張り詰めた空気の中、睨み合う少女とロボット。 少女の手にしたボーガンに、矢は刺さっていなかった。 ロボットの手にする立田七海が、武器になるわけはなかった。 そんな二人の様子を、起き上がることができず地面に投げ出されたままの小牧郁乃、そしてすっかり出張るタイミングを逃した沢渡真琴は静かに窺い続ける。 「あ、あの・・・・・・・落ち着いてくだ・・・きゃうっ!」 襟首を掴まれあたふたする七海のその一言が、戦闘開始の合図になった。 力強く地面を蹴りだし、朝霧麻亜子が一気に間合いを詰めてくる。 手にした矢の装着されていないボーガン、麻亜子はそれを振りかぶりほしのゆめみに向かって投げつけた。 「おおっと、随分乱暴だなっ?!」 七海の襟首を掴んでいない手で薙ぎ払うゆめみ、機械の腕が悲鳴を上げるがそれなりに頑丈にできているらしく損傷はゼロに等しい。 しかしそれはフェイクである、次の瞬間ゆめみの目の前に飛び込んできたのは自らのバックに手をつっこみ新しい獲物を出そうとする麻亜子の姿であった。 「お覚悟ー!!!」 慣れた手つきで取り出した鉄扇を広げる麻亜子、黒い輝きが月の光に反射する。 走りながら横に切りつけてこようと腰を捻ってくる彼女に対し、ゆめみは即座の判断で保護していたはずの七海を投げつけた。 「きゃああああああ〜っ!」 情けない悲鳴が場に響く。 タイミングがずれれば七海自身が刻まれる乱暴な手段であるが、うまく麻亜子の肩口に命中した七海はそのまま彼女を押し倒した。 「なにおっ、ちょこざいな」 この程度ではへこたれないと言わんばかりの威勢の良さで、即座に麻亜子は半身を起こす。 鉄扇はまだ手にしたままだ、手始めに臭気を放つ着物にダイブして気絶した少女に止めを刺そうとそれを振りかぶる。 「どこ見てんだよっ」 だが、それは叶わない。七海に気を取られていた麻亜子に向かい、跳躍したゆめみが一気にせまる。 気がついた時にはもう遅い、視線をやると既にゆめみの足の裏が目の前にせまっていた。 そして、そのまま見事顔面に命中。再び麻亜子は床に身を落とすのであった。 「ぞれはあぢぎろ十八番らっつーのに、ひきょうらぞ」 血の滴る鼻を抑えながら、身軽に着地するゆめみの背を見やる麻亜子。 「ハンッ!知らねーな、んなもん」 ひょうひょうと言ってのけるゆめみは、勢いで吹っ飛ばされた七海を回収すると彼女を部屋の隅へ投げ捨てた。 さらには勝ち誇ったかのような笑みを浮かべ、麻亜子を見下し挑発する。 ・・・・・・余裕を持っていたはずがこの仕打ち、さすがの麻亜子も気を引き締めねばならなかった。 丸腰の相手に苦戦しているわけにはいかない。鼻血を垂らしながらも立ち上がり、もう一度ファイティングポーズをとる。 「まだやるってのか?諦めのわりぃヤツだな」 「あたしにもプライドっちゅーもんがあるからね。ヤられるだけじゃ収まんのよ」 そう言って、先ほどのように広げた鉄扇を横に構える。ゆめみはバックステップを踏み、彼女との距離を再び開けた。 「ちょ、あんまこっち来ないでよ?!」 どうやら背後に郁乃がいる辺りに移動してしまったらしい、だがゆめみはそんな彼女の言葉に返すことなくただ麻亜子の出方を待ち続けた。 すっと、先ほどのように腰を捻らせ鉄扇を横に薙ぎ払うかのように構える麻亜子。次の瞬間、それは彼女の手から離れていた。 「馬鹿の一つ覚えかよ!」 少し体勢を崩せば簡単にかわせる、左に飛んだゆめみはそれが最初に麻亜子の仕掛けてきたフェイクのやり方と同種の物だと判断し次に彼女が新しい武器を取り出す前にと早めに行動を移した。 駆ける背後で金属同士がかち合うの物だと思われる騒音が鳴り響く、「あ、あたしの車椅子が?!!」などという悲鳴も耳に入るが気にしてなどいられない。 距離を詰めながら麻亜子を捉えるべく、ゆめみが拳を固めた時。激しく、嫌な予感がした。 「・・・・・・とくと見よ、これがあたしの神の一手だぁあ!」 「げえ?!」 きらりと光る銀の輝き、構えられたと同時に迫力のある音が響き渡る。 イナバウアーよろしく背をそらすゆめみの視界にほんのちょろっと入るそれは。間違いなく、拳銃であった。 「おま、それはズルいだろ?!」 「何おう、命をかけた勝負の世界にズルもクソもないのだよ」 ちょこまかと外周を周るかの如く銃身から身を逸らそうと走り出すゆめみ、そんな彼女を追って麻亜子の構えるSIGが再び火を吹いた。 圧倒的な力の差がここに来て生まれた、近づくことができなくなったゆめみを麻亜子は追い詰めるかのごとく狙い続ける。 ・・・・・・かと言って、弾に関しては限界があるので無駄使いはできない。 