落穂拾い(前編)




島の西部を流れる唯一の川。
その河口に面する民家の一つに、坂上智代ら三人の少女は早めの宿を取っていた。
安心感からか、里村茜と柚木詩子はくつろいで気ままなことをしている。
「ねえ、見て見て。エロビデオのテープがあるよ。なんかワクワクして来たわ」
「私はそんなもの、興味はありません」
「この“美少女狩り”なんてタイトルからして面白そう。茜はどれがいい?」
「わたしは……“GL〜ガールズラブ”がいいと思います」
舌の根も乾かぬうちに茜は前言を撤回していた。

あまりの緊張感の無さに智代は二人を苦々しく見ていた。
「お前達、他の仲間が苦難に遭ってるかもしれないのに、なんという弛んだ精神をしておる!」
「そんな仮定の話してもしょうがないでしょ。他の人は他の人。あたし達はあたし達なの」
「智代も堅苦しいことばっかり言ってないで、いっしょに見ましょう」
茜もテープを手に取ってはタイトル見て物色している。
「ほら、“トモヨ あふたー”ってのもあるよ。でもタイトルからして面白くなさそう」
「もういいっ! わたし一人で鎌石村へ行く」
「そんなあ。今着いたばかりなのに」
──こうして智代達は五分そこらで家を出たのであった。



「あれは……船」
智代は珍しく笑みを浮かべた。
到着時には気づかなかったが、砂浜から岩場への境目に一隻の船が乗り上げていた。
船体は破損が目立つが修理できるかもしれない。
三人とも嬉しさのあまり興奮を抑えることができず、はしゃぎながら船へと駆ける。
「エンジンはどうなんだろうな。生きていればいいが」
「まずは希望の灯りが見えたようなもんね」
智代を始めに茜が、そして詩子が船に乗り込む。

喜びも束の間、三人の笑みが一瞬にして消えた。
船室の扉を前に一同は凍り付いている。
希望を打ち砕くかのように、あたりには異臭が漂っていた。
「生ゴミじゃないですよね」
茜がポツリと呟く。
「たぶんな。いや間違いなく……」
口にこそしないが、みんなその臭いが死臭だと感じていた。

「智代、早く開けなさいよ」
「わかってる。今開けるから」
詩子にせかされ、緊張の面持ちで扉をゆっくりと開く智代。
「うわっ!」
全裸の女の死体が横たわっていた。
皆驚きのあまり声も出せず、立ちすくむのみである。

「この人、首輪をしていません」
しばらくして茜の落ち着いた声が響く。
「ホントだ。もしかして主催側の要員だったりしてね」
三人とも気を取り直して女や船の状況を調べることにした。
「しかし酷い様だな。死ぬ直前まで性交をしていたような気配だ。傷の具合からして死因は……何だろうな」
射殺でも絞殺でも撲殺でもない。どうやら座礁の際の全身打撲によるもののようだ。
「乳首を噛まれた痕があるね。あたしもこのくらいオッパイがあったらいいなあ……あれ、居ない。茜!」
詩子は女の胸を触りながら茜が居ないことに気づいた。
「船の傍に複数の足跡があります。デイパックも二つありました」
応えるように船室の外から返事があった。
「何か武器は? 銃とかあるか?」
「残念ながらありません。共通のものだけです」
「そうか……判ったから戻って来てくれ。なるべく目の届くところに居て欲しい」
いつ襲われかもしれないのに大胆なことをするものだと、智代は舌打ちした。

「機関は死んでないみたい。燃料は十分あるわ」
「詩子は機械をいじれるのか?」
「原付のエンジンはいじったことあるけどねえ。船はないよ。でも四級小型船舶は取ってるから」
「ほう、船を操作できるのはありがたいな」
詩子の特技は期待できそうだ。
「乗馬とかお花とかお香も一通りはできるよ。あとクレー射撃もね」
「そんなこと聞いてないって……え? 詩子って、上流階級のお嬢様なのか?」
「フフフフ。秘密だよ」
「実は元華族の流れをくむ家系です。……って、嘘です」
いつの間にか緊張感は解けて冗談さえ言える雰囲気になっていた。
「この人を外に出そう。茜と詩子は足を持って」

結局女の身元は判らず、砂浜に埋葬することにした。
船を後に一行は歩き始める。
西日を浴び、浜には三人の長い影が映えた。
と、突然、茜が智代の腕をクイクイと引っ張った。
「ん? どうした」
茜は二人に手で座るよう指示する。
何事かと思っていると、砂浜に文字を書き始める。
【首輪の盗聴器のこと忘れてました。船を見つけたこと、喋ってまずくないですか?】
あっ、と軽い悲鳴を上げたが既に遅い。詩子を見ると同じように気まずい顔をしている。
【まずかったな。今は私達が生き残ることを考えようではないか】
──前向きに考えよう。
そのためにはまず、ウサギの指示通りに行動する者達──敵を斃さなければならない。
(望まずとも殺し合いをすることになるんだな)
立ち上がると暗い気分払拭するように沖の方を眺める。
あいにく大海原は見えなかった。泳いで渡れそうなほどの距離にある小さな島に遮られて。

「元気を出してください。リーダーが務まりませんよ」
「ひゃあっ!」
背中から臀部にかけてスウーッと指がなぞられ、智代は軽く仰け反った。
「あははーっ、行きますよーっ」
「この不良め、お仕置きをしてやる」
「ずるい、あたしがやりたかったのにー」
逃げる茜と追いかける智代と詩子。
少女達は海岸を駆けた。




【時間:2日目・17:50頃】
【場所:D−1の砂浜】

坂上智代
【持ち物:手斧、LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、他支給品一式】
【状態:健康、鎌石村へ】

里村茜
【持ち物1:包丁、フォーク、LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、救急箱、他支給品一式】
【持ち物2:拾った二人分の食料】
【状態:健康、鎌石村へ】

柚木詩子
【持ち物:ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)、鉈、LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、他支給品一式】
【状態:健康、鎌石村へ】

【備考:茜が見つけたデイパックからは食料だけ抜き取り、残りは放置されてます】
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