「wow……堂々と車を乗り回すなんて、なかなかやるわね」 それが診療所の近くで停止した車を見た時に、リサが抱いた第一感想だった。 こんな殺し合いの最中ならば普通は目立つ事を避けようとする筈だ。 自分や宗一ならばともかく―――それ以外の者がこんな判断をするとは、思ってもみなかった。 車を使用して移動するという判断は間違いではない。 高速で移動する車を狙って狙撃する事がどれ程難しいか、リサはよく知っている。 燃料にさえ気をつけていれば寧ろ安全と言える移動手段なのだ。 あの車の搭乗者達の判断は的確だ。 だからこそ、油断出来ない。 何事においても、相手の能力が高ければ高いほど警戒せねばならない。 それが幼い頃から過酷な環境で生きてきたリサにとっての鉄則だった。 自分の腕ならばどんな銃を使ってもスナイパーライフル並の精度を出す事が出来る。 相手が何か怪しい動きを見せたら―――即座に撃つ。 停まったまま動きを見せない車に向けて、リサはM4カービンを深く構えていた。 だがその警戒は杞憂だったようで、相手は何も武器を持たずに車を降りてきた。 車から出てきた二人の男女は、まるで警察官の集団に囲まれた犯人のように両手を挙げている。 リサは構えを緩めないままつかつかと二人に歩み寄り、距離を10メートルほど置いた位置で足を止める。 リサが何か話す前に、女性の方が先に話し掛けてきた。 「最初に言っておきます……私達は殺し合いをする気はありません。貴女はどうですか?」 ともすれば冷淡に見える目が印象的な、整った顔立ちの綺麗な女性だった。 向けられた銃に怯える様子は微塵も見受けられない。 大したものだ、とリサは思った。 「私がそのつもりだったら、あなた達はとっくに蜂の巣にされてるんじゃないかしら?」 銃口を下ろして軽い調子で答えると、女は軽く肩をすくめて見せた。 「私はリサ……リサ=ヴィクセンよ。貴方達の名前は?」 「こちらの方は藤井冬弥さんです。そして私は――篠塚弥生と言います」 「―――!?」 その名前を聞いた直後リサは動いた。 注意していても目で追いきれない程の速度で、M4カービンを再度構える。 すると、男―――藤井冬弥の方が息を飲むのが分かった。 しかし肝心の篠塚弥生の方は、いまだに凛とした表情をしている。 肝が据わっている―――それも至極当然の事だった。 緒方英二から聞いた話によれば篠塚弥生はゲームに乗っているのだから。 「口は災いの元よ?私は貴女がゲームに乗っていたという話を聞いた事がある。浅はかな嘘は控える事ね」 「嘘など言っていません。確かに私はゲームに乗っていましたが……それは過去の話です。今はもう、そんなつもりはありません。 大体ゲームに乗っているのなら、二人で行動なんてしないと思いますが?」 そう言って、弥生は冬弥の方へと視線を移した。 冬弥はリサの銃口から視線を外さずに、けれど黙って二人の話を聞いていた。 確かに弥生の言う事にも一理ある。 このゲームで生き残れるのは最終的には一人。 ならばゲームに乗った者は基本的に単独行動を取る筈である。 誰かを騙して利用するという手も考えられるが、弥生がゲームに乗っていたという事を聞いても冬弥は驚かなかった。 弥生が冬弥を謀っているという事は無いだろう。 それでも――― 「それだけじゃ貴女がゲームに乗っていないという証明にはならない」 「そうですね。信用出来ないというのなら大人しく去りますが―――どうしますか?」 ・ ・ ・ ―――現状を説明すると、だ。 Nastyboyこと俺、那須宗一は診療所にいる人間を全員待合室に集めていた。 入り口近くにある、窓際の椅子に俺は腰を落とす。 部屋の中央にあるテーブルを囲む形で、栞にリサ、敬介、葉子が座っている。 そして俺とリサ達に挟まれる形で、篠塚弥生と藤井冬弥が立っていた。 弥生と冬弥の肩にデイバックはかかっていない……置いてこさせたのだ。 武器を携帯しない事、そして情報交換が終わったら速やかに立ち去る事。 これが俺とリサが弥生達に示した条件だった。 勿論ポケットなどに何か仕込んであるかもしれないが、その可能性も考えて今の配置にしてある。 