天才科学者とオーパーツ、生徒会長と放送者と俺




――考えろ。考えるんだ。
これはあの忌々しい兎共が生んだ油断。
この相手の油断を最大限活用するんだ。
ハッキングをしてきたから僕にこれを渡したと言った。
つまり今生き残っている参加者の中には首輪解除のハッキングが出来る位の技術を持った人間がいるということ。そしてここは孤島。首輪を解除しても帰る手段など無い。
この殺し合いで優勝するつもりの人間には首輪の解除技術など必要ないはず。
つまりこれは主催者妥当を掲げた人間がやったことのはず。
――ああ分かっている。穴だらけの理論だ。兎が油断でこれを僕に渡した確証はないし殺し合いをするものがハッキングした可能性だって否定できるもんじゃない。しかしハッキングの技術を持った人間などそうそういないはず。
僕が出来るのはこのまま黙って殺し合いを見守るか、裏切られる覚悟でハッキングした人間に連絡を取るか、それとも兎の言っていた掲示板で忠告を残すかだ。
馬鹿馬鹿しい。
座して見守るなど出来るものか!
最早相当数な人間が死んでいる。
相沢君も川澄君も既に……
止めるんだ。
止められる可能性の高い行動をするんだ。
0%で無くなった。僕は止められる可能性を手に入れた。
この可能性を尽くせ。
全面的に信頼するんだ。僕一人で解決できることじゃない。
このパソコンは兎共に見られているとみて良いだろう。
その上で正しい情報を送りハッキングした人に信じてもらうんだ。
――――――――よし。
いこう。



『メールが届きました』
「?」
メールが届いた?
そんな馬鹿な。
誰が使っているかも分からないパソコンに対してメールが届いた?
「珊瑚ちゃん……これ……」
「うん……」
メールのタイトルは『放送者よりハッカーへ』
! 
ハッキングがばれている!?
珊瑚ちゃんは一瞬の逡巡を挟んでメールを開いた。


『はじめまして。久瀬というものです。
はじめに断っておきますが、僕は主催者達を心底憎んでいます。
出来るならこの殺し合いを止めたいと思っています。
僕は貴方達がこの殺し合いを止めようとしていると信じてこのメールを送ります。
貴方達からでは僕が本当に主催者側でないのかは分からないと思います。
ですから僕は唯貴方達に情報を送ります。
それらをけして鵜呑みにせず、自分で考えて行動してください。
僕が誤った情報を掴まされている可能性も在ると言うことも覚えておいてください。
主催者達は貴方がハッキングしたことに気付き、僕にこのパソコンを渡しました。
恐らくこのパソコンでした行動は全て主催者に筒抜けでしょう。
あの兎共が僕にパソコンを渡したら僕がどう行動するか、予想しないはずがありません。
それでもあの兎は僕にパソコンを渡した。
理由を尋ねたら
『うん、簡単に説明するとね。こちらの施設にハッキングを仕掛けた参加者がいてね。
殺し合いで何が起ころうとも介入するつもりはない――ああ、一部の例外の参加者もいたけどね。だが基本的にすべてを黙認することにしている。
ゲーム内には確かに首輪の解除を示唆したものはあり、それで解除なりするのは一向に構わないのだがそれはあくまで彼らが"ルールに則ってる場合"に限る。
ハッキングなどによる私たちに不利益を齎すもので得られることではないんだよ』
と言い、
そして最後に
『――希望と、より深い絶望を……かな』
と答えました。
僕がもがく姿を見たいだけなのかもしれませんが、他にも意味があるかもしれません。

主題です。
ここは絶対に軽んじないで下さい。
あの兎はハッキングで首輪の解除方法を見られた事に対して『気づくのが早かったおかげで侵入者はダミーを持っていって満足しているようだけどね』と言いました。
事実かどうかは僕からは分かりません。
しかし、兎は『解除ではない。起爆用の手順を踏んだもの』と言いました。
これがもし事実だった時貴方が首輪を解除しようとしたら爆発してしまいます。
もしかしたら本当の解除方法を貴方が手に入れてそれを兎共が何とかしようと僕にパソコンを渡して貴方達に思いとどまらせようとしているのかもしれません。
考えてください。
心当たりがあるなら十全に考えてからしてください。
これそのものが主催者側の罠であるかもしれませんが、僕は僕に出来ることをします。
判断は任せます。
生き残ってこの島を脱出してください。

