「河野さん、このお方は…………」 「イルファさん……俺の……友達だよ…………」 鷹野神社の一室。そこには貴明が運んできたイルファだったモノを中心に、神社にいた全員が集まっていた。 「イルファさんが死んだことは2回目の放送の時点で知っていた……だけどこんなの……酷すぎる…………」 もう一度変わり果てたイルファを一瞥すると貴明はギリッと奥歯をかみ締めた。 そんな彼の手には今、イルファの遺品であるフェイファー ツェリザカが握られている。 (今頃、珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんはどうしているだろう―――? イルファさんのことを聞いて悲しんでいるのだろうか? それとも―――) ツェリザカに予備の弾丸を装填しながら、貴明はイルファの大事な家族である姫百合珊瑚、瑠璃のことを思った。 その時、貴明の中であるひとつの考えが浮かんだ。 (ん? 珊瑚ちゃん………?) 「そうだ!」 突然、そんな声をあげて貴明が立ち上がる。 「た…貴明さん!?」 「ど…どうしたのよ、いきなり!?」 「観月さん、悪いけど携帯電話貸してもらえないかな?」 「え? 携帯?」 そう言われてマナは慌ててポケットから携帯電話を取り出し、貴明に渡した。 「ありがとう。よし、早速…………」 「ちょっと。その前に何をしようとしているの!? 説明しなさいよ!」 「ごめんなさい杏さん。説明は後でします。その前に今はこれで……」 そう言いながら貴明は一度部屋を出た。 そして部屋を出ると、携帯電話の電話帳の機能である場所の番号を確認すると早速そこに電話をした。 ――そこに電話をかけると、コール音が鳴り始める。 貴明が電話をかけた場所は氷川村にあるという診療所だ。 電話帳のアドレスには島の名所が50音順で登録されていた。そして一番上にあったのが沖木島診療所の番号。 貴明はまずはそこに電話をかけてみることにした。 誰でもいいから繋がって欲しい……貴明はコール音を聞きながらそう願い続けた。 ――――しかし、いつまで経ってもコール音が途切れることはなかった。 「ちっ……!」 貴明は一度舌打ちして電話を切ると、急いで次の名所の番号を確認する。 (俺たちや杏さんたちがさっきまでいた鎌石村周辺の名所は今は飛ばすとして……次に登録されているのは…………) ――教会。 「ここか……」 貴明は地図を見て教会の場所を確認する。 教会は平瀬村の近く、エリアG−3の隅っこに位置していた。 (頼むぞ……) そう願うと、貴明は決定のボタンを押し、再び電話をかける。 またしても貴明の耳にコール音が鳴り響いた。 しばらくの間、コール音が鳴り響く。 (ここも駄目か……) 諦めかけていた貴明であったが、次の瞬間――――コール音が途切れた。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 『はい。もしも〜し』 (やった……!) 通じた。電話の向こうから聞こえたのは聞き覚えのない少年の声。 しかし、電話が通じたというだけでも今の貴明にとって大きな収穫である。 瞬時に気持ちを落ち着かせると、貴明は口を開いた。 「もしもし。え〜っと、そこは教会であってるかな?」 『ああ。あってるよ。――ところで誰だお前?』 「あ…俺の名前は河野貴明っていうんだけど…………」 『河野……貴明!? 河野貴明だって!?』 「あ…ああ」 『ということは、君がるーこや珊瑚ちゃんたちが探していた……』 「!? るーこと珊瑚ちゃんを知っているのか!?」 電話の向こうの少年から知り合いの名前の名前が出てきたので、貴明は思わず叫んでいた。 『うん。今2人は一緒にいるんだけど……代わろうか?』 「ああ。是非!」 『はいはい。ああ。そうだ。自己紹介がまだだったね。僕の名前は春原ようへ……って、2人とも何するんだ!?』 『うるさいぞ、うーへい。電話の向こうにはうーがいるのだろう。ならば早く代われ』 『せやせや。うちらも早く貴明とおしゃべりしたいんやもん』 電話の向こうから懐かしい声がした。 (よかった。2人とも無事みたいだな……) 電話の向こうから聞こえるそんな声を聞いて貴明は肩を撫で下ろした。 