レジャー




柳川裕也達は草木が生い茂る森の中を歩いていた。
森の中は薄暗く、視界は良好とは言えない。
彼らは三者三様の反応を見せながら進んでいた。
「あっ!?スカートが枝に引っ掛かって……きゃーっ!?蛇が、蛇がいる!」
「あははー、ピクニックみたいですねーっ」
「…………」
四苦八苦し騒いでる留美。
楽しそうに朗らかに笑っている佐祐理。
黙々と歩んでいる柳川。
「森の中を通るコースを選んだのは失敗だったようだな……」
あまりにも緊張感の無い二人に呆れ、柳川はボソリと呟いた。
その声は多分に非難の色を含んでいる。
「そんな事無いですよー。佐祐理はピクニックは嫌いじゃないですし、七瀬さんも大はしゃぎです」
「嫌がってんのよ!」
「……やれやれだ」
柳川は頭を抱えたがそれ以上非難を続ける事はしなかった。
自分さえ警戒を怠らなければ何者かに不意打ちされるというような憂き目は避けられる。
他の二人にまで緊張状態を強いて、疲弊させる事もないだろう。
佐祐理に関してはわざと明るく振舞っている節もある。
それを無下にしようとも思わなかった。
「ねえ、どうしてこんな歩きにくい道を通るの?」
「地図を見る限り極端な高低差は無い。なら最短距離で向かった方が、早いからだ」
「でもわざわざこんなトコ通らなくても……」
「俺は時間を無駄にする気は無い。嫌なら一人で街道に戻るんだな」
柳川は唇の端を歪めて冷笑した。
むっとして柳川を睨み付ける留美。
二人の間には火花が散っているようであった。


しばらく歩いていると、少し開けている場所を見つけた。
周りは背の高い草に囲まれており、敵に発見される心配も少ない。
「ふむ、ここらで昼食にするか」
「そうですね」
氷川村に着いた時にはもうヘロヘロでした、では話にならない。
今の柳川の状態では全快時の戦闘能力は望むべくも無い。
制限されている鬼の力だけでは怪我の回復速度が足りなさ過ぎる。
休息――とりわけ栄養補給が重要だ。
柳川は足を止め、そっと地に腰を下ろそうとした。
「あ、待ってください」
「?」
疑問の目を向ける柳川をよそに佐祐理は鞄の中を探り始めた。
やがてある物を取り出し、地面へと広げる。
「さっきの民家でお借りしてきたんです。やっぱりピクニックにはレジャーシートですよねっ」
「………」
敷いてあるのは優に4−5人は座れそうなサイズのレジャーシート。
だが問題はそのデザインだ。
シートの色はピンク一色で、絵柄は可愛らしい花柄。どう見ても女性用である。
柳川としては、出来れば座るのは遠慮したい。
しかし佐祐理は座り込んで嬉しそうに手招きをしている。
留美に至っては「これぞ乙女って感じよね〜」などと言いながらもう食事を始めている始末だ。
ちっ、と二人に聞こえないよう舌打ちしてから柳川も腰を落とした。


主催者支給のパンを手を取り、噛り付く。
「相変わらず不味いパンだな」
これも主催者の思惑なのか、支給された食料の味は最悪だ。
「そうですね……。もしよろしければ夕食は佐祐理が作りましょうか?」
「私も手伝うわよ。私の乙女たる所以、たっっぷりと見せてつけてあげるんだから!」
留美はそう言うと自信ありげに胸を張った。
しかしどう見ても料理は不得手なタイプに見える。
少々、いやかなり不安だったが、まあ佐祐理も一緒に作るのなら大きな間違いは起こすまい。
「そうだな。状況にもよるが余裕があったら頼む」
「はい、お任せくださいっ」
「オッケー、まっかせなさい!」
程なくして柳川はパンを食べ終え、水を口に含んだ。
佐祐理と留美はまだ食事中なので特にする事が無い。
そこで、ふとある考えが頭に浮かんだ。
早速佐祐理の鞄を手繰り寄せる。
「柳川さん、何してるんですか?」
「倉田の持つ青い矢は麻酔薬が塗ってあるのだろう?」
「そうですけど、それがどうかしたんですか?」
「人を殺す気は無いと言っている甘ちゃんにはピッタリだと思わないか?」
「あ……」
ぽかん、と口を開ける佐祐理。

襲われた時に相手を殺さずに止めるにはどうすれば良いのか。
説得が通じればそれに越した事は無いが、そう上手く行くとは限らない。
応戦しざるを得なくなったのなら、相手の意識を奪うのが手っ取り早い。
柳川は青矢のうちの2本を取り出し、1本を自分の鞄に、もう1本を七瀬の鞄に収めた。
「どういう風の吹き回し?」
「大した意味は無い。使える物は全て、有効に使うべきだと思っただけだ」
「……取り敢えず礼は言っとくわ。ありがと」
「ふん、良いからさっさと食事を済ませろ」
佐祐理と留美は再び食事を始める。
柳川はこれから先の事に考えを巡らせようとし―――止めた。
少女達は談笑しながら食事を続けている。
その姿は年相応のものに見えた。
それはとても微笑ましい光景で。
周囲への警戒を解く事は出来ないが、今この時くらいは自分も楽しもうと、そう思った。




【時間:2日目13:10頃】
【場所:G-3森】
柳川祐也
【所持品:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)、日本刀、支給品一式(片方の食料と水少々消費)×2、青い矢(麻酔薬)】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、肩から胸にかけて浅い切り傷(治療済み)、休憩中】
【目的:まずは氷川村へ】
倉田佐祐理
【所持品1:舞と自分の支給品一式(片方の食料と水少々消費)、救急箱、吹き矢セット(青×3:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【所持品2:二連式デリンジャー(残弾0発)、投げナイフ(残り2本)、レジャーシート】
【状態:談笑、食事中】
【目的:まずは氷川村へ】
七瀬留美
【所持品1:日本刀、青い矢(麻酔薬)】
【所持品2:スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン、支給品一式(3人分、そのうち一つの食料と水少々消費)】
【状態:談笑、食事中】
【目的:まずは氷川村へ。目的は冬弥を止めること。千鶴と出会えたら可能ならば説得する、人を殺す気、ゲームに乗る気は皆無】
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