貫いた信念




急変した来栖川綾香の態度に、場にいる四人の誰もがすぐの反応を取ることができなかった。
その内の一人、吉岡チエが倒れゆく様の現実感の無さに長岡志保は呆然とするしかなかった。

「・・・・・・よっち!?」

渇ききった、自身でも驚くくらいの痛みが喉に走るが、それでも志保は喉を潤すことに優先事項を置かなかった。
すぐ隣、銃声、構えているのは来栖川綾香。倒れた彼女、その腕にはしっかりと青いリボンが握られていて。
咄嗟に手を伸ばすが次の瞬間肩を強い力で引かれ、前に進むことができない志保はそのまま後方へと引きずられた。

「アホッ! 何やってんやっ」

肩を竦ませる、耳元で怒鳴られ放心しかけた志保もはっとなる。
そんな彼女の肩を掴んでいたのは、綾香の危険性をいち早く認識していた保科智子であった。
智子はまだ機敏な動作ができあいであろう志保の手を取り、再び銃を構えてくる綾香から逃げるべくそのまま後方の茂みへと走り出た。
それと共に、耐えることなく連続して響き渡る銃声が綾香の容赦の無さを物語る。
志保を引いていては対策を考えることも出来ず、悪くなる一方の状況に智子も思わず舌を打った。

「逃げられると思うんじゃないわよ、クソがっ!」
「ひぃ!」

動く的に対し照準が上手く合わせられないのか、それは牽制の意味にしかなっていない。それだけが逃げ惑う三人にとっては救いだった。
後ろを振り向く余裕もなく、智子も志保もただただ必死に足を動かし続けていた。
と、その時突然後ろの方で綾香が上げたらしき悲鳴が二人の耳をつく。
思わず振り向いた智子の視界、そこにはブイサインを掲げながら追いついてきた花梨の姿を捉えていた。

「や、やった!」
「・・・・・・でかした、笹森さん! このまま一気に逃げ切るでーっ!」

様子から、花梨が何かやらかしたというのは一目瞭然である。
呻いている綾香が走っているこちらに追いつくのは厳しいであろう、今のうちにと智子は走る速度を上げ綾香との距離を伸ばそうとするのだった。





「こ、ここまで来ればとりあえずは大丈夫かな・・・・・・」

はぁ、はぁと息を弾ませた花梨が小さく呟く。
木の幹に腰を降ろした彼女の近く、智子も背を低くし綾香含め他の参加者に気づかれないよう気を配った。
志保も、その輪の真ん中にてつられるように座り込む。
こうして静かな落ち着ける場所に辿り着いたことで、おぼろげだった志保の思考回路もやっと回復することができた。
頭の整理ができるようになったということ、しかしそれは彼女につらい現実を見せ付けることにしかならない。

態度を急変させた綾香は、いきなり牙を向いてきた。
そしてその中で失われたのが、吉岡チエの命であり。
彼女が何故このような強行に出たのかという経緯は分からない、しかしその結果に痛む胸を抑える志保の表情は苦渋に満ちていた。

「笹森さん、あんた来栖川さんに何したん?」
「ん、あーえっと・・・・・・ちょっと危ないかもって思ったんだけど、もうこっちがピンチだったからさ。警棒を、こうね」

志保の様子に気づかないのか、智子は先ほどの花梨の武勇伝に耳をすましていた。
振りかぶるアクション、それが物語る花梨の行為にしてやったりといった感じで、二人は顔を見合わせほくそ笑む。
志保を置いたまま、二人はしばらくそんな話で盛り上がっていた。

「うーん、でも上手い具合に顔に当てちゃったから・・・・・・傷ができたら可哀想かな」
「そんなこと言ってる余裕はなかったんや、それぐらいは自業自得と思ってもらわんと」
「そだね。ああ、でもこれであたしの持ち物は貝殻だけに・・・・・・って、え、長岡さん?」

ようやくと、言えばいいのだろうか。二人の視線が志保へと向けられた。
それと共ににこやかな空気は瞬時に掻き消える、智子も花梨も表情を改め彼女をじっと見つめた。
志保はただ唇を噛み締め、拳を握り締め、そして肩を震わせながら堪えるように地面を睨んでいた。
智子も花梨もかける言葉が見つからないのか俯くことしかできず、そんな中沈黙はしばらく続くことになる。