『代わったぞ、うー』 「るーこか。その様子だと、そっちも大丈夫みたいだな」 『ああ。――ところで、うーは今どこにいるのだ?』 「俺? 俺は今、みんなと鷹野神社にいる。久寿川先輩もいるぞ」 『そうか。うーささも無事か』 「うん。……あ。そうだ。いきなりで悪いけど、珊瑚ちゃんに代わってもらえるか?」 『わかった』 るーこのその声が聞こえてしばらくした後、別の少女の声がした。 『貴明?』 「ああ、俺だ。珊瑚ちゃんか?」 『うん。貴明たちは大丈夫なん?』 「うん。怪我してる人多いけど、まあ大丈夫だよ。――それよりも……」 『?』 「イルファさんのことなんだけどさ……」 『!?』 「今……鷹野神社にいるんだけど、そこで見つけちゃったんだ。イルファさんの亡骸を…………」 『そうなんか……』 「――それでさ。俺……今からそっちにイルファさんを珊瑚ちゃんのもとに運びに行こうと思うんだ」 『えっ?』 「そのほうがイルファさんも喜ぶと思うし……それに、実は俺たちのもとにも1人ロボットの女の子がいるんだ」 『ロボットの?』 「ああ。名前はほしのゆめみ。最新式のコンパニオンロボットらしいんだけど、胴体を銃で撃たれたせいで左腕が動かなくなっちゃったらしい。 それで――珊瑚ちゃんなら彼女を直せられないかなと思って…………」 『出来ないことはないかもしれへんけど……今うち別のことで忙しくって……』 「別のこと? なんだい?」 『ああ、ごめんなー。ちょっとそのことは今は貴明たちには話せないねん』 「そうか……」 『でも……いっちゃんたちを連れて来てくれるならうち待ってるで』 「いいのか?」 『うん……貴明の言うとおりそのほうがいっちゃんも喜んでくれると思うし……瑠璃ちゃんも……』 「!? 瑠璃ちゃんがどうかしたのか!?」 『瑠璃ちゃん……死んじゃった…………うちを護るために…………』 「!?」 貴明はその後、瑠璃の死の内容を詳しく説明してもらった。 来栖川綾香という珊瑚の仲間の1人、藤田浩之の知り合いがゲームに乗っていたと。 綾香に珊瑚を庇う形で瑠璃が殺されたこと。 現場に駆けつけた柳川裕也という刑事たちのおかげで綾香は退けたこと。 そして、綾香は防弾チョッキと参加者の首輪を探知するレーダーを装備しているということを―― 「そうか……ごめんね。そんなこと聞いちゃって…………思い出させちゃった……よね?」 『大丈夫や。うちがいくら嘆いたところで瑠璃ちゃんは帰って来ることはあらへん。瑠璃ちゃんに助けてもらった分もうちは生きなきゃいけないもん…………』 「…………」 『うちらは教会におるよ。平瀬村の方は今のところ大きな騒ぎとかは起きてへんから、来るなら安心して来るとええよ』 「わかった……ありがとう。それじゃあ切るよ」 『うん。みんなで待っとるで』 珊瑚のその声を聞きながら、貴明は電話を切った。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ――自分が思っていたよりも、珊瑚は強い子だった。 もしかしたら彼女は俺たちなんかよりもぜんぜん強い子なのかもしれない。 俺はそう思いながら部屋に戻った。 そこには荷物をまとめているみんなの姿があった。 「お待たせ。説明しようと思ったんだけど……」 「言わなくていいですよ貴明さん」 「え?」 「うん。全部聞こえていたし……」 「ぷぴっ!」 「な!?」 「行くんでしょ? 教会に……」 「…………うん」 俺は頷くと、イルファさんを背負い、彼女の遺品であるツェリザカをズボンに差し込んだ。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 教会までは道なりではなく、森林地帯の方を通っていくことにした。 このほうが敵に遭遇する確率も低いだろうし、万一遭遇しても、木々や茂みに身を隠すことが出来るからだ。 「暗くなってきましたね……」 空を見ながらゆめみが呟いた。 「そろそろ6時……3度目の放送の時間ね…………」 「2回目の放送の影響がどれだけ出たか……そこが問題ね」 「はい……」 「――みなさんは天国のことをどう思いますか?」 