最後にこのパソコンに入っている情報の一部を添付します。
役立ててください。
そして、この無益な争いを止めてください。
それでは。』



……………………メールを見終わって、一息つく。
珊瑚ちゃんも久寿川先輩もゆめみさんも何も喋らない。
――もしこれが本当だったら、俺達は九死に一生を得たことになる。
「珊瑚ちゃん……これは……」
珊瑚ちゃんの指が唇に当てられる。
「これ……なんなんやろ。ゆめみ? それで左腕以外は大丈夫なん?」
「あ……は、はい。左胸に穴は開いていますが動かすのに支障は無いようです」
「やとしたら……うーん……」
『待って。これがウチらに送られてきたとして、ウチらの正体が主催者にばれてるとは限らん。もしかしたらハッキングした奴を炙り出す為にやってるのかもしれへんしな』
あ……!
しまった。完全に失念していた。
ここで動きを見せたりメールについての会話をすること自体が罠かもしれない。
この久瀬とかいう人がこちらの状況を知らずに善意でやったとしてもそれが主催者の狙いだったら最悪だ。
……こちらの首にはまだ枷が付いているのだから。
『だとしたら貴明さん、このメールから得られる情報をここで考えるほうが先決じゃないかしら』
『わたしもそう思います。無駄に出来る時間はありませんが、これは大きなチャンスです』
……うん。その通りだ。主催者がこちらを特定したいのだとしたら現状こちらの正体は割れていないことになる。
それでなくてもこのメールから読み取れることは数多くあるはずだ。
書いてあることからも、無いことからも。
『うん。そうしよう。大前提として主催者は絶対悪であると仮定する。もう一つ。これが完全に無意味な気紛れな行動で無いとする。でないと考える意味がなくなるから。そこからはじめよう』
皆一様に頷く。

取り敢えず簡単なところからはじめてみよう。
『久瀬って言う人がこちらの敵と仮定する。その時久瀬と主催者の目的は何だと思う?』
『私達の、つまりは姫百合さんの特定が第一じゃないかしら。こちらが割れていないとすれば、だけど』
『もっと単純に得られた情報が誤情報だと錯覚させての時間稼ぎかも知れません。ですが』
その後を引き継ぐ。
『うん。もし俺達が誰かを犠牲にするつもりで外すのなら主催者にとってこんなことをする意味は無くなる。こんなことやりだす主催者が俺達の善意に甘えるような行為をするとは考えがたい』
こんなことを平然と考えるあたり俺も壊れてきたのかな。
半ば自嘲気味に考えてみる。
『寧ろ情報が俺達に来る分主催者が不利になるだろう。でもやっぱり時間を稼ぎたいだけと言う可能性はあるけどね』
他に何かある?
眼で問うけど少なくともすぐ出てくるような意見はもう無いようだ。
と、珊瑚ちゃんが何か書く。
『ないことないけど、これは後にする』
『分かった。じゃあ、次。久瀬が反主催者としたときの目的。このときは主催者と久瀬は別の目的で動くことになるけどね』
『正直なところ、私はこっちだと思うの。久瀬さんの放送聞いているとどうしても主催者に自分から従っているようには思えないの』
『わたしもそう思います。こんなことを喜んでやる人がそんなにいるとも思いたくありませんし』
『ウチもそう思いたいけど』
珊瑚ちゃんが書く手を止める。……俺と同じことを考えているんだろうか。
『このメールが久瀬から来たって言う保証は無いよ』
代わりに書いてみる。珊瑚ちゃんもそれをみて微かに頷いた。
『でも、今はそれを考える時じゃない。久瀬、ないしはこのメールを送った人が反主催者としたときのことを考えよう』
先輩とゆめみさんも頷く。
『まず、主催者が伊達や酔狂でこれを久瀬に送ったと言うのは無いと思う』
『でも、そうなるとこの『――希望と、より深い絶望を……かな』というのが引っかかりませんか?』
『久瀬を騙してるんか、それとも本気でそう考えてるんかは知らんけど、そうだとしても考える意味がなくなるからそれは今はおいとこ』
『私達が何も出来ないから、束の間の希望から叩き落すため、と言うのなら楽なのにね』
『久瀬の真意は簡単だ。正にここに書いてある通りだよ。この俺達に『考えろ』って何度も言っているのは主催者にとっては一番痛烈な行動だと理解しているからだと思う』
『これが主催者やったらウチらの思考をひとつにまとめようすると思うねん。主催者にとって不利益なこと、ってかいてあったやろ? 主催者にも触れられたくないところはある。そしてウチらの行動はそこを突ける。そういう意味や。ただ』
『それらをひっくるめて主催者の罠、って言う可能性もある、と。これはここで悩んでも答えは出ないけどね』

