「何故こんなことになってしまったんだ・・・・・・」 柊勝平の左腕は、今だしっかりと名倉由依に捕らえられたままだった。 目の前には神尾観鈴、ようやく泣き止んだのか大分落ち着いているようにも見える。 その間、由依は二人を拘束したまま一言も口を聞かずただ静かに座っていた。 そんな三角形を職員室で作る三人、時間だけが刻一刻と過ぎていく中勝平はもう一度疑問を口にした。 「何故、こんなことに・・・・・・」 「ぐすっ・・・・・・」 「お前もせっかく泣き止んだんだから、もう繰り返すなよ」 「だ、だって」 「・・・・・・」 勝平と観鈴の話に、由依が混ざることはなかった。 目を開いているのにどこも見ていないような空ろさが不気味であった、なので勝平も自ら彼女に話しかけようという思いは特になく。 ・・・・・・先ほどのような感情の揺れは、もうない。 静かな時間は、勝平の自暴自棄になりかけた精神を落ち着かせるのには充分な効果をみせることになったようだ。 勿論、問いに対する答えを自身で出せたわけではない。しかし投げやりに事を任せるのは、彼のプライドが許さなかった。 (で、どうするかだ) 相沢祐一の生死に関しては、この目で確かめる必要がある。 しかし問題となるのが、この少女で。 「・・・・・・」 ぐいっぐいっと力任せに剥がそうとしても、由依は絶対掴んだ手を離そうとしなかった。 電動釘打ち機を構えても、怯えることなく飄々としたままで。大した根性の持ち主である。 (いや、これは根性ってレベルじゃねーだろ・・・・・・) 見た目の通り、精神が病んでしまったと考えるのが正しいかもしれない。 「おい」 無言で地面を見つめていた観鈴に話しかける、彼女は赤い目を携えたままゆっくりこちらに振り返った。 「こいつ、最初っからこうだったのか?」 「え・・・・・・」 「お前が初めて会った時も、こんな調子だったのか」 「う、うん」 「そうか」 口を開いた由依の台詞はたった二種類。「おとこはころす」、そして「おんなはつれていく」。 その意味の通り、祐一が殺され観鈴が連行されたというなら話は通じる。 「ん、待てよ?じゃあ、何で僕が捕まらなくちゃいけないんだ。おいちょっと、何でお前は僕を殺そうとしない」 「・・・・・・」 由依は答えない。 「僕は男!どう見ても、男の子!!」 そう自身を指差し強調させた所で、やっとこちらに目をやる由依。 しばし見つめあう。何の感情も見えない由依の瞳に映る自分の姿を、勝平もじーっと見続けた。 「・・・・・・?」 「首を傾げるな!!」 「えっと、勝平さん・・・・・・何やってるの?」 「だーもうっ、こいつ、僕を女と勘違いしてるかもしれないんだよ」 「え、違ったの?」 「なっ?!」 「にはは、冗談冗談」 「お前こんな時に余裕かますなっ!!」 「がお、ごめんなさい・・・・・・」 「・・・・・・??」 無表情だった少女の顔に、初めて戸惑ったような色が見え隠れする。 このチャンスを見過ごすわけにはいかない、誤解を一瞬で解く方法として勝平は即座に立ち上がり自分の着用しているズボンに手をかけた。 「ゴルアッ!これでどうだ!!」 左腕にはまだ由依がつかまっていたが気にしない、そのまま一気に引きずり落とした。 二度の屈辱に神経が麻痺したかどうかは分からないが、そこには恥も外聞もない。ある意味男らしい。 「か、勝平さん?!!」 突然のことに、観鈴も目を白黒させながら硬直する。由依も同じく。 いや、由依に到っては勝平の腕を掴んでいたお陰で、距離的にもかなり近い状態でそれを見せ付けられてしまったためダメージも倍であろう。 そう、彼女の視界は今勝平のパオ〜ンで埋め尽くされていた。 「・・・・・・」 沈黙が、場を包む。 顔を真っ赤に染めながらも、目が離せない観鈴。 真顔のまま、それを凝視する由依。 そして、今だ開放的な姿で居続ける、勝平。 (・・・・・・すべったかっ?!) 悲鳴の一つでも上げられれば万々歳だったのだが、これではまるでただの変質者である。 いや、それ以前にもう現時点で変態であることは確定されていたが。 「ちょっと待て!ちょっと待ってくれ、これには深い訳が・・・・・・えっ!?」 慌ててパンツを引っ張り上げようとすると同時に、ガクンと片腕に体重がかけられる。 腕を取られた為勝平自身もバランスを崩し膝をつく、ズボンが絡まり前のめりに倒れそうになるのを何とか堪えると、その目の前には。 顔から床に直で崩れていったらしい、由依がいた。 「・・・・・・気を失ってるみたい」 チョンチョンと、指先で由依の肩口をつついた後観鈴が口にする。 その間、由依はぴくりともしなかった。 力を失った由依の両手からそれぞれ拘束を外した後、勝平は改めて祐一について観鈴に問う。 「この子凄い格好だったから、祐一さんが上着をかけてあげたの」 「・・・・・・ああ、何か見覚えあると思ったら、あいつのだったのか」 由依の羽織っているジャケットに改めて視線を落とす、群青色の上着は確かに祐一が身に着けていたものだった。 「でも、そしたらいきなり祐一さんのこと刺して・・・・・・。 で、でも、祐一さん生きてるの、死んだわけじゃない・・・・・・そうだ、こんなことしてる場合じゃないのっ」 立ち上がり駆け出そうとする観鈴の腕を掴み取る、「離してっ!」と叫ぶ観鈴に勝平はきっぱりと言い放った。 「僕が行く、お前はここにいろ」 「え・・・・・・?」 そう。もし彼の生命がまだ続いているとするならば、それに止めを刺さなければいけないから。 蔑ろにはできないあの悔しさを決して忘れてはいけない。迷いが拭えたわけではないが、中途半端にすることだけはしたくなかったから。 勝平は、目先の目標を優先するのが第一だと考えた。 そんな真剣な眼差しを受け、観鈴も半ば勢いに飲まれる形になったがゆっくりと頷き肯定の意を表してくる。 「・・・・・・分かった。祐一さんをお願い」 観鈴の願い、だがそれに対する返事はできない。 無言で廊下に出る勝平を静かに観鈴は見送った、由依が目覚める気配はまだない。 柊勝平 【時間:2日目午前2時30分過ぎ】 【場所:D−6・鎌石小中学校二階・職員室】 【所持品:電動釘打ち機11/16、手榴弾三つ・首輪・和洋中の包丁三セット・果物・カッターナイフ・アイスピック・支給品一式(食料少し消費)】 【状態:祐一のもとへ】 神尾観鈴 【時間:2日目午前2時30分過ぎ】 【場所:D−6・鎌石小中学校二階・職員室】 【所持品:フラッシュメモリ・支給品一式(食料少し消費)】 【状態:勝平を見送る】 名倉由依 【時間:2日目午前2時30分過ぎ】 【場所:D−6・鎌石小中学校二階・職員室】 【所持品:ボロボロになった鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)+祐一の上着】 【状態:失神、岸田に服従、全身切り傷と陵辱のあとがある】 由依の支給品(カメラ付き携帯電話(バッテリー十分)、荷物一式、破けた由依の制服)は職員室に放置 【備考:携帯には島の各施設の電話番号が登録されている】 - BACK