凹□地味+つき添いの先生2




「あたし達、これを調べようと思って」

そう言う広瀬真希の指差す先には、彼女の首にはめられた首輪があった。

「もし脱出するにしても、一番のネックはこれだろうし。何とか解決策を見つけられたらと思って」
「成る程、確かに問題ではあるな」

霧島聖も改めて自分の首輪に触れて、その命があくまで主催者側に握られているという事実を思い知る。
俯く少女達、その中で一ノ瀬ことみだけは飄々としていた。

「あんたは呑気でいいわねぇ・・・・・・」
「?」
「はぁ、あたしも楽観的になりたいものだわ」
「むしろ、あなた達が何でそんなに頭を抱えているか分からないの」
「ちょっと、話聞いてなかったの?!」
「くー・・・・・・」
「美凪も?!」
「ことみちゃんはちゃんと聞いてたの、その上で言ってるの」

いつの間にか用意していた湯のみに口づけ、さも当たり前のことという風にことみは言ってのけた。

「そんなの簡単なの」
「はぁ?」
「チョチョイのチョイなの」
「あんた、自分で何言ってんのか分かってんの?」
「証拠を見せてあげてもいいの」
「・・・・・・からかってんなら、マジで怒るわよ」
「ふぅ、短気は損気なの」

怒りを通り越し呆れたかにも見える、そんな真希の視線にもことみはケロッとしていた。
それがますます沸点の低い彼女の感情を刺激しているのだが、当の本人は気づかない。
囲んでいるちゃぶ台をいつひっくり返してもおかしくないだろう、そんな真希を止めたのは彼女の隣にて押し黙っていた遠野美凪であった。

「真希さん、しー」
「はぁ?」

徐に鞄の中からこの島を取り出し、ひっくり返す美凪。
手にしたシャープペンシルで、さらさらと走り書きをする。

『盗聴の可能性あり』

今度は彼女が首輪を指差しながら、周りを見渡した。

「あ・・・・・・」

真希も北川潤と話し合ったことを思い出したのだろう、はっとしたように口を閉じる。

「それは、本当なのか?」

驚いたように声を上げたのは聖だった。そのようなことを考えたことがなかったらしい彼女は、口元に手をあて考えるように身を乗り出す。

「よく気がついたの、褒めてあげるの」
「あんたはあんたで一体何様なのよ?!」
「・・・・・・いじめる?」
「いや、いじめやしないけどさ」
「あっそ」
「おま、本気でシメたろか?!!」
「真希さん、しー」

一方、ことみはというと相変わらずの調子であった。

「でも、ちょこっと見直したの」
「何よ・・・・・・」
「ちゃーんと分からなきゃいけないことは見抜いてるの、これなら一緒にいても一安心なの」

そう言って自らも筆記用具を手にし、ことみは美凪の走り書きの下にちょこちょこと文字を書き始める。

『私たちは脱出をしようと思ってるの』
『そのためにも、キーとなるのは以下の4つなの』

『@現在地の把握』
『A脱出路の確保』
『B主催側の人間の目的』
『C首輪の解除』

『@については、灯台にてこれから確認を取るの』
『それがまず分からない限り、Aを考えるのも難しいのでこっちは後回しなの』
『Cについては、心配しないで欲しいの。何とかできるの』

「ちょっと待って、だから何でそんな簡単に済ませようとするのよ!」

引き続き文字列を増やそうとしていくことみに対し、真希がつっこみを入れる。

「・・・・・・?」
「これが一番厄介なのよ、下手したら死んじゃうのよ?!」
「・・・・・・」

言葉で答えず、ことみは再び視線を下げ書き込みを行った。

『さっき言った通りなの、数分前のことを蒸し返されても困るの』
『これぐらいならちょっとした工具があれば解体できるの』

書き終わったと同時に、ブイッと元気よく右手を上げることみ。
眉を潜めた真希は、またもや胡散臭そうに彼女を見やる。

「本当なの」
「あのねぇ、ふざけてたらマジでブン殴るわよ?」
「信じて欲しいの」
「・・・・・・」
「やってやれないことはないの」
「ここにきて不安を煽る発言やめてよ?!」

しかしそう言うことみの表情は相変わらずではあったが、確かにその言葉に真剣さは含まれていた。ようにも感じる。

『ただ、今は外すべき状況ではないと思うの』
『主催側の人間が、私がそういうことできるってこと。知らないとは思えないの』

「と、言うと・・・・・・」

『あっちの出方が分からない限り、変に目をつめられたくないの。
 この首輪には仕込んでいないと思うけど盗撮されている可能性もなくないの、死んだ人間がカメラに映ったらおかしいの』