『確かにそうですね。そうなると次は姫百合さんの手に入れた情報ですが』
『これはちょっと心当たりあるねん。実はな』
そういうと珊瑚ちゃんはハッキングのためのCDを手に入れた経緯を説明してくれた。
前参加者の遺品、だったらしい。
『前のこれがいつあったのかわからへん。でも、前回からセキュリティがまったく変わってないとは限らへんやん。時間掛ければこれでもいけたのかも知れんけど、主催者がそれより先に気づいたとしてもおかしない』
なるほど……
確かにそう考えると主催者が気付いたのは事実かもしれない。
『でも姫百合さん、それだと主催者が久瀬さんにそのことを教えたことに対して疑問が残るんじゃないかしら。そのことを久瀬さんが知らないのなら私達も気付かずに首輪を爆発させていたかもしれないのに』
ああ……確かにそれもそうだ。しかし……
『そうだね。でも、それで確定させるのはやっぱり危険だ。もう一度ハッキングするにしてもこれは珊瑚ちゃんに任せるしかないと思う』
『そうですね。わたしたちだけではどうやっても首輪の解除は出来ません。姫百合さん。お任せして宜しいでしょうか』
『あたりまえやんか。ウチが出来るんはこんくらいやもん』
そう言って微笑む珊瑚ちゃん。
――強いよな。やっぱり。
そういえば――
『珊瑚ちゃん、さっき何か言いかけてたよね。あれは?』
『ああそやね。もうええかな。うん。あのメール、ウチに送られてきたやろ? どうやってウチのこと特定したんかなーって』
「!!」
そうだ。その通りだ。あのメールは明らかに珊瑚ちゃん宛だ。でも久瀬は受け取り手が珊瑚ちゃんとは書いてない。にもかかわらずこのパソコンに送られてきた。と言うことは全てのパソコンに送ったと言うのか?そんなことをしたら綾香や岸田のような奴らが見る可能性が飛躍的に増えるのに? 久瀬は主催者側の人間だったのか? いや待て。そうとは限らない。相手が誰だか分からなくともハッキングをしたパソコンなら分かるのかもしれない。それなら説明は付く。いや待て。早計だ。それなら主催者だってそのパソコンは分かるはずだ。そして主催者は俺達の首輪から盗聴をしている。つまりそのパソコンの周辺にいる人間が誰か分かるはずだ。違うのか? では主催者が久瀬にパソコンを渡した目的は? ハッキングをした珊瑚ちゃんの首輪を爆発させない理由は? ああもう駄目だ! 頭の中で整理しきれない! 何で俺はこんなに馬鹿なんだ! ここで考えなくていつ考えるんだ!
「っ……」
柔らかな、感触。
珊瑚ちゃんが抱きしめてくれている。
ふっ……と楽になった気がした。
『皆で考えよ。な?』
黙って首肯する。
そうだ。元より俺一人で何とかできる問題じゃない。俺は俺に出来ることをするしかないんだ。