俺とリサで挟んでいる限り、相手が何かしようとしても余裕を持って対応出来る筈だ。 「葉子、足の具合はどうだ?」 「おかげ様でだいぶ楽になりました、ありがとうございます」 「そうか、そりゃ残念だ。ずっと足が治らないようだったら俺がオンブしてやったのにな」 「遠慮させてもらいます。どさくさに紛れて色んな所を触られそうですし」 「ちぇっ、釣れないなあ」 軽い冗談を飛ばしあう。 葉子の顔色はすっかり回復しており、足の具合が良くなったという言葉に嘘は無いだろう。 いざ移動する段になった時に、まだ歩けません、となったらどうしようかと思っていたので、俺はほっと胸を撫で下ろした。 「……さて、と。話を始めようか」 俺は手にしていた紅茶を置くと、弥生の目を見据えながら言った。 「はい。それではまず、私から知っている事をお話しますね」 「ああ、そうしてくれ。取り敢えず情報が欲しい。マジで、知ってる事は全部話してくれ。 何がこのゲームをぶっ壊す鍵になるか分からないからな」 最初に弥生から話をさせる理由は簡単、相手の本性を見極める為だ。 嘘を吐かれる可能性もあるが、相手が信用できるかどうか判断材料が多いに越した事はない。 「―――そして、今に到ります」 ……滞り無く弥生の話は終わった。 弥生の話は上手く要点が纏められており、実に分かりやすかった。 簡単に説明すると森川由綺の死を知った弥生は、復讐の為にゲームに乗ろうとしていた。 しかし英二にお灸を据えられて頭を冷やし、現在は知り合いの藤井冬弥と共に脱出を目指しているという事だった。 だが……残念な事に俺にとって有用な情報は無かった。 せめて皐月や七海と出会っていてくれれば、その場所次第ではあいつらを探すという選択肢も出てきたんだが。 軽くリサに目線を送る―――「信用出来そうか?」と。 するとリサは、他の奴には勘付かれないくらい小さく首を振った。 恐らく判断しかねているのだろう、そしてそれは俺も同じだ。 弥生の、エージャント顔負けの落ち着き払った様子からは何の感情も見えてこない。 今ある情報だけでは何とも言えなかった。 「―――そう言えば」 俺が考えを纏めていると、高い声が聞こえてきた。 それはリサの連れ人、美坂栞のものだった。 「由綺さんって……柳川さんが戦ったって人じゃ?」 「――――!」 瞬間、リサが息を飲むのが分かった。 そして一秒後には、冬弥がどんと席を立っていた。 「何だって!?その話、詳しく聞かせてくれ!由綺は俺の大事な……恋人だったんだ!」 「え……あの、その……」 困惑する栞に、今にも掴み掛らんばかりの勢いで冬弥が叫ぶ。 もっとも、リサが険しい顔つきで銃を向けていたので冬弥が実際に詰め寄る事は無かったが。 栞はどうにか言葉を搾り出そうとしたが、それをリサが手で制した。 「私から話すわ。柳川祐也―――昨日私が出会った人の話によると、森川由綺さんはゲームに乗っていたそうよ。 それで柳川は仕方なく由綺さんを殺害したらしい」 厳しい視線、鋭い眼光で、リサが容赦なく告げていた。 俺もリサから聞いてその事は知っていた。 教えるべきじゃないと思っていたんだが……こうなった以上はそうもいかないだろう。 「……ハハハ、何の冗談だよ?あの由綺がゲームに乗ってただなんて、ねえ?」 冬弥は話を真に受けていないのか、苦笑いをしながら弥生に目線を移した。 しかし弥生はただ黙って、話の続きを待っていた。 「信じないならそれで良いわ。でも柳川が嘘をついてるとはとても思えないし、私は彼を信じる」 「馬鹿な事を……!由綺が人を襲ったりするわけ―――」 「藤井さん」 冬弥の言葉が途中で遮られる。 向けられた銃口すらも無視してリサに食って掛かろうとした冬弥の肩を、弥生が掴んでいた。 仮面をかぶっているかのように無表情だった弥生の顔に、ほんの少しだけ翳りが見られた。 「信じるも信じないも個人の自由、不毛な論争は止しましょう」 「…………そうですね、すいません」 それで落ち着いたのか、冬弥はこれ以上この事を追求しようとはしなかった。 口を閉ざした冬弥の代わりに、弥生が質問を続けた。 