脱出の糸口




北川達は平瀬村の中を動き回っていた。
彼らの第1目標はみちるの捜索、第2目標が自分達の持つ情報を活かせる人間の捜索だ。
今の彼らにとってゲームの脱出方法の模索は二の次だ、まずはみちるを見つけ出して守ってあげたかった。
そして謝りたかった―――美凪を守れなかった事を。
しかし、基本的にはこれまでとやるべき事は変わらない。
結局の所人を探すには、村を捜索するのが一番効率が良いのだ。

「そろそろ村の中央部だし、歩いていこうか」
「そうね―――さっきの二人組もまだ何処かにいるかもしれないしね」
二人の銃を握る手に力が篭る。
美凪は言った――――『二人共、絶対に死なないでください』と。
復讐に走れば彼女の気持ちを台無しにする事になる。
自分達はみちるを見つけ出し、その後何とかして生きてこの島から脱出するのだ。
復讐の末に辿り着くのは凄惨な死―――だから復讐を目的として行動する気は微塵も無かった。

しかし―――
「ねえ潤……もしまたアイツ達にあったらどうするの?」
「…………」
北川は沈黙を返答とした。その顔はかつてない程険しくなっており、おおよそ彼らしくない。
それで真希も北川の考えている事を察して、黙りこくってしまった。

美凪を殺した連中は許せない―――許せる筈が無い。
無論自分達から仇を探し回るような事はしない。
それは絶対に出来ない。
けれど、もし偶然出会ったのなら――――答えは決まりきっている。
その時は……


そこまで考えて北川はぶんぶんと首を振った。
「じゅ、潤、どうしたの?」
「あーヤメヤメ!こんな暗い事考えてちゃ美凪が悲しんじまうよ!」
北川はそう叫ぶと銃を地面に置いて両手を思いっきり広げ、自分の頬を叩いた。

パチーン!
豪快な音がした。
北川の頬は叩いた跡が残り少し赤くなっている。

「よーし、これでもう大丈夫だ。やっぱ俺達は明るくいかないとな」
美凪が死んだ事への悲しみはまだ消えてない―――きっと一生残るだろう。
だけど、美凪は自分達が悲しみに暮れる姿など望んではいないだろうから。
だから北川は、真希に微笑みかけた。
真希は一瞬呆気に取られていたが、すぐにいつもの勝気な笑顔をして見せた。

「そうね……そうよね。それじゃあたしも……」
真希は銃をポケットに入れて両手を思いっきり広げ、北川と同じように叩いた。
パチーン!
豪快な音がした。
叩いた跡が残り赤くなっている。

…………北川の頬が。

「あ、あの〜真希さん?気合を入れるなら自分の頬を叩いてくれませんか?」
「嫌よ、痛いし」
「…………」
北川がジト目で非難するが1秒で却下される。
真希は腰に手を当て、偉そうに胸を張っている。
北川は少しの間不満そうにしていた。
だが突然、彼は堪えきれなくなったように笑い出した。
「くっ…はは……ははははっ」
「な……何よ突然笑い出して……頬を叩かれたショックで頭のネジが飛んじゃった?」
「いや、これでこそ真希だと思ってな」
「え……?」
「やっぱり、元気じゃないと真希じゃねえや。お前は元気なのが一番似合ってるよ」


―――それは真希にとって、完全に不意打ちの一言。
真希の頬がみるみるうちに赤く染まってゆく。
恥ずかしさに耐えられなくなった真希はハリセンを手に取った。
スパ――ン!
スパ――ン!
スパ――ン!
北川の頭に連続して衝撃が走る。
「ちょ、いや、俺今なんか悪い事言ったか?」
「うるさいっ」
スパ――ン!
スパ――ン!

北川が制止しようとしたが、真希の照れ隠しは止まらない。
ハリセンの耐久力が尽きるのが先か、真希の体力が尽きるのが先かと思われたが―――
北川はぱしっと、真希の手を受け止めた。しかし顔は別の方向を向いている。
「―――潤、どうしたの?」
「あっちに……人がいる」
言われて真希は北川と同じ方向を見やった。
すると視界の先に二人の女の子の姿を捉えた。
少女達は窓から顔を出して外の様子を窺っているようで。
その視線は―――こちらに向けられていた。
距離はまだかなりある、逃げようと思えば問題無く逃げ切れるだろう。
しかし折角人を見つけたのだから、出来れば情報を得たい所でもある。
真希は北川の判断を仰ぐ事にした。
「潤、どうする?」
「向こうの方が先にこっちを見つけてたのに何もして来なかった―――攻撃してくる気は無さそうだ」
「じゃあ?」
「ああ、話をしにいこう」
そう言うと北川は銃を鞄に仕舞い、こちらを注視している少女達の方へと歩き出した。
敢えて武器を鞄に戻した理由は単純。相手を無闇に驚かせたり無用な警戒心を与えたりしないようにだ。
真希もそれに習って武器を仕舞い(ハリセン以外)、後に続く。