『あの、つまり久瀬さんが全てのパソコンにこれを送ったと言うことですか? そんなことをしたら岸田みたいな人が見てしまうかもしれないのに』
『じゃあ久瀬さんは主催者側の人間で、姫百合さんを妨害するためだけにこのメールを送ったと言うことですか?』
『そうとはかぎらへんよ。どうしてもウチに連絡を取りたいから無理に送ったのかもしれへん。でも、それよりありそうなんが』
俺も書き綴る。
『ハッキングに使ったパソコンだけがばれている、って言う線だ。よね? 珊瑚ちゃん』
珊瑚ちゃんは頷く。
『でも、そうなると主催者だってそのパソコンが分かるはずなんだ。そして主催者は久瀬が持っていない情報も持っている。うん。そう。これだ』
久寿川先輩とゆめみさんが首に手を伸ばすのを見て肯定する。
『これのせいで俺達の会話、場所、生死が筒抜けになっている。そう考えて良いんだよね? 珊瑚ちゃん。だからつまり久瀬がパソコンの狙いを絞ってここだけに送ってきたんだとしたらそれは主催者にも出来るはずなんだ。そしてそのパソコンの周辺にいる人間もわかるはず。つまり珊瑚ちゃんのことが割れていると言うことになってしまうんだ。ここが俺にはわからない。全てのパソコンに久瀬が送ったんでないならどうして主催者は珊瑚ちゃんを放っておくんだ?』
久寿川先輩がペンを取る。
『もしかしたらどのパソコンか分かってもそのパソコンの場所が分からないんじゃないのかしら』
ああ……確かに。それはそれでありえそうだ。
『そうかもしれませんね。でも、そうなると他のパソコンも欲しいですね。他のパソコンに送られているかを見れば一目瞭然ですから』
『そうだね』
と、何かを考え込んでいた珊瑚ちゃんが書き出した。
『あんな、ウチ最初レーダーもっててん。そのレーダーなんやけどな、人の場所がわかるようなもんやったんや。多分この首輪。これが発信機かGPSになっとる。あのレーダーやと番号までは分からんかったんやけど、もし主催者もおんなじやったら』
『そうか。俺達がどれかわかんないから首輪を爆発させることが出来ないのか』
『と、思いたいんやけどな。盗聴機能がある上にあの放送のことを考えると、やっぱりわかってるって考えるほうが自然やと思う』
『えっ? でもそうなると主催者がわたし達をほうっておく理由が見つからないのですが』
『そこやねん。ウチら明らかに反主催者やのに、何でほっておかれとるんか。何でやと思う?』
それについて考え始めた時。
再び俺達の元にメールが届いた。


『メールが届きました』
「!!」
また、届いた。
俺達から何も連絡は入れてないのに。
どういうことだ?
珊瑚ちゃんがパソコンを動かす。
件名は……『先程書き損じた事と他』
……書き損じ?
安心していいものだろうか。
しかし……
珊瑚ちゃんのほうをみる。
頷く。
久寿川先輩とゆめみさんも反対側で頷く。
そうだ。
見なければ進まない。
仕掛けるならさっきのメールで仕掛けているはずだ。
……さっきのメールと違う人間が書いた可能性もあるが。


『申し訳ありません。
まず先程書き忘れていたことをいくつか。
僕は何処とは知れぬ個室に監禁されています。
外にでることも外のことを知ることも殆ど出来ません。
私がいる部屋にはモニターがあり、そこに逐一その島の映像が送られてきます。
そして僕は定時放送、つまり午前・午後六時前になると寝ていても起こされ、放送の名前を読み上げさせられます。
それとあの兎の言った優勝者の望みを叶えると言う言葉。
あれは僕は嘘だと思っています。
またこのパソコンに入っている情報の一部を添付します。
それでは。』




