第三回放送(ルートB-13・B-16)




17:50

ジリリリリリリリリリリリ……!
けたたましいベルの音がなる。その圧倒的音量によるノイズは、熟睡していた久瀬を地獄へと呼び戻す。
久瀬はばっと身を起こし、モニターの右下を注視した。
表示されている時計は、現在の時刻が17時50分である事を示している。
モニターの映像が移り変わり、生理的嫌悪感をもたらすあの白いウサギの顔が現れた。
『やあ久瀬君、お目覚めは如何かね?』
「……僕の体調なんて毛程にも心配をしていない癖によく言うよ。三回目の放送をやれ、というつもりだろ?」
『くくくっ……、よく分かっているじゃないか。それじゃ宜しく頼むよ。
念の為に言っておくけど、命が惜しければくれぐれも我々にとって不利益な事は言わないようにね』
地声が分からぬよう変換された声で紡がれる笑いは、久瀬を酷く苛立たせる。
そして画面の映像がプツリと途切れ、表示されるものは漆黒の闇だけとなった。
久瀬は両の足を奮い立たせ、唯一の出入り口である扉へと歩いていった。
渾身の力で扉を開け放とうとしたが、案の定施錠されたままのソレはびくともしない。
「クソッ……!」
大きく舌打ちする。睡眠を取って体力は全快近くまで回復した。
しかしその程度でこの状況を打開するのは、到底不可能だった。




17:59

第三回放送の時は訪れた。
それはゲームに参加している者達に、そして久瀬自身にも絶望と憎悪を与える報せだった。
ゆっくりと赤く浮かび上がってくる、この島の何処かで無残な姿を晒しているであろう骸達の名前。
久瀬は驚愕のあまり、ぽかんと口を開けた。
勿論殺し合いは自分が意識を失っている間にも進行していて、第二回放送時を上回る数の死者が出ていたという事もある。
だがそれ以上に久瀬へ衝撃を齎した事実、それは、
「あ……相沢君と川澄君が……」
相沢祐一と川澄舞の死だった。
とうとう知人から犠牲者が出てしまった。しかし今の彼には悲しむ時間さえ与えられていない。
時計は18:00を示していた。



18:00

『――時間だよ、久瀬君。放送を始めたまえ』
ウサギが一瞬画面に現れ、その一言だけを告げそしてまた消える。
ここで逆らってもどうにもならない――久瀬は一度大きく深呼吸をしてから、言葉を吐き出し始めた。
「――みなさん、聞こえているでしょうか?これから第三回放送を始めます。とても辛い報せになりますが、どうか気を確かにしてお聞き下さい。
それでは、今までに死んだ人の名前を発表します」
目線をモニターへと移して、死者達の……精一杯生きてきて、それでも助からなかった者達の名前を読み上げる。
「――それでは発表します。

1番、相沢祐一
4番、天沢郁未
5番、天野美汐
6番、一ノ瀬ことみ
8番、伊吹風子
17番、柏木梓
19番、柏木耕一
20番、柏木千鶴
26番、神岸あかり
28番、川澄舞
29番、川名みさき
32番、霧島聖
35番、国崎往人
40番、向坂雄二
41番、上月澪
43番、幸村俊夫
47番、相良美佐枝
48番、笹森花梨
49番、佐藤雅史
55番、少年
59番、住井護
69番、遠野美凪
70番、十波由真
71番、長岡志保
77番、那須宗一
78番、七瀬彰
86番、姫百合瑠璃
89番、藤田浩之
91番、藤林椋
96番、保科智子
98番、マルチ
106番、巳間良祐
118番、芳野祐介


 ――以上です」

全ての死者の名前を挙げた後、久瀬は別の事柄について考えていた。
ここで感傷に浸っていても誰も救われないからだ。
『今回は随分と落ち着いていたじゃないか。もう人が死ぬのに慣れたのかね?』
あのウサギの下賎な声がまた聞こえてくるが、久瀬の意識にまでは届いていない。
(死ぬのはもう怖くない……相沢君だって川澄君だって、死んでしまったんだ。
きっと彼らの事だ、誰かを助けようとして殺されてしまったんだろう。ここで僕だけが臆病風に吹かれる訳にはいかない。
考えろ……どうやったらこの殺し合いを管理している連中に一泡吹かせられるか、考えるんだ……ッ!)
相沢祐一と川澄舞の遺志は久瀬にもまた、受け継がれていた。




久瀬
 【時間:2日目18時過ぎ】
 【場所:不明】
 【状態:主催者へ反旗を翻す決意】
※この話を他ルートで使いたい場合は自由に改変してお使いください
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