闇に潜む修羅




空は不気味な漆黒の色で覆い尽くされていた。
この島で殺し合いが行われているのが疑わしくなるくらい、辺りは静まり返っている。
そんな中、春原陽平とその仲間達は脇目も振らず、平瀬村を目指していた。
駆ける足を緩める事は無く、生い茂る木々が視界の隅を通り過ぎてゆく。
首輪を外せば全てが終わる訳では無い。主催者にどう対抗するか・脱出の為の移動手段など、他にも問題はある。
しかしとにかく首輪さえ何とかすれば、もう殺し合いを続ける意味など無くなる。
首輪を解除出来るという確かな証さえ示せば、あの来栖川綾香のような凶悪な者以外は、協力してくれる筈だ。
確実なる死という絶対的な強制力さえ排除してしまえば、いくらでも手の打ちようはあるのだ。
――走った。一刻も早く、首に取り付けられた枷から解放される為に。
――走った。一刻も早く、この哀しい殺戮劇に幕を下ろす為に。
やがて長い森を抜け、大きく開けた視界に平瀬村の風景が飛び込んできた。
まだ中心部には達していないので、民家は言い訳程度に点在してあるだけだった。
だが簡単な工具を探すだけならそれで十分。少し探し回ればすぐに見つけることが出来る筈だ。
陽平は周囲の様子を見渡した後、隣にいるるーこへと視線を移す。
「やっと着いた……ね。どうする?」
「時間が惜しい。二手に分かれて探すぞ」
決断は一瞬。戦力を分散すれば、襲撃を受けた際に不利になるのは否めない。
だが四人纏まって動いた場合に比べ、捜索時間を半分近くにまで縮めれるだろう。
ここで費やす時間が長くなればなる程、自分達も教会にいる仲間達も、危険に晒される可能性が高くなるのだ。
すぐに全員が頷き、陽平とるーこは左に見える民家へ、観月マナと藤林杏は右に見える民家へ走り出した。



杏とマナはすぐに一件の家屋に辿り着き、慎重な足取りで玄関から侵入する。
杏はRemington M870を握り締める自身の手が、汗でじっとりと湿っているのに気付いた。
グリップを握る指が滑っては堪らないので、何度も制服のスカートで拭いた。
先程陽平が見せた、悲壮感さえ覚える程の真剣な顔が思い出される。
このゲームにおいては、お調子者の陽平ですら別人のように変貌してしまう。
それは何時殺されてしまってもおかしくない戦場では、寧ろ当然の変化なのだ。
(落ち着きなさい、あたし。焦ってもどうにもならないんだから……!)
高まる心臓の動悸を抑えるよう、自分に言い聞かせる。
先を行くマナの後に続いて大きな居間に侵入し、そこに置かれているタンスを一段一段調べてゆく。
素早い動作で全ての段を調べ終わったが、工具らしき物は見当たらなかった。
「駄目……無いわ。マナ、そっちはどう?」
「こっちも外れよ。次の部屋に行こっか?」
部屋の隅々まで探した訳では無いが、あまり細かく探していては無駄に時間を食う。
それに一般的な家庭ならば、わざわざ分かり辛い場所に工具を隠したりはしないだろう。
杏達は早々に居間での捜索を諦め、次の部屋へと移動を開始した。



(むふふ、潜入成功っとね)
杏とマナが必死の捜索を続ける民家へ、限りなく無音に近い動作で侵入する少女の名は朝霧麻亜子。
四人を同時に相手すれば、今の装備では勝算が薄い。奇襲で一人は倒せるにしろ、残る三人に倒されてしまうだろう。
麻亜子がそう考えていた矢先に、何と敵は自分達の方から分散してくれた。
麻亜子は陽平達が二手に分かれたのを見て取り、攻撃の対象を杏達へと絞ったのだ。
――銃火器を強く追い求めていた彼女だったが、今回ばかりはボウガンの利点に感謝せざるを得ない。
たとえ家の中であろうと銃を撃ってしまえば、轟音は周囲一帯に響いてしまうだろう。
しかしボウガンならば、家の外まで音が漏れはしない。上手く奇襲を繰り返せば、一人で敵を全滅させられる。
そして、ここまで生き延びてきた者を四人も倒せば、綾香に対抗出来るだけの装備が得られる筈だ。
(人数の差が戦力の決定的差では無い事を、教えてあげようではないか)
薄暗い闇の中に溶け込み、自身を修羅と断じた少女が足を踏み出す――
  