「それでリサさん、柳川祐也という人物はどのような外見をしておられるのですか?出来れば直接会って話を伺いたい」 「―――柳川は白いカッターシャツを着て眼鏡をかけている、長身の男性よ」 「そうですか、ありがとうございます」 そう言うと、弥生はペコリと一礼した。 ―――冬弥の気持ちは良く分かる。 俺だって皐月やゆかりがゲームに乗ったと言われれば、冬弥と同じような反応をするだろう。 しかしこのゲームでは何が起こっても不思議ではない。 葉子の話によれば、あの穏やかに見えた佳乃でさえもがゲームに乗ってしまったという。 少なくとも俺と一緒にいた時の佳乃はとてもそんな事をする子じゃなかった。 けれどエージェントという仕事柄、人の黒い部分を嫌と言うほど見てきた俺には分かる。 たとえ普段はどんなに聖人君子に見える奴でも―――いざって時には、何をするか分からないと。 この島に満ちた狂気が、極限まで追い詰められた状況が、人を狂わせるんだ。 「藤井さん、さっき渡したアレを―――」 「ん、ああ……そうだね」 弥生に促されて、冬弥はポケットに手を入れた。 まさか、銃か―――!? 思わず俺はFN Five-SeveNを構えていた。 しかし冬弥が取り出したのは何てことは無い、ただの携帯電話だった。 弥生は冬弥からそれを受け取ると、俺の方へと歩いてきた。 「これは私が支給された道具なんですが、どう思いますか?」 「……実は俺達も似たようなんを持ってる。話が終わったら改造しようと思ってたトコだ」 「そうですか。私達が持っていても使い道がありませんし、要りますか?」 そう言われて、俺は少し考えた。 改造に成功して電話が繋がるようになったとしても、携帯電話が一個では効果が薄い。 それよりも携帯電話を二個持って、連絡を取り合いながら別々に動く方が遥かに効率が良い。 とりわけ―――俺とリサで一個ずつ携帯を持って動けば、情報が集まる速度はそのまま倍になるだろう。 結論、携帯電話は二つ必要だ。 「そうだな。良ければ貸して欲しい」 「分かりました。では―――」 弥生は携帯を俺の目の前に差し出してきた。 俺がそれを受け取った瞬間―――弥生が動いた。 「―――ッ!?」 弥生はまだゲームに乗ったままだったのだ。 腰を落として、弥生は俺の左手に握られている銃を奪い取ろうとしている。 しかし所詮素人、その動きは大した速さじゃない。 リサや醍醐のオッサンに比べれば、その動きはスロー再生しているかのように見えた。 弥生の後ろからは、冬弥がこちらに向かって走ってきている。 二人纏めてここで組み伏せる事も十分可能だったが―――俺は敢えて銃を手放し、リサ達の方へと大きく跳んだ。 距離を取り、そして弥生と冬弥を孤立させる。 「リサァッ!」 「イエッサーーーーーッ!」 何も怪我をしている身体で、無理に不確定要素の多い近距離戦をする必要は無い。 今の俺には心強い仲間―――米軍エースエージェント、リサ=ヴィクセンがいるのだから。 ここはM4カービンの斉射に巻き込まれない位置に逃げて、彼女が攻撃しやすい状況を作るのがベストだ。 弥生と冬弥は俺が下がったのを見て、これ以上攻撃しようとはせずに入り口から逃げ出そうとしていた。 しかしそうは問屋が、女狐さんが卸さない。 俺の目には、リサがしっかりと弥生達の背中に照準を定めるのが映って――― 「―――え?」 俺の手元の携帯から、閃光が発された。 ・ ・ ・ ―――誰かの泣き声が聞こえる。 その泣き声で、橘敬介の意識は現実世界へと呼び戻された。 「う……僕は一体……?」 倒れた姿勢のまま目を開けると、軽くヒビが入っている白い天井が見えた。 すぐに、直前の記憶が蘇ってくる。 弥生と冬弥の突然の行動、そしてその後に起こった――― 「そうだ、みんなは!?」 痛む身体を起こした敬介の目に飛び込んで来た光景。 辺りに散らばっている、黒く焦げた木材。 立ち尽くす栞に、地面に座り込んで泣いているリサ。 そして。 「そ……宗一君……?」 黒く焼け焦げた、宗一の姿だった。 敬介はよろよろとした足取りで宗一の所へと歩いていった。 周囲の至る所に小さな赤い塊が散乱している。 