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「何だと、それは本当かっ!?」 とある部屋で、野太い怒声が響く。濁声の主は、ゴリラの如き筋骨隆々な肉体を誇る男。 飛ぶ鳥も落とす勢いの篁財閥、篁総帥直属のシークレットサービスを纏める地位に就いている。 数々の戦功を上げている歴戦の勇士、世界中の裏の人間から恐れられている戦闘狂、傭兵隊長『狂犬』醍醐その人であった。 「……そうか。分かった」 電話の相手に確認しても同じ。まさか一人だけ首輪を外したという事も無いだろう。 醍醐の宿敵――NASTYBOY、那須宗一は間違いなく死んだ。醍醐は電話を切ると、椅子の背に声を掛けた。 「――総帥。クソガ……いえ、那須宗一の死亡が確認されました。それも、異能力者相手ではなく、一般人に倒されたそうです」 椅子に座っていた主は、ゆっくりと音を立てながら醍醐の方へと振り向いた。 「ふむ……少年に続いて那須宗一までもが殺られるとはな……。我らの予想以上に激しい戦いとなっているようだな」 その声は、それだけで人を惹きつける甘い響きがあり、とても80代の老人の、それどころか人間のものとすら思えない。 巨大財閥の総帥にして、100兆円を超える個人資産を保有する、世界経済のキーマン。そして、このゲームの主催者。 篁財閥総帥は外見もまた、人間離れしていた。初老の男――にも関わらず、彼の放つ威圧感はどんな軍人をも遥か凌駕している。 一目で分かる、圧倒的な存在感、桁外れの迫力、威厳。 蛇の様な目から放たれる、燃え盛る赤い光の前には、どのような者であれ萎縮せずにはいられないだろう。 那須宗一の死を受けて醍醐がどこか、忌々しげに口元を歪ませる。 「所詮は奴も、私と総帥の出来損ないに過ぎないクローンと同じだったという事でしょう」 すると篁は、視線を醍醐の方へと流して、それから心底愉快そうに言った。 「八ッ八ッ八ッ……。ではお前はその程度の軟弱な者に、何度も苦渋を飲まされてきたというのか?」 「い……いえ、そのような事は……。認めたくはありませんが、あの男は超一流のエージェントです」 「そうであろう?よく覚えておくが良い。油断すれば、いくらお前と言えども……不覚を取るぞ」 篁は目を見開くと、ジロリ、とそれだけで灼き斬れるほどに睨み付けた。醍醐は、慌てて畏まる。 「八ッ、承知しました!」 二人はそれきり口を閉ざし、部屋の中に重い沈黙が流れた。周囲のマイクから、時折阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえてくるのみである。 そのまま幾ばくか時が流れ――やがて醍醐が思い出したように、再び言葉を発した。 「ですが――よろしいのですか?総帥は、あれ程あの男にご執心であられたのに……」 「構わんよ。青い宝石の秘めたる力を知った以上……もはや奴を利用するまでもない。 お前のほうこそ鬱憤が溜まっているのでは無いか?あの男を自らの手で倒すのが、お前の宿願だったであろう」 「グッ……ご安心を。私は計画の成功を最優先目標として、動きます」 醍醐が渋々言うと、篁はまた笑った。とても甘美な、しかし吐き気を催す笑いだった。 「フフ、そう取り繕ろわずともよい。安心しろ、いずれお前にも思う存分暴れ回る機会を用意してやる」 「八ッ、ありがたき幸せ!」 「――では下がってよい。再びこの愉快な遊戯の監視を続けよ」 「仰せの通りに……」 醍醐が部屋を去った後、篁はくるりと椅子を回して、口の端から赤い舌を覗かせながら呟いた。 「フフフ……さて、参加者の諸君はどこまで私を楽しませてくれるかな」 【時間:二日目・17:00】 【場所:不明】 篁 【所持品:不明】 【状態:健康】 醍醐 【所持品:不明】 【状態:健康】 - BACK