――以上です」 「瑠璃ちゃん……」 かけがえのない妹の名が死者の名として告げられる。 自らの手で埋葬までしてこようと改めて突きつけられた事実は重い。 少なくとも春原陽平にはそう見えた。 そんな珊瑚を励ますつもりだったのだろう。 とっさに思い当たった最悪の話題に手を付けてしまった。 「あ、そ、そういえばさ。あのウサギの言ってる優勝したらなんでも願いを叶えてくれるってなんなんだろうね。そんなこと出来るわけないのにさ」 珊瑚がびく、と震える。 「うーへい」 「え……何?」 「考えろ」 「あっ……」 珊瑚は俯いたまま顔を上げない。 「あっ……あのさ、えっと……」 気まずい沈黙が流れていく。 陽平がもう土下座でもしようかと思ったとき、沈黙は破られた。 「あんな、ウチな、瑠璃ちゃんが……てからいろいろ考えてん。それもな。考えた」 珊瑚は顔を上げずに言葉を紡ぐ。 「もしウチが優勝したら、とかもな」 「さ……珊瑚ちゃん?」 「こんなもの開催する人やで? たぶんウチらの知らんようなことも知ってる。来栖川、篁、那須そーいち……こんな人を集めるなんて、普通できへん。しかも、綾香以外みんな死んじゃってる……」 ぎゅっ、と小さい手を握る。 「陽平、るーこ。ここに来る前のこと覚えとる?」 「る……」 「あ……」 覚えていない。 その動揺が返答となる。 「ウチも覚えとらん。しかも、それにも最初は気付かなかった。こんなこと出来るんやで? もしかしたら、ほんとに何でも出来るんかもしれへん。……瑠璃ちゃんを……いっちゃんを生き返らせることも……」 陽平もるーこも話に引き込まれて動けない。 珊瑚は涙で濡れた顔を上げた。 「でもな……」 その目は、輝きを失ってはいなかった。 「こんなもの開催する人やで? 何でも出来るとしても……ウチらが幸せになるような願い事なんて聞いてくれないと思う。……ウチは瑠璃ちゃんに生きててほしい。生きててほしかった。瑠璃ちゃんを生き返らせてって言ったら生き返らせてくれるかもしれへん。けどな……」 珊瑚は目を閉じる。 その嗚咽が響く。 「瑠璃ちゃん、今土の下やで? 綾香に、胸を……撃たれた。肺に穴が開いとる。寿命やない。この島にいる人はみんなそうやで? そのまま生き返っても……すぐに……」 もう後は声にならない。 黙した部屋に亡き人を想う泣き声だけが沁みてゆく。 「うーさん。もういい。喋らなくていい」 「っ……ん……ん……」 珊瑚はしゃくり上げながら頷く。 るーこは珊瑚を抱きしめる。 「るーの加護は偉大だ。この島ではるーの力は使えないようだが、それでるーの加護が失われたわけではない。 うーあやはるーが殺す。この下らないものを考え出した主催者もだ。心配はいらない。るーはぐーにも負けない。 るーはるーに出来ることをする。だから、うーさんもうーさんが出来ることをしろ。 ……この島ではもううーさんだけが頼りなのだ」 「っ……うん……」 「よし。よく言った。強いな。うーさんは」 「瑠璃ちゃんと……いっちゃんの……おかげや……」 涙がるーこの服を濡らしていく。 そして、珊瑚はその分だけ強くなる。 もう、心は離れない。 (瑠璃ちゃん、いっちゃん……ウチは、絶対、生き残る……) 心は、永久に、離れない。 (ずっと覚えてる……ずっと……一緒やよ……) 【時間:二日目18:10頃】 【場所:G-3左上の教会】 姫百合珊瑚 【持ち物@:デイパック、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)、ノートパソコン】 【持ち物A:コミパのメモとハッキング用CD】 【状態:号泣中、ハッキングはコンピュータの演算に任せている最中】 ルーシー・マリア・ミソラ 【持ち物:H&K SMG‖(6/30)、予備マガジン(30発入り)×4、包丁、スペツナズナイフ、LL牛乳×6、ブロックタイプ栄養食品×5、他支給品一式(2人分)】 【状態:綾香に対する殺意・主催者に対する殺意、左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み、裂傷の傷口は概ね塞がる)】 春原陽平 【持ち物1:鉈、スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2、LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、他支給品一式(食料と水を少し消費)】 【持ち物2:鋏・鉄パイプ・他支給品一式】 【状態:全身打撲(大分マシになっている)・数ヶ所に軽い切り傷・頭と脇腹に打撲跡(どれも大体は治療済み)、へたれ】 - BACK