少女たち




るーことチエは走った。後ろを振り返ることなく、ただまっすぐ前を向いて走り続けた。
――軽く10分以上は走った。
そして、2人はいつの間にか村の外に出て、林の中にいた。

「……ここまでくれば問題はない。よっち、大丈夫か?」
るーこはチエの腕を放すと、彼女の方に目を向けた。
「…どうして………」
るーこの腕が解かれると今度こそチエは力なくその場にへたり込んでしまった。
「どうしてこんなことになっちゃったんスか……どうして耕一さんが……住井先輩が……」
「………この島はうーたちの何かを少しずつ狂わせてしまうんだろう。
誰が殺した、殺された、どうしてこうなった、こうなってしまったとかそんな話はもう関係ないとばかりに。あるのはただひとつの可能性の結果だけなんだろうな……」
「そんな……」
「だが…それでもうーへいたちは生き続けようと努力している……だから、るーたちも頑張らなければならない」
そう言って片方のデイパックをチエに手渡すとるーこは自分たちが走ってきた方に振り返った。

「預かっていてくれ。すぐに戻る」
「ど…どこに行くんスか?」
「決まっている、うーへいたちを助けに行く」
「そ…そんな! 危ないっスよ!」
「この島にいる以上るーたちが常に危険なことに変わりはない。それに逃げたところで結局は死神といたちごっこだ」
「で…でも!」
「くどいぞ……る?」
「ど…どうしたんスか?」
「……何か来るぞ」
「えっ!?」

すぐさまるーこはチエの前に立つと鉈を取り出し構えた。
しばらくすると、何かがもの凄いスピードでザザザザザと草木をかき分けながらこちらにやって来るのがチエの耳にも聞こえた。
「………」
るーこの鉈を握る両手に自然と力をこもる。

――音はどんどんこちらに近づいてくる。
(近い……!)

そして次の瞬間近くの茂みから突然巨大な影が躍り出た。
現れたのはるーこの右側面。

(しまっ―――!)
さすがのるーこも一瞬判断に遅れが出る。一瞬の判断の遅れがこの島では死に繋がる。
(くっ――せめて、よっちだけでも守らなくては!)
るーこがチエを守ろうと体制に入ると同時に………

「ちょ…ちょっと!? ストーップ! ストーップ!」

どがらがっしゃーん!!

「…………」
「…………」
現れた影―――2人乗りの折りたたみ式自転車はるーこたちの前で盛大にクラッシュした。


「いや〜…やはり林道での2人乗りは危ないね〜……」
「こ…腰が……」
自転車に乗っていたのはるーこたちと同年代の少女たちであった。
「―――大丈夫か?」
るーこは自転車から放り出された少女たちに声をかける。
もちろん、万一のこともあるので警戒は怠らない。

「いつつつつ……だ…大丈夫よ……」
ツインテールの少女が腰を抑えながら起き上がる。
その後ろでは長髪の少女が既に起き上がって先ほどクラッシュした自転車を起こしていた。
「七瀬さん。悪いけど散らばった荷物集めてくれない?」
「うん。判ってる。急いで村に行かないと……さっきの銃声……もしかしたら千鶴さんかもしれないしね」
「!? 待て。うーたちはあのうーを知っているのか!?」
「へっ?」
七瀬という少女の口から思いがけない名前が出てきたので、すぐさまるーこが少女たちに詰め寄った。


るーことチエは手短に2人から話を聞いた。
話によるとこの2人―――七瀬留美と柚木詩子は柏木千鶴を探していたらしく、可能ならば彼女を説得したいということだった。
「……なるほど、そういうことだったのか。だが…残念ながらうーたちは遅すぎた。既にうーちづはるーたちの仲間を1人殺している……」
「えっ!?」
「そ…そんな……」
想像していた最悪の事態が発生してしまったことを知り、留美たちは驚きと落胆を隠せない。
「残念だがあのうーを説得することはもはや不可能だ。止めるなら殺して止めるしかない……」
「…………」
4人のいる空間を沈黙が支配する。
しかし次の瞬間、留美が口を開いた。
「……そんなことない」
「る?」
「殺したから殺して、殺されたから殺すなんて絶対に間違ってるよ!」
そう言うと留美は平瀬村の方へと勢いよく駆け出していった。

「七瀬さん!?」
「留美先輩!?」
「うーるみ!? くっ…急いで追うぞ、うーしい!」
「え…ええ!」
「あっ…ま、待ってください先輩!」
るーこと詩子、そしてチエも留美を追って駆け出す。
そして、そこには1台の自転車だけが残された。




【時間:2日目・11:00】
【場所:F−3】

 七瀬留美
 【所持品1:デザートイーグル(.44マグナム版・残弾6/8)、デザートイーグルの予備マガジン(.44マグナム弾8発入り)×1、H&K SMG‖(6/30)、予備マガジン(30発入り)×4、スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン】
 【所持品2:支給品一式(3人分)】
 【状態:平瀬村へ。目的は冬弥を止めること。ゲームに乗る気、人を殺す気は皆無。千鶴と出会えたら可能ならば説得する】
 柚木詩子
 【持ち物:ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)、鉈、包丁、他支給品一式】
 【状態:留美を追う。千鶴と出会えたら可能ならば説得する】
 ルーシー・マリア・ミソラ
 【所持品:鉈・包丁・スペツナズナイフ・他支給品一式(2人分)】
 【状態:留美を追う。左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み)】
 吉岡チエ
 【所持品1:救急箱・支給品一式】
 【所持品2:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)】
 【状態:留美を追う】

【備考】
・折りたたみ式自転車はF−3に放置
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