両手を大きく広げ伸びをする。 月島拓也にとって数十分の熟睡は、それまでの疲労を一掃していた。 隣に目をやると長森瑞佳も水瀬名雪もまだ眠っていた。 二人を頭のてっぺんからつま先まで舐めるように観察する。 実に見目麗しい女の子である。 (両手に花とはまさにこのことだな) 最後に肉の悦びに浸ったのはいつだったろうか。 妹でも太田香奈子、新城沙織、藍原瑞穂──今は亡き彼女達のいずれでもなかったような。 美少女のフェロモンに浸っていると、淫らな発想が沸き起こって来るのを禁じ得ない。 片手を瑞佳の襟口から差し入れ、ブラジャー越しに膨らみの具合を確かめる。 予想どおりいい塩梅だ。 彼女の隣にいる名雪に電波を流してみたが、期待するような反応はなかった。 (水瀬さんの精神状態なら通じるはずだが……クソッ、面白くねえ!) 苛立ちを紛らわそうと、気をつけながら布越しに膨らみを撫で回す。 (瑠璃子の敵を──主催者を斃さなければならないのに、僕は何をやっているんだろう) 甘い吐息とともに瑞佳の体がピクンと跳ねた。 瑞佳と名雪が達が用を足しに行ってる間、大の字になり空を見上げる。 一点を見つめていると、青い空に吸い込まれてしまうような錯覚を覚えた。 瑠璃子のことを思うとどうしても切なくてたまらない。 草を踏みしめる音がし、振り向くと瑞佳が一人で戻って来た。 「恰好が婆さんみたいだぞ。下の世話なら僕がしてやるから遠くに行かなくてもいいのに」 「もう馬鹿なことばっかり言って。お兄ちゃんにはしっかりした人が必要だよ」 「瑞佳が傍にいてくれたら安心だ。ところで水瀬さんは?」 「そのうち戻って来るよ」 落ち着いたとはいえ、名雪はどこか危なっかしいところがある。 うかうかしていると背後から襲われそうな気がしないでもなかった。 「予定を変更してすぐ出立する。瑞佳の体のことを考えると明るいうちがいいからな」 「ごめんね。気を使わせちゃって……あっ」 申し訳なさそうに俯く瑞佳を抱き寄せる。 柔らかくて温かくていい匂いのする女の子の体。 彼女を抱き締めていると瑠璃子を喪った悲しみが癒される。 「ん〜、君のその白い素肌にかけてしまいそうだ」 「何をかけるの?」 「もちろん、いや何をって……瑞佳の好きな牛乳」 「牛乳はかけるものじゃなくて飲むものだよ」 「まあ、どっちでもいいじゃないか」 拓也は目を細め、彼女の首筋に舌を這わせる。 「だ、駄目だよ、こんなことしちゃ。ヘンな気持ちになっちゃうよぅ」 顔を赤らめ小さく喘ぐ瑞佳が愛おしい。 「誰もいないんだ。ヘンになってもいいんだよ」 「──いるんですけど」 「うわっ!」 振り向くと名雪が太めの枝を手に立っていた。 無表情で生気がなく何をしでかすか分らない。 「仲がいいですね」 「兄妹の仲が良いのは良いことだ。君もよかったら義理の妹にならないか?」 「間に合ってますから結構です」 「そうなんだよ。同い年の従兄がいるんだって」 「ふうん、いとことヤり……そろそろ行こう」 拓也は余計なことを口にしかけたところで歩き出した。 驚きとともに拓也と名雪の足が止まった。 街道に出ようとしたところで一人の男と遭遇した。 その男は長身で頑強な体つきをしており、なお且つ首輪がなかった。 茂みから出て来た三人は戦慄したまま息を飲む。 相手の男も以外だったらしく銃のようなものを構えたままである。 (駄目だ。逃げようがない) 拓也は何か話しかけようとしたが言葉が見つからない。 謎の男──岸田洋一も戸惑っていたが、余裕ができたのか軽い笑みを見せた。 「俺は君達を救うためにFARGOという闇の組織から派遣された、山田まさきという者だ」 「外部からの救援が来てるんですか?」 「そうだ。俺は偵察隊の一員なんだが仲間は全滅してしまった」 「僕達を助けて下さい。お礼に荷物は持ちますから」 「ああ、いいからいいから……。まずは君達の名前と知っている情報を教えて欲しい」 和やかな雰囲気になったものの、拓也達は完全には信用しなかった。 (わたしには判る。この人は絶対に信用できないよ) 平静を装いながらも、特に瑞佳は極度の不信感を募らせていた。 「──背負ってるコが義理の妹で長森瑞佳、隣の女の子が水瀬名雪さんです」 拓也はよどみなく簡潔に代弁した。 「ほう、水瀬さんか。みなせ違いだな」 「えっ、みなせ違いとは?」 「いや、同棲している女が皆瀬まなみという名前なんだが、どうでもいいことだ」 「ところでこれから何処へ行くんですか?」 「あー……鎌石村に行ってみようと思う」 岸田はさりげなく高槻のことを聞いてみた。 仲間だったら拓也を殺して瑞佳と名雪を陵辱するつもりだが、彼らは知らないと言う。 いずれにしろ、村へ着くまでに拓也は始末するつもりである。 (ヒャッホウ! 今日はついてるらしい!) 互いに騙し合う三人と一人の奇妙な旅が始まった。 【時間:2日目・15:00】 【場所:D−8】 月島拓也 【持ち物:八徳ナイフ、トカレフTT30の弾倉、杖代わりの枝】 【状態:瑞佳を背負っている、鎌石村へ、やや緊張】 長森瑞佳 【持ち物:ボウガンの矢1本、支給品一式(食料及び水は空)】 【状態:脇腹に重傷、出血多量(止血済み)、やや緊張】 水瀬名雪 【持ち物:なし】 【状態:鎌石村へ、ぼーっとしてる】 岸田洋一 【持ち物:鋸、カッターナイフ、電動釘打ち機8/12、五寸釘(5本)、防弾アーマー、支給品一式】 【状態:拓也達を襲う時期を考えている、鎌石村へ、切り傷は回復、マーダー(やる気満々)】 - BACK