殺意




由真の言葉に従って逃げた後、俺は遠く離れた場所に隠れ、体の回復に努めた。
幸いにして、腹の怪我は大した事が無かった。
痛みが治まった俺は、急いで戻ってきたけど……間に合わなかった。
俺は地に膝をつけた。
蹴られた腹がまた痛んだわけじゃない。
ただ、情けなかった。
目の前には――風子と由真の死体が横たわっている。
生気を失った、二人の顔。
もう風子が俺に笑いかけてくれる事は無い。
もう由真の勝気な姿を見れる事は無い。
二人の存在はもう、永久に失われてしまった。
「……ちきしょう」
悔しさで、涙が溢れてくる。
俺は何も出来なかった。
俺は誰一人として、守れていない。
それどころか、逆に女の子に庇われさえした。
目を閉じれば鮮明に、襲ってきたあの男の顔を思い出すことが出来る。
絶対に、許せない。
殺したい。
俺から大切なものを奪っていたあいつを。
殺したい。
ただ逃げる事しか出来なかった、自分を。
でも今は駄目だ。俺には優先しないといけない事がある。
そっと手を伸ばし、風子と由真の目を閉じてやる。
「岡崎朋也ぁ……」
ずっと黙っていたみちるが話し掛けてくる。
とても、不安そうに。
「……大丈夫だ。行こう」
俺は、守らなければならない。
せめて、こいつだけでも。
涙を拭いて立ち上がり、みちるの手を引いた。
今の俺は、友達を埋めてやる事さえ出来ないんだ……




それから俺達は、村の中を歩き回っていた。
「岡崎朋也、どこに行こうとしてるの?」
「俺の肩じゃ、大きな武器は上手く扱えない」
さっきの失敗から学んだ反省点が、それだった。
一応落ちてた鍬は拾ってきたけど、この武器ではあの男には勝てないだろう。
もっと小回りの利く得物が必要だ。
「だから、まずは武器を探そうと思う」
「……岡崎朋也も、殺し合いをしちゃう気なんだね」
「………」
俺は答えられない。
みちるの言う通りだった。
もしまた誰かに襲われたら、次は最初から殺すつもりで戦う。
それに俺の場合――もう正当防衛ってレベルじゃない。
ゲームに乗った奴らが許せない。
あいつらは俺の大事な物を、どんどん奪っていく。
早苗さんも、親父も、芽衣ちゃんも、殺されてしまったのだ。
次に奴らを見つけたら、こちらから襲撃するつもりだ。
重い沈黙の中、俺達は歩き続ける。
気の利いた冗談の一つでも言えれば良かったのだろうが、それは叶わない事だ。
俺はあの男への、ゲームに乗った奴らへの殺意を抑えるので精一杯なのだから。

やがて、小さな民家の前に辿り着いた。
ここに来る途中にも家は何件もあったか、鍵が掛かってない家は無かった。
窓を割って侵入しても良かったが、大きな音を出すのは好ましくない。
今度こそは――という思いで玄関のノブを回すと、扉はあっさり開いた。
同時にこめかみに、何か硬い物を突き付けられた。
「動くな。何もしなけりゃ危害は加えねえ」
「――!」

俺は息を呑んだ。
この感触からして、突きつけられているものは銃だろう。
だがそれよりも、聞き覚えのある声に驚かされた。
「オッサン!?」
「小僧か!?」
横を向くと、オッサンが銃を構えていた。




【時間:2日目12時半頃】
【場所:B−3】
 
古河秋生
【所持品:トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・包丁・S&W M29(残弾数0/6)・支給品一式(食料3人分)】
【状態:驚き。左肩裂傷・左脇腹等、数箇所軽症(全て手当て済み)。渚を守る、ゲームに乗っていない参加者との合流。聖の捜索】

岡崎朋也
【所持品:鍬、クラッカー残り一個、双眼鏡、三角帽子、他支給品一式】
【状態:マーダー達、特に彰への激しい憎悪。まずはみちるの安全確保】

みちる
【所持品:セイカクハンテンダケ×2、他支給品一式】
【状態:朋也に同行、目標は美凪の捜索】
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