逆に言えば、しばらくしか続かなかった。
足音が、草木を踏みつける微かなそれが三人の聴覚に一斉に伝わったのだ。
慌てて気配を潜めようとする三人、しかし嫌な予感ほど当たりやすいと言ったもので。
距離的にはまだまだある、しかし流れる黒髪がチラチラと視界に入ることから近づいてきた人物は彼女しかいなかった。

(くそっ、逃げ切れんかったんか・・・・・・っ)

智子の眉間に皺がよる、まともな武器がないのに相手が拳銃では全く勝ち目は望めないだろう。
いざという時のため、それでも装備をしておいた方がマシだろうと思い智子は自身の支給物である捕縛用ネット専用バズーカーを取り出した。
しかしネット弾の残弾が二発しかないという頼りなさに、思わず苛立つ気持ちも込み上がってくる。
そんな時だった。

「ごめん、保科さん。先行ってくれる?」

ぼそっとした小さな呟きを捉え、智子は声の主・・・・・・志保へと、視線を合わせる。
その表情には先ほどまでの憤りを耐え続けた色は全くなく、きりっと前を見据える瞳には意志の強さも伺えるようだった。
思わず絶句する智子、しかしそんな彼女の様子を気にすることもなく志保は言葉を続けてくる。

「逃げてってこと。あたしが足止めしてみる」
「あ、アホ抜かせ! そんなん無茶やろ」
「無茶でも何でもいいのよ、いいから私に任せて行っちゃって。ここじゃあ見つかるのも時間の問題だわ」

確かに、綾香の足取りは間違いなくこちらを経由する道のりを手繰っていた。
しかしそれとこれとは別である、智子からしても志保を犠牲にしてまで逃げ延びようと考えられる訳はなかった。
そう、彼女が次の言葉を吐くまでは。

「・・・・・・あのさ、あたしこれで二回目なのよ。もうこれ以上、自分のせいで誰かが死ぬ姿見るなんて真っ平なのよっ」

その言葉が、先ほど涙しながら打ち明けられた話に繋がると言うことを、頭の良い智子が気づかないはずがない。
だから、志保の台詞に対し。智子は、それ以上何も返せなかった。

「ううん・・・・・・それ以前に。今度は、自分で後始末くらいはしなくっちゃ」

すくっと立ち上がる志保、最後のは自分に言い聞かせたものだったのだろう。
もう今の彼女は、隣にいる智子も花梨も視野には入れていなかった。

「長岡さん!」

智子が叫んだ時には、既に志保は駆け出していた。
デイバックから取り出したナイフを利き手に握り締め、まだこちらに気がついていない綾香へと向かい猛然と走りこんだ。

(住井君、悪いけど力を貸してくれるとありがたいわよ・・・・・・っ)

それは、志保が生前の住井護から譲り受けた投げナイフだった。
護身のためにと自らの支給品を分けて合った護と志保は、間違いなく仲間であり、かけがえのない絆を持っていた。

そんな護を、自身の不注意により失った志保。
そして、今度はチエさえも。
知り合いだからと気軽に声をかけたせいで、綾香という人殺しと接触する機会を作ってしまったということ。
そのせいで智子や花梨まで命の危機を脅かされているということ。
・・・・・・ケアレスミス、それらは全て志保が要因となって起こった事象だった。

時間は巻き戻すことなどできない、しかし志保が取り返しのないことをしてしまったのもまた事実。
だから、志保は蹴りをつけようとした。自身の手で。
カバーをしてくれた柏木耕一と川澄舞の二人はいない、いや、本当は山頂の件も二人に任せず志保が何とかいけないことであっただろう。
それが、彼女の責任だった。

そして今、その償いの時をする機会が現れたのだと。志保は、そう思うことにした。

「やってやるわよ、覚悟しなさい・・・・・・来栖川綾香ぁっ!」

叫ぶ、それと共に静かな森に響いた木々のはせる物音により、綾香もこちらに瞬時に反応することができたようだった。
遠慮なく引かれるS&Wの轟音に対する恐怖心は隠せない、しかしそれでも志保は走ることを止めようとはしなかった。
綾香が引き金を引こうとすると同時に、足を動かしたまま志保もナイフを振りかぶる。
しかし速さでは綾香の方が圧倒的に有利である、放たれた銃弾はしっかりと志保の腰部分を貫いた。

