伝令




放送が終わり、室内は沈鬱な空気に包まれていた。
それがこの場にいる五人の仲間の心境を表していた。
折原浩平はぼんやりと四人の表情を眺める。
「あのClass Aのいくみんが……いくみんいくみんいくみん……」
高槻は悲しそうに何事かブツブツと呟いている。
湯浅皐月も立田七海も手で顔を覆い泣いている。
小牧郁乃は……知り合いがいなかったように見受けられるが、死者の多さに衝撃を隠しきれないようだ。

(住井も先輩も澪も死んでしまったか。先輩達はハンディがあるだけに一刻も早く身柄を確保したかった)
浩平は川名みさきと上月澪の顔を思い浮かべ、頭を抱え打ち震える。
先ほど出会った古河秋生達に消息を聞いておくべきたっった。
(長森、どうか無事でいてくれ。七瀬も茜も……)
特に付き合いの長い長森瑞佳のことが心配でたまらなくなる。

「折原、今から至急役場へ行って古河のオッサンに会って来てくれ」
瑞佳の身を案じていると、突然が声がかかった。
「で、用件は?」
「作戦会議をすると言ってくれ。上手く言いくるめて奴らをここへ連れて来るんだぞ。俺は怪我してるから動けないとな」
高槻は気分を切り替え現実に対処しようとしていた。

鎌石村役場はここから約二キロほどの距離にある。
さほど遠くなく、瑞佳達の消息を知るには渡りに船だった。
しかし外は薄暗く、安全のためにももう一人同行者が欲しい。
浩平は三人の少女達を見回し──
「もう一人誰か……立田、俺と来てくれないか?」
「私ですか? いいですよ」
七海は二つ返事で了承した。
「確か銃持ってなかったよね。あたしの持って行くといいわ」
そう言って皐月はS&W M60と予備弾を握らせる。
「わあ、ありがとうございます」
ウインクして微笑む皐月を後に、二人は荷物を手に夕闇の中へと歩き出した。

「あたしは隣の部屋で寝てるから、何かあったら起こしてね」
「おお、気を利かしてくれて悪いな。永遠にお寝ねんねしてていいぞ、と」
高槻は洒落にならない冗談を浴びせる。
「なんですって? 永遠ってさあ、貴方……」
「皐月さんの気持ち考えてあげなさいよ。まったくもう、しょうもないこと言って……」
「本気にすなーって。ちゃんと熱いキスで起こしてやるかさらあ。そのスレンダーな体一面にキスマークつけてやるぜい」
「ハイハイおじゃま虫は消えるから。でも盛りのついた猫みたいな声上げないでね」
皐月は頬を膨らましながら後手にドアを閉め、布団に潜り込む。
目を閉じると瞼の裏にありし日の那須宗一の笑顔が浮かんだ。
「宗一の馬鹿。どうして死んじゃったのよう。あたしどうしたらいいの? はうぅ……」
枕を抱き締めながら皐月はすすり泣いていた。



「永遠はあるよ、ここにあるよ、っていうじゃないかあ、いくのん。昨日の夜の続きをしようぜい」
「昨日の夜の続きって?」
「無学寺で宮内の巨乳に邪魔される直前のことに決まってるじゃないか」
郁乃の顎に手を据え、顔を近づける高槻。
「えっと、何だっけ。……あっ、急にそんなこと言われても……」
何のことか理解した途端、郁乃の頬が朱をさすように赤く染まっていく。

「シャイな俺の手が勝手に動いていくぞぉっ。これははたまた不可視の力なのか。かっぱ海老煎と同じ止まらないぃ〜」
「あっ、ちょっとそんなところ……やん、駄目ったらぁ、このヘンタイ……」
「俺様が検診をして悪いところを見つけてやろう。車椅子ばっかだと足が駄目になるから秘口を突いてみような」
指技で女をとろかすのは朝飯前のことだけに、郁乃が陥落するのに時間はかからなかった。
「はああぁ……あふう、あたし、体が熱い……」
それまでの生意気な性格はどこかに消え去っていた。
二言三言囁き合うと、密室に二つの影が重なった。

「どうして私を指名したんですか? 銃の腕なら皐月さんの方が上なのに」
「うん、何というか……小さい頃死んだ妹に印象が重なってな。立田といっしょに行ってみたくなったんだ」
隠すようなことでもなく正直に意図を伝えておくのがいいだろう──浩平はそう思う。
「はあ? それって喜んでいいんでしょうか」
「素直に受け取っておけって」
「ありがとうございまーす。あはっ」
七海は浩平の腕にしがみつき喜びを臆面もなく表した。
「おい、ここは戦場だぞ。はしゃぐのはほどほどにな」
「すみません。私ったら──」
「ま、腕じゃなく手を握ってくれ。これなら緊急時にも対処できるから」
「はい。では……」

これで良かったのかもしれない。
七海の憔悴ぶりを見るにつけ、どうにかして気を紛らわしてやりたかった。
そうは言っても浩平自身、悲嘆に暮れていることからどう慰めたらよいかわからない。
単純になんとなくいっしょにいてやりたいと思っただけである。
ただ夜の危険地帯を歩くのは考えものではあるが……。

握り合った手を通じて七海の温かさが伝わってくる。
少し強めに握ってやると彼女も同じように握り返す。
小さくて柔らかく、温かい七海の手。
浩平は目頭が熱くなるのを覚え、夜空を見上げる。
(みさおも生きてたら今頃は立田みたいな感じだろうか。……みさお、おにいちゃんに力を貸してくれ)
二人は手を繋いだまま黙々と歩き、秋生達が居るはずのない役場へと向かっていた。




【時間:二日目・18:15】
【場所:C−4街道】
折原浩平
 【所持品:S&W 500マグナム(4/5 予備弾7発)、34徳ナイフ、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)、支給品一式】
 【状態:頭部と手に軽いダメージ、全身打撲、打ち身など多数。両手に怪我(治療済み)】
 【目的:秋生との連絡、鎌石村役場へ】
立田七海
 【所持品:S&W M60(5/5)、M60用357マグナム弾×10、フラッシュメモリ、ほか支給品一式】
 【状態:健康】
 【目的:秋生との連絡、鎌石村役場へ】

【場所:C−4一軒家】
高槻
 【所持品:コルトガバメント(装弾数:6/7)、分厚い小説、コルトガバメントの予備弾(6)、スコップ、ほか食料以外の支給品一式】
 【状態:全身に痛み、中度の疲労、血を多少失っている、左肩貫通銃創(簡単な手当て済みだが左腕を動かすと激痛を伴う)。ラブラブモード】
 【目的:最終目標は岸田と主催者を直々にブッ潰すこと】
小牧郁乃
 【所持品:写真集×2、車椅子、ほか支給品一式】
 【状態:首に軽い痛み、車椅子に乗っている。ラブラブモード】
湯浅皐月
 【所持品1:H&K PSG-1(残り0発。6倍スコープ付き)、自分と花梨の支給品一式】
 【所持品2:宝石(光4個)、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、手帳、ピッキング用の針金、セイカクハンテンダケ(×1個)】
 【状態:性格反転中、首に打撲、左肩、左足、右わき腹負傷、右腕にかすり傷(全て応急処置済み)。すすり泣き】
ぴろ
 【状態:ポテトとじゃれ合っている】
ポテト
 【状態:ぴろとじゃれ合っている、光一個】

【備考:浩平の要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図は家に保管】
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