「え?」 「ぷぴ?」 突然ゆめみがそんなことを口にした。 「ゆめみさん、突然なにを……」 「いえ……私も何故こんなこと言いたくなったのか判らないのですが、私やイルファさんのようなロボットでも皆さんと同じ天国に行くことが出来るのでしょうか、と思いまして……」 「う〜ん……どうなのかしら?」 「確かに『壊れる』という概念はあるだろうけど、本来機会に『死』なんて概念はないしねえ…………」 ゆめみの問いに杏やマナたちは難しそうな顔をする。 そんな一行に対して貴明は呟いた。 「いけるさ……イルファさんもゆめみも……」 「え?」 「たとえ人であろうとロボットだろうと、俺たちはこの世界に存在していることに代わりはない。 だから……きっといけるさ。みんな同じ場所に…………同じ天国に…………」 「貴明……」 「貴明さん……」 ――神様。もし本当にこの世界にいるのでしたら、どうか聞いてください………… いづれ別れの時はやって来る。でも、いつかまた出会えるときが来る………… だから………… 「天国を、ふたつにわけないでください」 貴明一向は皆、己のこころの奥底でそれぞれ誰の耳に聞こえることなく、そう呟いたのだった。 【時間:2日目・18:00前】 【場所:G−4・5境界】 河野貴明 【装備品:ステアーAUG(30/30)、フェイファー ツェリザカ(5/5)、仕込み鉄扇、良祐の黒コート】 【所持品:ステアーの予備マガジン(30発入り)×2、フェイファー ツェリザカの予備弾(×10)】 【状態:左脇腹、左肩、右腕、右肩を負傷・左腕刺し傷・右足、右腕に掠り傷(全て応急処置および治療済み)、半マーダーキラー化、境界へ】 【備考】 ※イルファの亡骸を背負っています ※情報交換により岸田洋一を危険人物、抹殺対象と認識しました ※電話により来栖川綾香を危険人物、抹殺対象と認識しました ※聖、ことみの死については杏が未だ話していないので知りません 観月マナ 【装備:ワルサー P38(残弾数5/8)】 【所持品1:ワルサー P38の予備マガジン(9ミリパラベラム弾8発入り)×2、カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)、9ミリパラベラム弾13発入り予備マガジン、他支給品一式】 【所持品2:SIG・P232(0/7)、貴明と少年の支給品一式】 【状態:足にやや深い切り傷(治療済み)。右肩打撲。教会へ】 【備考】 ※情報交換により岸田洋一を危険人物と認識しました ※電話により来栖川綾香を危険人物と認識しました 久寿川ささら 【所持品1:スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、支給品一式】 【所持品2:包丁、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、支給品一式】 【状態:右肩負傷(応急処置及び治療済み)、教会へ】 【備考】 ※情報交換により岸田洋一を危険人物と認識しました ※電話により来栖川綾香を危険人物と認識しました 藤林杏 【装備:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾(12番ゲージ弾)×27】 【所持品:予備弾(12番ゲージ弾)×27、辞書×3(国語、和英、英和)、救急箱、食料など家から持ってきたさまざまな品々、支給品一式】 【状態:健康、教会へ】 【備考】 ※情報交換により岸田洋一を危険人物と認識しました ※電話により来栖川綾香を危険人物と認識しました ほしのゆめみ 【所持品:日本刀、忍者セット(忍者刀・手裏剣・他)、おたま、ほか支給品一式】 【状態:休憩中、胴体に被弾、左腕が動かない】 【備考】 ※左腕が動かないので両手持ちの武器が使えません ※情報交換により岸田洋一を危険人物と認識しました ※電話により来栖川綾香を危険人物と認識しました ボタン 【状態:健康、杏たちに同行、教会へ】 【その他備考】 ※珊瑚ならゆめみを修理できるかもしれません ※イルファの左腕は肘から先がありません - BACK