「・・・・・・くっ!」

斜め前に跳ぶことで致命傷を避けること自体はできたが、それが原因となり志保の姿勢は著しく崩れることになる。
綾香も距離を詰め、正確な狙いを改めてとった上で改めてS&Wの引き金を引いてきた。
声は漏れずとも、焼き付くような痛みが肩に広がることで志保はダメージを判断するしかなかい。
さらに一発二発と撃ち込まれ、勢いの削がれたスピードのまま志保は膝をついてしまった。
手にしていたナイフも、いつの間にか取り落としてしまっている。

「あ・・・・・・ぐっ・・・・・・」
「武装の差は最初から分かってたことでしょ。・・・・・・無様ね」

余裕の笑みを湛えながらも、近寄ってくる綾香の姿。
・・・・・・しかし待った、志保はチャンスを待ち続けた。
勝利を確信した彼女なら、すぐに止めを刺さずこちらをいたぶってから殺そうとするに違いないとはずだと、そう思って待ち続けた。

「かっこつけようとしてんじゃないわよ、何、自己犠牲で仲間を救おうとするなんて反吐が出るわ・・・・・・」
「っ!!」

また銃声が鳴る、今度は志保の健康的な太股が赤く染められてしまった。
痛々しい傷跡が視界に入り思わず嘔吐感に襲われるものの、志保はなんとか堪えてそのまま機会を窺い続けた。

「どうせあんたも肝心な所で裏切られるわよ、どうせこの島の人間なんかほとんどが赤の他人なんだから。
 そうよ、そんな奴生かしておけるもんか、死ぬがいいわ弱さを憎みなさい、運を憎みなさい。
 私だってずっと憎み続けているもの、だから憎みなさい、それで・・・・・・」
「寂しい、人ね・・・・・・」
「っ、何よ?」

綾香の呪詛を途中で止め、志保はしっかりと彼女を睨みつけながら言い放った。

「全部がっ、全部、悪い人間だって・・・・・・決め付ける、ことの方がっ、反吐が出るっつーのよ・・・・・・」
「まだ、そんな口聞ける余力が残ってたの? 中々の根性ね」
「うっさい、はぁ・・・・・・なか、まに恵まれなかったのはっ、残念・・・・・・だったわね、でも・・・・・・」

息継ぎをしながらの志保の台詞は聞きづらいものであったが、それでもそこには彼女の信念が詰まっていた。

「あたし等、は、こんな、短い間でも、信じられる大切な・・・・・・大切な、仲間ができたんだからああぁぁ!!」

瞬間、綾香の頬を裂く何かが志保の手から放たれた。
投げナイフ、もう一本あったそれを綾香の顔面に狙いをつけていたようだが、惜しくも掠れるだけで致命傷を与えることは叶わなかった。
しかし、それで何とか一本の糸にて繋がれていた綾香の堪忍袋の緒は、あっという間に断ち切られたことになる。

「なめんじゃ・・・・・・ないわよおぉ!!」

怒声、少女のものとは思えない凄みのそれが、志保が最期に耳にした音だった。





再び静けさが戻った森、そこで綾香は一人地団太を踏んでいた。

「クソがっ! この、この・・・・・・っ!!」

最後の最後でコケにされていたというのが、彼女のプライドを傷つけた。
踏みしめる、すっかり土で汚れてしまった彼女の靴は、そのまま今度は息絶えてしまった志保の体をターゲットに捉えた。

「クソが、クソが! 弱者が私に意見してんじゃないわよ、このっこのっ!!」

いつしか綾香は、このぐにゃっ、ぐにゃっと足の裏に伝わる柔らかさに快感を覚えていた。
そして、踏みつける度に滑稽なダンスを披露する志保の体が、堪らなく面白く感じるようになっていた。

「きゃはっ! あはっ、このっこのっ」
「・・・・・・ええ加減に、せえよ」

夢中だった、だから彼女の接近にも綾香は気がつかなかった。
ぴたりと振り下ろしていた足を止め、綾香は声の出所を探ろうとする。
しかし顔を向けた瞬間、何かが張りつく感覚を得て綾香はそのまま尻餅をついてしまった。
何が起きたか、慌てて立ち上がろうとするものの邪魔をするものがある。
ネット。運動会の障害物競走などで味わうそれが、今綾香を閉じ込め彼女の身動きを封じていた。

