久しぶりだな読者の諸君、ハードボイルド高槻だ。 別の称号が付いてた気もするが、なげーからまたハードボイルドを名乗らせて貰うぜ。 まあ原点回帰って奴だ。やっぱシンプルイズベストよ。 さて、いきなりだが俺様は今ちょっと困った事になっている。 念の為に言っておくが、前回俺達は知らねえ奴らの死体を見つけた。 どうもその内の一人が藤林のダチだったみたいでよ、あいつすっかり落ち込んじまってるんだよ。 郁乃は足が不自由だし折原とゆめみはボロボロ、七海はお寝んね中ときてやがる。ポテトの野郎もいつの間にかどっか行っちまった。 さて、これからどうなると思う? ……これは虐めか?虐めなのか? 俺様の両腕はすっかり筋肉痛になっちまった。喉ももうカラカラだ。 「ぜぇ……ぜぇ……。やっと終わったぞ……」 俺様はやっとの思いで死体を埋め終えた。 いくら俺様でも二人分の死体が入るだけの穴を、一人で掘るのは辛かったぜ……。 「お疲れ様です」 すっかり疲弊した俺様が肩で息をしていると、ゆめみがペットボトルを寄越してきた。 「おう、気が利くな」 丁度喉が渇いていた俺様は、それを有り難く受け取った。 キャップを外して、勢い良く飲むと生き返る様な気分になった。 「ぴこっ、ぴこっ!」 下を見るとポテトが水を恵んでくれと言わんばかりに尻尾を振ってやがる。 もはや俺様とポテトはベストパートナー、相棒の言いてえ事くらいすぐに分かるぜ。 俺様が座り込んでペットボトルの蓋を外そうとすると、ポテトの野郎が嬉しそうに擦り寄ってきた。 すかさず俺様はポテトの首根っこを掴んでこう言ってやったさ。 「働かざる者食うべからずって言葉を知ってるか?俺様が必死こいて穴を掘ってる間、てめえ隠れてたな?」 「ぴ、ぴこっ!?ぴこぴこぴこぴこっ…!」 違うんだ、とぶんぶん首を振るポテト。だがもう遅え。 「うらっ!!」 「ぴ〜〜こ〜〜〜〜……」 俺様が全力で投擲すると、ポテトは明後日の方向へと飛んでいった。 ふてぶてしい畜生への制裁も終え、俺様が一息ついていると郁乃が横に来た。 よく見ると、沢渡が殺された時と同じような顔をしてやがる。 「どこの誰がこんな酷い事を……」 苛立ちを隠し切れない声で話す郁乃。昔の俺なら、他人が死んだってどうでも良いじゃねーかとか言うところだ。 だが今の俺のは、郁乃が怒る気持ちに少なからず共感出来てしまう。 ……本当、俺様も随分と変わっちまったモンだ。 殺人鬼の正体を考えようとすると、俺様の脳裏にいけすかねえにやけ面が浮かんだ。 忘れようにも忘れられねえ、あの憎たらしい顔だ。 「岸田の野郎なら、女をこんな殺し方はしねえはずだ……」 あの野郎ならきっと女達を犯そうとする。 死体の服が破られたりした様子は無かった、つまりこれは岸田の仕業じゃねえ。 俺様が分かるのはここまでだ。 二人の女は俺様達が着いた時にはもう死んじまってたし、犯人の姿は何処にも無かった。 これ以上は推理しようがねえ。 だが、それまで黙り込んでいた藤林がぼそっと言いやがった。 「これはきっと、藤井さんの仕業よ……!」 「お、おい!?」 その後はまさに一瞬の出来事ってヤツだ。 ボタンを引っ掴んむと藤林は物凄い勢いで走って行っちまった。 俺様が止めようとするもの聞かず、どんどん遠ざかる背中。 「どういう事なの……?」 呆然としながら、郁乃が呟く。こっちが聞きてーよ。 全くワケが分からねえ。藤林はなんでいきなりどっか行っちまったんだ? 「多分だけど……俺も犯人が分かった」 俺様達が混乱していると、折原が淡々と口調で語りだした。 ・ ・ ・ 「……そうか。さっきの車に乗ってた奴が犯人なんだな」 「ああ。藤井冬弥は復讐に走った―――その結果人を殺しちまうのは十分考えられる話だろ?」 折原は俺様達に藤井冬弥についての事を一通り話した。 説明を受けた俺様達はようやく事情を理解した。 