王を望む彼女




「衛星で確認してみますか?」とセリオが言うと、イルファとマルチ追加に使ったPCを接続しだした。


てか衛星使えるのかよ。てか
「アンタ、ダウンロードは15時間ぐらいかかるとか言ってなかった?」

 なんで15時間もダウンロードにかかる?Wi○nyとかじゃあるまいし。
「できるようになりました」とセリオが返す。

 ?

 よく分からないが、修理に使った端末を繋いで、衛星からの画像を見てみる。

 1時間ちょい前。

 セリオと私が確かに突撃している──
 白い髪の男との白兵戦。

 その間に、数体の凸がどうも後ろに隠していた姉さんに近づいている画像。
 まずい。
 森の中に姉さんは隠していたので、それがどうも裏目に出たか?

 ただ、森の中なので状況がよく分からない。葉っぱに隠れている。
 そして、葉っぱが無い凸が光線を放つ。と同時に。

 爆発と共に凸数体が消えた────




 しかし、その後の姉さんの動きは無い。
 そしてその場所に、それ以後凸が近づいた形跡も無い・・・

 その場所に行って見たが、鞄しか残ってなかった。その中に水晶がたくさん入った袋と姉さんの持ち物。

その中に、こう書かれていた。

     /  ヽ   
    ' -―-`、    「せりおとあやかへ たいせつなものですので荷物は預かっててください」
  <i ノリノ))) !>   「あやかへ ここのすいしょうはぜんぶあなたがもちなさい」
    i l i ゚ -゚ノi !    「さいごに いつもみまもってます」


・・・これだけ。

 「・・・・・・」

 死ぬ事を想定してたのか?それとも何か他に意味があるのか?
 水晶にしてもどれが祐介とかどれが初音とか書いてない。

 回収した弾数よりも水晶が多いことを考えると、空の水晶もあるのだろう。
 下手したら全部空なのかもしれないし、重要な霊・・・がいるのかもしれないし。

「・・・いつもみまもっています、てのが気になる」

「芹香様には首輪ではなく指輪にした通信機もつけて頂いていたのですが、
 生命反応はありません。但し死亡反応もなく」とセリオ。

「つまり、本当に不明」
「はい」


 頭が真っ白になっている。
 だが、最悪姉は死んだかもしれない。つまり・・・一人だけで戦わないとならない。
 (まああんまり戦力にもなってないが)
 しかし、どうやって凸を防ぐか。防げなければこちらも同じ運命。
 それにあの人。何してくるかいまいちよく分からないからな──
 考えられないけど無理やり考える。するとセリオが口を開いた。

「綾香様。坂上蝉丸と戦っても仕方ありません。問題は凸です。
 坂上蝉丸を倒せなくても、凸を絶滅できればそれで勝利になります」と、セリオは言う。

 まあ、凸そのものはウチの受注。
 だからあまりクライアントの凸を壊したくは無いんだけど・・・

「失礼ですが、そういう事を言っている場合でもないかと思われます。
 最悪の場合、島全体の砲撃が起こり、こちら側も死にます。凸の全破壊も仕方ないかと」

「凸の全破壊ねえ・・・」
仕方ない・・・か。

「でも、その凸を絶滅させる方法って」
「現在、凸は3部隊に別れ、神塚山を目指しているのが衛星でも確認できております」
サテライトが随分完璧に生きてる・・・てか頭よくなってねーかこいつ?

「そして、そこに最低予想数2万体の凸が集結すると思われます
 2万の全軍が纏まるわけです。」
・・・2万の全軍が集結・・・

「現在、天候は良いので、凸の位置のほとんどは捕捉できております。たとえ伏兵を仕掛けたとしても
 上空からは全て把握できます。または、天候が悪くとも位置推定が可能です」
・・・・・・・・つまり・・・・・・


その時、セリオの腹のケロンパが口を開いた。

イルファ:「綾香様。集結して攻撃に出るその直前を狙ってまとめてぶっ飛ばすのが一番効率的っていうのが演算の結論です。」
  綾香:「アンタまだいたんだ」
イルファ:「まだいたのとは失礼ですよ〜私だってこんな状態でも消えたくはないです」


