(これはまずいな・・・・・・) 改めて、手にした携帯電話を見つめる北川潤の表情に焦りが走る。 ただの携帯電話ではなかっという事実、それも爆弾が仕込まれているとは想像もしていなかった。 また、これだけなら、良かった。 中に仕込まれていたボイスメッセージ、それによるとこの携帯電話は遠隔でも爆発させることができるらしく。 リモコンは灯台に隠されているとのこと、今潤のいる民家からでは距離もかなりある。 そもそもゲームが開始してからかなりの時間が経っているのだ、既に他の参加者が見つけて手に入れてしまっているのではないか。 ・・・・・・知らない間に命の危機にさらされていたということ、これでは生きた心地がしない。 早急に、この場から離れるべきだ。万が一他者の手にリモコンが渡っていた場合、持ち主が意味も分からずボタンを押してしまう可能性は計り知れない。 だが、発つにしても他のメンバーに不信感を与えるわけにはいかない。 見張りを引き受けた自分が、いきなりここを発つ理由をでっちあげる必要がある。 ちらっと隣を省みると、先ほど通りのテンションのままの春原陽平が目に入った。 (・・・・・・こいつは、かなり馬鹿だ。ちょっと無理があっても信用はとれる、はず) 時間が惜しい、思いついたところで潤は携帯を手に移動しようとする。 陽平にはさっき話した携帯電話を持つ知り合いに連絡を取ると伝え、人目のない廊下の奥げと場所を移したのであった。 (で。どうするか、だ。) この島で知り合った仲間と連絡が取れたから合流しなおす、早急に移動の準備をする必要がある。 動機については・・・・・・電話をしている間にあちらのメンバーが襲撃にあい、援護を求めてきた。これでどうだ。 いや、しかしそんな緊急事態を作り出した場合自分にもそれ相応の演技力が求められてしまう。 元より、他のメンバーを起こさないで静かに行動は移したい。あまり派手なものは控えた方が賢明であろう。 (うーん、次いつ会えるか分からないんだから早めにもう一度会っておきたい、とか?) 荷物をなくしてしまったようなので援護に向かわなければいけない、ケガをしてしまったようなので以下同文。 そんな案をいくつも思い浮かべ、潤はその場に応じてどれかを選択すればいいかという結論を出す。 ・・・・・・来栖川綾香の時とは違うのだ、ここで五人グループという大所帯に疑念を抱かせ自らの立場をあまりにも不利にするのは得策ではない。 あまり綿密にし過ぎてもリアリティに欠けるだろうしと、潤は件について一端考えるのを止めた。 もう少し時間を潰して、何食わぬ顔であちらに戻り「電話をかけてきたふり」を演じれば完璧だ。 それで、この危なっかしい状況からはおさらばできる。 「・・・・・・」 じっと、その権化である水瀬名雪の支給品である携帯電話を、改めて見つめる潤。 今リモコンのスイッチを押されたら一たまりもない、そんな危険は承知の上なので事は早急に済ませるべきであった。 だが、もう二度とこの支給品に触れる機会はないであろう。 目が覚めたら陽平はメンバーに携帯電話の機能を話し消防分署に向かうはずだ、ならば自分はその逆である氷川村辺りに身を置くべきであって。 勿論百パーセントという可能性はない、ある意味もう一度出会う可能性を考慮し自分がリモコンを手にしておくのも一理あるが・・・・・・先の通り既に持ち去られている場合もある。 今後このグループは警戒すべき存在となった。中々厄介な面子と知り合ってしまったことに舌打ちをするものの、今はそれは置いておくとして。 とにかく、この携帯電話の通話機能自体には未練があるのだ。 脳裏に浮かぶのは威勢の良いつっこみ体質のあの少女の姿、最後に声を聞いたのはいつだったであろうか。 (なるようになれってか。俺だってちょっとくらい良い思いしたいもんな・・・・・・) 通話中に爆発したら、運がなかったと諦めるしかない。 自分の携帯から彼女の番号を赤外線で送る、例のメッセージが表示されたと同時に潤はその番号をコールするのだった。 ・ ・ ・ 結果的には、かけてよかった。 広瀬真希はまだあの民家にいたようだった、遠野美凪は眠っているとのことで声を聞くことは叶わず。 真希は起こしてでもと口にするが、それは潤が引き止めた。 こんな状況である、ゆっくり休むことができるなら邪魔はしたくない。 『何よ、私は叩き起こしといて美凪にはそれなの?!』 「いやはや、広瀬は大丈夫だって。タフだし」 『褒め言葉じゃないわよね、それ』 「そんなことないって〜」 久しぶりのやり取りが心地よかった、瞼を閉じればいくつもの世界で彼女と過ごした時間が蘇る。 幸せだった。ジョーカーとして周囲を混乱させるために存在する自分が、こんな穏やかな時を過ごしていること事態が非現実的に感じられる。 真希の話によると、どうやら彼女達の進路はまだ決まっていないらしかった。 首輪に関しても、確かにあれだけではこれからどうするかを決められるはずはない。 技術者との会合が求められるが、生憎潤はそんな得意能力を持つ知り合いを持っていない。 世界の記憶からも情報は得られなかった、要するにそれに関しては覚えていないのだ。 「うーん、そっちはそっちで頑張ってくれよ」 『あんたねぇ・・・・・・っていうか、北川はどうなのよ』 「はい?」 『友達、探すんでしょ。それとももう見つけたの?』 「・・・・・・いや、まだだ。早く見つけたいんだけどな」 そういえば、真希達と別れる際にはそんな台詞で煙をまいた気がした。 今になって思い出す、あまり適当なことを言うものではないなと反省の余地ができる。 ・・・・・・実際、相沢祐一にとってかけがえのない存在である月宮あゆが第一回の放送にて名前を呼ばれたので、あながちそれも間違いではないのだが。 あゆと面識のない潤は知る由もない、しかしそんな事実も確かに存在はしていた。 それからまた少し談笑した後、潤は静かに電話を切った。 電話帳を見つけるべく消防署を目指すことになるであろう秋子達と合流されると厄介なので、二人には鎌石村から早く出て欲しい思いもある。 彼女等に灯台にあるリモコンを回収させる案もあった、もし見つけられたらボタンを押して欲しいと頼めば。 そこには、また一つの惨劇が訪れるはずであった。 しかし、知らずうちにといえど彼女達の手を赤く染めさせるような行為はさせたくないという思いが強く、結局潤は何も言わなかった。 これは、贔屓になるのかもしれない。 ジョーカーして平等性に欠けてはいけないという規則はないので特に咎められることもないだろうが、行き過ぎたら警告くらいは受けるであろう。 それでも、守りたいものの一つや二つくらい多めに見て欲しいものだと。潤は自嘲気味に微笑むのだった。 そして、真希の番号、発信記録といった証拠を消すと同時に。 ごく自然な動作で、潤はリモコンの存在を示すボイスメッセージを削除したのであった。 「遅かったね、上手く連絡とれたの?」 戻ってきた潤に対し、陽平が即座に声をかけてくる。 彼なりに心配してくれたのであろう、名雪の携帯電話を陽平の手に返しながら潤は口を開いた。 「ごめん、俺もう行くわ」 「え、ちょ・・・・・・何いきなり言い出すんですかねっ?!」 「待ち合わせて、合流することになったんだ。ごめんな、見張りの途中だってのに」 「それは全然構わないけど・・・・・・朝になってからじゃ駄目なわけ?夜は目が利かないし、寒いと思うんだけど」 「いや、もう出るよ。万が一のことも考えて、早めに行動していたいんだ」 話は唐突に切り出す、そうすれば相手に考えさせる間を与えない方が効率は良い。 狙い通り陽平はあたふたと、ろくな質問もできないまま押し黙った。 語気が荒かったかせいかと少し不安にも思う。だが次の瞬間陽平はにやっと口の端を吊り上げ、潤の二の腕をひじでつついてきた。 「なぁなぁ、もしかしてさ」 「な、何だよ」 「これから会うのって、さっき言ってた『コレ』のことなんじゃないの?