逆転、逆転、再逆転




呆然としていた朋也は、やがて現在の状況を思い出す。
「おっさん……なんで来た! 渚まで連れて!」
「やかましい! てめえなんでこんなことになってやがんだ! 止めに行くんじゃなかったのか!?」
「彰が見つかったんだよ! あいつは絶対俺が殺す!」
「るっせえ! やらせてたまるか!」
再び高槻と朋也が向き合う。
既に満身創痍だ。
それでも目だけは死んでいない。
互いに拳を握って構える。
「ああくそ! おめえらいっぺん止まれ! ぶっ飛ばすぞ!」
「岡崎朋也、彰はどこ?」
みちるが思い出したように朋也に聞いた。
秋夫はその言葉に怪訝そうに振り向く。
「ちょっと待て、あいつが彰じゃねえのか?」
「違う……こいつらは彰にとどめさそうとしたら乱入してきやがった」
変わってきた状況に高槻が尋ねる。
「おい、お前……ゲームに乗ってるんじゃないのか?」
「そんなわけ……」
「朋也君はそんなことしません!」
智也を遮って渚が叫ぶ。
「渚……」
「そうだよ! 岡崎朋也はみちるを助けてくれたんだよ! 彰って奴が風子と由真を殺したんだから!」
「おい……じゃあ」

「あーあ……ばらしてくれちゃったね」

「彰!」
そこには七瀬彰が立っていた。
少し悲しそうな顔をして、左腕で銃を持ち。
その銃身を七海の口に突っ込みながら、盾にして。
閉じることのできない口からは唾液が溢れていた。
真っ先に反応したのは高槻だった。
「てめえ何してやがんだ!」
「このまま話してたらいつか僕が殺したってことばれそうだったから。本当は銃借りた後誤射して君を殺そうと思ってたんだけど……」
闖入者を見やる。
「あなたたちが来てしまったからね……」
「おめえ……それでどうしようってんだ……」

「武装解除と逃走経路の確保……かな。こうなった以上僕に味方してくれるとは思えないし。それに誰かを殺そうとしたら君たちも黙ってないよね? 
だからこうだ。全ての武器を僕のほうに軽く投げて皆はそこから離れてくれ。後ろを向く必要は無いけど僕のほうに近づいたらこの子を撃つかもしれない。
そして僕が武器を選んでここから離れる。その時は皆には後ろを向いていてもらう。僕が逃げられたと判断した段階でこの子は解放するよ。
僕はここにいる誰も殺さない。その代わり、君たちも僕を追ってこない。どうだい?」
「! その銃は! ちょっと待て! 郁乃はどうした!」
「郁乃……って言うのはあの車椅子の子だよね? 
大丈夫。この銃は君たちの争いを止めるためにって穏便に借りただけだし、その人たちが来て僕のことをばらしそうになったからちょっと気絶してもらっただけ。
後遺症になってることも無いと思う。伝言。高槻、ごめん……だって。さあ、どうする?」
「くっ……」
怯んだ高槻の前に朋也が出る。
「その程度で……俺が止まると思ったか……?」
「! てめえ! 動くな!」
一歩踏み出した朋也を高槻が強引に止める。
「やかましい! ここであの糞野郎を仕留めなくていつ仕留めるってんだ!」
「うるせえ! あいつらは殺させねえ!」
「……そうなると思ったよ。だから……」
彰は闖入者のほうを再び見る。
「そっちの……渚とかいう子、ちょっと来てくれないか?」
「「「!!」」」
指名された渚が僅かに震える。
それを見た朋也は激昂して叫ぶ。
「おい! 渚は関係ないだろうが!」
朋也の態度から彰は確信を深めて、言い放つ。
「だから、君が一番行動を躊躇する人質のほうがいいんだ。問題ないだろう? ちゃんと解放するんだから。それに渚という子がちゃんと来ればこの子も解放する」
「渚! 行くな!」
「いえ……私、行きます」
「渚!」
「駄目だ! 渚、いかせねえぞ!」
秋夫が渚の前に立ちはだかった。
それでも渚は止まらない。
「でも、私が行かないとあの子が殺されてしまいます。私が行けば皆さん助かるんですから、やっぱり行きます」
秋夫の横を抜けて渚がゆっくりと歩いていく。

「渚っ! くそっ! 彰! 俺を変わりに人質にしろ!」
「ふざけないでくれ。命懸けでも僕を殺そうって奴を人質になんかできるわけ無いだろう」
「くそっ!」
渚はゆっくりと歩く。
足の傷は完治には程遠い。
「さて、その間に君たちには武装解除してもらいたいのだが。銃は勿論、ナイフや石ころ、とにかく全ての持ち物を一箇所に集めてそこから離れてくれ。
……大丈夫。ここで約束を反故にして無用な恨みを買うよりは生き残ることを選ぶから。それに……」
(相手方の足手まといは残しておくに越したことは無いからね)
口には出さず、黙々と持ち物を捨てていく朋也たちを見る。
渚はまだ遠い。
「渚ちゃん、もう少し急げないかな」
「は……はい……」
渚は速度をあげる。
足から血が滲む。
「! やめてくれ! 渚は足を撃たれているんだ!」
「……そうなの?」
「は……はい……」
「それは悪かったね。じゃあゆっくりで構わないよ」
「はい……」

