二人の殺戮者




地にぐったりと倒れ伏す国崎往人の死体。
朝霧麻亜子はどこか冷めた目で、僅かの間とは言え共闘した者の亡骸を眺め見ていた。
「もう勝負を終わらせていたなんて、あやりゃん……恐ろしい子」
来栖川綾香を打倒するという共通目的の下、成り行きで協力しただけなので特に悲しいとは思わなかった。
しかし―――国崎往人は、強い男だった。
優れた体格、咄嗟の判断力、そしてマシンガンを持った相手にも物怖じしない度胸。
武装面も考えれば、その実力は自分以上であった筈だ。
そんな彼ですら綾香相手ではあっさりと殺されてしまった。
はっきり言って今の自分の装備では、綾香を正面から倒すのは絶望的だ。
隙を狙おうにも、既に綾香は姿を消してしまっている。
こうなってしまった以上は―――

「他の参加者を倒してレベルアップするしかないね……」
ここで言うレベルアップとは装備を奪い取る事だ。
出来ればマシンガン系統の武器、最低でも拳銃が欲しい所。
弾が一発しか無いデザートイーグルでは、攻撃面であまりにも不安が大き過ぎる。
とは言え氷川村で獲物を探そうものなら、また綾香に出会ってしまう危険がある。
武器を手に入れる前にそうなってしまえば、今度こそ自分の命は無い。
となればまずは他の村……距離的に考えれば、平瀬村で狩りを行うのが妥当か。
平瀬村で巳間晴香らを屠ってから一日近く経過している。
そろそろ新しい獲物達が集まってくる頃だろう。

「さーりゃんは絶対殺させない。パワーアップした後なんとしてでもあやりゃんを見つけ出して、そして―――」
麻亜子はボーガンを握り締めた手をバッと天に掲げた。
「デストローイ!」
活を入れるかのように大きく叫んで、麻亜子は平瀬村へと歩き出した。




しかしそんな麻亜子の一挙一動を逃さず窺っている人影が、すぐ近くの茂みの中に存在した。
「は、何言ってんだか。私は殺そうと思えばいつでもあんたなんか殺せるのにね」
麻亜子に聞こえないような小さな声で呟くその少女こそが、来栖川綾香だ。
綾香は往人を殺害した後、環と麻亜子に遭遇した場所へ戻ろうとしていた。
しかし何者かが急接近してくるのに気付き身を隠したのだ。
そして近付いてきた人物は、綾香にとって怨敵である朝霧麻亜子だった。
最大の標的を見つけた綾香は、息を潜めたまま麻亜子の後を追っているという訳である。
何故こうも一方的に相手の存在を察知する事が出来るのか?
「主催者も便利な道具を用意してくれたもんね。コレさえあればもうまーりゃんを見失う事は無い……」
笑みを浮かべながらレーダーを覗き見る。
その中には光点が二つ。
一つは自分の物、そしてもう一つは麻亜子の存在を示す物だろう。

この状態から麻亜子を殺す事はいつでも出来る。
隙だらけの背中を晒している麻亜子目掛けて、マシンガンの引き金を引けば終わりだ。
しかしそれでは余りにもつまらない。
麻亜子を苦しませるには……彼女が『さーりゃん』と再会を果たした時に、二人纏めて片付けるのが理想だ。
たっぷりと自分の無力さを味合わせた上で殺す。
「せいぜい束の間の追跡者気分を味わう事ね、哀れなオチビちゃん」
尾行にまるで気付いていない麻亜子を嘲笑い、綾香もまた歩き出すのだった。




【時間:2日目・16:30】
【場所:I-7北部】

朝霧麻亜子
【所持品1:デザート・イーグル .50AE(1/7)、ボウガン、サバイバルナイフ、投げナイフ、バタフライナイフ】
【所持品2:防弾ファミレス制服×2(トロピカルタイプ、ぱろぱろタイプ)、ささらサイズのスクール水着、制服(上着の胸元に穴)、支給品一式(3人分)】
【状態:マーダー。スク水の上に防弾ファミレス制服(フローラルミントタイプ)を着ている、全身に痛み】
【目的:平瀬村方面へ移動、目標は生徒会メンバー以外の排除、特に綾香の殺害。最終的な目標は自身か生徒会メンバーを優勝させ、かつての日々を取り戻すこと。】

来栖川綾香
【所持品1:IMI マイクロUZI 残弾数(25/30)・予備カートリッジ(30発入×2)】
【所持品2:防弾チョッキ・支給品一式・携帯型レーザー式誘導装置 弾数1・レーダー(予備電池付き)】
【状態:右腕と肋骨損傷(激しい動きは痛みを伴う)。左肩口刺し傷(治療済み)】
【目的:麻亜子を尾行、麻亜子とささら、さらに彼女達と同じ制服の人間を捕捉して排除する。好機があれば珊瑚の殺害も狙う】
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