敬介はゆっくりと、宗一の身体を抱き上げた。 体の右半分はまだ割と綺麗だったが、携帯電話を持っていた左腕の側は損傷が酷く、見るに耐えない状態だった。 しかし敬介は、目の前の光景をそう簡単には信じられなかった。 「け……怪我をしているだけに決まっている……かるい怪我さ……ほら……喋りだすぞ……今にきっと目をあける……。 宗一君……そうだろ?僕達を驚かして楽しもうって……ちょっと茶目っ気を起こしただけだろう?もうちょっとしたら何事も無かったみたいに起きてくれるんだろ?」 語りかけるが、宗一の口から言葉が紡がれる事は無い。 敬介の腕の中の宗一の身体からは、重力以外の力は何も伝わってこない。 「ほら、リサ君達が悲しんでいるよ……もう良いだろ?起きて……起きてくれ……!頼む……起きてくれ宗一君っ!」 敬介は宗一の体を乱暴に揺さぶって、それからはっと気付いて宗一の手首を握り締めた。 「そ……そんな、馬鹿な……あっけ……無さ過ぎる……」 宗一の脈は無かった……鼻と口に手を当てたが、呼吸もしていなかった。 脈と呼吸が無い状態で生命活動を維持していられる人間はいない。 もう、疑いようも無い。 冷たいように見える時もあるが本当は暖かい男。 秋子に追われていた敬介を身を挺して救ってくれた男。 そしていざという時は、どんな大人よりも遥かに頼りになる男。 世界Topエージェント―――Nastyboy、那須宗一は死んだ。 「やられましたね……」 半ば放心状態にある敬介の横から、落ち着いた声が掛けられる。 それは鹿沼葉子のものだった 「彼らの本命は奪った銃による攻撃ではなく―――恐らくはあの携帯に仕込んであった、爆弾……」 葉子は淡々とした口調で分析を続けている。 敬介は宗一の死体をそっと地面に横たえて、それから立ち上がった。 「な、何で……君は何でそんなに落ち着いているんだ?」 やり場の無い怒りを籠めて、冷たい顔をした葉子を睨み付ける。 「宗一君は君の仲間だっただろう!?僕達の仲間だっただろう!?彼が死んだっていうのに、何で平気そうな顔をしているんだっ!」 「―――黙りなさい」 捲くし立てる敬介の声が、ぴしゃりと一発で撥ねつけられる。 「騒いでも宗一さんは生き返りません。それよりも今やれる事をしなさい。少なくとも私はそうします」 葉子はくるっと踵を返して、敬介達がいる方とは反対側に足を踏み出した。 「何処へ?」 「決まっているでしょう。私はこれから弥生さん達を追って―――殺します」 無論の事、それは嘘だった。 ただこのメンバーから離脱する理由が欲しかっただけだ。 リサの真の実力を知らない葉子にとって、宗一を失ったこの面子には何の利用価値も無かった。 足手纏いの世話などするよりも、郁未を追って合流するべきなように思えた。 「そういう訳ですので、私はこれで失礼します。では―――」 葉子はそう言うと、唖然としている敬介の方をもう一瞥もせずに入り口の扉を開けて歩き去っていった。 ・ ・ ・ ―――あの爆発の瞬間。 リサが驚異的と言える反射速度で栞を抱えて後退した甲斐あって、栞は殆ど無傷だった。 しかしその代償はあまりにも大き過ぎた。 那須宗一の身体は、栞とリサの視界の中で爆発に飲み込まれた。 そして今、リサは力無く地面にうずくまっている。 栞は信じられない思いだった。 あのリサが―――とても強くて気丈なリサが、泣いている。 「わ……わた……私が……あの人達を……中に入れたから……」 「リ、リサさん……」 「私が……うっ、うわぁぁぁぁぁぁっっ!」 「リサさん、リサさんっ!しっかりしてください!」 栞は叫びながら座り込むと、リサの肩を掴んで懸命に言葉を投げかけた。 しかしその言葉が今のリサの耳には届いていないのか―――リサの嗚咽は止まらない。 「だ……め……駄目よ……。私のせいで……宗一は……」 「リサさん、落ち着いてください!リサさん一人の責任じゃありません!」 「いっそわたしも宗一の後を追って死ねば―――」 そこで、パチンという高い音が聞こえた。 「そんな事言う人……嫌いです」 栞がリサの頬を叩いたのだ。 リサは頬を押さえて、眼前にいる人物をまじまじと見つめた。 