・

・

・

「あ、あの人ら一体何やの……?」
「珊瑚ちゃん、危険そうなの?」
「大丈夫やと思う、大丈夫やと思うけど……」
珊瑚は目の見えないみさきの為にそれだけ答えると、口を開いて呆然としていた。

窓の向こうから男と女が堂々と近付いてくる。
割烹着を着て。何故かハリセンだけ持って。
頭には頭巾までしており、その様は異様と言う他無い。
北川達の行動は珊瑚を別の意味で驚かせていた。


だから――――
「芸人さん?」
「「―――は?」」

北川達が声の届く位置に来た時、珊瑚が最初に掛けた言葉はそれだった。

・

・

・

数分後、北川達は珊瑚達が隠れている家の中へと招かれていた。


「残念だが俺達は芸人じゃない……俺は北川潤、育ち盛りの元気な高校生だ。
それでこっちが広瀬真希……俺の漫才の相方だ。得意技はHGの物真似だ」
「セイセイセイセイ〜〜♪………………………って誰がんな事やるかっ!」
スパ――ン!
スパ――ン!
スパ――ン!
連続してハリセンが振るわれる。
そのやり取りはまさに芸人そのものだったが、とにかく北川達が学生であるらしい事は分かった。
「よ……よく分からないけど、悪い人達じゃないみたいだね……」
「そ……そうやね……」
みさき達は苦笑いをしながらも北川達と同じように自己紹介をした。
その後みさきはまず自分達の置かれている現状の説明を行なった。
近くで戦闘が行なわれているという事実は、いち早く報せるべきだと思ったからだ。

「そうか―――それで川名達はその柳川さんって人達が戻ってくるのを待っているんだな?」
「うん……。みんな大丈夫かな……」
みさきの問いに北川は答えられない。襲撃者は多分、先程北川達を襲った連中だろう。
あの二人組の中でも特に女の方は全く容赦無く襲い掛かってきた。それにマシンガンも持っていた。
なら―――みさき達の仲間が全員無事に帰る保障など、何処にも無かった。
だから北川は、話題を変える事にした。

「姫百合。お前、パソコンが得意なんだってな」
それはみさきの現状説明の時に聞いた情報だった。
みさきは目が見えない―――そして、珊瑚は首輪の解除をしうるだけの技術を有し、
パソコンの扱いにも長けているから安全な場所で待たされている、と。
「うん。うちはそれ以外に取り柄あらへんし……」
「なら―――今がまさにお前の出番だ」
「え―――?」
北川と真希は鞄を探り、ある物を取り出した。
「受け取ってくれ。これは俺達じゃ有効に使えない」
それは―――前回参加者達が遺したメモ、CD、それにノートパソコンだった。
北川はそれらを珊瑚に渡した。


「俺達はもう少しここに残ってお前達の仲間が帰ってくるのを待つよ。
だけどその人達が帰ってきて情報交換も終わったら、ここを発つ。俺達にはやらないといけない事があるんだ。
だから―――俺達の代わりにお前がこれを活かしてくれ」

前回参加者達の遺産は、然るべき人物へと托された。




【時間:2日目11:30頃】
【場所:F−2民家】
川名みさき
【所持品:なし】
【状態:健康】
姫百合珊瑚
【持ち物@:デイパック、水(半分)食料(3分の1)、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)、ノートパソコン】
【持ち物A:コミパのメモとハッキング用CD】
【状態:健康】

北川潤
【持ち物@:SPASショットガン8/8発+予備8発+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発、支給品】
【持ち物A:スコップ、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有) お米券 おにぎり1食分】
【状況:チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
【目的:柳川達が戻るまで待って情報交換を行なう。それが終わったらみちるの捜索へ】
広瀬真希
【持ち物@:ワルサーP38アンクルモデル8/8+予備マガジン×2、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)×2、支給品、携帯電話】
【持ち物A:ハリセン、美凪のロザリオ、包丁、救急箱、ドリンク剤×4 お米券】
【状況:チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
【目的:同上】
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