「しょげんなって、神尾。柊も悪気ないんだろうしさ」 「う、うん・・・」 それでも、神尾観鈴の表情は晴れなかった。 結局、観鈴の期待は裏切られたまま事は進んでいた。彼女の誘いを断った柊勝平は、それ以来彼女を見ようともせず。 何故そんなに怒らせてしまったか、その理由も分からない観鈴は弁解をする余地もなく。 「せっかく一緒にいるなら、みんなで仲良くしていたいだけなのに」 「そうだな、仲良くしてたいな」 「何でだろ。凄く悲しい」 「気にすんなって、話す機会がなくなっちまったわけじゃないんだからさ」 とぼとぼと歩く観鈴を励ますよう、相沢祐一は明るく声をかけ続けた。 校舎の左側を探索する二人、しかしこちらは右側と違い爆破された側なので非常に足場が悪かった。 それでも何とか形は保っているので、瓦礫を避ける形で進路は取っていたのだが・・・・・・正直、ちょっとした爆発でもあれば崩れてしまいそうなイメージを受ける。 もたつく観鈴の手をとり、祐一は少しずつ先を進む。 「っていうか、ほら。手がかりを持ってるのが神尾と柊だけなんだから、それで一緒に行動するわけにもいかなかったっつーのもあると思うぜ」 「そうなのかな」 「そうだって。さっさとその子助けて、またみんなでワイワイやればいいさ」 それは、この殺し合いが行われている場所では実に不似合いな提案であった。 祐一も口にした後苦笑いを浮かべてくる、しかし観鈴はそんな彼に対し柔らかく頬を緩ませるのだった。 「うん・・・・・・皆仲良しがいいな、それで皆でここから出たいな」 「だな」 「人と人が争うなんて、やっぱりダメだよ・・・・・・」 素直な気持ちを言葉にする観鈴は、その年頃から考えれば幼くも見える所がある。 しかし思いは真剣そのものだ、バトルロワイアルという状況の中ここまで染まることなく真っ直ぐでいられる彼女は、どこか頼もしくも思える。 そんな彼女の存在は、きっとなくてはならないものになるはずだ。ふと、そんな考えを祐一の頭が過ぎる。その時だった。 「あれ?祐一さん、あそこ・・・・・・誰か、いる」 月明かりに照らされる廊下、観鈴の指差す先にはポツンと影が一つ落ちていた。 「・・・・・・え?」 近づくとその全貌はすぐに分かった、が。 目の前の光景は、瞬時に理解することができないくらい非現実的なものであった。 そこには、少女が一人佇んでいた。 少し乱れた茶髪のボブカット。 そして、それ以上に乱れた・・・・・・その、格好。 彼女の衣服はボロボロであった、ナイフか何かで引き裂かれた跡もある。 その隙間からちらちらと覗く柔肌には、いくつもの痣が見て取れた。 パンツらしきものは、足首に引っかかっていてその機能を果たしていない。 ・・・・・・その姿の指す意味に、自然と観鈴の目に涙が溜まっていく。 「おい、大丈夫か!」 自分の上着を脱ぎながら慌てて駆け寄る祐一は、そのまま少女の細い肩にそれをかけた。 少しだけ触れた少女の体温は、非常に低い。 「おい・・・・・・」 焦る祐一、心配して声かけをしていたが・・・・・・その言葉は、続かなかった。 その後方、観鈴は何が起きているのか理解できないでいた。 ただ、ぽたりと。埃の積もった瓦礫混じりの廊下に垂れていく赤い液体だけを、妙に印象的に感じ。 その出所を探ろうとすると、祐一のインナーの左脇で視線は固定される。 白いインナーは、真紅に染まっていた。 ゆっくりと膝をつき、屈みこむ祐一のその向こう。少女の手にするカッターナイフが目に入ると同時に、観鈴の悲鳴が響き渡る。 「・・・・・・とこは、ころす。おんなは、つれてく・・・・・・」 小さく紡がれるのは少女の声、赤く染まったカッターを手にした名倉由依はそのまま観鈴の方へと近づいていった。 「ひっ」 喉から漏れる掠れた声、由依はそんな観鈴の様子を省みることなく彼女の腕を強引に掴んでくる。 「い、いや・・・・・・っ!祐一さん、祐一さんっ!!」 そのまま走り出され、足がもつれながらも観鈴は由依についていくしかなかった。 振りほどこうにも、事態のおかげで身に力の入らない観鈴は成すがままであり。 膝立ちで腹部を抑える祐一は、その光景を見届けるしかなかった。 【時間:2日目午前2時過ぎ】 【場所:D−6・鎌石小中学校・一階、左端階段前】 相沢祐一 【所持品:S&W M19(銃弾数4/6)・支給品一式(食料少し消費)】 【状態:腹部刺し傷あり、上着無し】 神尾観鈴 【所持品:フラッシュメモリ・支給品一式(食料少し消費)】 【状態:由依に連れて行かれる】 名倉由依 【所持品:カッターナイフ、ボロボロになった鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)+祐一の上着】 【状態:岸田に服従、全身切り傷と陵辱のあとがある】 由依の支給品(カメラ付き携帯電話(バッテリー十分)、荷物一式、破けた由依の制服)は職員室に放置 【備考:携帯には島の各施設の電話番号が登録されている】 - BACK