「・・・・・・今の私等に、あんたを仕留められる武器はあらへんけど。ここに来て、初めて人を殺したいって思ったわ」

前方から人影が現れ、慌てて目を凝らす綾香。
暗闇の中から現れたのはバズーカーを手にした智子と、目に零れてしまいそうなほどの涙を湛えた花梨だった。

「間に合わへん、かったか」
「長岡さん・・・・・・」

バズーカーにネット弾を装着している間に、二人の攻防は終局してしまっていたということ。
その事実が、二人の心を影を落とす。

「こんなんやったら、形振り構わず援護に来るべきやったわ・・・・・・」

苦虫を噛み潰したような歪んだ表情の智子、花梨は見ていられないといった風に顔を覆って泣き出してしまっている。
そんな二人を、綾香はぼーっと見つめていた。
悔しそうな智子の様子も涙する花梨の姿も、綾香にとっては全て遠くの光景のように思えるものだった。
そう、それはまるで綾香の生きる場所とは全く違う世界。
しかし、かつては綾香のいた世界。
綾香も涙した、悔しさで心を痛めた世界。そこは『奪われた者』しか味わうことのない痛みが充満した、悲しい空気に満ちていた。

・・・・・・奪う側に回った綾香が、今更何を言えた義理ではなかった。
しかし彼女とて最初は巳間晴香を奪われたのだ、残された者の痛みを理解できないわけではない。
ある種の葛藤が込み上げるが、ここで屈する訳にはいかないと綾香も自分に言い聞かせる。

「・・・・・・どうせ、最後は一人になるんだからいいじゃない」

ぽそりと。本心とはまた違うが、それでも自分で決めた道を進むには綾香はこう言わなければいけなかった。

「そのために躊躇して何になるのよ、全員殺してでも生きたいって思わなくちゃ残れる訳ないじゃない」

殺し合いに乗った、今更引き下がるわけにはいかない、そして・・・・・・必ず、奪わなければいけない命があるということが綾香の背に重く圧し掛かる。
智子にも花梨にも、そんな彼女の心が届くことはなかっただろう、二人は無言で去っていった。
綾香に止めを刺すこともなく、憤りだけを胸に抱き。

場に残されたのは捕獲ネットにかかった綾香と、土ぼこりにまみれた志保であった少女の遺体のみであった。
高ぶった精神は既に冷静さを取り戻していて、綾香には自分で起こした現状を受け入れなければいけないという苦悩に襲われる。
・・・・・・これで、綾香が手にかけた人間は四人。うち、知り合いは二人。

「大丈夫、もっと殺せば・・・・・・きっと何も感じなくなるわ」

流れる涙はもうないけれど。
痛む胸をどうすることもできないけれど。
それでも、綾香は前に進むしかなかった。
朝霧麻亜子を殺すために・・・・・・そして、自分を罠に嵌めた新しいターゲット、『春原陽平』を殺すために。

しかしその中で、綾香は新たな恐怖心に襲われることになる。
夢中で殺した、たった今止めを刺したこの少女の命を奪おうとしていた自分の欠損し過ぎている理性が。
熱くなっていたとはいえ、こうまでも残忍なことができたということが。
・・・・・・最後、亡者を弄ぶことで快感さえも生み出していた自身が。
綾香は、恐ろしくて仕方が無かった。





無言が場を包む、そこはかつて志保達四人が彼女を見送った場所だった。
見送られた本人、川澄舞は目の前で横になったまま身動きを取らない少女のことを、呆然と見やっていた。

「・・・・・・よっち?」

白い顔、真っ赤なかつては黄色だったセーターと同じ赤が、地面の土にも染みこまれている。
よろよろと震える足で、舞はゆっくりとチエへの元へと近づいた。

「嘘だろ・・・・・・」

後方、柏木耕一もまさかの場面に気が動転してしまっている。
舞から聞いた話では、チエ達二人は志保の知り合いの元で保護されているはずだった。
しかし、二人が辿り着いた矢先に入った光景が、このチエの変わり果てた姿であり。

「そうだ、長岡さん!」

思い出したように叫ぶ、耕一は脇目も振らず志保の名前を呼び続けた。

「長岡さん、長岡さん! どこだよ、返事してくれよ、長岡・・・・・・」

四方八方、茂みの中を探し出す耕一。しかし、舞はそんな彼を置いたまま、ただじっとチエを見つめていた。
ぺたんと座り込み、まるで眠っているかのようなチエの頬に手を添える舞。
少し冷えてはいるが、それでもそこにはまだ温もりと呼べるものが残っていた。
視線を全身に這わす、すると何か大事そうに握り締めているチエの手が舞の視界に入る。
それは。

