あのころと同じ光景




――――――――本当はあの子と出会うのが怖かった…。



第三回定時放送より数十分、鎌石村のB-3民家ではそれぞれが悲しみに包まれ思い思いの時を過していた
北川潤と広瀬真希は夕食を作るために台所に古河親子と岡崎朋也とみちるは居間に。

(なんでみちるは生きてるんだろ…美凪はもういないのに…。)
居間の床に座っているみちるは目の焦点が定まらぬまま思考を張り巡らしていた
横に座っている岡崎朋也はどうすれば良いのか解らずただみちるを見つめることしか出来なかった。
遠野美凪が死んでしまえば自分は存在するはずが無い、しかし今自分が存在している
一体何のために自分は存在しているのか、誰のために存在しているのか…みちるには理由が解らなかった。
「……うにっ!」
みちるは一通り悩んだ末に結論はでなかった、
待っていても何も解らないとにかく自分が動くことが先決だ
…そう思い意を決してキッチンの方へと乗り込んでいく、この島で美凪が最初から最後まで一緒にいた二人の処に…。
(俺は…何をしているんだ…今までみちるのことを考えたことはあったのかよ…。)
キッチンの方へ走っていくみちるを見て朋也は呆然とし何も出来ない自分に無力を感じた、
(朋也くん…。)
落ちこむ朋也を見て渚はどうすれば良いのか解らなかった。

台所では割烹着の北川潤と広瀬真希が晩御飯を作っていた
幸いにも冷蔵庫の中には食材が一通り揃っており、窓の外にはみかん等を入れる赤いネットの中にタマネギが吊るしてあった。
道具にしても通販で流れている、万能包丁やフードミキサー、真空パック調理器等至れりつくせりだった。
ガスコンロの前では真希がテーブルの前では北川がそれぞれの作業をしてる

「……あたし達って、なにやってるんだろうね。」
真希は落ち込んでいた、無事にみちるに合えたしこうして美凪の願いであるハンバーグも作っている、事は順調に進んでいる…しかし何かが違う
真希は両の手でハンバーグの種をキャッチボールして空気抜きをし、
コンロでグツグツと何かを煮ている鍋の中を見ながら自分の相方である北川に話を切り出す
「う〜ん、そうだなぁ。」
不安になる真希の問いに北川は適当に相槌を打ちながら味噌汁の煮干のハラワタと頭を取り除く作業をしている
伝え方にも色んな方法がある、果たして真希にどう伝えて良いものかと脳内で検索している模様だ

真希が何を言いたいことは解るつもりだ、一日と少しの付き合いとは言え真希と美凪との付き合いは数年来の付き合いと代わらないものだった
何処かの誰かが【思い出に時間は関係ないです】と言った時の様に…。
「何かが違う…それにこんな所でこんな事していていいのかってことだろ?」
北川は料理の下準備の作業を止めず真希の問いかけに的確に答える、彼の持っている中鍋の中には昆布と煮干が少しづつ増えていく。
「うん……こんな所で御飯なんか作ってていいのかな…もっとみちるに色々と話さないと…。」
不安になり落ちこむ真希、まだみちるに美凪の事を謝ってもいない…
島での付き合いが長い北川だから解る事だが、普段は勝気だが真希はとても臆病である、心なしか真希は泣きそうだと北川は思う、
これは真希がこの島で合う前からの知り合いにも見せた事も無い言わば北川と美凪だけが知っている真希のもう一つの顔だった。

真希のもう一つの顔を知っているが故、北川はそっと手と昆布と煮干が入った中鍋を差し出しニッカリと笑みを見せて真希を励ます、
「そんな顔で色々と話してもしかたないだろ?お前がそんな感じだと美凪も悲しむし…みちるも落ちこむ、もちろんオレもだ。」
北川の顔を見て真希は元気を取り戻す、真希から見た北川は普段は頼りなく軽く見がちだが
彼は恐怖に立ち向かう決断力と行動力を持っている,柊勝平の時も、ことみの首輪が鳴り出した時も…。
【自分達にしか出来ないことをする】この北川のスタンスは依然に変わらなかった、それが真希が北川の魅力だと思った
そして北川の励ましに真希は応える、同じように白い歯を見せニッカリと笑みを返す真希
「そうね、とにかく料理作っちゃおう!!」
そう言って真希はハンバーグ種をバットに置いて、
煮上がった付け合せの茹でたジャガイモとラディシュとえんどう豆の湯切りをする

