一難去って……




「藤田先輩……本当に大丈夫なんスか?」
「ああ。いつまでも感傷に浸っている場合じゃないしな。柳川さんたちに笑われちまう……」
荷物を整理し、デザートイーグルとウージーの弾倉を交換すると、浩之は自身を心配してくれるチエと愛佳に向かって軽く苦笑いをした。
「――俺はもうしばらくこの市役所を調べてから教会に戻る。吉岡たちは先に教会に戻っていてくれ」
「そんな……藤田君一人残るなんて危ない……」
愛佳はすぐさま浩之が一人村に残るということに異議を唱えようとしたが、それをチエが静止した。
「――今は一人にしておいてあげたほうがいいと思うっス…………」
「チエちゃん…………」
愛佳はしばらく考えたが、浩之の気持ちを考えた上で彼が残ることに同意することにした。


「それじゃあ藤田先輩。あたしと小牧先輩は先に春原先輩たちのもとに戻っているっス」
ウォプタルの背中の蔵に一通り荷物を乗せ終えると、チエは笑顔で浩之に向かってびしっと敬礼をした。
(この敬礼は今は亡き親友、柚原このみの癖を真似したものである)
「ああ。気をつけて行けよ。それと―――ウォプタルだっけ? 二人を頼むぞ」
浩之はウォプタルに目を合わせ話しかける。
するとウォプタルも浩之に一度クワッと泣いて返事をした。
「それじゃあ藤田君、もし河野君たちに会えたらその時は…………」
「ああ、判ってる。小牧たちこそ、もしあかりや皆に会えたら俺は無事だって伝えておいてくれよ?」
「うん。――じゃあ私たちはこれで……」
「ああ。また後でな」

「…………」
ウォプタルの手綱を持って歩いていく愛佳と、それに同行するチエの後姿を浩之はしばらくの間見つ続けた。
――――そして二人の姿が見えなくなると、浩之は再び役場の中に入った。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


役場の奥の部屋――――そこに、四人の女性が川の字になって横たえられていた。
無論、それは相良美佐江、柏木梓、柏木千鶴、そして川名みさきの亡骸である。
「…………」
浩之は変わり果てた四人の姿を何も言わず黙って見つめながら思った。

――――何故こんなことになってしまったのか。
なにが彼女たちをこのような目に合わせてしまったのか。
そして、どうしてこの惨劇を自分は回避できなかったのか。

「…………」
――――考えれば考えるほど答えは出てこない。
しかし、浩之でも唯一これだけははっきりと言えた。
「俺は――俺たちの世界を破壊し、こんな地獄に変えた主催者たちを絶対に許さない…………!」
この島に来て浩之は、初めて主催者に対する怒りを口に出した。

もう一度、浩之はみさきたちを見つめた。
他の三人はともかく、みさきはとても安らかな死に顔だった。
(そういえば倉田の親友の川澄って奴もこんな顔してたっけ…………
るーこはこの顔のことを『何かをやり遂げた顔』って言ってたな…………)
そう思いながら浩之は一度みさきの頬にそっと手を触れて撫でた。
「川名……今までありがとうな。俺もお前がいなかったら今頃は生きていなかったかもしれない……
俺もお前に何度も救われていたよ…………」
そう呟くと浩之はみさきの顔から手を離し、ゆっくりと立ち上がった。
「――だから、お前に助けてもらったこの命、まだそう簡単に捨てるつもりはねえ。
俺は必ず皆でこのデスゲームを叩き潰して、そして絶対に生きて帰る。だからよ――むこうで深山や皆と俺を……俺たちを見守っていていてくれ」
そう言うと浩之は部屋を後にして役場を後にしようとした。

――――その時だった。その男が浩之の前に現れたのは…………



「おやおや……この様子だと、どうやら文化祭は既に終わってしまったみたいだなあ…………」
「!」
役場の入り口がゆっくりと開き、一人の男が浩之の前に姿を見せた。
男が現れた瞬間。役場の空気は再び一瞬で凍りついた。
それも、先ほどの柏木千鶴のものの比にならないくらいの禍々しい殺気によるものだ。

(な…なんだこいつ…………!?)
――浩之の背にも一瞬悪寒が奔る。
まるでケツの穴にツララを突っ込まれたような気分だった。

「ちょ〜〜〜っと早いかもしれないが、まあいい…………後夜祭といこうじゃないか、少年!!」
その叫び声と同時に、目の前の男――――殺人鬼・岸田洋一は動き出した。




【2日目・14:50】


【場所:鎌石村役場】

藤田浩之
 【装備:ウージー(残弾25/25)、デザートイーグル(.44マグナム版・残弾8/8)、特殊警棒】
 【所持品1:ウージーの予備マガジン(弾丸25発入り)×2】
 【所持品2:ライター、新聞紙、支給品一式(×2)】
 【状態:脇腹と左腕と右足を負傷(それぞれ痛みはあるが、動けないほどでは無い。軽い手当て済み)】

岸田洋一
 【装備:電動釘打ち機(8/12)、カッターナイフ、鋸、防弾アーマー】
 【所持品:五寸釘(5本)、支給品一式】
 【状態:切り傷は回復、マーダー(やる気満々)】



【場所:D−3】

吉岡チエ
 【装備:89式小銃(銃剣付き・残弾30/30)、グロック19(残弾数7/15)、投げナイフ(×2)】
 【所持品1:89式小銃の予備弾(30発)、予備弾丸(9ミリパラベラム弾)×14】
 【所持品2:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)、救急箱(少し消費)、支給品一式(×2)】
 【状態:左腕負傷(軽い手当て済み)、教会へ】

小牧愛佳
 【装備:ドラグノフ(6/10)、包丁、強化プラスチックの大盾(機動隊仕様)】
 【所持品:缶詰数種類、食料いくつか、支給品一式(×1+1/2)】
 【状態:健康、教会へ】

ウォプタル
 【状態:教会へ】
 【備考】
  ※以下のものを運んでいます
   ・火炎放射器、支給品一式×4


【備考】
※ウージーの残弾3発はチエの持つ予備弾丸に加えられました
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