七瀬彰は民家の中で休憩していた。 先程の戦闘で失った体力、負傷した腕……とても戦い続けれる状態では無い。 「うっ……」 もはや動かぬ右腕に、無造作に包帯を巻きつける。 止血の効果を高める為に腕の根元のあたりは特に強く締め付けた。 片腕しか使えぬ今の状態ではこれが限界、最善の処置だった。 (これからどうするかな………) 彰は別段優れた体力も筋力も持ち合わせていない。 左腕一本では薙刀を満足に使いこなせないだろう。 もっと強力で、片腕でも使える武器―――銃が欲しい。 出来れば反動の小さい小型の拳銃が良いが、それは高望みというものだろう。 とにかく、銃が必要だ。 (でも、どうやれば手に入る?) 銃を持った相手との戦いを想像してみる。 片腕で薙刀を振り上げ、振り下ろす。その間、早く見積っても1秒以上。 どう考えても相手が引き金を引く方が早い。 正面から奪い取るのは困難を極めるだろう。 (―――もう一つの手で行くしか無いか……) 問答無用に襲撃を仕掛けないのならば、血だらけの今の格好ではまずい。 彰は着替えを探し始めた。 危険は伴うが、元より自分程度の実力ではまともに優勝するのは不可能だろう。 どこかで博打を打つ必要があった。 ・ ・ ・ 少年との死闘を終えた貴明達は、民家で手早く治療を行なった。 満足な道具も無いし、何より誰一人として本格的な医療の知識など持っていない。 簡単な応急処置が精一杯だったが、それでも止血と消毒は何とか済ませた。 準備を整えた彼らは長居する事無く民家を後にした。 「梓さん、皐月さん、本当に一緒に来ないのか?」 「悪いけどそうなるね。あたしと皐月は足を撃たれちゃったからさ、貴明と一緒に氷川村まで行くのは辛いよ」 「でも銃声を聞きつけて別の奴らが来るかも知れない……」 「その時はその時さ。それに―――この盾もある、そう簡単にはやられないさ」 梓は少年が使っていた盾を取り出し、構えて見せた。 確かにこの盾なら、足を怪我していても十分身を守れるだろう。 それに梓も皐月も銃を持っている……今ここにいる5人はこと装備面に関しては、この島の中でもトップクラスに違いない。 なら、過度の心配は無用なように思えた。 「耕一さんは今、氷川村を探してるんだよね?」 「多分ね。もし会ったら、よろしく言っといてよ」 「分かった。それじゃ俺達、そろそろ行くよ」 「ああ、またね」 ―――再会出来る可能性は決して高くないが、敢えて「またね」という言葉を使った。 お互いの無事を願い、それぞれが握手を交わす。 彼女達の服には未だに血が滲んだままだ。 五体満足な者は一人としていないが、誰も泣き言は言わなかった。 そして間も無く、貴明達と梓達は各々の方向に別れた。 二人だけになった後、梓と皐月は鎌石村の中を歩き回っていた。 歩きながら、皐月はこれまでの道程について語り始めた。 「あたしと一緒に居た人達…皆死んじゃったな…」 エディは自分に誤射されて、死んでしまった。 このみは原因不明の首輪の爆発で、死んでしまった。 智子と幸村は、少年に殺されてしまった。 最後に傍に残った花梨も……自分達を救う為に、少年と共に死んでしまった。 もう、皆死んでしまったのだ。 語ってるうちに自然と涙が流れだした。 梓は表情を歪めていたが、それでも何も言わなかった。 所々で嗚咽が混じっていたが、ようやく皐月は話を終えた。 沈んだ表情のままの皐月に梓が話しかける。 「事情は分かったよ……。皐月はこれからどうするつもりなんだい?」 「……この宝石」 皐月はポケットから青く光り輝く宝石を取り出し、梓の手に握らせた。 宝石は、いつの間にか熱を帯びていた。 「暖かいね……。これ、何?」 「この宝石には皆の『想い』が詰まってる…。どんな謎が隠されてるかまだ分からないけど、あたしはこの宝石を守り抜こうと思う」 「……そっか」 皐月は暖かさを噛み締めるように宝石を抱いてから、鞄に戻した。 その時、鞄からぴろが顔を覗かせた。 「にゃ〜……」 「ぴろ?」 皐月はぴろを鞄から出してやった。 するとぴろは慰めるように、皐月の頬を舐め始めた。 