北川は真希の笑みを見て安心する、しかし真希への励ましとは裏腹に彼の心の中は不安だった…。
(次の手を打たないとな……。)
みちるが何をどう考えているのか解らない…それが北川の不安だった。
岡崎朋也と古河親子に対して自分達の今までの経緯を説明している最中に放送が始まった…これが問題だった。
その後に済崩し的に台所へ向かった自分と真希…事実みちるに対して説明責任も謝りの言葉も伝えてはいないからだ…。
(オレはともかく…真希だけは…。)
臆病な真希、彼女の心を護りたい…これは自分にしか出来ないことだ、かけがえの無い大切な人…北川はそう思う
そんな北川の不安を他所に自分達の居る台所に向かって足音がトコトコトコと近づいてくる、勿論真希も気が付いている
歩幅は短く早足…狭い日本家屋の構造上大人は走れない…どう考えても子供の足音――――みちるだ。
不慮の事態は突然遣って来る――――消防署の時も、ホテル跡の時も、工場の時も………美凪も殺された時も。
(……成る様に成れってかよ。)
みちるとの対面の段取りを整え切れなかった事に焦りを感じる、最悪の事態は避けたい…それが北川の本音だった。




「みちるちゃん、どうしたの?」
後ろを振り返った真希は台所の入り口にちょこんと立ってるみちるに問いかける
先ほどの放送と美凪の手前もあり真希は遠慮がちだった、対するみちるも多少なりともオドオドとしているように見えた。
「ごめんね…夕御飯もう少し時間がかかるから、もうちょっと待っててね。」
どう考えても拙くぎこちない会話、真希は何を如何話せばいいのか解らない…頭の中は真っ白と言うよりもグルグルと色んな事が回っていた。
いつもの彼女なら数時間前に七瀬彰の死体を見つけた時のように北川の行動を見て合わせるところだがそんな事も忘れている
一方の北川もいつもとは違い真希が会話の流れを先行してしまったので対処に追われている。
そんな二人を余所にみちるは口を開ける…。
「ねえ…おねえちゃん達…。」
おずおずと真希に近づいてくるみちる…二人にはどんな表情か読み取れなかった…。
真希は一旦作業を止めみちるに向き合う、どちらにせよ自分が臆している所をみちるに悟られるわけにはいかない。
「なあに…みちるちゃん…?」
自分の出しているたどたどしい口調を不甲斐なく感じる真希

(ちゃんとしなさいよあたし!こんなのいつものあたしじゃ無いでしょう!!こんなの美凪と出合った時と同じじゃない!!)
ゲーム当初の時の事を振り返る真希

―――この島に連れてこられ一方的に殺し合いを強制され全速力で逃げたあの頃…。

―――あの時に鎌石小中学校の通り道で美凪に出会えなければ…。

―――そして、鎌石村消防署で潤と出会えなかったら…。

ホテル跡で…平瀬村で多くの人たちと出会えなければ自分はここまで来れなかっただろう、
勇気が欲しかった…みんなと同じような踏み出す勇気を…。拳をギュッと握る真希

彼女に出会うのが真希は怖かった………怨み言を謂われても仕方が無いと思いつつも怖かった
出合った頃の美凪が楽しそうに嬉しそうに話していたあの子――――――みちる
想像するだけで怖かった…小さいあの子の口から呪詛の言霊が放たれるのが…。

そして向き合うふたり…北川は手が出せない

…先に口を開いたのは真希よりもみちるだった…。

「あのね………夕御飯、みちるもいっしょに作っていい?」
真希はみちるの一声を聞いたあとに小粒の涙を流す、鎌石村消防署で美凪と御飯を作った時のことを思い出す…
(なにを勘繰りしてるんだろ…あたし、みちるが…この子がそんな事を考えるはずないじゃない…。)
ポロポロと瞳から涙がこぼれ出る真希、自分のあたまの中で勝手にみちるを悪い方向へ考えていた自分を恥じる。
「大丈夫…?おねえちゃん、涙流してるよ…。」
涙を流している真希を心配するみちる、こうしてる間にも周りの空気は湿っぽくなっていく一方だった
(駄目よ!あたし…こんなので如何するの!やっと出会えたんじゃない。)
涙を拭いて自分を鼓舞し頭を切り替える真希、涙といっしょに臆病な心も拭き取る、そして少ししゃがんで身長差をみちると同じにしてに話しかける
「大丈夫よありがとうね、たまねぎの汁が目に入っただけだから。」
「にょわっ、そうだったのか、たまねぎめ〜!!」
バレバレの嘘で誤魔化して笑顔でみちるに語りかける真希、みちるも会話を続けるために真希に合わせていた。
「じゃあ手を洗おうか、でも服が汚れちゃうわね。」
「張り切って手伝うぞ〜!!」
水道の蛇口前までみちるを招く真希、空かさず、みちるのために椅子を持ってきて台座代わりにする
みちるが手を洗ってる間に真希はみちるの長い髪の毛を美凪の頭巾で纏める
そして割烹着を一枚脱いでみちるに着せる、かなりブカブカだったがその辺は腕まくりさせたりしていた。

