人気の無い昼下がりの鎌石村の中心部。 北川潤と広瀬真希は山を下り、役場の傍に辿り着いていた。 役場で何か情報を得ようと歩いていると、突然、連続した発砲音が聞こえた。 すぐさま玄関へ向かおうとしていたところ、二人は異様な惨殺死体を発見する。 頭を叩き割られた上に脳を攪拌され、しかも斬首された少女──藍原瑞穂。 日陰で少し目立たないところにそれはあった。 「お……これはまた、酷いなあ」 「ヒィッ! あ、ああぁ……」 思わず手を口に当て凍りつく真希。 足の力が抜け崩れ落ちかけたところ、横から手が伸び腰を掴まれる。 「大丈夫だ、俺がついてるから」 北川は真希を支えながら優しく宥める。 「怖い、あたし怖いよ! こんな風に殺されるなんて……」 はからずも普段の勝気な性格とは裏腹に、真希は少女の弱さを吐露してしまった。 自身でいくら叱咤しても体の震えは止まらない。 元々滅多なことで動じない性格だが、瑞穂の殺され方は耐性をはるかに超えるほど強烈であった。 撃たれたり刺されたりした程度の死体なら、取り乱すことはなかった。 北川を余裕で引っ叩くぐらいのことはしたかもしれない。 「俺が、全身全霊でもって守ってやる。必ずな」 「うん、ありがとう」 北川の温かな体温が萎縮した士気を回復してくれるのを、真希は肌で感じた。 今まで高飛車な態度であたったことを思うと申し訳ない気がしてならない。 これからはいくらか素直な女の子でいよう。真希はそう思った。 目を逸らしていたが瑞穂の亡骸に向き直り、彼女の死に様を目にしっかりと焼き付ける。 (あたしは死なない。あなたの分もきっと生きるから、全てが終わるまで見守っててね) 北川が警戒する中真希はデイパックを漁ってみたが、皆が持つ支給品一式しかなかった。 やりたくはなかったが、瑞穂の体を弄り何か持ってないか調べてみる。 「殺した奴が持っていったみたいだな」 「そうね、何もないよ」 何気に傷口や脳漿の乾き具合を見ている内に、ある事にがつく。 どう考えても当日に死んだようには見えなかった。 今行われている銃撃とは無関係のようだ。 「そろそろ行こうか」 いつまでも検分しているわけにはいかない。北川に促され建物の中へと向かうことにした。 「ねえ、今の銃声……」 「ああ、別の方からもしたな」 役場とは別の方──北の方角からも発砲音が聞こえた。 どうやら別々の所で撃ちあいが起きているもようだ。 真希は迷った。どちらへ駆けつけたらよいものか。 判断を仰ごうと北川を窺う。 こういう時はやはり男の決断を頼りにしてしまう。 北川はというと、彼もまた思考を巡らしているところであった。 軽挙は慎まなければならないが優柔不断でもいけない。 熟慮の末、下した決断は──。 「準備はいいか?」 「いつでもオッケーよ。雨が降ろうが矢が降ろうがついていくから」 「よし北の方へ行こう」 「う、うん」 口にはしなかったが、北川もみちるの捜索を優先したに違いない。 ただ、現場は役場の方が近いだけに、中にいる仲間を援護できないもどかしさが募る。 もしかしたらみちるが居たりして……。 あるいは知り合いの折原浩平、長森瑞佳、里村茜、川名みさきのいずれかかも。 ──川名みさき! 平瀬村で出会った彼女のことが思い起こされる。 今後の方針についての話し合いが一段落した後、みさきと少しばかり個人的な話をしてみた。 「実はわたし、同じ学校の二年生なんです。」 「うん、広瀬さんのことは三年生の間でも噂を聞くことがあるよ。出会えてうれしいよ」 「ほう、真希は有名人だったんだ。ハハハ」 北川のちゃちゃに真希は苦笑するしかなかった。 「深山先輩が亡くなられて辛いでしょうけど、この困難を乗り越えて下さい」 「ありあとう、雪ちゃんの分まで生きるから、広瀬さんも頑張ってね」 みさきは目に涙を浮かべながら真希の手をしっかりと握っていた。 初対面とはいえ、後輩と邂逅したことがよほど嬉しかったのだろう。 彼女がその後、どこへ向かったかは知る由も無い。 (──先輩どうかご無事で) ワルサーP38を握る手に力を込める。 ゲームに乗った者はやはり斃すしか方法がない。 この島を脱出するためにも彼らと戦い続けなければならないのだ。 役場内のことを気にかけながらも二人は駆け出した。 走る北川の背中が頼もしく見える真希であった。 【時間:二日目・14:25】 【場所:C−3鎌石村役場外】 北川潤 【持ち物@:SPASショットガン8/8発+予備8発+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発、支給品】 【持ち物A:スコップ、防弾性割 烹着&頭巾(衝撃対策有) お米券】 【状況:銃声のする北の方へ向かう、チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】 【目的:みちるの捜索】 広瀬真希 【持ち物@:ワルサーP38アンクルモデル8/8+予備マガジン×2、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)×2】 【持ち物A:ハリセン、美凪のロザリオ、包丁、救急箱、ドリンク剤×4 お米券、支給品、携帯電話】 【状況:銃声のする北の方へ向かう、チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】 【目的:みちるの捜索】 【備考】 瑞穂のデイパックはそのまま - BACK