さっきの車に乗ってた奴が犯人で、友達を殺された藤林はそいつを追っていたんだろう。 けれどそれが分かった所でどうしろってんだ? 暴走した藤林は心配だが、久寿川達も同じくらい心配だ。 俺様は分身なんて出来ねえ、両方助けにいくってワケにはいかねーぜ……。 その時突然、ゆめみがおたまを取り出した。 「わたし、藤林さんを追っかけます!」 「ちょっと待てよ、おめえだって怪我してるだろ?」 ロボットに対して怪我って言い方をするのが正しいのか分からねえがな。 ゆめみは左腕が動かせない状態だ、一人で(これも一人じゃなくて一体って言うべきなのか?)行くのは危険過ぎる。 なのにゆめみの奴ときたら、にこっと笑ってこう言いやがった。 「良いんです。お客様の安全を守るのが、わたしの役目ですから」 畜生、そんな顔で言われたら行かせてやるしかないじゃねえか……。 諦めた俺様は日本刀を取り出して、ゆめみに渡してやった。 「……おたまでどうやって藤林を守る気だ?これを貸してやる」 「え……でも……」 「四の五の言わずにとっとと受け取りやがれ。もたもたしてると藤林に追いつけなくなるぞ」 「……分かりました、お借りします」 しかし俺様はただのお人好しなんかじゃねえ。ちゃんと念を押しておく事も忘れない。 「良いか、貸すだけだからな?俺様にこれを返すまで……死ぬんじゃねえぞ」 そうだ。武器はちゃんと返してもらわないと困るからな。 ……おいてめえら、何疑いの目で見てやがる。断じてゆめみの奴を心配してるワケじゃねえぞ! 「ありがとうございます。高槻さん達も……お元気で」 「あたりめーだ。この俺様がそう簡単にやられるかよ」 「ゆめみ!壊れたら許さないんだからっ!」 俺様と、叫ぶ郁乃に対して大きくお辞儀してからゆめみは走り出した。 あっという間にその姿は見えなくなっちまった。 ……俺様もグズグズしてるわけにはいかねえな。 俺様のファン3号久寿川と、ついでに貴明が鎌石村で待ってるからな。 ヒーローは遅れて現れるものだっつーが、これ以上遅れるワケにはいかねえ。 「よし、俺様達も出発すんぞ」 そう言って、俺様達は再び鎌石村に向けて歩き出した。 【時間:2日目12:30】 【場所:C−6観音堂前】 ハードボイルド高槻 【所持品:分厚い小説、コルトガバメント(装弾数:7/7)予備弾(6)、スコップ、ほか食料・水以外の支給品一式】 【状況:岸田と主催者を直々にブッ潰すことを決意、鎌石村へ移動】 小牧郁乃 【所持品:写真集×2、S&W 500マグナム(5/5、予備弾7発)、車椅子、ほか支給品一式】 【状態:鎌石村へ移動】 立田七海 【所持品:フラッシュメモリ、ほか支給品一式】 【状態:気絶(睡眠)中。今は浩平の背中に】 折原浩平 【所持品1:34徳ナイフ、H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】 【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】 【状態:全身打撲、打ち身など多数。両手に怪我(治療済み)。鎌石村へ移動】 ポテト 【状態:ちゃっかり戻ってきた、光一個】 ほしのゆめみ 【所持品:日本刀、忍者セット(忍者刀・手裏剣・他)、おたま、ほか支給品一式】 【状態:左腕が動かない、杏を追う】 藤林杏 【所持品1:包丁、辞書×3(国語、和英、英和)、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、ほか支給品一式】 【所持品2:救急箱、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ボタン、ほか支給品一式】 【状態:車が走り去った方向へ、冬弥と会った場合どうするつもりかは不明】 - BACK