ圧縮空気を利用して水を発射する消火器さ」
よいしょっと担ぎ上げる北川、これの利点は火炎放射器と違い水を噴射すると言うこと、つまり万一タンクが破損しても火達磨になる危険性がないということだ、
しかも高威力、車のフロントガラスなら平気でブチ破れたりするシロモノだ。
「携帯電話も回収したしとっとと戻るか」
「上手く行けば良いんだけどね」
「期待してるぞ〜きたがわ」

こうして消防署に一個は備え付けてあるインパルス消火システムを持って凸凹○トリオは【B-5】の日本家屋へと作戦会議に走るのだった
そして数時間後、里村茜達は消防署にたどり着く。

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【B-5】の日本家屋では北川達は一時休息していた、外では予想通り雨が降っている
ちなみにこの家の庭には砂利が敷き詰められていて侵入者がくれば直ぐにわかる算段だ。
北川と真希は基本的に休息はしなくても大丈夫なのだが問題はみちるだった
…事実2日目の午前3時から禄に寝ていないからだ、多少の仮眠はしているにせよ無理はよくないからだ、
今は民家の居間の真希の横で布団の中に入ってすやすやと寝ている

「とりあえず…赤外線、その他もろもろOKっと」
互いのメールアドレスを交換して電波が繋がるかの確認…真希の携帯電話とで実験する北川、
卓袱台の上にはこみパの情報のメモの写しや地図が散乱していた、今更なんの役に立つのかと疑問に思う人もいるかもしれないが大事な作業だった。
「ロワちゃんねるに目ぼしい書き込みは無いみたいね」
民家にあったノートパソコンで情報を仕入れようとする真希、しかし対した書き込みが無いのが現状だった。
「打ちたくても…駒が打てないのが現状ってか。」
そう言いつつも卓袱台の上のメモ用紙にペンを走らせる北川…無論【盗聴対策】だ
「手詰まりねぇ…。」
潤のために急須でお茶を入れる真希、勿論メモ用紙に目をむける、そして真希もお茶を入れ終えるとペンと紙を用意する

(携帯電話が通じないことからジャミングの線が考えられる…が…無論ここが日本の沖木島ならの話だけど)
(日本の沖木島ならの話ってどういうこと?)
北川の書き込みに相槌を書き込む真希
(例えば人工島とか地球じゃない不思議時空とか♪)
(ぶっ飛んだ話してくれるわね…柳川さんや皐月の件聞いてる限りでは仕方ないけど///)
ある意味でぶっ飛んだ話で結構だった、この島の参加者の中には、みちるを含め鬼の力の初めとして湯浅皐月を初めとするエージェント連中等
一般人には未知な連中が勢ぞろいだったからだ、何が起こってもおかしくは無いからだ。
(しかも来栖川綾香や珊瑚みたいなスゴイ学生も沢山いるしな…。)
いわゆる高スペックと呼ばれる連中の事だろう、一般人な北川と真希には行く道の違う連中達のことだ
そんな連中の沢山いる中で普通の学生な北川潤と広瀬真希が生きているのはある意味おかしく思えた。

(話を戻すぞ、平瀬村で読んだ前回参加者の体験談や姫百合の話を総合するとGPS(人工衛星)でこの島を監視してる)
姫百合姉妹が持ってた【携帯型レーザー誘導装置】や【首輪のレーダー】こみパの体験談での盗聴の事実、そしてロワちゃんねるの送信と着信
北川は知らないが【GPS携帯電話】なるものも存在する。
(全ての辻褄を合わせるには人工衛星での制御に行き着いてしまうってわけだ)
(成るほどね…少なくともこの島が地球じゃない不思議時空の話は消えるわけね)
当たり前だが納得する真希、しかし北川はちょっと待って欲しいと人差し指を口に立てる。
(だけど…能力持ちと呼ばれてる鬼の連中の力の制御や、消えるはずのみちるの存在等があることから、島全体に不思議パワーみたいなのがある可能性がある)
北川の仮説にガクッと頭を下ろす真希、不思議時空に不思議パワーと頭の悪そうな単語の連発で頭が痛くなるところだ。
(で…どうすんの?結局何にも出来ないのだったらオシマイじゃない。)
久しぶりにジト目で北川を見る真希、北川のために入れたはずの緑茶を啜ってる。
(もう少ししたらみちるに起きてもらう、そしてみちるにそれっぽい所に連れて行くつもりだ)
北川の意見は一見行き当たりばったりの様だが何と無く真希には根拠が持てた
…何故ならこの島で他の誰かのために一番行動を起こしているのは北川だと確信してるからだ。