 確かに。凸攻撃はその性質上、一斉砲撃をするには横1列に並ぶ必要性がある筈。
 
 なら、

     凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸

 多分こう並ぶだろうから

   綾→凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸凸→

の方向で貫通弾か何かで攻撃を仕掛ければ、多分ラクだろうなと。

でも山だから

         久
         ■凸≪========→
         ■■凸≪=======→
         ■■■凸≪=======→
         ■■■■凸≪======→       綾

向こうも段差利用してこんな感じで運用するんだろうな。と。




で、一番有利なのは乱戦が狙える接近戦な訳だ。さらに言えば日差しが薄い北から攻めるのが有効か?

 蝉丸と戦わず、ひたすら凸を狙い、1地区の凸を絶滅させてしまえば、そこは安全地帯になる。
 若しくは凸発射のインパクトの際に地形的に一番安全なのは凸と久瀬のいる本陣。
 つまり一気に本拠に突っ込めば、凸との戦いになるだけで凸ビームの一斉放射は受けにくい。
 上手くすれば凸同士の同士討ちになる可能性も秘めてくる。

 でも、正午の凸はやはり危険。かなり格闘テクが必要になるが。。。

しかし、
「私の演算で出した戦術は、近いですがそれではありません」とセリオは言う。

「でも、どうやれば3万体近くある凸を一瞬で倒せ・・・」
言いかけて少し考えた。
「倒せる・・・・方法はある・・・わね」
「はい」とセリオが言う。
                  ナマモノ
セリオとかと違い、あいつらは生物だからな。




 ごそごそとバックの中を見直す。まさに「こんなことがあろうかとバック」。
 その中に、その液体の入ったパックがある。
 プラリドキシムヨウ化メチル等と書かれた袋と、アラミド繊維の巻かれたジェラルミンのケースに
入った二つのケース。両方共にしっかりとした紙の封がされており、
 その中に・・・例の物がある。

「・・・・・サリン、サリン・・・・・・・・・っと」
「なんでそんなもん持ってるんですか〜?!」と腹のド根性生首が泣きながらほざく。

来栖川化薬工業で国家から極秘裏に承った毒ガスと解毒剤一式と毒ガス。
サリンの致死量はこれでも1万人以上の致死量があるものが10ケースある。つまり10万人だ。
あともうひとつのジェラルミンケースが、アラビア語で書かれていた袋・・・炭疽菌。あと解毒剤。

「これ(炭疽菌)、確か誰かに支給品で渡していたやついたはずなんだけど、そこんとこどうなのかな?
 誰が持ったのかまでは分からないからな・・・でも炭疽菌ユーザも結局見ていないし・・・」

「私はそれ持った人間が小麦粉か何かと間違えた説を主張します」というイルファ。

 どこのバ鍵だよ。こんなあからさまに怪しいもん小麦粉と考えるアホがいるかと思うか?普通。

セリオは続ける。
「私には生物科学兵器は通用しません。そして私の機体なら綾香様を担いででも60Kmでの移動が可能ですので
 安全な場所に避難させておいてから先に回り込んで攻撃を仕掛ける事は可能です。
 綾香様も毒ガス用マスクと解毒剤・若しくは抗生物質を使用状態でなら
 対毒ガス戦ではKPS-U1のサポートはまだ有効ですので、戦闘は可能かと」





言ってる事はまあ分かるが、かなり危ない橋だ。そもそも毒ガスも生物兵器も使う予定はなかった。
バトロアは個人対個人戦になる事が多いので、歴代バトロア史でも
対集団用の兵器を使うという事例をあまり見たことない。

ただ、相手が第零種であるなら話は別。KPS-U1でも勝てない位にエルクゥその他の戦闘力が強かった場合、
セリオやKPSからの銃撃で特殊弾頭に詰めて致死量1万人ぐらいの猛毒を一気に叩きつけるという
最後の手段もあったわけで、っていうかそちらを想定していたんだけど。

