名雪の羹




それは生まれて初めて経験する感覚だった。
『何か』が精神にに侵入していた。声の主は卑猥な言葉を吐く。
「オナニーしろ……オナニーするんだ、普段通りでいい。登り詰めるまでオナニーしろ!」

水瀬名雪は困惑した。なぜなら彼女は奥手なため自慰には疎かった。
たまにカエルの縫いぐるみを抱き締めて満足するのが関の山である。
(えーっ? そんな恥ずかしいことできないよ。ケロピーないし、どうしたらいいの?)
馬鹿馬鹿しいと思ったその刹那、チリチリとした異様な感覚に襲われた。
(うあ、あああああっ! か、身体が、溶けるぅぅぅぅぅぅ!)
「…せさん、 水瀬さん、しっかりして!」
そこでようやく現実に引き戻される。目覚めの悪い夕方だった。
視界がはっきりすると、茜色の空を背景に長森瑞佳が覗き込んでいた。

「長森さん、わたし体がすごく変だよ」
なぜか瑞佳が妖艶に見えた。彼女の手を取るや名雪は自らの胸に押し当てる。
身体が火照りむず痒い。同性なのにキスしたい意識に駆られる。
潤んだ瞳はあたかも異性を見る目だった。
無意識のうちに片方の手が瑞佳のスカートの中へと潜り込んで行く。
「わっ、わっ、水瀬さんどこ触ってるんだよっ! あ、あのっ……」
「心配することはない。悪い夢を見ているだけだ」
しかし名雪は見てしまった。
うろたえる瑞佳の襟口から月島拓也の手が抜かれるのを。
(もしかしてこれも夢なのかな。月島さんが長森さんの胸を触ってたなんて……)
際どいところで痴態を止めるが出来たものの、気まずい雰囲気が漂った。

「水瀬さんは何かスポーツをしてるようだね」
「ええ、陸上をやってます。わかりますか?」
「引き締まって無駄な肉の無い、長い脚をしている。陸上をやってる割には色白だな」
拓也は頭のてっぺんからつま先までを舐めるような視線を走らす。
黙っていればすごくイイ男なのだが、その言動が名雪に嫌悪感を抱かせていた。

「お兄ちゃん、わたしの胸触ってなかった? 変な感じがするんだけど」
「してない。水瀬さんが変な夢を見たせいで動揺しているんだよ」
(嘘。わたしは見たんだからね。月島さんてイヤラシイ人だわ)
名雪はそっぽを向くと山筋に零れる残照を眺める。
「はあ、疲れた……」
溜息を吐いた直後、再び『何か』が精神にに侵入して来た。
(お前を苦しめる恐怖を主催者への憎しみに変えろ。憎め、憎め、憎むんだ)
チリチリとした痺れるような感覚に苛まれる。
抗わずに受け入れるとその不快な感覚は消えて行った。
(こんな恐ろしい目に遭わせた主催者が許せない。殺してやるっ)
いつの間にか名雪は殺気立っていた。


その後二人の会話を聞いているうち、名雪は居たたまれなくなり立ち上がる。
いちゃつきに辟易していたのだが、尿意を堪えきれなくなったのである。
しかもパンティが濡れているのが気になっていた。
「どうしたんだ?」
「あの……ちょっとお花見をして来ます」
「どこにも花なんか咲いてないぞ」
「女の子に言わせちゃ駄目だよ」
内股になって震えていることから、瑞佳は名雪の意中を察し嗜める。
「ああ、そうなのか。付いて行ってやろうか」
「一人で大丈夫です」
拓也の申し出をあっさりと断ると、名雪はそそくさと歩き出し目の届かない所へと消えた。

放尿をしようとパンティを下ろす。
(うわっ、納豆みたいに糸引いてる)
名雪はその光景に絶句した。
(わたしったら、イヤラシイ女の子……)
ティッシュで性器の合わせ目を拭うと、電流が敏感な突起から頭のてっぺんへと駆け抜ける。
「はうぅ、いやあん……」
色白のほっそりとした喉元が晒され、長い髪がピクンと揺れた。
(ここに男の人のアレが入るんだね。祐一に挿れて欲しいよう)
名雪の頭の中には従兄の相沢祐一の安否よりも、彼女の指を祐一の逸物に見立てることしかなかった。

合わせ目を弄り、指を軽く抜き差ししていると蜜が零れ滴りを作る。
踏み固められた草の上に落ちた滴りは小さな水溜りとなる。
それはあたかも羹のごとく微かな湯気を立てていた。
「あん、祐一ぃ……」
軽く絶頂を迎えると、名雪は恥ずかしさのあまり顔を覆って泣き出した。



名雪の不在いいことに、拓也の偏執愛はエスカレートして行くばかりである。
「瑞佳も大分溜め込んでるんじゃないのか? 僕が抱えてやるからシーシーしていいよ」
「ヤだよ。そんな仲になったことないもん」
「兄妹なんだから恥ずかしがることないのに……ん〜、瑞佳、いい首筋してるなあ」
「ひゃうっ! もう、ヤだヤだヤだぁ〜!」
首筋に舌を這わされ、堪らずに逃げ出す瑞佳。
(義兄妹といっても悪魔でも同志のつもりだったのに……)
「下の世話ならお兄ちゃんに任せておけばいいんだ。後始末だって舐めて綺麗にしてやるからさ」
「はあ、変なことばっかり言って、もう……水瀬さんのとこに行って来るよ」
「フッ、女の連れションか」
腰を折って老婆のような恰好で歩いて行く瑞佳の太腿を、拓也は舌なめずりしながら見ていた。




【時間:2日目・17:45】
【場所:D−8、カーブ内側の茂み】

 月島拓也
 【持ち物1:トカレフTT30の弾倉、支給品一式(食料及び水は空)】
 【持ち物2:トボウガンの矢一本、支給品一式(食料及び水は空)】
 【状態:健康、嬉々】

 長森瑞佳
 【持ち物:なし】
 【状態:重傷、出血多量(止血済み)、一時的な回復、放尿しに行く】

 水瀬名雪
 【持ち物:なし】
 【状態:やや精神不安定、すすり泣き】
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