二人は知らない、姫百合珊瑚がハッキングに失敗した事を…しかしそれが主催者自らを動かす動機に繋げたことも。
二人は知らない、何の力も持たないからこそ【見えてくる道】があることに。
一見失敗いるように見えて、北川達にしろ珊瑚達や皐月達、彼ら彼女らの行動は何かしらの未来へと繋がっているのだった。

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作戦会議から一時間ほど外では雨がまだ降っていた、真希はみちるの寝顔を微笑ましそうに見ていた
いつまでもこうしていたいそう思った、そうしてる間にも時は刻一刻と過ぎていく、真希は想う…美凪の『心』は何処にあるのだろうと。
ふと横を向くと北川が自分の携帯の画面を懐かしそうな顔で見ていた、北川は自分を見ている真希に気付いて自分の携帯を見せる。
液晶の場面に映し出されたものを見て真希は微笑む、一見間抜けな様で―――大切な思い出のカタチだった。

―――消防署で北川と真希と美凪と一緒に撮った割烹着姿の写真だった

真希に見せるとボタンを押す北川、次に映し出されるのは先ほど消防署で撮った北川と真希とみちるの写真

―――同じ場所、同じ割烹着を着て撮った北川と真希とみちるの写真だった。

北川は真希に見せ終えると制服の胸ポケットに仕舞いこむ、今度こそ落とさないようにするためだ、そして口を開ける


「美凪の『心』…見つけないとな。」
真希は口を開ける、
「見つけよう…みちるの為にあたしたちの為に。」
真希は美凪がくれたロザリオをあたたかく握り締めていた、美凪と出会えたからこそ今までの自分があるからだった。
そんな真希を愛しく見つめる北川、真希は北川が見つめてるのに気付く…。
「………なあに、潤?」
自分を見つめる北川に問いかける。
真希は北川が何を思っているかは気付いてはいる、あの時B-3民家でみちるといっしょにハンバーグを作ったときに。
彼女は今までの事を振り返る、最初は頼りないと思ったがホテル跡の騒動の時に北川を意識し始めたのだろうと…。
北川は今までの事を振り返っていた、普段は勝気な女の子でも臆病な心を持っていた、普通の女の子…そんなところが好きだったのだ。

北川と真希は一緒に美凪のロザリオを握る…そして口を開ける。
「真希、いろいろあったしこれからもあると思う、頼りないかもしれないけど。」
北川は真希に顔を近づける。
「うん、そんなのなれた。」
真希は北川に顔を近づける。

「…オレは真希が好きだ。」
「あたしもよ…。」

何度と無く苦難苦楽を共にしてきた北川潤と広瀬真希、消防署でホテル跡で平瀬村でそして鎌石村で…。
色んな人に出会えた…だからこそみちるとも出会えた、そしてふたりはこれからも他の誰かの為に【自分達にしか出来ないこと】し続けるだろう。
そんなことを胸に秘め、ふたりの心と唇が重なる。

外は夜しかも生憎の雨、しかしふたりの心は清らかだった。

―――そして心なしか美凪のロザリオに温かみを感じられた瞬間だった。




時間:二日目・21:00】
【場所:B-5】の日本家屋


北川潤
 【持ち物@:SPAS12ショットガン8/8発+予備8発+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発、支給品】
 【持ち物A:インパルス消火システム スコップ、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)携帯電話 お米券】
 【状況:チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
 【目的:美凪の『想い』、『心』を探す】
広瀬真希
 【持ち物@:ワルサーP38アンクルモデル8/8+予備マガジン×2、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)】
 【持ち物A:ハリセン、美凪のロザリオ、消防斧、救急箱、ドリンク剤×4 お米券、支給品、携帯電話】
 【状況:チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
 【目的:美凪の『想い』、『心』を探す】
みちる
 【所持品:包丁 セイカクハンテンダケ×2、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)食料その他諸々(真空パックしたハンバーグ)支給品一式】
 【状況:健康】
 【目的:美凪の『想い』、『心』を探す】
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