震える肩、潤んだ大きな瞳、そして―――白くて小さい手。 栞はこんな華奢な身体で、リサを励まそうとしている。 その姿がリサに再び立ち上がる気力を与えた。 リサは掌でごしごしと涙を拭き取り、両の足で地面を踏みしめて直立した。 そして手を差し出して、栞も立ち上がらせる。 「ごめんなさい……今は泣いてる場合じゃないわね」 「リサさん……」 「ともかくこの場を離れましょう、ゲームに乗った人間に知られた以上診療所はもう危険よ」 弥生達が再び襲撃してくる可能性は十分にある。 正面勝負なら自分が負ける事はありえないが……間違いなく弥生達は正面からは仕掛けてこないだろう。 何か策を講じて、勝算が生まれてから動くはず。 ならばこちらも警戒して動かなければいけない。 一般人など相手にならないという油断が―――宗一を死なせてしまったのだから。 リサと栞は立ち尽くしている敬介の方へゆっくりと歩を進めた。 敬介はいまだ心ここにあらずといった感じで、何かを考えているようだった。 「敬介、ここは危ないわ。移動しましょう」 リサが切り出すと、敬介は申し訳無さそうにゆっくりと首を横に振った。 「すまない、僕にはしなくちゃいけない事があるんだ」 「と言うと?」 敬介は軽く息を吸って、それからリサの目を真っ直ぐに見ながら言った。 「僕は観鈴を探してくるよ。国崎君との約束もあるし……何より僕自身がそうしたいんだ」 「……分かったわ。それじゃここでお別れね」 「ああ。僕が無事に観鈴を保護出来て、また会う事があれば……その時は一緒にこの殺し合いを管理している人間を倒そう」 「あの……敬介さん。どうか―――ご無事で」 栞の言葉に頷くと、敬介は体を翻して診療所の外へと走り出した。 リサと栞も荷物を持って外に出て、敬介の背中が森の中に消えるまで見守っていた。 だがその時、リサの頭の中に浮かんでいたのは敬介の安否を気遣う心では無かった。 職業病の域にまで達している彼女の冷静な思考は、既に今後の展望を考えていた。 (エディも……宗一も……死んでしまった。いまだ脱出の手掛かりも無い…………。私は本当にこのゲームを止められるの……?) リサは焦る気持ちを誤魔化すように親指の爪を噛み続けていた。 【時間:2日目16:30頃】 【場所:I-7診療所】 リサ=ヴィクセン 【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、支給品一式×2、M4カービン(残弾30、予備マガジン×4)、携帯電話(GPS付き)、ツールセット】 【状態:診療所を離れる、体は健康】 美坂栞 【所持品:無し】 【状態:リサに同行、体は健康】 橘敬介 【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】 【状態:観鈴の捜索、身体の節々に痛み、左肩重傷(腕を上げると激しい痛みを伴う)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て治療済み)】 鹿沼葉子 【所持品:メス、支給品一式】 【状態@:肩に軽症(手当て済み)右大腿部銃弾貫通(手当て済み、激しい動きは痛みを伴う)。マーダー】 【状態A:まずは郁未の捜索】 篠塚弥生 【所持品:包丁、FN Five-SeveN(残弾数12/20)、ベアークロー】 【状態:マーダー・脇腹に怪我(治療済み)目的は由綺の復讐及び優勝】 藤井冬弥 【所持品:暗殺用十徳ナイフ・消防斧】 【状態:マーダー・右腕・右肩負傷(簡単な応急処置)目的は由綺の復讐】 那須宗一 【所持品:無し】 【状態:死亡】 【備考】 ・FN P90(残弾数0/50) ・聖のデイバック(支給品一式・治療用の道具一式(残り半分くらい) ・ことみのデイバック(支給品一式・ことみのメモ付き地図・青酸カリ入り青いマニキュア) ・冬弥のデイバック(支給品一式、食料半分、水を全て消費) ・弥生のデイバック(支給品一式・救急箱・水と食料全て消費) 上記のものは車の後部座席に、車の燃料は残量75%程度、車の移動方向は後続任せ - BACK