お間抜け




北川、真希の凸凹コンビは一路鎌石村へと向かっていた。
しかし歩き続けていれば当然腹は減るもので。
「―――うむ、余は満足じゃ」
「何がよ?」
「いや、このおにぎりが素晴らしい味なもんでついな。ほら、真希も食ってみろよ」
北川はいつの間にかおにぎりを取り出し、口にしていた。
口の中に残るそれをよく咀嚼して味わってから、もう一つのおにぎりを真希に手渡した。
真希も空腹だったので素直に受け取り、口に入れた。
もごもごと口を動かし、じっくりと味を堪能する。
「うん、確かに美味しいわね」
「そうだろそうだろ。やっぱ日本人は米を食わないとな」
「……の割にはあんた今朝、キャビアを真っ先に食べてたじゃない。おかげでご飯が余っちゃったわけだけど?」
「それは庶民の哀しき性というものさ。この美食家北川潤様は、貴重な食材を口にする好機を逃す訳にはいかないのだよ」
「あっそ」
どうでも良さそうに返事をしてから、真希はある事を思い出した。
「話は変わるけどいい?」
「ちょっと待った、米粒ついてるぞ」
「ひゃっ!?」
北川は真希の言葉を遮り、彼女の頬に付着していた米粒を指で取り除いた。
指で触れられた途端に真希の体が硬直する。

「それで話って何だね、マイスウィートハート」
スウィートハート……日本語に訳すと『恋人』という意味である。
それは軽いジャブ的な冗談のつもりだった。
しかし、今の真希はそうは受け取らなかったらしい。
「そ、それってどういう意味?」
頬を赤らませ、恐る恐る尋ねてくる。
こと恋愛に関しては少し、というかかなり鈍感な北川がその期待に気付く筈もない。
「ん?別に深い意味は無いんだが……」
「…………」

数秒間の空白、そして沈黙。
心配した北川が真希の顔を覗き込もうとした時―――
「女の敵めっ!」
スパ――ン!
スパ――ン!
スパ――ン!
「ぐお、またこのパターンかよっ!?」
スパ――ン!
スパ――ン!
スパ――ン!
高橋名人もビックリの連打速度で殴られたのだった。


ボーガン、包丁、日本刀、コルトガバメント。
これらの武器はゲームの中でもよく使われている部類に入るだろう。
しかし、使用回数という点ではハリセンの足元にも及ばない。
「ぜぇ……ぜぇ……」
「……真希さん、満足しましたか?」
「ええ、何とかね……」
散々ハリセンで叩いた真希は、呼吸を乱していた。
脳細胞という物は百億個以上もあるらしいが、一つ一つは案外簡単に死ぬらしい。
今ので1万個は死んだんじゃないか、などと考えつつ北川は別の事を口にした。
「さっき何か言おうとしてたみたいだけど、何だったんだ?」
「ああ、そうそう。これよこれ」
そう言って、真希は長方形状の物体を取り出した。
「……携帯電話か?」
「そうよ。あんた昨日、携帯電話を使って何かしようとしてなかった?」
そう言われて北川は昨日の出来事を思い出した。
大変な事が続きすぎて、今の今まで忘却していたのだ。

「ああ、そういやそうだったな」
「何をしようとしてたの?あの時も言ったけど、携帯電話は通じないわよ」
「俺と真希の携帯電話を使って実験して、電話が通じない原因を調べようと思ったんだよ」
「何でわざわざそんな事を?」
「もし電話が通じるようになったら、絶対有利だと思うぞ。情報が格段に集めやすくなるし、別々に動いてる奴らとも連絡が取り合える」
「なるほどね……。珊瑚なら機械に強いみたいだし、何とか使えるようにしてくれるかも知れないわね」
「そうだな。そんじゃまずは、赤外線通信が出来るか試してみるか」
真希が期待に満ちた目でこちらを見ている。

―――北川は鞄の中を探し出した。
―――北川は鞄の中を探している。
―――北川は鞄の中を覗き込んでいる。
―――北川は支給品の懐中電灯で鞄の中を照らした。
―――北川は固まった。
―――北川は顔を上げた。

「…………」
「ねえ潤、まさか無くしたなんて言わないわよね?」
真希がいつものジト目で睨みつけてきている。
唯一違うのは手に持っている物だ。
真希はハリセンでは無くメガト○ンガンを握り、腕を振り上げていた。
あれで殴られれば相当痛いという事は容易に予想出来る。
「ははは、まあこういう事もあるさっ!」
敢えて(何が敢えてなのか北川本人にも分からないが)、ぐっと親指を立て爽やかに切り返してみた。
「そんな大事な物無くすなぁ!」
怒号、続いて鈍い音と悲鳴が周囲一帯に響き渡った。




【時間:2日目13:00頃】
【場所:E-3】

北川潤
【持ち物@:SPASショットガン8/8発+予備8発+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発、支給品】
【持ち物A:スコップ、防弾性割 烹着&頭巾(衝撃対策有) お米券】
【状況:チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
【目的:みちるの捜索、鎌石村へ】

広瀬真希
【持ち物@:ワルサーP38アンクルモデル8/8+予備マガジン×2、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)×2】
【持ち物A:ハリセン、美凪のロザリオ、包丁、救急箱、ドリンク剤×4 お米券、支給品、携帯電話】
【状況:チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
【目的:同上】
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