 *     *     *    *

修羅を追う者――復讐鬼来栖川綾香は民家に程近い茂みで、選択を強いられていた。
尾行の最中、レーダーに映っている四つの光点が突然足を止めたのだ。
不審に思い少し距離を詰めると、陽平の一団が二手に分かれ民家に駆ける姿が見えた。
それを好機と取ったか、怨敵である朝霧麻亜子も遂に積極的な行動に出た。
麻亜子が追っていたのは、陽平やるーことは別の参加者達だった。
ここで綾香の頭の中に、ある一つの考えが浮かび上がった。
折角麻亜子が敵の片割れを襲撃しにいったのだ、この隙に陽平への報復を済ませるべきではないか?
好き勝手に罵詈雑言を浴びてきた陽平は、麻亜子程では無いにしろ憎憎しい存在だ。
徒党を組んでいるあの男を殺す好機は、今を置いて他には無いだろう。
勿論それは余分な欲望であり、最優先目標を果たす為には必要の無い行動である。
マシンガンやミサイルを使用すれば、麻亜子は綾香が居る事に気付いてしまうに違いない。
そうなってしまえば、たとえレーダーがあるとは言え、次も同じように尾行出来るかとうか分からないのだ。
二兎を追う者、一兎も得ずという言葉もあるが――偽善者を叩き潰すのは、愉悦の極みだろう。
博打に出るか、確実に麻亜子への復讐を遂行するか。
運命の賽が、綾香の手に握られていた。




【時間:2日目・20:00】
【場所:g-2右上】

朝霧麻亜子
【所持品1:デザート・イーグル .50AE(1/7)、ボウガン、サバイバルナイフ、投げナイフ、バタフライナイフ】
【所持品2:防弾ファミレス制服×2(トロピカルタイプ、ぱろぱろタイプ)、ささらサイズのスクール水着、制服(上着の胸元に穴)、支給品一式(3人分)】
【状態:マナ達がいる方の民家に侵入、マーダー。スク水の上に防弾ファミレス制服(フローラルミントタイプ)を着ている、全身に痛み】
【目的:目標は生徒会メンバー以外の排除、特に綾香の殺害。最終的な目標は自身か生徒会メンバーを優勝させ、かつての日々を取り戻すこと。】

来栖川綾香
【所持品1:IMI マイクロUZI 残弾数(25/30)・予備カートリッジ(30発入×2)】
【所持品2:防弾チョッキ・支給品一式・携帯型レーザー式誘導装置 弾数1・レーダー(予備電池付き)】
【状態:右腕と肋骨損傷(激しい動きは痛みを伴う)。左肩口刺し傷(治療済み)】
【目的:外で思考中、麻亜子とささら、さらに彼女達と同じ制服の人間を捕捉して排除する。好機があれば珊瑚の殺害も狙う。】

ルーシー・マリア・ミソラ
【持ち物:H&K SMG‖(6/30)、予備マガジン(30発入り)×4、包丁、スペツナズナイフ、LL牛乳×6、ブロックタイプ栄養食品×5、他支給品一式(2人分)】
【状態:陽平と同じ民家の中で工具捜索中、綾香・主催者に対する殺意、左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み、裂傷の傷口は概ね塞がる)】

春原陽平
【持ち物1:鉈、スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2、LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、他支給品一式(食料と水を少し消費)】
【持ち物2:鋏・鉄パイプ・首輪の解除方法を載せた紙・他支給品一式】
【状態:るーこと同じ民家の中で工具捜索中、全身打撲(大分マシになっている)・数ヶ所に軽い切り傷・頭と脇腹に打撲跡(どれも大体は治療済み)】

観月マナ
 【装備:ワルサー P38(残弾数5/8)】
 【所持品1:ワルサー P38の予備マガジン(9ミリパラベラム弾8発入り)×2、カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)、9ミリパラベラム弾13発
入り予備マガジン、他支給品一式】
 【所持品2:SIG・P232(0/7)、貴明と少年の支給品一式】
 【状態:杏と同じ民家の中で工具捜索中、足にやや深い切り傷(治療済み)。右肩打撲】

藤林杏
 【装備:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾(12番ゲージ弾)×27】
 【所持品:予備弾(12番ゲージ弾)×27、辞書×3(国語、和英、英和)、救急箱、食料など家から持ってきたさまざまな品々、支給品一式】
 【状態:マナと同じ民家の中で工具捜索中、平瀬村で工具を探す、最終目的は主催者の打倒】

ボタン
 【状態:健康、杏の鞄の中に入れられている】
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