「さて、これからどうすべきでしょうか」 祐介を戦地へと送り込んだ有紀寧は、これからの自分の行動について思案していた。 自分の正体はばれてしまった。知ったものが全滅するのが望ましいが、おそらくそれはないだろう。 爆破スイッチの残量は残り二つ。 それを考えると祐介が他の参加者を皆殺しにし戻ってくる事が一番楽なのだが、あの様子では当てには出来ない。 なまじ正義感にあふれた参加者に説得でもされて反目しそうな気さえする。 早急に新しい眷属を作るか、もしくはこの村から脱出してしまうのが一番安全ではないか。 最初の思惑と大きく狂い始めた歯車に焦りを感じ始めた矢先のことだった。 どこからともなく有紀寧の耳に悲痛な叫び声が聞こえてきた。 「往人さんっ! どこ行っちゃったの!?」 遠くから聞こえるその言葉に呆れたように笑みをこぼし、あたりを警戒しながらその声の発信源へとゆっくりと歩を進める。 茂みから顔を出すと、そこには焦燥した顔で足取りはおぼつかないながらも必死に叫び続けながら走る金髪の少女の姿があった。 その姿にただただ馬鹿だとしか思えなかった。 そんな大声を出すなんて自分の位置を人に教えているようなもの。殺してくださいと言わんばかりではないか。 まさかスタートからこんなに時間が過ぎてるのにもかかわらずそのような人間が生き残っているとは思いもよらなかった。 運がよほど強かったのかもしれない。 だが、声の主は人の名前を呼んでいる。つまりはその探し人に守られてきたのかもしれない。 その名前から男と女……これは使えるかもしれないと考え、手持ちのデータファイルを広げていた。 「ゆきと……ゆきと……」 『国崎往人』――少女が探しているであろう人物の名前はすぐに見つかった。 その名前とその顔に有紀寧の顔が妖しく歪んでいた。 「あの……」 茂みを掻き分けると共に有紀寧は観鈴へと声をかけた。 「だれっ?」 思わぬ声と音に観鈴が身をこわばらせながら振り返る。 そこにいたのが自分の探し人ではないことに落胆の表情を見せるが、現れたのがさほど歳の変わらない少女と幼い外見の少女と言う事で警戒はすぐに解けていた。 「すいません、声が聞こえたもので……もしかして今叫ばれていた『往人』って国崎さんの事ですか?」 「っ! 往人さんを知っているの!?」 質問に対する答えになってないと心の中で苦笑しながら有紀寧は続ける。 「と言う事はあなたは神尾観鈴さん……でよろしいでしょうか?」 観鈴がコクンと首を縦に振る。 「そうですか、良かった。いえさっき国崎さんとお知り合いになることが出来たんですが、その様子だと先ほどの爆発音でご心配になられているようですね」 「そうなんです。往人さんは無事なんですか!?」 「やっぱり……先ほどご一緒していた所をゲームに乗った人に襲われまして。なんとか撃退は出来たんですが国崎さんは足に怪我をしてしまったのです」 「えっ!?」 有紀寧の答えに観鈴の表情が不安げに曇っていくが、たしなめるように有紀寧は続ける。 「いえ、命に別状はありません。ですがすぐに動くことも出来ないようで、あなたにその事を伝えて連れて来てくれないかと頼まれたんです」 両手で口元を押さえたまま全身をがたがたと震わせなる観鈴を労わる様に有紀寧はその身体を支える。 「大丈夫です。彼のところに行きましょう、案内します」 小さな涙の雫を流しながら頷く観鈴に有紀寧は「大丈夫」と何度も何度も繰り返しながら先導し始めた。 その足が向かう先は往人がいる場所でもなく、観鈴が走ってきた方向でもなく、まったく見当違いの方向。 今すぐ行く必要もない。1時間ほどすれば戦闘も終わっているだろう。 国崎往人が生き残っていれば彼女を人質に眷属にすれば良い。 死んでいればもう彼女は不必要だ、殺せば良い。 一時は零れ落ちたものの再び巡って来た運に、有紀寧の心は喜びに打ち震えていたのだった。 【時間:2日目・15:15】 【場所:I-7北部】 宮沢有紀寧 【所持品@:コルトバイソン(4/6)、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、スイッチ(2/6)】 【所持品A:ノートパソコン、包丁、ゴルフクラブ、支給品一式】 【状態:戦線離脱、前腕軽傷(治療済み)】 柏木初音 【所持品:鋸、支給品一式】 【状態:首輪爆破まであと17:30(本人は41:00後だと思っている)、有紀寧に同行(本意では無い)】 神尾観鈴 【持ち物:フラッシュメモリ、紙人形、支給品一式】 【状態:精神が恐慌、脇腹を撃たれ重症(治療済み)、有紀寧に同行(往人の元に向かっていると思い込んでいる)】 - BACK