俺は即座に天井を仰ぎそうになって……何とか踏みとどまった。
今ここで天井を見たら俺達がこのメールを見たことが丸分かりになってしまう。
慌ててペンを取る。
『皆、これは』
『うん。迂闊やった』
『主催者の情報収集の手段が首輪一つと思ったのがそもそもの間違いでしたね』
『でもこれで主催者が私達を特定できていたのはまず間違いないと思うわ』
……待てよ。そうなるとこの盗聴対策も完全にばれていると言うことになるんじゃないのか?
『待って。それじゃあもう筆談の意味がなくなるんじゃないか?』
しかしそれには珊瑚ちゃんが間髪入れず答えてくれた。
『どやろ。この島広いし、カメラどんくらいあるんやろな。待ってて』
そう書き残すと珊瑚ちゃんはデイパックを取りに行った。
そして地図を取り出す。
『この地図10-10で区切られとるやろ? んで、大体半分くらいが陸やねん。色々歩いてきたかんじ、1マス2キロくらい。だから本当適当やけど大体200平方キロくらいになるねん。200平方キロにカメラおくとどんくらいいるんやろな』
久寿川先輩が声なき声を上げる。
そうだ。この教会一つだって死角を作らないようにカメラを置くんなら相当数必要になる。カメラの有効距離は決して広くない、筈。それこそ1000あっても1平方キロに5個平均になってしまう。
『ある程度ポイントを絞ってカメラを設置している、と言うことですか?』
『それは分からん。でも、島をくまなく覆うほどカメラを置いたらそれこそ見てる余裕なんてなくなると思う。それにいくらカメラでも室内である限り筆談の文字まで読めるほど精密なんは無いと思う。そんなおっきなレンズやったら簡単に見つかるやろうし、あってもウチらの身体で隠せばええしな』
『カメラは置いておくにしても、やっぱり主催者が私達を放っておく理由はなんなのかしら。私達なんか何しても覆せるわけない、って言う余裕?』
『うーん、単に主催者にとって看過できないものを掴むまで放置されているだけかもしれない。根拠は弱いけど』
『どちらにしても主催者の気分一つで簡単に殺されるって言うのは気分のいいものじゃないわね』
『それをいったらこんな島に閉じ込められてることなんて最悪に気分が悪いけどね』
『あの、もしかしたら爆発させるわけには行かない理由が何かあるんじゃないでしょうか』
『理由。何かあるかしら。私達を殺せない理由なんて』
『主催者側にも何かルールがあるのかもしれません。全くの想像でしかないのですが』
『もしかしたら、やけどな。爆発できんのかもしれん。希望的観測やけど、ちゃんと個別で爆発させるようなもんがあるとしたらこの島にその為の塔みたいなもんがないとおかしいもん。一番高いのはあの山やけど、あの山』
そこまで書いて、珊瑚ちゃんの手が止まる。
眼を閉じてしばし。
真剣な眼で再び書き綴る。
『瑠璃ちゃんといってん。頂上まで。でも、なんもなかった』
『じゃあ、主催者は任意で爆弾を爆発させることは出来ないんですか?』
『それはわからへん。あくまで希望的観測やし。でも、電波が届きにくいだけでも取れる選択肢は増えるはずや。電波は水でかなり減衰する。爆発されるタイミングがわかっとったらお風呂に飛び込むだけでももしかしたら何とかなるかもしれん。さすがに首輪は防水やろうけどな』
『凄いね珊瑚ちゃん。それが分かっただけでも十分すぎる収穫だ。ねぇ、皆。まだあのメールから読み取れることあるかな?』
『私はもうないわ』
『わたしももうありません』
『ウチももうおもいつかへん』

『俺もだ。じゃああのメールに対してどう動くか。多分一番重要なところだ。ここを間違えると、多分死ぬ』
皆の顔に緊張が走る。
『俺は』
俺は……ここから先を書いていいのだろうか。
俺が一番守りたいと思っている人に全てを押し付けるような選択を。
一番……危険な……選択を。
『貴明』
手を握られた。
珊瑚ちゃんだ。
珊瑚ちゃんは俺が見てる前で文字を三つ重ねる。
『ええよ』
――お見通し、か。
僅かな諦めと大きな感謝でもって止まった手を動かす。
『どんな道を通るにせよ、誰も犠牲にしないつもりなら』
もう手は止めない。左手が勇気を伝えてくれる。
『最終的に珊瑚ちゃんにハッキングをしてもらうしかないと思う。首輪の爆弾の解除法、正しいにせよ間違っているにせよその判断は今の俺達では付けられない。それに、主催者共を殺すつもりならその情報もいる。脱出方法も探らなければならない。前回の参加者がいたと言うことは前にも同じような殺し合いがあったんだ。それを知るだけでも大きい筈だ。本当は爆弾を解除してからしてもらいたかったんだけど、最早それも叶わない。だったら』
「あ!」
久寿川先輩が急に声を上げる。
どうしたんだ?