「そう言えば、ぴろはあたしとずっと一緒にいるのにまだ生きてるね……。ありがと、ぴろ」 皐月はそう言うと、ぴろをぎゅっと抱き締めた。 梓はやり切れない思いでその様子を見ていた。 「―――!」 そのまま道を進んでいると、遠くから誰かが歩いてくるのが見えた。 まだ相手はこちらに気付いていないようだ。 梓と皐月は顔を見合わせ頷き合った後、民家の塀の影へと身を隠した。 やがて自分達より何歳か、年上に見える青年が歩いてきた。 「はぁ……はぁ……」 青年は苦しそうに息を切らしていた。 肩にデイバックを担ぎ、左腕には薙刀を握っている。 梓はどうするか迷ったが―――結局、話し掛ける事にした。 人を探すのなら情報を集めなければ埒があかない。 それに自分は何度も相手を信用せずに失敗している。 柳川の時も貴明の時も、自分から襲い掛かってしまったのだ。 今度こそ、まずは冷静に話し合ってみようと思った。 「……あんた、大丈夫か?」 「!」 相手に余計な刺激を与えぬよう、正面から姿を見せた。 当然、銃はいつでも取り出せるようにポケットに入れてある。 警戒しているのか、青年は薙刀を構え数歩後退した。 「あー、ちょっと待ってくんないかな。あたし達、ゲームには乗ってないからさ」 「……本当か?」 「うん。大体ゲームに乗ってるなら、複数で行動はしないだろ?」 「―――それもそうだね」 少し間を置いて青年はそう答え、構えを解いていた。 簡単に信用が得られたので、梓は拍子抜けした気分になった。 話し合いはもっと難航するかと思っていたからだ。 何にせよ、相手が先に警戒を解いてくれた以上はこちらもそうしなければならない。 梓と皐月は表情を緩め、青年に近付いた。 「あたしは梓、柏木梓。こっちの子が―――」 「あたしは湯浅皐月よ。皐月って呼んでね。あなたは?」 「―――七瀬彰だ」 【時間:二日目・12:35】 【場所:C−4(鎌石局周辺)】 河野貴明 【所持品1:ステアーAUG(残段数30/30)、予備マガジン(30発入り)×2、SIG・P232(0/7)、仕込み鉄扇、自分と少年の支給品一式】 【所持品2:38口径ダブルアクション式拳銃(残弾数0/10)】 【状態:左脇腹、左肩、右腕、右肩を負傷・左腕刺し傷・右足、右腕に掠り傷(応急処置および治療済み)、氷川村へ】 観月マナ 【所持品1:ワルサー P38(残弾数5/8)、ワルサー P38の予備マガジン(9ミリパラベラム弾8発入り)×2、カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)】 【所持品2:9ミリパラベラム弾13発入り予備マガジン、他支給品一式】 【状態:足にやや深い切り傷(治療済み)。右肩打撲、氷川村へ】 久寿川ささら 【所持品:Remington M870(残弾数1/4)、予備弾(12番ゲージ弾)×30、スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、他支給品一式】 【状態:右肩負傷(応急処置及び治療済み)、氷川村へ】 【時間:二日目・13:20】 【場所:C−3】 柏木梓 【持ち物:グロック19(残弾数7/15)、予備弾丸(9ミリパラベラム弾)×11、特殊警棒、強化プラスチックの大盾(機動隊仕様)、支給品一式】 【状態:右腕、右肩、左腕、右足、左足負傷(全て応急処置済み)。目的は初音の保護、千鶴の説得】 湯浅皐月 【所持品1:セイカクハンテンダケ(×1個+4分の3個)、.357マグナム弾×15、自分と花梨の支給品一式】 【所持品2:S&W M60(2/5)、宝石(光3個)、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、手帳、ピッキング用の針金】 【状態:左肩、左足、右わき腹負傷、右腕にかすり傷(全て応急処置済み)】 七瀬彰 【所持品:薙刀、殺虫剤、風子の支給品一式】 【状態:右腕致命傷(ほぼ動かない、止血処置済み)、疲労、ステルスマーダー化、服は着替えたので返り血はついていない】 ぴろ 【状態:皐月の頭の上に乗っている】 - BACK