別の世界の住人




千鶴は平瀬村郊外の民家に戻り、耕一の治療を行なっていた。
耕一の穿たれた胸からは血がとめども無く溢れ出していたが、それももう止まっていた。
傷が治ったからではない……既に耕一の体は体温を失いつつあった。
だが千鶴はそんな彼の胸に乱暴に包帯を巻きつけて―――

「ほら、これで治療は終わりですよ。耕一さん、そろそろ起きてまた一緒に人を殺しに行きましょう?」

耕一は答えない。答えられる筈が無い。
だが千鶴はそんな耕一に話し掛け続ける。

「もう、仕方ないですね……。よっぽどお疲れになったんですね?」

千鶴は困ったような表情で頬に手を当てた。
耕一の血で紅く染まったその手を。
千鶴の顔に血がこびり付く。
顔だけでは無い。
耕一の死体に対して手当を行なっていた千鶴の腕にも、服にも、もういたるところに血が付いていた。

「分かりました、耕一さんはここでゆっくり眠っていてください。
耕一さんが起きるまで、私はまた一人で人を殺し続けますから」

紅く染まったその手で耕一の額を撫でる。
耕一の顔もまた、血で汚れていった。

「妹達と愛佳ちゃんに会った時はどうしましょうか?出来れば協力して貰いたいんですけど、
彼女達の性格では協力してくれるかどうか……」

そこで千鶴は何かを思いついたように胸の前でポンと手の平を合わせて、子供のような無邪気な笑顔で―――

「―――そうだ!断られたら殺してしまえば良いんですね!そうすれば彼女達は手を汚さないで済むし、
後で優勝の褒美で生き返らせれば良いだけですから」

ウージーに、再びマガジンを詰める。

「辛い思いするのは私と耕一さんだけで十分ですからね。
耕一さんが眠っている間は私一人で頑張ります……。でもあまり長い間一人にしちゃ嫌ですよ?」

ノートパソコンの時計で時間を確かめる。
数字は11時50分を示していた。

「鎌石村に行く時間までまだ少しありそうですね。もう少しだけ、一緒にいさせてくださいね」

千鶴は顔を耕一に近付け、口付けを交わした。

「全てが終わって元の生活に帰れたら、大学を辞めて私の旅館で働きませんか?
妹達もきっと喜びますし――――何より私が一番嬉しいですから」

耕一の頭を上げ、自身の膝の上に乗せた。

「膝枕、気持ち良いでしょう?耕一さんがこうやって寝付いた後も毎朝私が起こしてあげますし、
料理も上手くなるように頑張ります、耕一さんの世話を一生してあげます。
だからずっと私と一緒に暮らしましょう、ね?」

楽しそうに将来の事に想いを馳せる。
いつもと変わらぬ穏やかな笑顔で。
心の支えを失った千鶴はもう現実とは別の世界を見ていた。




【場所:E-02民家】
【時間:二日目午前11:50】

柏木千鶴
【持ち物:支給品一式(食料を半分消費)、ウージー(残弾25)、予備マガジン弾丸25発入り×3】
【状態:左肩に浅い切り傷(応急手当済み)、肩に怪我(腕は動く)、マーダー、狂気、血塗れ、14時頃に鎌石村役場へ】

ウォプタル
【状態:民家の傍の木に繋いである】
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