そうこうしている間に武装解除が終わる。
「本当に全部捨てたの? もし嘘をついてたら撃っちゃうかもしれないよ?」
「本当だ! もう何も持ってねえ!」
「他の人も?」
朋也や秋夫も渋々頷く。
「じゃあ、そこから離れて。僕がおかしなことしないか見てる分には構わないけど、近づいたら……もういいね」
渚が到着する。
「その人を……放してください……」
「じゃあ、抵抗しないでね」
「……はい」
「君も、動かないでね」
七海に向かって言う。
銃身を突っ込まれて閉じられない口からは涎が溢れている。
七海は泣きながら頷いた。

「じゃあ……」
彰は七海の口から銃身を抜き、開いた渚の口に銃口を突っ込もうとして……

ぱぱんっ!

銃声が響き渡った。
渚の顔が朱に染まる。
「渚っ!?」
「彰! てめえええ!!」
朋也と秋夫が駆け出した。
渚がゆっくり……倒れ……ない。
代わりに、彰が跪く。
撃たれた弾みに暴発した銃を落とし、左腕から血を流し、それを右腕で抑えることも侭ならず。

「ぐぅっ……」
「なっ……」
「どういう……」
(どういうことだ……騙されたのか……? そんな筈は無い……僕が見てる限りあいつらは動いていなかった。
仮に銃を隠し持っていたとしても構えるそぶりもなかった。ましてそのための盾も目の前にいたのに……
浩平は……倒れてる……じゃあ、何が……)
霞む意識を繋ぎ止め、取り落とした銃を拾い周囲を見渡す。
そしてその異物を発見した時には。
「あ……」
気絶していた筈の異物は酷く冷たい目をしてH&K PSG-1を構えて、彰の額をポイントしていた。

ぱんっ










【時間:二日目・14:40】
【場所:C-3】
古河秋生
【所持品:無し】
【状態:呆然。中程度の疲労、左肩裂傷・左脇腹等、数箇所軽症(全て手当て済み)。渚を守る、ゲームに乗っていない参加者との合流。聖の捜索】
古河渚
【所持品:無し】
【状態:呆然。銃の暴発時に左の頬を浅く抉られる。自力で立っている、右太腿貫通(手当て済み、再び僅かに傷が開く)】
みちる
【所持品:セイカクハンテンダケ×2、他支給品一式】
【状態:呆然。目標は美凪の捜索】
岡崎朋也
 【所持品:三角帽子】
 【状態:呆然。マーダーへの激しい憎悪、疲労大、全身に痛み。第一目標は彰の殺害、第二目標は鎌石村役場に向かう事。最終目標は主催者の殺害】

湯浅皐月
 【所持品1:H&K PSG-1(残り0発。6倍スコープ付き)、 セイカクハンテンダケ(×1個+8分の3個)、.357マグナム弾×15、自分と花梨の支給品一式】
 【所持品2:宝石(光3個)、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、手帳、ピッキング用の針金】
 【状態:性格反転、首に打撲、左肩、左足、右わき腹負傷、右腕にかすり傷(全て応急処置済み)】
七瀬彰
 【所持品:S&W 500マグナム(4/5 予備弾7発)、薙刀、殺虫剤、風子の支給品一式】
 【状態:死亡】
ぴろ
 【状態:皐月の傍で待機】
折原浩平
 【所持品1:34徳ナイフ、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
 【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
 【状態:脳震盪(回復にはもう少し時間が必要)、頭部と手に軽いダメージ、全身打撲、打ち身など多数。両手に怪我(治療済み)】
ハードボイルド高槻
 【所持品:分厚い小説】
 【状況:呆然。全身に痛み、疲労極大、出血大量、左肩を撃ち抜かれている(左腕を動かすと激痛を伴う)、最終目標は岸田と主催者を直々にブッ潰すこと】

小牧郁乃
 【所持品:写真集×2、車椅子、ほか支給品一式】
 【状態:気絶、車椅子に乗っている】
立田七海
 【所持品:フラッシュメモリ、ほか支給品一式】
 【状態:呆然】
ポテト
 【状態:気絶、光一個】

【備考】
以下の物は彰が指定した所にまとめて置いてある
トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・S&W M29(残弾数0/6)・支給品一式(食料3人分)
S&W M60(0/5)、包丁、鍬、クラッカー残り一個、双眼鏡、他支給品一式
コルトガバメントの予備弾(6)、スコップ、ほか食料・水以外の支給品一式

以下の物は高槻達が戦っているすぐ傍の地面に放置
・コルトガバメント(装弾数:6/7)
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