異変




妙に、荒い息遣いを耳元で感じる。
眠りについていたはずの立田七海の意識は、それで覚醒させられた。

(・・・・・・え?)

もぞもぞと、背中から抱きすくめられる形を取られ瞬間体が強張る。

「え、だ、誰ですっ?!」

息遣いは止まない、低い声に一瞬男かという怯えも走るが体を弄る手の感触はあくまでか細い。
首を捻り凝視する、電気をつけていないので目視するのは厳しいがそれでも特徴のある髪型でそれが誰だかはすぐに分かった。

「え・・・ゆめみ、さん?」

答えはない。そのまま肩を取られ仰向けに押し倒され、七海は彼女・・・ほしのゆめみと、向かい合うような形にさせられた。

「・・・んな、おんな・・・久しぶりのぉ、女ぁぁぁ・・・」
「え、きゃ、きゃあっ!そ、そんな所触らないでください・・・っ」

遠慮なく服の上から胸部をまさぐられ、思考が飛びそうになる。
荒い愛撫に戸惑いを隠せず、両手でゆめみを押し返すようつっぱるが・・・彼女は、ビクともしなかった。

「おんな・・・おんなだぁ、久しぶりだぜこの感触ううぅぅっ」

ブツブツと呟くゆめみの声に震えが走る、明らかに彼女の様子は変であった。

「あの体に閉じ込められてから・・・いくら待ったか・・・」
「ゆ、ゆめみさん?おち、落ち着いてくださ・・・」
「やわらけぇ、ああ・・・これだ。俺の求めていた感覚はこれだあぁぁ」
「きゃうっ?!す、スカート上げちゃダメですっ」

捲り上げられたスカートから、幼い作りのパンツが現れる。
小さな恥丘を目にし、ゆめみはますます興奮したように七海にしゃぶりつこうとした時だった。

「・・・ちょっと、二人何やってんのよ。五月蝿いんだけど」
「い、郁乃さん助けて〜」

冷ややかな声は、車椅子に座った少女が発したもの。
七海の力ない助けを聞き、小牧郁乃は絡まりあう寸前の二人の所まで近づいた。

「夜中にいい加減にしてよね、眠れないったらありゃしない」
「女?!ここは天国かよぉ、最高だぜ・・・ギャフッ?!」
「ゆめみ、あんた寝ぼけてんの?」

自分に向かって両手を広げて突っ込んでくるゆめみに、容赦なくグーパンチを浴びせる郁乃。
その冷ややかな視線を受け、ゆめみの表情も一転した。

「調子に乗るなよ、ガキが」
「な、何よ・・・きゃっ!!」

黙ったまま郁乃に近づき、ゆめみはその車椅子を渾身の力を込め蹴飛ばした。
勿論、乗っていた郁乃は弾き出される。受身も取れず側面から床にダイブすることになり、思わずその痛みを声に漏らした。

「郁乃さん?!ゆ、ゆめみさん、おふざけにも程が・・・」
「ああ?何言ってんだカス、お前誰にモノ聞いてんだコラァッ!」
「・・・なに、それがあんたの本性ってワケ?騙されたものね」

起き上がることができず、顔だけゆめみに向けて郁乃は悔しそうに毒づいた。

「騙すもクソもねえよ、俺は今ひっっさしぶりに目が覚めたんだからよ」
「どういうことよ」
「さあな、知らねえな。・・・ただ、どうにも体が縮んだ気はするが。確かこう、もっとでっかかった気がしたんだがな・・・」

そう言って、自分の姿を確認するようにターンするゆめみ。
とにかく・・・今までの、優しい彼女ではないということだけは確かだった。

「まぁ、いつまで保つかは分からなねえが。俺の意思がはっきりと表に出せるうちは、もう好き勝手やらせてもらうしかねーよな」
「な、何する気ですかっ・・・」
「ああ?当たり前だろ、セック・・・」

言いかけて、止まる。
ゆめみの体をした別人は、ゆっくりと自分の下半身に向けて視線を落とした。
ピラっと、躊躇いなく前掛けのようなスカーを捲る。「きゃあっ!は、はいてない?!」という黄色い声が飛ぶが気にしない。
・・・パサ。スカートが重力通りに落ちると、ゆめみは頭を抱えて叫んだ。