(やれやれ…オレの出る幕は無いな・・・。)
そのやり取りを微笑ましく見ている北川、みちるに対して怖かったのは真希だけでは無い
真希と同じく北川は自分を恥じていた―――何でもかんでも自分がやればいいと思っていた事に
美凪が死んで取り乱した時の事を思い出す、あの時支えてくれたのは真希だった、―――お互いが支えあって行けることがとても嬉しかった
(大丈夫…真希は強くなった。)
そんな事を思いつつも、真希に対して特別な感情を持っている自分に気付く北川…。
時には落ち込んで、時には泣いて、笑って、怒って、喜んで、そんな真希の表情が一つ一つがとても愛しいと思った。
(真希はオレの事どう思ってるんだろ…。)
ふと疑問に感じる北川…すると!!


「ちょっと、家政夫!!いつまで手を休めてるの!!しっかり働きなさい!!!」
北川が呆けている間に、威勢の良い御姑さんの声が台所に響きわたるハッと気が付く北川
「い〜い?みちる…こいつはあたし達の家政夫だからね、ガシガシこき使っちゃいなさい♪」
「マキマキの家政夫、よろしくな〜!」
いつの間にか意気投合してる真希とみちる、いつの間にか真希はみちるを呼び捨てにしてみちるは真希をニックネームで呼んでる…
「ハイハイッ、久々にこのパターンかよっ!!」
そんな事を言いつつも、美凪といっしょにいた時も今にしてもこの三人の遣り取りが嫌いでは無かった。
「ハイは一回にしなさい…潤!!」
「そ〜だぞ!きたがわぁ〜!!!」
「はいっ!!」
とても微笑ましい光景だった。

何だかんだで楽しく料理をする三人、時間は少しずつ過ぎていった…。
真希は隣でハンバーグの空気抜きをしているみちるを見る、
みちるは最初は悪戦苦闘しながらキャッチボールをしていたが作業を重ねるにつれ、それなりに様にはなっていった…。
いつの間にか北川は台所からいなくなっていた、どうやら真希に気を利かせたみたいだ…台所は真希とみちるのふたりだけだった。
「…みちる。」
真希がみちるの名前を呼ぶ
「なあに真希。」
真希は一旦ハンバーグの空気抜きの作業を止めて、みちるの方を向く…みちるにこれだけは伝えておかないといけないからだ
みちるも一旦作業をやめて真希の方を向く、
「あたしも潤も…みちるに言わなければ成らない事があるの…聞いてくれる…?」
「…うん。」
真希は美凪のことを謝らなければならなかった、そのためにここまで来たのだから。
でもみちるに会って台所で一緒に料理を作ってる間に真希はみちるに対して色々と心が変わっていた。
だから伝えるべき言葉も代わっていた…謝罪の言葉から…。
「ありがとう」
みちるは真希の言葉を笑顔で返した。




時間:二日目・19:00】
【場所:B-3民家】

北川潤
 【持ち物@:SPAS12ショットガン8/8発+予備8発+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発、支給品】
 【持ち物A:スコップ、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有) お米券】
 【状況:真希を手伝う。チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
広瀬真希
 【持ち物@:ワルサーP38アンクルモデル8/8+予備マガジン×2、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)】
 【持ち物A:ハリセン、美凪のロザリオ、包丁、救急箱、ドリンク剤×4 お米券、支給品、携帯電話】
 【状況:ハンバーグ作成中。チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
みちる
 【所持品:セイカクハンテンダケ×2、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)他支給品一式】
 【状況:ハンバーグ作成中】



古河秋生
 【所持品:S&W M29(残弾数0/6)・支給品一式(食料3人分)】
 【状態:情報を整理中、左肩裂傷・左脇腹等、数箇所軽症(全て手当て済み)。渚を守る、ゲームに乗っていない参加者との合流】
古河渚
 【所持品:包丁、鍬、クラッカー残り一個、双眼鏡、他支給品一式】
 【状態:情報を整理中、朋也が心配、左の頬を浅く抉られている(手当て済み)、右太腿貫通(手当て済み、痛みを伴うが歩ける程度に回復)】
岡崎朋也
 【所持品:トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・三角帽子、薙刀、殺虫剤、風子の支給品一式】
 【状態:混乱。マーダーへの激しい憎悪、全身に痛み(治療済み)。最優先目標は渚を守る事】


備考
みちるに美凪の割烹着を渡しました。
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