とりあえず出発




目が覚めたら、全く見覚えのない場所にいた。
とりあえず仲間を探した方がいいと周囲を探索しようとしたものの、辺りは闇に包まれ視界は殆ど利かない状態であった。
意外と森が深く、月の光もほとんど差し込んでこない。
これでは埒が明かないと、城戸芳晴は一端灯台に戻り上から今いる場所についての情報を探ろうとした。

「と言っても、見通しはやっぱり悪いよな」

集落のようなものも何となく確認できたが、如何せん住居に灯る光が一切なかったので人がいるかも判別がつかない。
これは朝にならないと難しいであろう。コリン達には悪いが、芳晴は一晩をこの灯台で越すことした。

・・・・・・が。一時間ほどで、その眠りは覚めてしまう。
自分でもよく分からないが、嫌に目が冴えてしまっていたのだ。
少しブラブラして見るかと、明かりをつけ灯台の中をウロウロする。

その時だった。埃臭い地下に構えられた部屋、中央のテーブルに無造作に置かれたそれを見つけたのは。

「なんだ、これ・・・・・・」

表を見て、ひっくり返してみて。とにかく用途を探そうとしてみる。
形状的にはテレビのリモコンを髣髴させるものだった、しかし一つしかないボタンが何のためについているのかはよく分からない。

「うーん、どうするかな」

何が起こるかは分からない、しかし芳晴の好奇心はその危険性を増していた。
もしかして秘密の部屋でも出てくるかなーと、ちょっとした期待をこめボタンへと人差し指を伸ばす。

「こーら、あんまり簡単にイジると後が怖いわよ?」
「え、ルミラさん?!」

いきなりの声かけに心臓が飛び出そうになる。そんな芳晴の半分裏返った間抜けな声に、背後から現れた見知った女性が笑みを零す。
ルミラはB5サイズのノートのようなものを手にして、入り口にて佇んでいた。






「何か、やばいことに巻き込まれちゃったかもしれないわ」

ちょっとしたダイニングのような場所、見つけたランプに明かりを灯し二人は向かい合って席に着く。
他の照明に関しては、全てルミラの指示で落とすことになった。
その意図が分からず疑問を口にする芳晴だが、ルミラは「後で説明するわ」の一言でそれらを全て流した。

そして今、こうして落ち着いた時間ができた所で。
何か思うところでもあるのだろうか、妙に身構えたルミラは先ほどから手にしていたノートを芳晴に向けて差し出してきた。

「中、見てみて」

普通の大学ノートのようだった。外見は。
しかし、中を開けた途端。芳晴の表情に、驚きが走る。

「・・・・・・何です、これ」
「『全支給品データファイル』ですって。このノートの・・・・・・ほら、ここ。載ってる」

身を乗り出し、芳晴の前に置かれたノートをぱらぱらとめくり指を差す。
アイテムNO.98 全支給品データファイル。似たような形で、隣のページには参加者の写真つきデータファイルというものが紹介されていた。

「参加者?」
「ここで何か大会でもしているのかしらね。それにしては、血生臭さがきつい気もするんだけど」
「えっと・・・・・・その、この隣のデータファイルに載ってる人の持ち物の一覧が、このノートってことですか?」
「多分、そういうことになるでしょうね。ほらこれ、鞄の中に入ってた名簿に載ってる人の情報じゃないかしら」

そういうルミラの手荷物を見て、芳晴はやっと自分も持たされたデイバッグのことを思い出した。
あれはどこにやったのか、寝室に置きっ放しだったかな。
そんなことを考えていた時、ふと溜息をついているルミラの様子に気がついた。

「ちょっと、体が重くてね。ワープの影響かしら、何だか疲労感が抜けない感じなの」

芳晴の視線に気づいたルミラが答える、そういえばと思い芳晴も自分がエクソシストの力が使えないことを彼女に伝えた。

「・・・・・・芳晴もなの?」
「え、ということは・・・・・・」
「私も、魔法が出せなくなってるみたい」
「そ、そうなんですか」
「おかしいわね、何か変な呪いでもかけられたのかしら。・・・・・・でも、そんないつの間に・・・・・・」

再び俯くルミラ。
その中で、芳晴も一つの可能性に気づく。

「えっと、じゃあこの辺りの土地自体にかけられてるって可能性もあるんじゃないですかね」
「・・・・・・」
「俺はここに来て一番に気づいたのがそれでしたし。もしかしたら、ですけど・・・・・・」
「そうかも、しれないわね。さっさとエビルのノートを見つけて、早めに離脱した方が懸命だわ」

バンッと机を叩き、勢いよく立ち上がったルミラはそのまま部屋の入り口に向かって歩き出す。

「行くわよ」
「はい?」
「あの子達を一刻も早く見つけてあげなくっちゃ」
「え、でもこんな暗い所じゃ・・・・・・」
「大丈夫、私を誰だと思ってるの。夜目なら多少は効くし、安心して着いてきなさい」

ウインクするチャーミングな仕草の中にも、頼もしさが含まれている。
・・・・・・男である自分がリードされてしまうのは情けない限りだが、相手が相手なのでここは任せた方が無難だと自分に言い聞かせる芳晴であった。






「そうそう、そのノートの最初の方をきちんと見た方がいいわよ」
「え?」
「結構、ヤバいことに巻き込まれちゃうかもしれないから」

寝室に置き忘れていた荷物を取りに行き、いざ出発と芳晴が気持ちを切り替えた時であった。
既に支度を終え入り口にて佇むルミラが、もう一度あの冊子を芳晴に向けて差し出してくる。
月の光がいまいち上手く届かない場所なので、やはり視野は効き難いがそれとなく捉えることはできた。

ぺらっと捲った最初のページ、映し出される写真はどれも闇に溶け込む黒ばかり。
それらは、全て銃器の類であった。




ルミラ=ディ=デュラル
【時間:2日目午前4時45分】
【場所:I−10・灯台】
【持ち物:全支給品データファイル、他支給品一式】
【状況:魔法使用不可、他のメンバーとの合流、死神のノート探し】

城戸芳晴
【時間:2日目午前4時45分】
【場所:I−10・灯台】
【持ち物:名雪の携帯電話のリモコン、支給武器不明、他支給品一式】
【状況:エクソシストの力使用不可、他のメンバーとの合流、死神のノート探し】

【備考:二人はバトルロワイアルに巻き込まれていることを理解していない】
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