自分の一挙一動は完全に監視された密室。 そもそもここがどこなのかもわからない。 何らかの手段でここを出られたとして、その先に何があるかがわからないのだ。 確証を得なければいけない。この先を抜けてウサギ達を一泡吹かせれる何か。 もしくは確実に参加者と合流できる手段の何か。 一番重要なのは成す前に死なない事だ。 どんな画期的な案が浮かんだとしても空想論ではまったく意味が無い。 考えろ、考えるんだ――。 『そんな難しい顔をして、どうしたんだい?』 突然部屋にウサギの声が流れ始め、久瀬は思わず狼狽する。 久瀬の慌てふためく格好がよほど滑稽だったのか、ウサギが下卑た笑い声を上げる。 『くくく……まあ大方どうすればここから逃げれるかとか考えていたんだろうとは思うけどね』 「――っ!」 まさに図星だった。 動揺を悟られぬようにウサギの言葉には答えず、顔を伏せて沈黙で対立する。 『あらら、当たっちゃったかな?』 一切の返答をせず俯く久瀬に対しウサギは気にもとめない声を上げ言葉を続ける。 『別に隠さなくてもいいよ。こっちはそうなる事がわかった上で君を拉致したんだから』 ウサギの言っている意味がわからない。 逃げたいと考えるのは自由だが逃がすつもりは毛頭無いと言う事だろうか。 『いやあ前回の観測者もね、3回目放送が終わったぐらいにいきなり反抗的になりだしたからさ。 久瀬君もそろそろかなとか思ってみたりしたわけなんだな』 「……参考までにそいつはどうした?」 『ん? 気になる? 気になる? たしか暴れだして部屋の中のものを壊しだした挙句に首輪がボーンだったかな』 「…………」 笑いを含めた言い方に何も答える気が起きなかった。 むしろ怒りだけがこみ上げ、叫びだしそうになるのを両の拳をぎゅっと握り締めて耐える。 『――で、放送直後だというのに顔を出したのは他でもないんだ。また新しい仕事でも頼もうかと思ってね』 ウサギの提案に久瀬の全身が硬直する。これ以上何を自分にさせようと言うのだろうか。 『そんなに身構えなくてもいいよ。どちらかと言えばこれは今まで役目をしっかり果たしてくれたご褒美みたいなものなんだからね』 ウサギが言い終わると同時に、久瀬の座る真横の床が異音と共にゆっくりと開かれていく。 そしてそこからは一台のパソコンが置かれた机がせりあがって来たのだった。 『簡単に言えば情報操作さ。まあつけてみるといい』 突如現れたパソコンに躊躇いながらも、言われたとおりに電源をつける。 起動の間に訪れる静寂がなんとも苦痛だった。 それを感じ取ったのか、ウサギの声が再び響き渡る。 『ゲーム開始から36時間経過ってところかな。知っての通り参加者も半分以上を切った。 まだ殺し合いに参加しているものもいるとはいえ、前回の教訓から言ってもそろそろ誰も行動に移そうとしなくなるだろう――そこで君の出番だ』 丁度OSが立ち上がり画面を凝視する。 ――参加者一覧表 ――支給品武器一覧 ――各種島内施設概要…… 久瀬はデスクトップにおかれたさまざまなファイル名を憑り付かれたように眺めていた。 一心不乱にマウスを操作する久瀬の姿にウサギは満足げな声を上げる。 『その中に入っている情報は好きに使っていいし、勿論掲示板も使えるようになっているから参加者に伝えるのも自由だ』 「参加者に伝えてもいい……だと?」 『うん、簡単に説明するとね。こちらの施設にハッキングを仕掛けた参加者がいてね。 殺し合いで何が起ころうとも介入するつもりはない――ああ、一部の例外の参加者もいたけどね。だが基本的にすべてを黙認することにしている。 ゲーム内には確かに首輪の解除を示唆したものはあり、それで解除なりするのは一向に構わないのだがそれはあくまで彼らが"ルールに則ってる場合"に限る。 ハッキングなどによる私たちに不利益を齎すもので得られることではないんだよ。 気づくのが早かったおかげで侵入者はダミーを持っていって満足しているようだけどね』 「ダミー?」 『ああ、解除ではない。起爆用の手順を踏んだものさ』 「つまりその首輪を外そうとしている連中は外そうとした瞬間首が飛ぶ……と?」 『うん、そう言う事だね』 「それなら今までのおまえらのやり方なら僕にそいつらを殺して来いって命令するぐらいすると感じたんだが……。 そうするわけでもなく、参加者を助ける手伝いをさせるだと? 貴様らは一体何を考えているんだ……」 主催者の目的。それが久瀬の一番の疑問であった。だがその問いと同時にウサギは高らかに耳障りな笑い声を発しだした。 聞いているだけで嫌悪感が沸き起こり耐え切れなくなり思わず耳をふさぐ。 『――希望と、より深い絶望を……かな』 唐突に発せられたその言葉を最後にウサギの声はぷつりと途切れ、再び部屋には静寂が訪れる。 久瀬は頭を抱え、ゆっくりと状況の整理をし始めていた。 なぜ急にこんなことを言い出した? 放送で不利益なことを話すなとウサギは言っていた、これでは先ほどまで言っていたこととぜんぜん違う。 ……と言う事は僕がこれを使って参加者と情報を交換することが彼らにとっての利益になるということだろうか。 中途半端に自分たちの情報を盗まれるよりは、敵側に内通者がいると思わせたほうが良いと言う事だとも推測できる。 参加者に何を伝えても良いといわれたところで自分が知りうる情報ではウサギ達に迫れるもの自体は何も無いのだから。 勿論推測の域をまったくでないが……だがこれはウサギの慢心をついた千載一遇のチャンスだった。 何もわからぬまま、恐怖に怯え、悲しみの中で、何人もの人間が理不尽な死を遂げてきた。 少なくとも何もできない状況から見えた一筋の光明……これが奴らを打ち崩す鍵になるかもしれない。 これが今自分にできる唯一の方法と判断し、久瀬はパソコンを一心不乱に操作しはじめるのだった――。 久瀬 【時間:2日目19:00】 【場所:不明】 【状態:パソコンから少しでも情報を得るため行動】 【備考:中に入っている情報は作内以外にもお任せ、ただし主催に関する情報は入ってはいない】 - BACK