凹□地味+つき添いの先生




「どうした、ことみ君」
「人の声がするの」

民家の集合している地帯、霧島聖は周囲への警戒を怠ることなく進んでいた。
その後ろ、聖に護衛は任せているからかどこか呑気な様子の少女はいきなり立ち止まり辺りへと耳をすませ始める。

「・・・・・あっちなの」

すっと指差す先、そこには一軒の日本家屋があった。
じーっと窺っていると、確かに時折少女の物らしき甲高い声が耳に入る。
調べて見る価値があるかもしれない、聖が一歩前に出ようとするとその白衣はくいっと引かれ。

「下手に近づくと、気づかれるの」
「騒ぎ立てるわけではない、問題はなかろう?」
「足元、見るの」

そこでようやく、聖は家屋の周囲をぐるっと囲むように存在する砂利に気がついた。

「成る程、これなら足音も目立つというわけか」
「なかなか用意周到なの」
「ふむ、だがここからでも聞こえるぐらいの大きな声を出していては・・・・・・意味はないんじゃないか?」
「無用心なの」
「どっちなんだろうな」
「さっぱりなの」

ここで腕組みしていても仕方ない。先に動き出したのは、先ほど聖を止めた一ノ瀬ことみであった。
ひょいひょいと履いていた靴を脱ぎ、ことみは民家に続く砂利道へと進みだす。
身軽な身のこなしであった、足音はほとんど立っていない。
彼女に続くよう聖も慎重に近づいていく、同じように靴は脱ぎ手にした状態でことみの後を追う。
近づくにつれ、声はより鮮明に捕らえることができた。日本家屋自体が年代物のため、それが原因なのかもしれない。

「本当なの!ついさっき、北川から電話がきたのよっ」
「・・・・・・夢?」
「だーから、夢じゃないっつのっ!」
「・・・・・・妄想?」
「妄想でもないっつのっ!!!」

騒がしい、隠れる気があるのか疑いたくなる。中の住人に対する第一印象はそのようなものであった。
ちょっと高い場所にある窓の淵に手をかけ、背伸びをしていることみの背後から聖も中を覗きこむ。
部屋の様子は一目で把握できた。畳のある和室、言い争うのは二人の少女。
いや、言い争うという表現は当てはまらないかもしれない。別に彼女等の間に険悪なムードが流れているわけではないのだから。

「ん、あれは美凪君ではないか」

のほほんとした様子の黒髪の少女が遠野美凪だと気づき、思わず聖は声を漏らす。

「お知り合い?」
「ああ、ちょっとな。大丈夫だ、彼女なら信用できる。声をかけてみないか?」
「んー」

目の前の少女等がゲームに乗っていないというのは一目で理解できる、その上一人が聖の知り合いとなれば協力関係を築くことも簡単であろう。
脱出を考える二人にとっては、味方を増やすまたとないチャンスであった。

「でも、どうみても足手まといなの」
「随分ストレートな言い方をするな」
「冗談なの」
「おい」
「でも事実なの」
「おい?!」

聖を無視して、ことみは窓に手をかけようとした。だが届かない。

「せんせ、開けて」
「人使いが荒いな・・・・・・」

建てつけの悪い窓を引く、鍵はかかっていなかった。

「だ、誰かそこにいるのっ」

軋む音で中の住人もこちらに気づいたようだった、ことみは背伸びをしたまま手をパタパタ振り存在をアピールしだす。

「無用心レベルマックスなの、命が惜しいなら何かよこせなの」
「ことみ君?!」
「冗談なの」
「あ、あんた達何なのよ」
「・・・・・・とりあえず、お米券進呈?」

背伸びをすることみの手に向かって、次の瞬間何故かお米券が差し出されていた。





「かくかくしかじかで、そういうわけなの」

玄関まで回りこみ少女等と合流したことみ達は、改めて自己紹介をした後これまでの経緯を話した。

「そっか、そういう考えは思いつかなかったわ・・・・・・」

広瀬真希は、ことみの話す『沖ノ島じゃない説』に対し大変興味を持っているようであった。
この認識をできている参加者は数少ないであろう、脱出を考えるにしても現在地を認識していないと後々問題になることは目に見えている。

「ちょこっと学校へ立ち寄った後、すぐにでも灯台へ行く気マンマンなの」
「よかったら一緒に来ないか。先ほどの話だと次に何をするかなどは決めていないのだろう?」

聖の言葉に少女は俯く、てっきり喜んで同行してくれるものだと思っていたから聖にとってこの反応は意外であった。
無言でお互いの顔を見合い続ける真希と美凪。何か考えでもあるのだろうか。
彼女等の出方を聖はひたすら待った。そして意を決したのか、真希がこちらに顔を戻し神妙そうに話し出す。

「実は、あたし達・・・・・・これについて、調べようと思って」

真希の指差す先には、彼女の首輪があった。




【時間:二日目午前4時30分過ぎ】
【場所:B−5・日本家屋(周りは砂利だらけ)】

一ノ瀬ことみ
【持ち物:暗殺用十徳ナイフ、支給品一式(ことみのメモ付き地図入り)、100円ライター、懐中電灯、お米券×1】
【状態:健康。まず学校へ移動】

霧島聖
【持ち物:ベアークロー、支給品一式、治療用の道具一式、乾パン、カロリーメイト数個】
【状態:健康。まず学校へ移動】

広瀬真希
【持ち物:消防斧、防弾性割烹着&頭巾、スリッパ、水・食料、支給品一式、携帯電話、お米券×2 和の食材セット4/10】
【状況:健康、首輪について調べる】

遠野美凪
【持ち物:消防署の包丁、防弾性割烹着&頭巾 水・食料、支給品一式、特性バターロール×3 お米券数十枚 玉ねぎハンバーグ】
【状況:健康、首輪について調べる】
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