「チンがねぇ!!タマも!!」
「ゆ、ゆめみさん女の子ですから・・・」
「絶望した!!」
「あんたが絶望する前に、こっちはとっくの昔に絶望してるわよ」
「触手はないのか?バイブ機能は?!」
「が、ガイドロボットって言ってました・・・ゆめみさん。そんなえっちなの、ついてないと思います・・・」
「くそっ、やられた!!」
「アホ」
「アホで結構コケコッコー、あちきが天才だと思えば誰でも天才さ。
 そう、それはまーりゃん脳の中では天化が取れるという素晴らしい法則。
 感謝していいぞよ、でもちみのリアクションは凡才判定かな?」

ガラっと襖が開き、これまた新手が飛び出してくる。
一同呆然。そのインパクトで場は静まるが、参入者により入れ替わった空気で一気に活気は元に戻った。

「く、くさいですっ」
「何よこの臭いは?!」
「庶民にはこのスメルの魅力が分からんのかね〜、まぁ私にもワカランが」

朝霧麻亜子は汚臭の染み付いた着物を揺らし、さらにその芳しい香りを撒き散らした。

「な、何なのよ一体・・・」
「ふはは、死神は臭いも腐ってるってな。これまたちょうどいい具合だと思わないかい?ところでキミ、お名前は」
「た、立田・・・七海、です・・・」
「そうかいそうかい、いい名前だい。親御さんのセンスがうかがえるね。
 だが、そんなシックスセンスはお前様には受け継がれなかったのな。
 そう、予想外の処刑人の登場など想像つかなかっただろう?
 死ぬぜぃ、ここにいるヤツは皆死ぬぜぃ・・・とりあえず、ななみんお前を殺す」
「え、わ、私?」
「桜舞い散る季節に訪れる出会いと別れ、あちきはあんたを忘れない。
 迎えにきたよななみんちゃん、スーパーまーりゃんと無学寺で握手ってな。
 え、何さどうしていきなりあたしがここに現れたかって?
 それは秘密さ禁則事項さ、とにかく涙がチョチョ切れちゃうけど我慢してくれろ。自分の屍越えてゆけ!」

着物の裾から取り出されたボーガンの矢が放たれたのは、そう麻亜子がまくしたた直後だった。
狙いは宣言通りの七海、半身を起こしただけの彼女はいきなりの攻撃に全く反応ができていない。
矢は、七海の顔面に突き刺さる。そのはずであった。
瞳孔を開いたまま身動きを取らない七海の襟首が唐突に引かれる、乱暴なその仕草と彼女の座っていた場所をボーガンの矢が通り過ぎたのはほぼ同時であった。

「困るぜガキ、こっちもガキとは言え女を殺されちゃあタマんねぇ。ここにいる女は全員俺の肉奴隷なんだからな」

いまだ何が起きたか理解していない七海を片手に言い放つゆめみ、鋭い視線を送られ麻亜子も一瞬たじろぐが次の瞬間には不敵な笑みを浮かべてくる。

「あらまぁ女同士でハレンチな。そんなロリハーレムなら、お姉さんにも参加資格はあるかに?」
「武器を捨て、従うんなら考えてやってもいい」

対峙する二人の女、台詞はともかく緊張感が場に走った。






(ちょ、ど・・・どうなってんのよ?!)

沢渡真琴は、そんな背後で起こるコケティッシュな展開に乗り遅れていた。




【時間:2日目午前0時30分】
【場所:F−9・無学寺】

立田七海
【持ち物:無し】
【状況:驚き、ゆめみに襟首捕まえられている、郁乃と共に愛佳及び宗一達の捜索】

小牧郁乃
【持ち物:車椅子】
【状況:驚き、車椅子から落ちている、七海と共に愛佳及び宗一達の捜索】

沢渡真琴
【所持品:無し】
【状態:寝たふりで様子をうかがっている】

ほしのゆめみ?
【所持品:支給品一式】
【状態:まーりゃんと対峙】

朝霧麻亜子
 【所持品:SIG(P232)残弾数(4/7)・ボウガン・バタフライナイフ・投げナイフ・仕込み鉄扇・制服・支給品一式】
 【状態:ゆめみと対峙、着物(臭)を着衣(防弾性能あり)。貴明とささら以外の参加者の排除】

宮内レミィ 死亡

ささら・真琴・郁乃・七海の支給品は部屋に放置
(スイッチ&他支給品一式・スコップ&食料など家から持ってきたさまざまな品々&他支給品一式・写真集二冊&他支給品一式・フラッシュメモリ&他支給品一式)

【備考:食料少し消費】
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