「あ……ご、ごめんなさい!」
「あ、いえ。大丈夫です。痛くないですから」
ゆめみさんナイス。
『ごめんなさい! ちょっと待ってて!』
そういうと先輩は立ち上がって……デイパックを取りに行った。
なんだ?
先輩はデイパックから何かを取り出す。
……スイッチ? と、紙。
楽になれます、ねぇ……
『見るからに怪しいねこれ。比喩でなく爆発しそうなくらい』
『私もそう思ったから今まで忘れてたんだけど。おまけに充電器もないし』
『わたしも始めて見ました』
『ごめんなさい。でも、今一つ目のメールで『ゲーム内には確かに首輪の解除を示唆したものはあり、それで解除なりするのは一向に構わない』って言うのでふと思い出したの。もしかしたらこれのことなんじゃないかしら』
『でも、これスイッチやで? スイッチが押した人を判別できるとは思えんけど』
『ってことは押されたスイッチから全方位半径数メートルの人全員とか?』
『どんな効果かは分からんけどそうかもしれへん』
『でも、これどうしましょうか?』
『そうよね。これの効果が分からないと結局は使えないし』
『あの、わたしが実験してみましょうか?』
『駄目だ!』
『貴明さん』
『やめてくれ。無駄に犠牲になるのは』
『無駄じゃありませんよ。このスイッチの効果が分かります』
『分かったところで充電器がないのなら使えないだろう。戦力が欠けるのも困る』
『貴明、ゆめみ』
珊瑚ちゃんが割って入ってきた。
『ええよ。そんなことせんで。なんもないよりましやん。どうせ今からハッキングやるんやから、首輪が爆発されそうになったら押せばええやん。運が良ければそれで助かるで。保険が入ったと思えばええよ』
『そう、ですね』
『取り敢えずハッキングの前に久瀬と連絡取ったほうがええかもな』
『そうだね。それで見えてくる事もあるかもしれない』
『じゃあ、いくで』


『メールを送りました』






【時間:二日目20:00頃】
【場所:G-3左上の教会】

姫百合珊瑚
【持ち物@:デイパック、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)、ノートパソコン】
【持ち物A:コミパのメモとハッキング用CD】
【状態:決意。メールを送った。工具が欲しい】

河野貴明
 【装備品:ステアーAUG(30/30)、フェイファー ツェリスカ(5/5)、仕込み鉄扇、良祐の黒コート】
 【所持品:ステアーの予備マガジン(30発入り)×2、フェイファー ツェリスカの予備弾(×10)】
 【状態:左脇腹、左肩、右腕、右肩を負傷・左腕刺し傷・右足、右腕に掠り傷(全て応急処置および治療済み)、半マーダーキラー】

久寿川ささら
 【所持品1:スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、支給品一式】
 【所持品2:包丁、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、支給品一式】
 【状態:右肩負傷(応急処置及び治療済み)】

ほしのゆめみ
 【所持品:日本刀、忍者セット(忍者刀・手裏剣・他)、おたま、ほか支給品一式】
 【状態:胴体に被弾、左腕が動かない】

イルファ
 【状態:停止、激しい損壊、椅子に座らされている、左の肘から先が無い】

久瀬
 【場所:不明】
 【状態:主催者と戦う決意、珊瑚達に全てを託すつもり、パソコンに入っていた情報を小出しにして主催者の出方を伺う】
 
【備考:久瀬・珊瑚のパソコンの中に入っている情報は作内以外にもお任せ、ただし主催に関する情報は入ってはいない、一回目に久瀬が送った添付は参加者一覧表、二回目は各種島内施設概要】
-


BACK