放送が終わるとあたりには何事もなかったかのように、ただ波の音だけがしていた。 浜辺に座り込む坂上智代、里村茜、柚木詩子の三少女はそれぞれがあらぬ方向を向いたまま呆然とする。 彼女達の仲間の川名みさき、幸村俊夫、相良美佐枝、藤田浩之の名前があったからである。 半日ほど前まで共に行動し、姉御的な存在だった美佐枝の死は詩子に大きな衝撃を与えた。 (美佐枝さんもで死んじゃったんだ。もう会えないなんて、こんな悲しいことをあたしは知らなかったよ) 「……ううっ、うぐっ」 すすり泣く声の方を向くと智代が泣いていた。 彼女にとっても美佐枝は大事な知り合いということは聞いている。 悲しみに暮れる中、柏木千鶴の死は唯一の吉報といえるものだった。 七瀬留美と話し合い、可能なら説得すると合意したが恐らく無理だろうとは思っていた。 あの超人的な俊敏さと弩力を二度も目の当たりにしただけに、思い出すだけでも体が震える。 まともに戦っても勝ち目はなさそうだった。 (もしかしたら美佐枝さん達が命と引き換えにやっつけてくれたのかもしれない) 前向きに考えるべく、智代に声をかけようとしたところ── 「くそぉっ!」 目の前を手斧がクルクルと回転しながら飛んで行き、林の中の一本の木に刺さった。 「軽挙に走ってはなりません!」 茜が珍しく声を荒げた。 「わかってる。わかってるが──」 「斧を取って来るんです! 今襲われたらどうするんですか? 銃を持ってるのは詩子だけなんですよ」 「智代のやるせない気持ちを理解してあげなよ。茜だって司が居なくなったからわかるでしょ?」 「今……なんて言いました?」 目を丸くし口をポカンと開けたまま茜は次の言葉を待つ。 「あれ、司って誰だっけ? あたし何言ってんだろ。うーん……」 思わず口にした茜の想い人──城島司のことを思いだそうとする詩子。 しかし頭の中の引き出しが引っ掛かっているような感じに加え、思い出そうとすると頭痛がする。 「思い出してくれたんですね? ねえ、あの人のこと思い出してくれたんですね?」 「……ごめん、なんだか頭痛くなってねえ。あたし混乱して別の人と間違えたのかな」 「女の子が倒れてる。こっちに来てくれ」 突然林の中から声がかかり、茜と詩子は身内話を中断し智代の許へと走る。 「なあっ、死んでる」 駆けつけてみると、眼鏡をかけ目を見開いたまま事切れている少女が仰向けに倒れていた。 その少女、保科智子が九時間前この地で少年と死闘を演じたことなど智代達は知る由もない。 詩子は智子が手にしているバズーカ砲に注目した。 「こんな大層な武器、扱えるのだろうか。……取説取説っと」 同じことを智代も考えていたようで、さっそく取扱説明書を見始める。 「弾は一つだけ。あとは拳銃弾らしいものがいっぱいありますよ。ざっと五十以上」 「この砲弾やけに軽いよ。茜も持ってみて」 「……残念ながら爆発能力はないようだ。中に入ってるのは網らしい。用途は捕縛だそうだ」 「網だって。だっさ」 失笑が漏れ、重火器を手に入れた快哉は糠喜びと終わった。 「他に誰か犠牲者がいないか調べてみましょう」 茜の提案を受け付近を捜索していると、智代の悲痛な声が聞こえた。 「この人が智代の言ってた先生なわけ?」 「そうだ、幸村先生だ。先生の性格からしてゲームに乗るとは到底考えられない」 「あの女の子と行動を共にしていたのでしょうか?」 「たぶんな。手違いで同士討ちしたとも考えられぬ。何者かに襲われて命を落としたのだろう」 「じゃあ、船で死んでた女の人との関わりは?」 智代も茜も答えられず黙りこんでしまった。 その後捜索範囲を広げてみたものの、犠牲者は見つからなかった。 時間も遅く、迫り来る夕闇が彼女達の活動を消極的にさせる。 三人は幸村を智子の隣に寝かせ冥福を祈った。 「先生、見知らぬあなた。今はしてあげられるのはこれが精一杯です。許してください」 智代は遠ざかりながらも、後ろ髪を引かれるように何度も振り返るのであった。 【時間:二日目・18:30頃】 【場所:C−2の砂浜】 坂上智代 【持ち物1:手斧、LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、食料1食分(幸村)、他支給品一式(食料は残り1食分)】 【持ち物2:専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾(残り1発)、38口径ダブルアクション式拳銃用予備弾薬69発ホローポイント弾11発使用】 【状態:健康】 里村茜 【持ち物1:包丁、フォーク、他支給品一式(食料は残り1食分)】 【持ち物2:LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、救急箱】 【持ち物3:食料二人分(由真・花梨)】 【状態:健康】 柚木詩子 【持ち物1:ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)、鉈、他支給品一式(食料は残り1食分)】 【持ち物2:LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、食料1食分(智子)】 【状態:健康】 【目的:鎌石村へ】 - BACK