ママも覚醒




物悲しい雰囲気に包まれる診療所。あまりにも長い死者の発表に、古河早苗は呆然となった。
そして、ふと思い出す。そう言えば我が娘も「ターゲット」に指定されていたということを。

「お母さん。実はわたし、秘密にしていたことがあるんです」

わたわたとした雰囲気に包まれた放送が終わると同時に、古河渚は口を開く。
彼女の宣告が深い意味を持つということに気づき、早苗は黙って頷き返した。

「お母さん。わたし達がこのゲームに参加させられたことは予定された調和の内にあります」
「な、渚?」

すっと目を細めて言う渚の声は、やけに平坦であった。
そして、その意味の分からない突拍子のない内容に、これまた早苗は呆然となる。
そんな彼女を無視して渚は話を続けた。

「わたしはこの土地を守るために存在します、この沖ノ島を見張る心になるのです。お母さん、あちらを見てください」

窓の外を指差す渚、そこには灯台が存在していた。
ここから見える範囲ということで、そう遠くもないのだろう。そんなことを考えた矢先だった。
ゴゴゴゴゴと、地響きのようなものが・・・・・・鳴り響いたわけではないが。
そんな効果音をつけてもいいような事態が起こる、そこにあった灯台を押し出す形で新たな建築物が現れたのだ。

「須弥山です」
「ス、スメール?」

黒い渦を巻く巨塔、例えるならば魔方陣グルグルに出てくるククリの修行塔のようないでたちのそれ。
視線を早苗に戻す渚。彼女はクエスチョンマークを浮かべ続ける母親に向かい、無常にもまた話を続けるのだった。

「時が満ちれば、わたしはあそこに収まります・・・・・・そう、我を離れ梵に至る運命なのです。
 肉は朽ち果てても梵に至ったわたしは常にお母さん達と共にあります」
「渚、お母さん頭が痛くなってきました」
「言葉は交わせなくとも、互いに触れ合えず目には見えなくとも、わたしは須弥山にあって沖ノ島にあまねくお母さんを含めた皆さんと共にあるということです」

一度瞬きをして、光のない空ろな瞳を称えながら渚は言い放つ。

「すみません、わたしは新世界の神になります」







『ちょ、長老!渚ちゃんあんなこと言ってますがどうしますかっ?!』
『むむぅ、ここで静かな余生を過ごすはずがとんだ事態じゃ・・・・・・』




【時間:2日目午前6時15分】
【場所:沖木島診療所(I−07)】

古河渚
【所持品:だんご大家族(100人)、支給品不明】
【状態:ネ申】

古河早苗
【所持品:日本酒(一升瓶)、ハリセン、支給品一式】
【状態:渚、ごめんなさい。お母さんよく分かりません】


I-10・灯台は崩れました。代わりに須弥山(黒い巨塔)が建ちました。
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