「成る程。だがことみ君、一体どうやってそれは調べるつもりなんだ?」
「・・・・・・」
「ことみ君?」
「考えてないの」
「ブン殴る!!」
「真希さん、しー」
「んー、何かしら外と通じることができるモノが手に入れば・・・・・・」
「例えばどんなものだ」
「パソコンとか、携帯電話とか。何でもいいの」
「こんな辺鄙な場所では、パソコンは期待できないな」
「え、携帯電話ならあたし持ってるけど」

俯くことみと聖に向かい真希が差し出したのは、彼女の私物である携帯電話。
ぱっと聖が目を輝かせたが、通話はできないと聞くとその表情はすぐ落胆のものになる。
ことみは何か考えているようだった、その間にと真希は彼女の書き込んでいた用紙に自らも筆記用具を用意し書き込みをはじめる。
そして、チョイチョイと指を差す。

『これはあくまであたし達の推測だけど、この島には妨害電波があると思うの』
『赤外線での番号の交換はできたんだ、でも通話はできない。だからそうじゃないかって』

『よく分かんないけど、あたしはこれを最初っから持ち込めたの。あっちが回収し忘れたみたい。
 で、もう一人、持ち込んでる参加者もいる。さっきそいつから電話がかかってきたんだけど、そいつは支給品として配られた携帯電話を使ってきたらしいの』

「それは、本当?」
「勿論よ」
「ふざけてたらマジでブン殴るの」
「真似すんじゃないわよ!」

そんなやり取りをしながら、ことみもボールペンを走らせていた。
会話が終わったと同時に、先の真希と同じようにチョイチョイと指を差す。

『ジャミングの線は多分合ってると思うの。
 それを破ることができる支給品ということなら、改造すれば外と繋がる電話にすることも可能かもしれないの』

「ちょ、ちょっと、本当に?!」

コクン。静かに頷くことみ、集まる視線は驚愕そのもの。
すくっと立ち上がり周りを見渡してから、ことみは宣言する。

「決まりなの。当面の目的は学校を通って灯台へ行くの、あとはその携帯電話を手に入れればこっちのもんなの」
「そうね、また北川から電話かかってくるかもしれないし・・・・・・その時に合流できるよう伝えるわ!」
「頑張るの」
「頑張りましょう!」

がっちりと握手を交わしながら見つめあうことみと真希の間に、何やら熱い空気が流れる。

「ぱちぱちぱち・・・・・・」

そんな二人の新しい門出を祝うかのように、美凪も拍手を贈る。

「してないの、口で言ってるだけなの」
「っていうか別に頑張るのあたし達だけじゃないわよ、あんたもやるんだからね!」

はしゃぐ三人娘、一歩下がり聖は楽観的な彼女達を見つめていた。
幸先は決して悪くない、真希達の情報とことみの能力が交差したことにより自分達は誰よりも脱出を可能にすることができる参加者になったであろう。

(ただ、こんなに簡単に進んでいいものなのだろうか・・・・・・)

聖は一人、今後の展望に対する不安を拭えずにいるのだった。




【時間:二日目午前5時過ぎ】
【場所:B−5・日本家屋(周りは砂利だらけ)】

一ノ瀬ことみ
【持ち物:毒針、吹き矢、高圧電流などを兼ね備えた暗殺用十徳ナイフ、支給品一式(ことみのメモ付き地図入り)、100円ライター、懐中電灯、お米券×1】
【状態:健康。まず学校へ移動・北川を探す】

霧島聖
【持ち物:ベアークロー、支給品一式、治療用の道具一式、乾パン、カロリーメイト数個】
【状態:健康。まず学校へ移動・北川を探す】

広瀬真希
【持ち物:消防斧、防弾性割烹着&頭巾、スリッパ、水・食料、支給品一式、携帯電話、お米券×2 和の食材セット4/10】
【状況:健康。まず学校へ移動・北川を探す】

遠野美凪
【持ち物:消防署の包丁、防弾性割烹着&頭巾 水・食料、支給品一式(様々な書き込みのある地図入り)、特性バターロール×3 お米券数十枚 玉ねぎハンバーグ】
【状況:健康。まず学校へ移動・北川を探す】
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