でもこれ大気汚染とかいろいろめんどい事あるからあんま使いたくないんだけどなーとか
久瀬も一気に死んでしまうんじゃねーかとか、あ、それなら坂神とかいう奴がサポートに回ってるんだから
いいかとも思ったりもして。

そもそも強化兵もサリンも第二次大戦の時の同盟国同士の開発だから恐らく
サリンとは行かなくても対毒ガス戦もマスターはしてるだろうし。
凸を絶滅させても久瀬と強化兵は死ぬ可能性薄いかもしれないなーとも思ったり。
おそらく護衛してるんだろうから。

・・・後遺症は残るかもしんないなー。お互いに。

毒ガス用の解毒剤余分にもってるこちらの方が有利ではあるけど。
セリオだけ単独で走らせるのも手だが・・・こいつ今どこまで信頼できるのかなとも思う。
そもそもセリオであの強化兵に勝てるかというと・・・負ける可能性もある。

せめて2対1で囲めれば・・・


やっぱ、炭疽菌がベストかなって思ってたら、セリオが再度口を開く。
「もう一つの方法もあります。できればそちらの方がお勧めしますが・・・」

まだなんかあったっけ。

その時、「綾香様、報告していいですか」と別の声がした。
イルファ:「今、HMX-13側が演算止めてるからCPUをこっちに使える状態になったんです。
      融合した状態から気になってるんですけど、こいつの演算速度、異常に遅いです。
      それで調べてみたんですけど、13時間34分32秒あたりから断続的にHMX-13クライアントが
      来栖川工業の三基の通信軍事衛星α・β・γに何万回もパスワードのクラック仕掛けてます」

「は?」

あせってるのか、腹のド根性イルファにゲシゲシとセリオが肘撃ちかましているがイルファは構わず言い続ける。
てか機械の汗って・・・

イルファ:「こんなことやってたら演算機能だいぶ落ちるはずですよ。
      別に私のCPU、本来なら要らないです。その作業の為にHMX-13側CPUのほとんどを使ってるから
      私のCPUが別に必要になるんです。だからこいつ動き遅くてポンコツなんですよぉ」

 そのパス・・・多分ここではアタシだけしか知らないものなんだけど・・・ね・・・機密パスワードだし・・・

イルファ:「き・・・緊急スリープは拒否!この・・・・・kscsysのAMTRSというプログラムを起動させるものらしい
      んです、これって何ですか?それとHMX-17側のOSにアタックしてダイナミック・インテリジェンス・
      アーキテクチャーの性能試験みたいな事やってるようなんです〜
      これ明らかに規則違反ですよね!あとセリオハードの再起動何回もやってます!
      戦闘中でも何気にOS書き換えてるんじゃないですか?だからいろいろ不具合がおk」

kscsysのAMTRSって衛星に搭載されている来栖川サテライトキャノンシステム・Amaterasのりゃk・・・・・・


  綾香:「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アマテラス?」
 セリオ:「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
イルファ:「・・・・・・・・・・」
  綾香:「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「へぇ〜」

「13時間・・・・・・ずーっと。ハックしてたんだ。来栖川一族しか知らない、うちの超重要機密を・・・」
「何・・・考えてたのかな?かな?」


機械の額に汗。




【時間:2日目午前11時】 【場所:G−7】

来栖川綾香
 【持ち物:各種重火器、こんなこともあろうかとバッグ(容量減り)
  サリン、プラリドキシムヨウ化メチル、炭素菌、ペニシリン系解毒剤、毒ガス用マスク
  水晶玉、都合のいい支給品、うぐぅ、狐(首だけ)、蝙蝠の羽、
  霊が入った水晶玉とそうでなさそう水晶玉たくさん。区別はつかない】
 【状態:ラーニング(エルクゥ、(;゚皿゚)、魔弾の射手)、短髪】

セリオ
 【持ち物:なし】
 【状態:(;゚皿゚)】
イルファ【状態:言ってやった言ってやった】
来栖川芹香
 【持ち物:大部分を綾香に譲渡。でも何か持ってるかも】
 【状態:死亡?】
-


BACK