陽平達は教会に辿り着くと最初に教会内部の構造を調べた。 いざ襲撃者が来た時に、地形を考慮に入れた行動が取れるようにだ。 その結果出入り口は正面の一つだけ、そして水道は止まっているという事が分かった。 そして今三人は教会の奥にある部屋で、パソコンの画面と睨めっこをしていた。 正確にはるーこと陽平が固唾を呑んで見守る中、珊瑚がキーボードを叩いている。 のんびりとした―――悪く言えば間の抜けた表情と、目で動きを追う事も難しい速度の手の動き。 その顔と手は、別人の物としか思えない程の違いがあった。 そんな珊瑚の様子を見て陽平はぼそっと呟いた。 「珊瑚ちゃん、まるで二人羽織みたいだね」 「えへへ、それよく言われるねん」 「どうだうーゆり。上手く行きそうか?」 陽平達の方へ顔を向けながらも手は休ませていない珊瑚に、るーこが尋ねる。 上手く行きそうか、とは無論―――ハッキングの事である。 今はとにかく情報が必要だった。 首輪を外す為にも、主催者を倒す為にも。 それらに有用な情報を得るには、主催者側のホストコンピューターにアクセスするのが手っ取り早い。 「今んとこ順調やけど、もう少し時間かかりそうやわー」 「そうか。うーゆりの邪魔をしては悪い……るー達は別の部屋で待機する事にしよう」 「そうだね……正直僕らじゃ力になれそうもないしね」 パソコンに関して特別な技能を持たぬ自分達では珊瑚の集中の妨げにしかならない。 それに盗聴されている現状では、下手に手を貸そうとすれば逆にボロを出してしまいかねないだろう。 陽平もるーこもその事は理解していたので、大人しく別の部屋へと移動した。 これまでの道程で負った怪我は軽い物ではなく、もう暫くは休憩が必要だ。 ふう、と一つ大きな溜息をついて陽平は礼拝堂にある椅子に腰を落とした。 すると横に並ぶように、ブロックタイプ栄養食品を持ったるーこが座ってきた。 「うーへい、この四角いのは何だ」 「ああ、それは栄養食品ってヤツで、手軽に栄養補給が出来るように作られた食べ物だよ」 るーこは栄養食品と睨めっこをした後、恐る恐る口にした。 「美味しい?」 陽平はそう言って、るーこの顔色を窺う。 もぐもぐと口を動かするーこの顔が少しずつ歪んでゆく。 陽平は苦笑して水の入ったペットボトルを差し出した。 るーこはそれを口に含み、何とか栄養食を飲み込んだ。 「るー……不味いぞ」 「味を重視して作られた食べ物じゃないだろうしなあ……そんなもんだよ」 陽平は話しながらパンを取り出し、それを二つに千切った。 片方をるーこに手渡し、もう一方は自分の口の中に放り込む。 パンの味はまだマシだったので、今度はすんなりと食べる事が出来た。 食事も終えて陽平が一息ついていると、何かに気付いたるーこが陽平の肩を叩いた。 「あれは何だ?」 陽平がるーこの指差す方を見ると、そこには小さな祭壇があった。 その奥の壁には十字架が架かってある。 「僕は教会なんて全然行かないからよく分からないけど……。あそこは確か神様に願い事をしたりする場所だったと思う」 「そうか。なら……」 るーこが立ち上がって祭壇の方へと歩いていく。 祭壇の前まで辿り着くと、るーこは陽平に向かって手招きをした。 陽平は怪訝な顔をしながらも、それに従いるーこの傍まで歩いた。 「どうしたんだい?」 「うーへい、願い事をしよう」 「……へ?」 「やってみる価値はある。今の願いを神に伝えよう」 「そんな事したって何の意味があるんだよ。神なんているわけが……」 陽平は馬鹿らしいという風に否定しようとした。 しかし、るーこはとても真剣な目をしていた。 「るーはるーの神を信じている。うーへいも、うーの神を信じろ」 「………分かった」 陽平は神なんて信じていなかった。 そんなものがいればこんな殺し合いなど起きる訳が無いと、そう思っていた。 それでも陽平は、るーこの眼差しを裏切る事は出来なかった。 どうせ願い事をするなら自分も真剣にだ。 陽平は自分の一番の望みが何か考え―――すぐに答えは出た。 陽平とるーこは手を合わせて目を瞑り、各々の願いを口にした。 「どうかるーこと一緒に帰れますように」 「るーはうーへいと一緒に帰りたい」 それが二人の願い。 決して揺らぐ事が無いであろう望みだ。 お互いの台詞を聞いた二人は、赤面して顔を見合わせた。 思わず頬が緩み、照れ笑いと呼ばれる類のものを浮かべてしまう。 ―――そして、小さな祭壇の前で、二つの影が重なった。 ステンドグラスから漏れる虹色の光の中、お互いの吐息を感じ取れるくらい密着する。 ―――どうかいつまでも、一緒に。 陽平とるーこは唇を合わせながら、ただひたすらに願い続けた。 【時間:2日目15:00頃】 【場所:g-3左上の教会】 春原陽平 【持ち物1:鉈、スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2、LL牛乳×3 、ブロックタイプ栄養食品×3、他支給品一式(食料と水を少し消費)】 【持ち物2:鋏・鉄パイプ・他支給品一式】 【状態:全身打撲(マシになっている)・数ヶ所に軽い切り傷、頭と脇腹に打撲跡(どれも大体は治療済み)】 ルーシー・マリア・ミソラ 【持ち物:H&K SMG‖(6/30)、予備マガジン(30発入り)×4、包丁、スペツナズナイフ 、LL牛乳×6、ブロックタイプ栄養食品×5、他支給品一式(2人分)】 【状態:左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み)】 姫百合珊瑚 【持ち物@:デイパック、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)、ノートパソコン】 【持ち物A:コミパのメモとハッキング用CD】 【状態:ハッキング中】 - BACK