「よっち・・・・・・」

別れる前に、舞が託した彼女のリボンだった。
どうしてチエが死んだのか舞が分かるはずもない、表情には浮かばないが舞の心は焦燥感で埋め尽くされていた。
ショックは体にも影響を及ぼしだす、頭がぐらぐらしだし頭痛とはまた違う感覚が突如舞を襲いだした。

「・・・・・・っ!」

受け入れがたい現実からくる不安、舞は縋りたい気持ちで徐に耕一の姿を探そうとする。
しかし舞は気づいていないが、今耕一は志保の姿を探しにこの場から離れていた。
つまり、どれだけ舞が求めようとも、耕一が彼女の元へと走りよってくることはないのだ。

「耕一、耕一・・・・・・」

呟きは暗い闇の中へと瞬時に掻き消えてしまう、舞の思いは届かない。
そんな時だった、一際強い衝撃が舞の頭の中を走り抜けたのは。
思わず目を瞑る舞、その瞼の裏に映し出される光景、何故か明確な映像がいきなり舞の中に流れ込んで来る。

それは、まだ舞と二人だけで牛丼を食べていた時のこと。
今では懐かしい思い出、しかし舞の知る『あの時間』ではなかった。



――倒れゆく、チエの姿

――女が手にしているのは、血の滴るバタフライナイフ

――挑発、女の顔は自信に満ちていた

――そして。真っ赤な長い髪を揺らしながら、女は向かってくる



(誰に・・・・・・私に?)

生まれる疑問、しかしその問いに答えられる要素は舞の中に存在しない。
そして、そんな中途半端なシーンで映像はいきなり途切れるのだった。
目を開ける、先ほどと同じような月の光しか届かない暗い森が舞の視界に飛び込んでくる。
隣にはチエの死体、そう、そこは何も変わらない風景だった。

「今の、な・・・・・・に・・・・・・」

疑問は増すばかり、そのうち考えること自体を舞の体は拒否しだす。
おぼろげになっていく意識、霞む視界、頭がぐらぐらとした感覚は今もまだ連続的に襲ってくる。
舞が意識を失ったのは、それからすぐであった。





その頃耕一も、受け入れがたい現実に襲われ涙していた。
土に汚れた志保の体にはいくつもの銃痕があった、明るくはしゃぎ回った彼女の面影は皆無である。
すぐちかくには、ナイフか何かで裂かれた跡のあるネットが丸まっていた。
・・・・・・志保の身に何が起きたか、耕一が知る術はない。

初めて出会った時、変態扱いされ困ったのが懐かしかった。
後輩の子というのに襲われている彼女を助け、一緒に行動を取るようになったのも随分昔の事に思えた。

そして、一緒に牛丼を食べたあの微笑ましい、和やかな時間が今では嘘のように幸せに思え。
ただただ、悲しみが耕一の中を満たしていく。

結局、あの五人の中で残ったのは舞と耕一だけであった。






【時間:2日目午前4時半】
【場所:E−5北部】

来栖川綾香
【所持品:S&W M1076 残弾数(0/6)予備弾丸22・防弾チョッキ・特殊警棒・投げナイフ×1・支給品一式】
【状態:ゲームに乗る、疑心暗鬼気味、腕を軽症(治療済み)。
    麻亜子とそれに関連する人物の殺害、『春原陽平(北川が名乗った偽名)』の殺害】

保科智子
【所持品:専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾(残り1発)、支給品一式】
【状態:逃亡】

笹森花梨
【所持品:海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)】
【状態:逃亡】

柏木耕一
【所持品:トカレフ(TT30)銃弾数(1/8)・500S&Wマグナム(残弾数0)・大きなハンマー・他支給品一式(水補充済み)】
【状態:号泣、誰も殺さない、右腕軽症、柏木姉妹を探す】

川澄舞
【所持品:日本刀・他支給品一式(水補充済み)】
【状態:気絶、誰も殺さない、祐一と佐祐理を探す】
【備考:髪を下ろしている】

長岡志保 死亡

チエの支給品はチエの死体傍に放置、
そこから少し離れた場所に、志保の遺体と支給品(新聞紙、他支給品一式)、投げナイフが放置されている
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