村の中央に、力無く項垂れる3つの影があった。 乾いた風が、彼らの意を介す事無く吹き抜ける。 そこに、蒼い空から陽の光が降りそそいでいた。 柳川は立ち上がると住井の元に歩み寄り、様子を伺った。 複数の無残な銃痕は彼が事切れていることを能弁に語っている。 そして、志保の方を見る―――何時の間に移動したのだろうか、浩之がもう動かない志保の上半身を支え起こしていた。 浩之の表情は、こちら側からでは影になっており読み取る事は叶わない。 「藤田……」 「……悪いが少しだけ、一人にしといてくれないか?大丈夫……少しの間だけだ」 浩之は顔をこちらに向ける事無くそう言った。その声は震えている。 柳川は下唇を噛み締めると、先刻まで抱き締めていた少女へと目を向けた。 「舞、舞……」 佐祐理は舞の手を取り、譫言のように親友の名を呼び続けていた。 けれど、彼女がそれに答える事は二度と無い。 川澄舞の生命は、永遠に失われてしまったのだ。 佐祐理の目にもう涙は溢れていないが、その瞳は虚ろだった。 「倉田……」 その背に声を掛ける。反応は、無い。 佐祐理は舞の体を抱き起こし、がくがくと揺すり始めた。 「止めろ倉田……」 聞こえていない筈は無い……しかし心にまでは届いていない。 舞の体は更に激しく揺さぶられ、その頭が不規則に揺れている。 柳川は佐祐理の肩を掴み、こちらを振り向かせ――― 「……いい加減にしろ!」 佐祐理の頬を張っていた。 その頬は柔らかく、張った手が痛むという事は無い。 ただ―――心がどうしようもなく痛んだ。 その痛みで佐祐理はようやく現実に引き戻された。 「や、柳川さん……?」 「もう止めろ……川澄はもう、此処にはいないんだ……」 「…………」 「死んだ人間の生命は決して戻らない……」 柳川は敢えて告げる―――現実を。 受け入れられない事実を突き付けられ、佐祐理の瞳に再び涙が満ちてゆく。 佐祐理は耳を塞ぎ、全てを拒むように首をぶんぶんと振った。 「聞きたくありませんっ!どうして……そんな事を言うんですかっ……!」 「川澄は死んだ―――だが」 「もう止めてぇぇぇ!」 柳川が優しく佐祐理の体を抱き締めた。 佐祐理の動きがピタリと停止した。 そしてゆっくりと、柳川は言葉を紡ぐ。 「川澄の代わりに、俺がずっとお前を守る。俺は絶対に死なないし、お前も絶対に死なせはしない」 「……どうして?どうしてそこまでしてくれるんですか?」 「川澄との約束もある……だがそれだけではない。俺にはどうやらお前が必要のようだからだ。 お前といると、何故かとても心が安らぐ……。もうとうの昔に失った感情だと思っていたのだがな……」 「え……?」 「だからずっと傍にいてやる。この島の中だけでは無い、ずっとだ。お前が迷惑で無ければな。 だから……もう、川澄を休ませてやれ。泣くなら俺の胸で泣け……そして川澄にはいつもの笑顔を見せて、安心させてやれ……」 その真摯な言葉一つ一つが、佐祐理の心へ届く。 佐祐理の瞳から涙が再び零れ落ちそうになる。 だが、泣かなかった。 佐祐理は顔を上げて、微笑んだ。 目にまだ涙は溜まっているが、決して無理に作られた笑顔ではない。 「分かりました……でももう、泣いてられません。涙は―――この島から出られた時に纏めて流す事にします。 これからも、ずっと……よろしくお願いしますね」 もう佐祐理は虚ろな瞳をしていなかった。彼女の目には確かな光が宿っている。 強い少女だと思った。親友の事で鬼に呑まれてしまっていた自分とは比べ物にならないくらい、強い。 主催者さえ殺せば、もう自分は死んでも良いと思っていた。 鬼を抑え込んでいる制限と呼ばれている力が無ければ、自分はもう自我を保てないから。 再度、愚かな傀儡と化してしまうだけだから。 だけど―――今ならきっと、そうはならない気がした。それだけの強さを佐祐理が与えてくれた。 (貴之……俺は生を望んでも良いのか?) 心の中で親友に問い掛ける…………答えは無い。 だけど、決意はもう固まっていた。 自分の命はもう、自分の為だけにあるのでは無い―――生を諦める事など許されない。 「……ああ、こちらこそな」 微笑みながら、簡素な言葉を返す。 それ以上の言葉は必要無い……お互いの想いはもう十分に伝わっているから。 ふと浩之達の方へ視線をやると、浩之は春原に肩を貸していた。 「久しぶりだな、春原」 「ああ……無事だったんだね」 浩之も彼なりの葛藤があり、そしてそれに打ち勝ったのだろう。 もう彼の声は震えていなかった。 浩之は柳川の視線に気付くと、しっかりと頷いた。もう、大丈夫だと。 柳川は再び空を見上げた―――ほんの僅かの間に、陽の光は随分と輝きを増しているように見えた。 「―――!」 そんな時、何かが近付いてくる気配を感じ取り、柳川は気配のした方向へと目を向けた。 そちらからは、見知らぬ少女が一人と、少し遅れて別の少女が三人、駆けてきていた。 【時間:2日目11:30頃】 【場所:F-2】 春原陽平 【所持品1:スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2・他支給品一式】 【所持品2:鋏・アヒル隊長(1時間20分後爆発)・鉄パイプ・他支給品一式】 【状態:全身打撲・数ヶ所に軽い切り傷(どちらも大体は治療済み)、頭と脇腹に打撲跡】 柳川祐也 【所持品@:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)】 【所持品A:支給品一式×2】 【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、肩から胸にかけて浅い切り傷、疲労】 倉田佐祐理 【所持品:支給品一式、救急箱、二連式デリンジャー(残弾0発)、吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】 【状態:普通】 藤田浩之 【所持品:ライター】 【状態:人を殺す気は無い】 七瀬留美 【所持品1:デザートイーグル(.44マグナム版・残弾6/8)、デザートイーグルの予備マガジン(.44マグナム弾8発入り)×1】 【所持品2:H&K SMG‖(6/30)、予備マガジン(30発入り)×4、スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン、支給品一式(3人分)】 【状態:まだ状況を把握していない、目的は冬弥を止めること。ゲームに乗る気、人を殺す気は皆無。千鶴と出会えたら可能ならば説得する】 柚木詩子 【持ち物:ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)、鉈、包丁、他支給品一式】 【状態:まだ状況を把握していない、千鶴と出会えたら可能ならば説得する】 ルーシー・マリア・ミソラ 【所持品:鉈・包丁・スペツナズナイフ・他支給品一式(2人分)】 【状態:まだ状況を把握していない、左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み)】 吉岡チエ 【所持品1:救急箱・支給品一式】 【所持品2:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)】 【状態:まだ状況を把握していない】 【備考:現場に舞、耕一、志保、護の支給品一式、新聞紙、日本刀×2、投げナイフ(残り4本)が置いてあります】 - BACK