既に二発撃ってしまったので残りの弾も二発、ここは慎重に行かねばならないと麻亜子もさらに気を引き締める。 が、ここにきてチャンスが訪れる。足を取られたゆめみが転倒したのだ。 「ふもっふ!あちきの大勝利で幕を閉じるかね」 チャキッと、すかさず銃口をゆめみの頭部に向けて固定する。悔しそうな視線が心地よかった。 しかし引き金を引こうとした瞬間、感じたものは激しい打撃。防弾性の着物越とはいえ焼けるような痛みが背中に走る。 息ができなくなり前のめりに倒れそうになるが、それを抑えて原因を突き止めようと視線をやると。 ガチャンと音を立てながら床を転がっているそれは、見覚えのある品だった。 そう、銃を構える麻亜子に向かって飛んできたのは彼女の所持品であった鉄扇だった。 痛みを堪え振り向くと、腕を投げ出したポーズで肩で息をする少女が目に入る。 「車椅子のお返しよ・・・・・・」 額に汗を浮かべる郁乃、それは足を動かせぬ彼女が根性で行った反撃であった。 先の花蝶扇にて破壊された車椅子の恨みを果たすべく、這って鉄扇を回収しに行った郁乃は強引に片手で自身の体重を支えながら鉄扇を麻亜子に向かって投げつけた。 そして見事クリーンヒット。その隙にとゆめみも再び体勢を整えることに成功する。 「でかしたガキ!」 「別に、あんたの、ためじゃないわ、よ・・・・・・」 再び麻亜子とゆめみの間に距離ができた、ゆめみは彼女の出方をうかがいながらも何か対抗する物がないか周囲へと視線をやる。 ・・・・・・しかし、それがいけなかった。 少しゆめみが目線を外したその瞬間、銃声が、また響く。 けれどゆめみは倒れない。何が起きたかと慌てて麻亜子の方を見やるとそこには。 猫背のまま、屈みこむように後方を見ながらSIGを放つ、麻亜子の姿があった。 銃身の先には身動きを取らぬ郁乃が、そしてじわじわと漏れ出てくる液は彼女の血液だろうか。 そんな光景が、あった。郁乃は反撃する余力も、逃げることのできる自由に動く足も持っていなかったというのに。 「ふう。これで邪魔者はナッシングかね!」 一方、顔を上げた麻亜子の表情は非常に清々しいものであった。 「さーて、次はお嬢さんだよ?」 「この外道が。まだあの女は触ってねーっつーのによ」 「外道はくたばるまで外道味やで、分かっとるんかクソロボットってな」 不適に微笑む麻亜子の銃口が、もう一度夢身を捉える。 次にこの距離で、銃弾をかわせる自身はない。 正に万事休す。そして・・・・・・銃声が、また鳴った。 横に飛び退り転がるゆめみ、しかし追ってくるものは何もない。 変わりに、何故かすぐ隣で対峙していたはずの麻亜子が吹っ飛んできた。 ・・・・・・彼女の脇を見ると、着物の部分が抉り取られたかのようにパックリ割れていて。 これの指す意味が分からず固まっていると、部屋の入り口辺りから女性の声が響き渡る。 「大丈夫ですか?」 それが自分にかけられた声だと気づくのに、そう時間はかからない。 ゆめみがゆっくり振り向くと、そこには見知らぬ女性が立っていた。 右手で拳銃と呼んでいいのか分からないくらいの大きな銃を構える女性、いや。 耳で、分かる。彼女がただの『女性』ではないということに。 「どのような事態かは存じませんが、助太刀いたします」 麻亜子が入ってきた際開けっ放しにしていた扉にて仁王立つのは、ゆめみの他にもう一体ここに存在していたロボットであった。 【時間:2日目午前1時】 【場所:F−9・無学寺】 立田七海 【持ち物:無し】 【状況:汚臭で気絶、郁乃と共に愛佳及び宗一達の捜索】 沢渡真琴 【所持品:無し】 【状態:寝たふりで様子をうかがっている】 ほしのゆめみ? 【所持品:支給品一式】 【状態:転がってる】 朝霧麻亜子 【所持品:SIG(P232)残弾数(1/7)・バタフライナイフ・投げナイフ・制服・支給品一式】 【状態:吹っ飛んだ、着物(臭い上に脇部分損失)を着衣(それでも防弾性能あり)。貴明とささら以外の参加者の排除】 イルファ 【持ち物:フェイファー ツェリスカ(Pfeifer Zeliska)60口径6kgの大型拳銃 4/5 +予備弾薬5発、他支給品一式×2】 【状態:麻亜子を撃った・首輪外れてる・左腕が動かない・珊瑚瑠璃との合流を目指す】 小牧郁乃 死亡 ・ささら・真琴・郁乃・七海の支給品は部屋に放置 (スイッチ&他支給品一式・スコップ&食料など家から持ってきたさまざまな品々&他支給品一式・写真集二冊&他支給品一式・フラッシュメモリ&他支給品一式) 【備考:食料少し消費】 ・ボーガン、仕込み鉄扇は周辺に落ちています - BACK