ヒューヒュー!!」 「あはは・・・・・・ご想像にお任せするよ」 小指をピンッと立てる陽平は、やはり陽平であった。 一緒に見張りをするのがるーこや秋子でなくて良かったと、潤は心から思うのだった。 「これは餞別だ」 身支度を整え終わった潤は、そう言って身に着けている割烹着を脱ぎだした。 「ヒィッ!悪いけど操なんてお断りだよ?!」 「馬鹿、違うよ。これさ、防弾性なんだ。ちょっとの間だけど春原にはお世話になったし、良かったらとっといてくれ」 「北川・・・・・・」 それには見張りを扱いやすい陽平と行えて良かったという、ある意味失礼な感謝の気持ちも含まれていた。 もとよりいくら防弾性とは言えこの格好は目立ちすぎる、破棄する予定がないわけではなかったので彼に引き取ってもらい有効活用してもらうのも悪くはない。 ちょっと危なっかしいのでこれで少しでも彼の寿命が延びてくれればという、潤なりの親切心でもあった。 手渡された割烹着と頭巾を、陽平はぎゅっと握り締めながら見つめている。ちょっと皺くちゃになっていた。 「北川、僕はあんたのことを忘れないよ」 「あんがとな」 「気をつけろよ、またこっちから電話するからね」 「・・・・・・ああ、待ってる」 やっべ、そういえば俺の番号登録されてんだっけか・・・・・・と今更気づくがもう遅い。 割烹着に着替える陽平を尻目に荷物をまとめながら、潤は今後背負うちょっとしたリスクにうんざり舌を打つ。 「じゃあな、生きて帰ってくれよ戦友!」 「ああ、お前も妹さんに会えるといいな・・・・・・そんじゃっ」 お互い熱く敬礼、背中に陽平の熱い視線を感じながら潤は暗闇に向かって走り出すのであった。 (ふう・・・・・っていうか動機以前にどこに行くかとか、何もつっこまなかったな・・・・・・さすが春原) 夜道を歩きながら、ふと思う。 あれだけ悩んだことを何一つ口にしていないのだ、これでは気を配りすぎていた自分が馬鹿みたいだ。 (まあ、楽に越したことはないんだけどね・・・・・・っていうか、俺の番号が登録されてたのすっかり忘れてたし。ああもう、面倒くさいな!) いっそ自分の携帯電話を壊してしまおうか。 だが後に役に立つことがある可能性は捨てられない、そうなると簡単には決断をくだすわけにもいかず。 ・・・・・・面倒だが、仕方のないことであった。 (あー、これからどうするかな。一応灯台の方行ってみるかねぇ・・・・・・) とりあえずはあの民家から離れることができたので、また新しいターゲットを探す必要がある。 灯台への道中で誰かに知り合えたら便乗すればいい、会えなければ会えないで灯台へ立ち寄るのも一つの手だ。 (ああ、でもちょっと休みたいかも・・・・・・徹夜はつらいって) 欠伸を噛み締めながら、潤はぷらぷらと街道沿いに進むのであった。 一方、同時刻琴々崎灯台・地下にて。 「・・・・・・なんだ、これ?」 眠りから覚めた城戸芳晴の手には、例のリモコンが握られていた。 春原陽平 【時間:2日目午前3時半】 【場所:F−02・民家】 【所持品:防弾性割烹着&頭巾・スタンガン・GPSレーダー&MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)・支給品一式】 【状態:北川を見送る】 【備考:名雪の携帯電話に入っていたリモコンの存在を示すボイスメッセージは削除されている・時限爆弾のメモは残っている】 北川潤 【時間:2日目午前3時半】 【場所:F−02】 【持ち物:SPAS12ショットガン(8/8+予備4)九八式円匙(スコップ)他支給品一式、携帯電話、お米券×2 】 【状況:民家から離脱、灯台方面へ移動】 城戸芳晴 【時間:2日目午前3時半】 【場所:I−10・灯台】 【持ち物:名雪の携帯電話のリモコン、支給武器不明、支給品一式】 【状況:エクソシストの力使用不可、他のメンバーとの合流、死神のノート探し】 - BACK